■症例2


「眠りが浅く、よく夢を見ます。そのせいで睡眠が足りず、朝から疲れています」

 夜中に一、二度、目が覚めることもあります。おかげで昼間に睡魔に襲われることがよくあります。時々動悸がします。顔色に艶がなく、白っぽい色の舌をしています。

 この人の証は「心脾両虚(しんぴりょうきょ)」です。五臓の心(しん)の血(けつ)と脾の気が、過労や思い悩み過ぎが原因で損傷し、不足している体質です。脾の機能が低下しているため、飲食物から気血を生成する効率も悪く、ますます神志が不安定になり、不眠が生じます。心血不足のため顔色に艶がなく、夢をよく見ます。脾気が足りないため疲れやすく、昼間に眠くなります。

 この体質の場合は、心血と脾気を補う漢方薬が効果的です。代表的な処方は帰脾湯(きひとう)です。脾の機能を補って気血の生成を促し、心血を滋養し、神志を安定させます。この症例の人は帰脾湯を服用し、半年ほどで深い眠りを取り戻しました。

 昼間に眠くなる、食欲がないといった脾気の不足症状がない場合は「血虚(けっきょ)」証です。血液や栄養を意味する血(けつ)が不足している体質です。この証の場合も、血が足りないために神志が乱れ、不眠が生じます。四物湯(しもつとう)や酸棗仁湯(さんそうにんとう)などの血を補う漢方薬で、不眠体質を改善していきます。

■症例3


「寝ようと思って電気を消しても落ち着かず、眠れません。眠れないことに対して焦ってしまい、ますます眠れなくなってしまいます」

 いつも何かと焦燥感があり、じっとしていることが苦手です。夜、布団に入ってからも落ち着かず、何度も寝返りを打ってしまいます。目がさえて眠れません。手足がほてって布団から出すことがよくあります。口や喉がよく渇きます。舌は赤く、舌苔はほとんど付いていません。

 この人の証は「陰虚火旺(いんきょかおう)」です。生活の不摂生や過労の影響で五臓の腎の陰液が消耗し、そのために熱が抑えられずに上昇し、心火が生じて神志を乱している体質です。心と腎の相互関係が不調な証なので「心腎不交(しんじんふこう)」証ともいいます。焦燥感や、寝返り、手足のほてり、口や喉の渇きはこの証の特徴です。

 この証の人に対しては、腎陰を潤しつつ心火を冷ます漢方薬を使います。代表的な処方は黄連阿膠湯(おうれんあきょうとう)です。この人の場合は、六味地黄丸(ろくみじおうがん)と黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を併用し、半年を過ぎた頃から落ち着いて眠りやすくなりました。

 同じように落ち着きがないタイプの不眠に、「心胆気虚(しんたんききょ)」証があります。一人で寝るのが怖くて、すぐに目覚めてしまいます。心気とともに胆気が虚している体質です。胆は、ものごとの決断をつかさどる働きを持つ臓腑です。過度の精神的ストレスや恐怖により、この証になります。怖くて眠れないのが特徴です。漢方薬で気を補いつつ、神志を安定させていくことで対処します。柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)や四君子湯(しくんしとう)を使います。

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 眠れなくて死んだ人はいない、とよくいわれますし、実際その通りかもしれません。死ぬ前に寝てしまうのでしょう。しかし、そんな話をして患者が安心するわけではありません。患者にとっては、死ぬかどうかよりも、今ぐっすり眠れるかどうかが大事です。しっかりと患者の気持ちに共感し、改善策を一緒に探ることも、患者にとって重要な「薬」になります。