配合生薬は一種類ずつ秤量します。(写真:室川イサオ)

 下肢や顔など、体のいろいろな部分に出るむくみ。これは、体内にたまった過剰な水分です。漢方では、むくみは五臓の機能失調により体内の水分の流れが停滞して生じる、と捉えます。

 特によく見られるのは、午後になると足がむくむ、下半身が太い、朝起きると顔がむくんでいる、などの症状です。このようなタイプのむくみの原因は、アレルギーや気温の変化といった外界の要因ではなく、体内で発生する湿邪(しつじゃ)です。これを「内湿(ないしつ)」といいます。

 体液の調節について、漢方では「三焦(さんしょう)」という概念で捉えています。三焦は五臓六腑の一つで、全身に広がって他の全ての臓腑を包み込む膜状の組織のようなもので、気や津液(しんえき)はこの三焦を通って全身を流れます。津液とは人体に必要な液体のことです。

 飲食物から得られる水分は、五臓の「脾」で吸収されたのち、「肺」に運ばれて全身に広がり、生命活動に関わります。その後、「腎」にまで下降し、排泄されたり、有用な津液は再び肺に運ばれたりします。「肝(かん)」は、この水分の流れ全体の調節をします。これら体液の流れは、すべて三焦を介して行われており、これを「三焦気化(さんしょうきか)」といいます。

 むくみは、この三焦気化がスムーズに機能しなくなったときに、体液の流れが滞り、内湿がたまって発生します。従って、むくみは五臓の脾・肺・腎・肝と関係が深い症候です。漢方では、これらの臓腑の機能を改善することにより、むくみを解消させていきます。

 むくみの証(しょう)には、以下のようなものがあります。

 一つ目は「脾虚湿滞(ひきょしったい)」証です。消化吸収をつかさどる「脾」の機能が弱い体質であるために水液の動きが鈍くなり、むくみとなっています。脾の機能を補い内湿を除去する漢方薬で、むくみを解消していきます。

 二つ目は「肺気虚(はいききょ)」証です。脾気虚から、さらに五臓の相互関係で「肺」の機能も乱れて、むくみがひどくなる場合がこの証です。肺がつかさどる体表の機能や水分代謝が乱れるため、むくみます。漢方薬で肺気を補い、むくみを治します。

 三つ目は「腎陽虚(じんようきょ)」証です。水液をつかさどる「腎」の機能が低下し、さらに冷えを伴う体質です。腎機能の低下により水分の三焦気化が滞り、内湿が停滞してむくみが生じます。体を温めて腎機能を強める漢方薬を使います。

 四つ目は「肝鬱気滞(かんうつきたい)」証です。体の諸機能を調節する「肝」の気が滞りやすい体質であるために、三焦気化の調節がスムーズに行われず、むくみが発生します。肝気の流れをスムーズにする漢方薬が効果的です。

 内湿ばかりがむくみの原因ではありません。湿気の多い環境や飲食物が体調不良に便乗してむくみを悪化させる場合もあります。これが五つ目の証、「湿滞(しつたい)」です。湿邪が体内に停滞する体質です。停滞する水分を正常に流れるようにする漢方薬で、むくみを解消していきます。

■症例1


「むくみやすい体質です。特に足がむくみます。疲れやすく、体調が良くないときにむくみがひどくなります」

 疲れやすいのは昔からです。あまり食欲がなく、便は軟らかめで、便秘をしたことはありません。むくみのせいか、手足が重くだるく感じることがよくあります。舌は白っぽく、表面に白い舌苔がべっとりと付着しています。

 この人の証は「脾虚湿滞」です。脾の機能が弱い脾気虚の体質です。疲れやすい、軟便、体が重くだるい、舌が白っぽい、舌苔が湿っているなどはこの証の特徴です。

 この証の人に対しては、脾の機能を補い内湿を除去する漢方薬を使います。代表的な処方は六君子湯(りっくんしとう)です。胃腸の機能を高めて余分な湿邪を取り除く処方です。この人も六君子湯を服用し、8カ月ほどでむくみがなくなりました。便もいい形の物が出るようになり、元気になりました。

 便がさらにゆるく、ときに水様便も出るような体質の人には参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)が効果的です。

 脾気虚から、さらに五臓の相互関係で肺の機能も乱れて、むくみがひどくなる「肺気虚(はいききょ)」証の人の場合は、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)がいいでしょう。