A 疫学・診断
1.基礎疾患の検討
2.感染巣となる臓器、原因微生物の整理
3.適切な抗微生物薬の選択
4.適切な治療効果判定
B 治療
1.発熱性好中球減少症
2.細胞性免疫不全
3.液性免疫不全
4.皮膚・バリアの障害
文献

がんの治療において最も重要な点は、正しいがんの診断をつけて疾患に対する標準治療を行うことであることは疑いの余地がない。がん患者の感染症のマネジメントにおいてもまったく同様のことがいえる。つまり、正しい感染症の診断をつけて感染症に対する標準治療を行うことである。その診療過程で一人ひとりの患者の原疾患の状態、予後などを考慮して、実際の方針を決定する。感染症は発熱や炎症反応の高値、画像所見などを契機として疑われることがあるが、私たちは患者の発熱や血液検査・画像所見の異常を治療するわけではない。がん患者の感染症を診療する場合には、感染巣となる臓器と原因微生物の整理がなされている必要がある。

ここを怠ると、「熱→広域抗菌薬投与」という発想に陥り、結果として適切な感染症診療を行うことができなくなる。病態の整理を行うためには、1.基礎疾患の検討、2.感染巣となる臓器、原因微生物の整理、3.適切な抗微生物薬の選択、4.適切な治療効果判定、以上の感染症診療の原則である各ステップを常に意識することが重要である。

1.基礎疾患の検討

がん患者は免疫不全患者である。がんの種類により、特定の免疫機構を低下させるものもあり、原疾患の状態把握は重要である。また、原疾患に対する抗がん剤治療、放射線治療、ステロイド薬をはじめとした各種支持療法によって、さらに免疫は低下する。

免疫不全は、大きく4種類に分類して考察をすると理解しやすい。それは、それぞれの免疫不全の型で、感染症の原因微生物にある程度の傾向があるからである。

1)好中球減少症

好中球減少状態がどのくらい持続しているか、今後どのくらい持続するかを検討することが必要である。当然ながら、好中球減少の期間が長いほど感染を起こしやすいが、さらには好中球減少の急激な低下は感染を起こしやすいとされる。

発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)は多くの場合その時点で重症であり、速やかな対応が求められる。発熱性好中球減少症は「好中球数が 500/μL未満あるいは今後 48時間以内に 500/μL未満に下がることが予測される状態」、かつ「腋窩体温 37.5℃以上あるいは口腔内体温 38.0℃以上」とされる。なお、発熱の定義は海外においては、深部温で 38.3℃以上の発熱もしくは 38℃以上の発熱が 1時間以上持続するものとされる。発熱性好中球減少症の病態の解説と治療についてはアメリカ感染症学会(Infectious Diseases Society of America: IDSA)のガイドラインが 2010 updateとして2011年に改訂された ✚✚✚[1]。また、日本における発熱性好中球減少症のガイドライン ✚✚✚[2, 3]や欧米におけるガイドラインも参考になる。詳細については原著に目を通されることをおすすめする。

2)細胞性免疫不全

ステロイド薬、各種免疫抑制薬、分子標的薬などは、様々な機序で細胞性免疫を低下させる。これに加えて悪性リンパ腫などの疾患においても細胞性免疫が低下することが知られている。詳しくは後述するが、細胞性免疫不全を有する患者には、リステリア、レジオネラ、ノカルジアといった細胞内寄生菌や、結核菌などの抗酸菌、カンジダやアスペルギルス、ニューモシスチス(Pneumocystis jirovecii)といった真菌、サイトメガロウイルスなどのウイルスによる感染症が生じやすい。

3)液性免疫不全

液性免疫不全はその原因から 2つに大別される。一つは γグロブリンの産生異常である。この異常をきたす疾患として多発性骨髄腫や慢性リンパ性白血病などがあげられる。二つめは脾機能の低下である。これをきたす状況として脾臓摘出後、造血幹細胞移植後、放射線療法後などがあげられる。

これらを基礎にもつ患者に感染症を生じる微生物として特に肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌など莢膜をもった細菌(encapsulated bacteria)が重要である。莢膜をもった細菌は免疫正常者の体内では免疫グロブリンの結合を受けて貪食細胞によって捕獲、駆逐される。液性免疫不全者ではそれらの機序に障害が出るため、莢膜をもった細菌が問題になりやすいのである。

4)皮膚・バリアの障害

中心静脈カテーテルなどの点滴ラインの挿入は皮膚のバリアを物理的に破綻させる。皮膚を貫通して血管内にまで達するカテーテルの存在が、皮膚表面に常在する微生物が血液中に直接侵入するリスクとなることは容易に想像できるだろう。また、各種抗がん剤や放射線治療などに起因する口内炎など粘膜障害も感染症のリスクを増加させる。

上記のそれぞれで問題となりやすい原因微生物のリストを表1にまとめた。実際の患者においては、それぞれの免疫不全がオーバーラップすることも多い。その際も、問題点を丁寧にリストアップしていくうえでどの免疫不全の型がどの程度強く関与しているかを検討する必要がある。

さらに、悪性腫瘍そのものの状況によっては、解剖学的な異常が起こり感染症の原因となることがある。たとえば、肺がん患者において気道閉塞による閉塞性肺炎、胆管がん患者における閉塞性胆管炎、大腸がん患者における直腸膀胱婁、腫瘍内壊死感染などである。

2.感染巣となる臓器、原因微生物の整理

基礎疾患の検討を行った後、感染巣となる臓器、原因微生物の整理に移る。問診と診察、検査を組み合わせて絞り込んでいくことが重要である。

特に、発熱性好中球減少症の場合は感染臓器が絞りづらいとされる。しかし、十分な診察や検査をすることなく広域抗菌薬を開始したり、戦略なき変更をしたりすることは慎みたい。敗血症、菌血症を疑う際に血液培養を2セット採取する必要性は、多数のガイドラインや論文に明記されている。好中球減少時に侵入門戸となりやすい消化管の入口(咽頭部、歯肉など上部消化管)と出口(肛門など下部消化管)、血管カテーテル、皮膚、副鼻腔、眼球、肺などには特に注意をして診察する。感染臓器を絞ることができる場合は、治療方針が立てやすい。画像検査などを十分に利用しながら、積極的に組織を採取し原因微生物を特定する努力をするべきである。がんの治療において、由来臓器や組織型とその浸潤・転移のパターンなどによって最適な治療方法が異なるのと同様に、感染症でも感染臓器と感染微生物を特定することによって最適な治療方法が提供できる可能性が広がることを理解しておきたい。

3.適切な抗微生物薬の選択

繰り返しになるが、感染臓器と感染微生物を予測または診断することが適切な抗微生物薬を選択する第一歩となる。この原則は免疫不全者の感染症に限らず、すべての感染症診療において共通である。たとえば、肺炎球菌が肺炎を引き起こしていることがわかっている時には、多くの場合でペニシリンGの経静脈投与をすることがすすめられる。しかし、肺炎球菌が髄膜炎を引き起こしている場合、ペニシリンGの髄液移行性が不良であるため、肺炎球菌の薬剤感受性によってはセフトリアキソンやバンコマイシンの経静脈投与が最適な治療選択肢となりうる。

これらの詳細は次項「B治療」にまとめた。

4.適切な治療効果判定

治療効果を判定する際には、単一のパラメータのみで判断するのは危険である。発熱、C反応性蛋白(CRP)値に依存した診療は、患者に最適な治療を提供できない。ステロイド、免疫抑制薬、造血器腫瘍患者における移植片対宿主病(GVHD)など、感染症以外に発熱や CRP値に影響する因子がある場合には特に注意を要する。感染臓器がはっきりしている場合には、臓器特異的パラメータで治療効果判定を行う。たとえば、緑膿菌肺炎に対して治療を行っている場合には、患者の動脈血液ガス分析、呼吸数、呼吸状態、喀痰グラム染色所見で効果判定を行う。胸部X線所見の改善が遅れることは有名であり、CRP値は他の要因にも影響を受ける。血液培養から黄色ブドウ球菌が検出された場合には、感染性心内膜炎の検索をし、不要なカテーテル類を抜去したうえで、血液培養をフォローしなければならない。治療期間は血液培養から黄色ブドウ球菌が消失してから4週間以上と、他の細菌による菌血症より長期の治療が必要となることが多い。CRP値による治療期間の設定に関する研究はほとんどなされておらず、治療期間は CRP値には依存しないと考えるべきである。

感染臓器と原因微生物が絞られない場合には、ガイドラインに従った治療期間を参考にし、患者の全身状態を見きわめて治療効果判定を行う(体温、脈拍、血圧、呼吸数というバイタルサインが最重要である)ことになる。その際にも「CRP値が ○○まで低下したら抗菌薬を中止する」という根拠に欠ける戦略は避けたい。発熱性好中球減少症の場合を例にあげると、以下の投与期間を参考にする。

(1)解熱した場合は、好中球数が回復(≧500/μL)後 2日、好中球減少が続く場合でも状態が安定していれば解熱 5-7日後。

(2)発熱が続く場合でも、好中球数が回復(≧500/μL)すれば、その後 4-5日。

(3)発熱が続き好中球数も回復しない場合は、2-3週間程度治療を継続し状態が安定していれば中止を考慮する。

1.発熱性好中球減少症

1)初期抗菌薬

発熱性好中球減少症の際の初期抗菌薬は、経口抗菌薬と静注抗菌薬の選択肢がある。低リスクであれば経口薬を選択してもよいとされている✚✚✚[4]。この場合にはシプロフロキサシンとアモキシシリン・クラブラン酸の併用がアメリカ感染症学会(IDSA)のガイドラインでは推奨されている。一方で、多くの腫瘍専門医は低リスクの患者をレボフロキサシン単剤といったフルオロキノロン系抗菌薬単剤の内服で外来管理しているという報告がなされている✚✚✚[1]。しかし、フルオロキノロン系抗菌薬単剤の内服のレジメンが発熱性好中球減少症の治療に適切であるかを検討した臨床データは今のところ乏しいため、今後検討が必要である。

発熱性好中球減少症のリスク分類を表2に示す。

基本的に発熱性好中球減少症の初期治療の対象は好気性グラム陰性桿菌(大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌など)である。その他、グラム陽性球菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、連鎖球菌)、真菌(カンジダ、アスペルギルス)の関与は経年的に増加しているが、基本は培養で検出されてから速やかに治療を開始する。特に、真菌は好中球減少期間が長く(4-7日以上)広域抗菌薬に反応しない場合に治療対象とすればよい。

発熱性好中球減少症における初期治療の基本は、抗緑膿菌作用を有するβラクタム薬の単剤投与が推奨される。投与すべき抗菌薬の第一選択薬はセフェピム、ピペラシリン・タゾバクタム、カルバペネム系薬、セフタジジムとされる。カルバペネム系薬の使用は、ESBL産生菌の関与などカルバペネム系薬しか効果が期待できない場合に考慮されるべきであり、初期から安易に投与すべきではない。また、セフタジジムはセフェピムと比較してそのグラム陽性球菌(一部のグラム陰性桿菌も)への抗菌活性が低いことから、最新のIDSAガイドラインではセフェピムより1ランク下の位置づけで掲載されているが、セフタジジム耐性菌の分離頻度が少ない施設では初期治療の候補としてもよい(図1)。

以前は、グラム陰性桿菌治療に対する相乗効果を期待する点と薬剤耐性菌の出現を防止する点から併用療法が考慮されていたこともあるが、現在ではルーチンの併用は不要とされる。βラクタム薬に加え、アミノグリコシド系薬やキノロン系薬を併用する場合もあるがその目的は、耐性菌が原因菌であっても有効な初期治療を目指すことである。

そのうえで臨床現場における適切な抗菌薬の選択では、特に重要な以下の3点を意識する。

・患者の過去の培養結果を参考にする。

・薬剤耐性菌のリスクがどれくらいあるかを評価する。

・ローカルファクター(その施設の主要菌薬剤感受性状況)を参考にする。第一に患者の過去あるいは最近の培養結果は重要である。たとえば過去にイミペネム耐性の緑膿菌を保菌していることが判明していれば、初期治療でイミペネム以外を選択する根拠となりうる。

第二に耐性菌の保菌リスクがどれくらいあるかを評価する。長期のICU滞在や過去の抗緑膿菌作用のある広域抗菌薬投与歴は薬剤耐性菌の保菌リスクとなりうる[5]。

第三にローカルファクター(その施設の薬剤感受性状況)の重要性があげられる。たとえば緑膿菌を意識した初期治療の際、各施設の緑膿菌の感受性率を集計しておくことは大変重要である。その他、ESBL産生菌など薬剤耐性グラム陰性桿菌の検出率が高い施設などは、その動向に注意をはらい初期治療の抗菌薬選択の参考にする。

例として表3をご覧いただきたい。A病院において緑膿菌を意識した発熱性好中球減少症時の重症敗血症症例に対し初期治療を行う場合と、B病院において初期治療を行う場合には、抗菌薬選択は異なってくる。A病院においては、βラクタム薬(たとえばセフェピム)の単独投与でよいかもしれない。しかしながら、B病院においてはβラクタム薬に加えアミノグリコシド系薬(たとえばアミカシン)の投与をし、耐性菌まで意識した「外さない」初期治療をする必要がある。

重症感染症における初期治療は、その施設のローカルファクターに合わせて、十分にスペクトラムを広げるのがよい。保菌状態の耐性菌の感受性情報があれば、それも参考にして、異なったクラスの抗菌薬を 2剤以上投与することもあり得る。原因微生物、感受性が判明すれば、速やかに de-escalationすればよい。

また、投与する抗菌薬の種類を決めたら、その抗菌薬の効果を十二分に引き出す努力をすることを強調したい。具体的には、十分量の抗菌薬投与と正しい投与間隔の調整を行い、感染症が改善傾向であっても途中で減量したりしないことが重要である。海外における標準量・投与間隔と、日本で慣例的に用いられてきたそれには隔たりが大きい場合が多い。日本の保険認可量を考慮した正常腎機能患者での投与計画の一例を以下に示す。

[正常腎機能患者での投与計画の例]

静注レジメン

ペニシリン系

piperacillin/tazobactam 4.5g 1日 4回 ✚✚✚✚✚✚[6]

(piperacillinは日本の保険上は8g/日までしか認可されておらず正常腎機能患者では量不足である)

第三世代セフェム系

ceftazidime 2g 1日 3回✚✚✚ ✚✚✚[7]

(日本の保険用量では 1 g/回 1日 4回)

第四世代セフェム系

cefepime 2g 1日 3回✚✚✚ ✚✚✚[6, 8]

(日本の保険用量では2g/回 1日 2回)

カルバペネム系

meropenem 1g 1日 3回 ✚✚✚ ✚✚✚[9]

imipenem 0.5 g 1日 4回 ✚✚✚ ✚✚✚[10]

フルオロキノロン系

ciprofloxacin 400 mg 1日 2回✚✚✚ ✚✚✚[11]

(日本の保険用量では 300 mg/回 1日 2回)

アミノグリコシド系 ✚✚✚[11]

gentamicin 5mg/kg 1日 1回 ✚✚✚

amikacin 15mg/kg 1日 1回 ✚✚✚

内服レジメン

ciprofloxacin 500mg 1日 3回

amoxicillin/clavulanate 500 mg/125mg 1日 3回 ✚✚✚ ✚✚✚[12]

(日本の保険用量では ciprofloxacin 400 mgを 1日 2回+ amoxicillin/ clavulanate 250 mg/125 mg[配合比が海外のものと異なる]を 1日 3-4回)

2)βラクタム薬以外の薬剤の併用

最後に発熱性好中球減少症の初期治療として βラクタム薬以外の薬剤を併用するべき状況の例をまとめたい。

(1)アミノグリコシド系薬やキノロン系薬の併用

グラム陰性桿菌へのスペクトラムを広げたい場合である。βラクタム薬に耐性のグラム陰性桿菌の保菌者、ローカルファクターにおいてβラクタム薬に耐性のグラム陰性桿菌が多い施設、複雑な経過をたどり耐性菌の保菌リスクが高い重症敗血症の症例などがあげられる。

(2)バンコマイシン(抗 MRSA薬)の併用

臨床状態が不安定な MRSA保菌患者、中心静脈カテーテルなどのデバイス感染を疑う場合、重度の口内炎など粘膜のバリア障害が存在する場合、明らかな皮膚軟部組織感染が存在する場合などには、血液培養 2セット採取後のエンピリックな投与を考慮する。最新の IDSAガイドラインには、上記に加えて肺炎が存在する場合やペニシリン耐性肺炎球菌の保菌者、血行動態が不安定あるいは重症敗血症の場合というようにやや対象を拡大して記載してある。いずれにしてもバンコマイシンを投与した際も、2日間経過してグラム陽性球菌感染症の証拠がなければ投与の中止を考慮し、乱用は避ける。

(3)抗真菌薬の併用

初期から抗真菌薬を投与しなければならない状況はほとんどない。発熱性好中球減少症に対して、抗菌薬を 4-7日間投与しても発熱の持続または再発がみられ、好中球減少の持続期間が 7日を超えると予測される患者では、侵襲性真菌感染症に対する経験的治療および検査を考慮すべきである。アスペルギルスなどの糸状真菌の感染リスクが高いことが予測される場合には副鼻腔および胸部 CTの撮影を考慮する。また、カンジダの血流感染症の可能性もあるので、血液培養の十分な採取が重要とされる。例外としては、既に抗真菌薬の予防投与がなされている血液悪性腫瘍患者が考えられる。この場合は、胸部 CTにてハローサイン(halo sign)などアスペルギルスをはじめとした糸状真菌感染の有無を積極的にチェックし、これらを考慮に入れた抗真菌薬を選択する。

処方レジメンとしては下記のものが推奨されている。

liposomal amphotericin B 3 mg/kg 1日 1回点滴静注 ✚✚✚ ✚✚✚[13]
エキノキャンディン系 micafungin 150 mg 1日 1回点滴静注 ✚✚ ✚✚✚[14] caspofungin 初日 70 mg点滴静注、翌日から50 mg 1日 1回点滴静注 ✚✚✚ ✚✚✚[15]
アゾール系 itraconazole 200 mg 12時間毎に合計 4回点滴静注( 400 mg/日)、それ以降は 200 mg 1日 1回点滴静注 ✚✚✚ ✚✚✚[16] voriconazole 6 mg/kg 12時間毎に 2回点滴静注、その後 4 mg/kg 12時間毎に点滴静注 ✚✚✚ ✚✚✚[17]

ミカファンギンは、発熱性好中球減少症における比較試験のエビデンスはないものの、ミカファンギンを用いた発熱性好中球減少症時の経験的抗真菌薬投与における日本での有用性と安全性は報告されている。

2.細胞性免疫不全

鑑別疾患が非常に多岐にわたるため、問題となる臓器を整理し、組織を採取し原因微生物を明らかにする努力をすることが求められることが多い。まずは、細胞性免疫不全を有する患者に感染症をきたしやすい微生物を理解しておくことが望ましい。前述のとおり、細胞内寄生菌による感染症をきたしやすいとされるが、具体的には「2L、M、N、2S」と記憶しておくとよい。

2Lは Listeria(リステリア)、Legionella(レジオネラ)の 2つ、Mは Mycobacteriumつまりは抗酸菌、Nは Nocardia(ノカルジア)、2Sは Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Salmonella(サルモネラ)の 2つである。

これらの微生物がそれぞれ、どの臓器に感染症をきたし、どのような症状を呈しやすいかも重要である。たとえば、上記 6つのなかで肺に感染しやすいものとしては、レジオネラ、抗酸菌、ノカルジアの 3つがあげられる。そしてこれによる肺炎を治療する場合には、それぞれに適した治療薬の選択が必要となる。たとえばレジオネラによる肺炎であれば、シプロフロキサシンやレボフロキサシンなどのフルオロキノロン系の抗菌薬が第一選択薬となり、抗酸菌のなかでも結核菌による呼吸器感染症であれば、多剤併用の抗菌薬療法がすすめられる。非定型抗酸菌の場合では、感染した抗酸菌の種類や重症度によって選択される抗菌薬や治療方針が大きく異なる可能性がある。ノカルジアの肺炎であれば、薬剤感受性試験の結果を参考に、ST合剤や第三世代のセフェム、カルバペネム系抗菌薬などから適切なものを選択する ✚✚✚[18]。

また、ノカルジアの肺炎には脳膿瘍を合併することがしばしばあるため、脳膿瘍の所見があれば中枢神経系への抗菌薬の移行性についても考慮した抗菌薬の選択が必要となることに注意しなければならない。

さらに上記の一般細菌以外にも Pneumocystis jirovecii(以前はカリニと呼ばれていた)、カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスといった真菌、サイトメガロウイルスを中心としたヘルペスウイルスなどの微生物による感染症が細胞性免疫不全患者には生じやすい。

また、表1には記載していないが、近年、ステロイドやリツキシマブ(抗CD20モノクローナル抗体)などを含む、細胞性免疫障害性の強い化学療法を受けた患者において重症の B型肝炎(劇症化例、死亡例の報告もある)が生じることが注目されている。特に注意が必要なのは、スクリーニングでしばしば採取される HBs抗原が陰性であるにもかかわらず、そのようなことが起こることである。理由として、B型肝炎ウイルスに感染した既往のある患者群において、化学療法前に HBs抗原が陰性化していることが確認されているにもかかわらず細胞性免疫を障害する化学療法などを受けた場合に、免疫で抑え込まれていた B型肝炎ウイルスが再度活性化し(再活性化)、肝炎を引き起こすことが知られている。そのため、ガイドラインでは、これらの治療を受ける患者全例において B型肝炎の既感染の有無を確認することを推奨している ✚✚✚[19]。具体的には、対象患者全例において、HBs抗原のみではなく、HBs抗体と HBc抗体もともに測定することがすすめられている。測定の結果、HBs抗原が陰性であっても、少なくとも HBs抗体または HBc抗体のいずれかが陽性である場合には、B型肝炎の既感染であると判断し、それにあわせて対応する(図2)。詳細はガイドライン ✚✚✚[19]をご参照いただきたい。なお、American Society of Clinical Oncology(ASCO)のガイドライン ✚✚✚[20]では、これらの検査や検査後の対応といったことが日本のものとは異なっている部分がある。たとえば、ASCOのガイドラインでは、HBs抗原陰性かつ HBs抗体陽性を示したケースでは、HBV-DNAを測定することをすすめていない(日本では図2のとおり、HBV-DNAの測定をすすめている)。なぜなら、米国では B型肝炎ウイルスへのワクチン接種を受けることが原則となっているため、HBs抗原陰性かつ HBs抗体陽性のケースは一般的にはワクチンによって B型肝炎の免疫(HBs抗体は中和抗体である)を獲得していることを意味するからである。一方で、このワクチンの接種が一部の人にしかなされていない日本においては(日本では医療従事者など一部でしかワクチン接種がなされていない)、HBs抗原陰性、HBs抗体陽性のケースは、B型肝炎に感染した既往があり、免疫を獲得したことを意味していることが多い。つまりウイルスが体内に潜伏感染している可能性があるということを示している。日本のガイドラインでは、これらのケースでは化学療法などを受けた際に再活性化のリスクがあると考えられており、HBVDNAの測定を事前に受けるように推奨されている。

このように、細胞性免疫不全患者に生じうる感染症は非常に多彩であり、それぞれの感染微生物、感染臓器によって治療薬の選択が大きく異なってくる可能性があるため、早期に鑑別疾患を適切にあげて、必要な検査を実施することが望ましい。前述した微生物それぞれが感染を起こしやすい臓器や、それに応じて実施すべき検査、選択すべき抗菌薬を成書で一度、確認することをおすすめする。CRP高値だけを頼りに、安易に「原因不明の感染症」という病名をつけて、根拠のない抗菌薬を漫然と使用するといったことは厳に慎みたい。

3.液性免疫不全

液性免疫不全をもつ患者には莢膜を有する微生物による感染症が起こりやすい傾向にある。具体的には、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌が問題となることが多い ✚✚✚[21, 22]。これらの細菌は、有意な身体症状を呈さずに、突然、菌血症というかたちで宿主を攻撃することが知られている。特に、脾臓摘出術を受けた患者に起こりうるこれらの感染症は、脾摘後菌血症と呼ばれている。液性免疫不全を有する患者が発熱など何らかの感染症を疑う症状をきたして受診した際には、身体症状が乏しくても、血液培養を複数セット採取し、早期の抗菌薬投与を考慮する必要がある。この際、経験的に選択されるべき抗菌薬としては、前述した 3菌種をカバーすることが可能なセフトリアキソンなどがあげられる。

4.皮膚・バリアの障害

グラム陽性菌や真菌(主にカンジダ)が初期から問題となることが多く、まずは複数セットの血液培養の採取が重要である。真菌、特にカンジダの感染症において β-Dグルカンなどの血清マーカーの有用性が研究されているが、カンジダの感染症を正確に診断するには、血液培養で真菌血症を証明することや、感染が疑われる臓器から採取した組織培養や病理検体からカンジダを証明することが重要である。β-Dグルカン陰性のカンジダ真菌血症もまれではない。

治療に関しては皮膚・バリア障害のなかで代表的なカテーテル関連血流感染症を中心に説明していく。本症を疑う所見としては、カテーテル挿入部の発赤や腫脹、膿瘍などの炎症所見があげられる。しかし、本症において、それらの所見を認めない場合もあることを認識しておかなければならない ✚✚✚[23]。カテーテル関連血流感染症の初期治療のポイントとしては、(1)最も多い原因微生物はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であること、(2) MRSAが原因微生物の場合、早期にバンコマイシンの投与がなされることが望ましい、以上 2点があげられる。そのため、本感染症を疑った際の初期治療には、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌および MRSAによる感染症の第一選択薬であるバンコマイシンなどの抗 MRSA薬の投与が必須である ✚✚✚[24]。その他、大腸菌や肺炎桿菌、緑膿菌、アシネトバクターといったグラム陰性桿菌が原因微生物となることもある。そのため、前述したバンコマイシンに加えて、セフタジジムやセフェピムといったグラム陰性桿菌に広いスペクトラムをもつ抗菌薬を経験的に併用する ✚✚✚[24]。この際には、やはり各施設のローカルファクターを参考に抗菌薬を選択することが望ましい。

また、MSSA、MRSAといった黄色ブドウ球菌とカンジダ属を中心とした真菌による菌血症は、多くの場合、血液培養を複数セット採取した際、そのうちの 1セットのみ陽性であってもこれらが血流感染症をきたしている可能性が高い ✚✚✚[25]。複数セットの培養が陽性ではないことを根拠に、血液培養から分離された黄色ブドウ球菌やカンジダをコンタミネーションであると判断してはならない。

そして、カテーテル関連血流感染症の際には、原則はカテーテルの抜去が必要である ✚✚✚[25]。各微生物に対する治療期間の詳細に関しては成書やガイドライン等で確認していただきたい。特に注意すべきこととして、MSSAやMRSAといった黄色ブドウ球菌が原因であった場合の治療期間は、以前は血液培養の陰性化を確認後から 2週間とされていたが、最近では多くのケースでそれより長い 4週間以上の治療期間がすすめられるようになったことがあげられる ✚✚✚[24, 26]。

がん患者の感染症診療の原則を述べてきたが、一見すると非常に複雑である。残念ながら、画一的に治療法のマニュアル化をすることができない分野である。しかし、原則どおりの手順で毎回丁寧に診察を行い、病態の整理を怠らないようにすることで、感染症診療の道筋が見えてくることが多い。最後に、まとめとして免疫不全患者における感染症の評価シートの一例を掲載した(表 4)。このシートは実際に筆者の施設の感染症診療において使用しているものである。このシートの手順どおりに診察していくと、おのずと今回述べた原則に従った感染症診療ができるように工夫されている。参考にしていただければ幸いである。

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アップデートされたばかりの最新版 IDSAガイドラインである。本稿執筆終了直前に発刊された。今後、しばらくはこれを押さえておけば大丈夫なはずである。

2. Maschmeyer G, et al. Diagnosis and antimicrobial therapy of lung infiltrates in febrile neutropenic patients: Guidelines of the infectious diseases working party of the German Society of Haematology and Oncology. Eur J Cancer 2009; 45(14): 2462-72. ✚✚✚[PubMed] 今回は初期治療を中心に述べたが、FN患者において肺浸潤影が疑われるあるいは存在する患者のアルゴリズムについては、ドイツ血液腫瘍学会から提唱されたガイドラインに記載されているものがわかりやすい。