腹痛が繰り返し生じたり、慢性的に続いたりする場合もあります。そういうときは、どのような漢方処方を使うのでしょうか。

■症例2


「おなかの調子がよくありません。慢性的に腹痛が繰り返し生じます。温めたり手で押さえたりすると楽になります」

 痛みは鈍痛です。冷えるとすぐに痛みが生じます。便も軟らかく、時に水様便が出ます。疲れやすく、食欲がありません。手足も冷えます。白っぽい色の舌に、湿った白い舌苔が付いています。

 この人の証は「脾胃陽虚(ひいようきょ)」です。五臓六腑の脾胃の機能が弱いため、飲食物を消化吸収する機能、さらに熱を生成する力が弱くなっている体質です。冷えのために気血の流れが悪くなり、腹痛が生じます。尿が薄くて多い、唾液やよだれが多い、味覚が鈍いなどの症状がみられることもあります。

 この体質の場合は、脾胃の機能を高め、冷えを改善する漢方薬で腹痛の治療をします。代表的な処方は人参湯(にんじんとう)です。理中湯(りちゅうとう)ともいいます。この人は人参湯を服用し、3カ月後には便の状態が良くなり、半年後には腹痛もほとんど起きなくなりました。1年後にはすっかり元気になり、かぜをひかなくなった、体重も増えた、と喜ばれました。

 冷えが強いときは附子人参湯(ぶしにんじんとう)を使います。附子理中湯(ぶしりちゅうとう)ともいいます。痛みが疝痛の場合は、大建中湯(だいけんちゅうとう)を用います。
 

■症例3


「ストレスや緊張で、すぐおなかが痛くなります。ガスがたまりやすく、よく下腹部が張ります」

 
 腹痛は、張った感じの痛み方をします。痛みは状況によって強くなったり和らいだりします。げっぷで一時的に楽になります。舌を見ると、紅色をしています。

 この人の証は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」です。体の諸機能を調節(疏泄:そせつ)する臓腑である五臓の肝(かん)の気(肝気)の流れが滞っている体質です。ストレスや緊張が持続すると、この証になります。肝気の流れが滞って脾胃の機能を失調させ、腹痛が生じます。ストレスや緊張で悪化、張った痛み、膨満感、紅色の舌などは、この証の特徴です。便秘と下痢を繰り返す、便が細い、頻尿などの症状を伴う場合もあります。

 この場合は、漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、ストレス抵抗性を高め、腹痛を治していきます。代表的な処方は四逆散(しぎゃくさん)です。服用を始めて1カ月で諸症状が緩和しましたが、まだ薬をやめると再発するので半年ほど飲み続け、完治させました。その後、再発はありません。

 肝鬱気滞でみられる症状のほかに、怒りっぽい、のぼせる、口渇、口が苦い、頭痛などの熱証がみられるようなら「肝火(かんか)」証です。その場合は加味逍遙散(かみしょうようさん)を使います。

 もともと脾胃が丈夫でないために、肝気の軽微な変化だけでも脾胃の機能が失調し、腹痛が発生する場合もあります。「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」証です。疲れ、寝不足、季節の移り変わり、ちょっとした緊張や不安などで体調を崩しやすい体質です。子どもや高齢者によくみられます。脾胃機能を高めつつ肝気を和らげる桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)、小建中湯(しょうけんちゅうとう)などが有効です。


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 症例1の寒邪内阻や症例3の肝鬱気滞などの証の場合、血行が悪化しやすく、腹痛がさらに強まることもあります。「血瘀(けつお)」証、つまり血流が鬱滞しやすい体質です。それ以外の証でも、疾患が慢性化して長引いて血流が悪くなり、この証を併発する場合もあります。漢方では、気血の流れが停滞して痛みが生じる病態を「通ぜざれば即ち痛む」といいます。そのようなときは、血行を促進し鬱血を取り除く漢方薬、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などを合わせ飲むといいでしょう。