四つ目は「脾胃陽虚(ひいようきょ)」証です。脾胃の機能が弱いため、飲食物を消化吸収し、さらに熱を生成する力が弱くなっている体質です。冷えのために気血の流れが悪くなり、腹痛が生じます。胃腸の機能を高め、冷えを改善する漢方薬で腹痛の治療をします。

 五つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節(疏泄)する臓腑である五臓の肝の気(肝気)の流れが滞っている体質です。ストレスや緊張が持続すると、この証になります。肝気の流れの悪化の影響が脾胃に及び、腹痛が生じます。漢方薬で肝気の鬱結を和らげて肝気の流れをスムーズにし、ストレス抵抗性を高め、腹痛を治していきます。

 六つ目は「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」証です。もともと脾胃が丈夫でないために、肝気の軽微な変化だけでも脾胃の機能が失調しやすい体質です。ちょっとした緊張や不安で体調を崩しやすい体質ともいえます。消化器系の機能を高めつつ、ストレスを和らげていく漢方薬で体調を整えていきます。

 七つ目は「血瘀(けつお)」証です。血流が鬱滞しやすい体質です。上述の寒邪内阻や肝鬱気滞などの証で血行が悪化すると、この証を併発し、腹痛がさらに強まります。疾患が慢性化することで血流が悪くなり、この証になる場合もあります。血行を促進し、鬱血を取り除く漢方薬が有効です。気血の流れが停滞して痛みが生じる病態を、漢方では「通ぜざれば即ち痛む」といいます。
 

■症例1


「おなかが冷えて痛みます。おなか全体が引きつったような痛みです」

 
 普段から冷え症で、丈夫な方ではありません。薄着をしていたせいか、おなかが痛くなりました。腹部の膨満感もあり、軟便気味です。痛みは、温めると楽になります。手足も冷えます。舌は白っぽい色をしており、その上に湿っぽく白い舌苔が付着しています。

 この人の証は「寒邪内阻(かんじゃないそ)」です。冷たい飲食物の摂取や寒い外界の刺激により、寒邪が体内に侵入すると、この証になります。寒邪が脾胃の機能を停滞させるため、腹痛が生じます。冷え、痙攣性の腹痛、温めると楽になる、白っぽい舌の色、湿っぽく白い舌苔などは、この証の特徴です。手足のしびれを伴う場合もあります。

 この証の人に対しては、おなかを温める力の強い漢方薬で腹痛を緩和させていきます。代表的な処方は当帰湯(とうきとう)です。この人は3週間の服用で腹痛が起きなくなりましたが、この処方は丈夫な体質づくりにも効果があるので、その後も服用し続けています。

 吐き気を伴う場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)、頭痛や悪寒、発熱もみられる場合は五積散(ごしゃくさん)がいいでしょう。

 冷えではなく、脂っこい物、刺激物、味の濃い物、なま物やアルコール類の摂取により生じた湿邪や熱邪が原因で、腹痛が生じる場合もあります。「湿熱(しつねつ)」証です。この場合は、黄芩湯(おうごんとう)など、湿熱を除去する漢方薬を使います。さらに便秘を伴うなら「熱積(ねっしゃく)」証です。大承気湯(だいじょうきとう)や大柴胡湯(だいさいことう)が適しています。