大阪大学大学院心臓血管外科の宮川繁氏

 大阪大学大学院心臓血管外科グループが研究を進めている、心不全に対する心筋再生療法の最新データが明らかにされた。シート状にした自己筋芽細胞の移植により、左室補助人工心臓(LVAD)を装着中の拡張型心筋症(DCM)患者やLVAD非装着の虚血型心筋症(ICM)患者で心機能の改善が認められた。また、より重症の心不全が適応になると見られるiPS細胞由来心筋細胞シート移植を行ったブタ心不全モデルでも心機能が改善した。同グループの宮川繁氏が、第16回日本心不全学会学術集会(2012年11月30日〜12月2日、開催地:仙台市)で報告した。

 心臓など、三次元構造を有する組織の再生療法では、細胞懸濁液を注入しても、生着する細胞はごくわずかでしかない。このため、生分解性高分子などを足場に用いて三次元構築を図る方法が試みられたが、高い細胞密度を得ることはできなかった。また、細胞回収時に用いる蛋白分解酵素により、培養中に沈着した細胞外マトリックスが破壊されてしまうという問題もあった。

 そこで、東京女子医大グループが、生分解性高分子や蛋白分解酵素を使わない方法を開発した。温度応答性培養皿を用いて、細胞外マトリックスを保持したまま、培養した全細胞を1枚の細胞シートとして回収する。シートを積層化すれば三次元的な組織を構築できる。

 阪大グループは、この細胞シート技術を用いて作製した自己筋芽細胞シートによる心筋再生療法に長く取り組んできた。筋芽細胞は、骨格筋が損傷したときに、分裂、増殖を繰り返して損傷部を補填する細胞で、再生治療の臨床において必要十分な細胞量が得られるというメリットがある。移植しても心筋細胞に分化することはなく、レシピエント心筋と同期して拍動することもない。しかし、各種サイトカインを分泌し、血管再生を促すことが推測された。

 宮川氏によると、ラット慢性心筋梗塞モデルに自己筋芽細胞シートを移植したところ、心筋壁厚の回復、血管新生の促進、心筋線維化の抑制などの効果が認められた。シートからの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)分泌、シートから分泌された肝細胞増殖因子(HGF)のレシピエント心筋への浸透も観察された。「移植した筋芽細胞シートから、さまざまなサイトカインが分泌され、移植した部位に血管新生が起こったり、幹細胞が集積して心筋再生が起こり、壁厚の改善により左室壁応力が低下して、左室機能が改善すると推測された」という。

 こうした動物実験での成功を経て、臨床研究を開始した。LVAD装着後1年以上経過した末期DCM患者4例に自己筋芽細胞シートを移植した結果、その後改善が見られず心臓移植となった1例を除く3例で、左室収縮末期容量係数(LVESVI)の低下、左室駆出率(LVEF)の低下、心室性期外収縮の頻度低下などが認められた。心臓同期CTを行うと、心筋収縮力は移植部を中心に改善していた。3例中2例はLVAD離脱を果たし、自宅で健在。

 一方、LVADを装着していない心不全患者に対しても自己筋芽細胞シート移植を行っている。これまで実施したのは、NYHAIII以上、LVEF35%以下のDCM5例、ICM9例の計14例(最長術後5年、全例生存中)。うち9例はLVESVI 100mL/m2以上であった。移植後データの解析が進んでいるICM3例では、LVESVI低下、左室心筋重量係数(LVMI)低下、左室壁応力低下、NYHA改善、6分歩行距離延長、BNP値改善などが認められた。3例とも生存退院し、うち1例は術前行っていた在宅酸素療法から離脱した。

 以上のような自己筋芽細胞シートの移植は、いわばサイトカイン療法であり、有効性が期待できるのは、分泌されたサイトカインに反応する、NYHAII〜III程度の患者まで。線維化が強く、心筋バイアビリティが低下した重症心不全では、反応する心筋細胞が少ないため、心機能改善効果は望めない。

 そこで、同グループはさらに、iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた心筋再生療法の研究も進めている。移植するiPS細胞由来心筋細胞は、レシピエント心筋と電気的に統合され、直接収縮力を向上させると考えられる。成功の鍵となる心筋細胞の生着率を高めるため、血管ネットワークが豊富な大網と同時移植する方法をブタICMモデルに試みたところ、梗塞巣の減少、梗塞巣における通電性回復、LVEF改善などの効果が認められた。宮川氏は「iPS細胞由来心筋細胞シートを用いることで、より重症の心不全患者にも守備範囲を広げることができる。臨床応用に向け研究を進めたい」と述べた。