■症例2


「長年、口臭に悩まされています。歯医者さんで調べてもらっても、特に口腔内に口臭の原因は見当たらないと言われました」

 仕事の関係で疲れがたまったり緊張が続いたときに、胃が重くなり口臭が強くなる気がします。口内炎もできます。唾液が少なく、口の中がねばねばします。舌は深赤色をしており、舌苔がほとんどついていません。

 この人の証は「胃陰虚(いいんきょ)」です。五臓六腑の胃の陰液が不足している体質です。疲労、緊張、ストレス、暴飲暴食などによる胃への負担などが長引くと、次第に体液などの陰液が消耗し、この証になります。陰液が少ない体質なので熱を冷ます機能が弱く、結果として相対的に熱が余ることになり、それが熱邪となって口臭を引き起こします。

 なお、五臓六腑の「胃」は単なる解剖学的な胃ではなく、口腔内を含め広く消化器官を指します。

 この体質の場合は、胃の陰液を補う漢方薬で口臭体質を改善します。代表的な処方は麦門冬湯(ばくもんどうとう)です。この症例の人も麦門冬湯を服用することにより、3カ月後には次第に唾液の分泌量が増え始め、9カ月後には口臭が気にならなくなりました。胃の陰液が補われ、余分な熱が発生しなくなったのでしょう。

 生薬の地黄(じおう)にも陰虚を補う滋陰効果がありますので、なかなか改善しない場合は六味地黄丸(ろくみじおうがん)などの滋陰処方を併用するのもいいでしょう。ただし地黄製剤は胃に障ることがありますので、胃が弱い体質の人には注意してください。四君子湯(しくんしとう)や啓脾湯(けいひとう)を併用してもよいでしょう。

■症例3


「口臭が気になります。特にストレスを強く感じるときに、胃や胸のあたりが熱いような不快な感じになり、口臭が強くなる気がします」

 口臭が気になり始めたのは、仕事の量と責任が増えて残業が多くなり、ストレスを強く感じるようになった頃からです。胃や胸のあたりが熱く、また口や喉が渇くため、よく冷たい水を飲むようになりました。自分では気がつきませんでしたが、最近いらいらしている、怒りっぽくなったと家族に言われました。ときに胸やけや、酸っぱい胃酸が口の中にまで上がってくること(呑酸)もあります。舌は赤く、黄色い舌苔が付いています。

 この人の証は「肝火(かんか)」です。肝(かん)は五臓六腑の一つで、体の諸機能や精神情緒の調整を担います。この肝の機能がストレスや激しい感情の起伏などの影響で失調し、熱を帯びて肝火となり口臭が発生しています。いらいら、怒りっぽい、赤い舌、黄色い舌苔などの症状はこの証の特徴です。肝火が胃の降下機能を妨げると「肝火犯胃(はんい)」証となり、胸やけ、呑酸、さらに胃の痛みが生じることもあります。

 この証の人に対しては、肝火を冷ます漢方薬を使います。代表的な処方は竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)です。肝火を冷まし熱証を和らげてくれます。この人は竜胆瀉肝湯を飲んで2カ月ほどで口臭が弱くなりました。胸やけや呑酸も軽減しました。

 五臓の肝は精神情緒と関係が深いため、肝の機能の不調により、気にならないほどの口臭でも気にし過ぎて悩む場合もあります。肝火証ほどの熱証がない場合は、四逆散(しぎゃくさん)などの漢方薬で肝の機能を調整してあげると、ちょっとした口臭を過度に気にすることもなくなっていくことでしょう。

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 口臭が気になると、水分、特に冷たい飲料水をたくさん飲むようになることが多いようです。熱を冷ますためにはある程度有効ですが、あまりに多飲すると脾胃の機能を阻害し、かえって口臭が長引くことにもなりかねません。水分を取る場合は少しずつ、口に含むようにして飲むとよいでしょう。

 また疲労の蓄積や寝不足、それに喫煙も口臭の原因となります。生活習慣の見直しもアドバイスしてください。