A 遺伝性腫瘍診療体制の現状
B 遺伝カウンセリング[7,8]
1.定義
2.遺伝カウンセリングの基本的理念
C 遺伝性腫瘍
1.総説
2.各論
3.結語
文献

30億塩基対のヒトゲノム配列の決定、約2万5000のヒト遺伝子の同定を目的として1990年に始まったヒトゲノムプロジェクトは30億ドル、13年かけて、2003年に終了した。近年、次世代シークエンサーが実用化され、数日でヒトの全ゲノム配列を解読することが可能となった。近い将来の1000ドルゲノム時代の到来が想定されている。遺伝子解析技術が飛躍的に進歩したことから、遺伝カウンセリング(genetic counseling: GC)が必要とされる場面が急速に増加しており、今後も増加することが予想される。

遺伝性腫瘍の診断は、基本的には当該家系の家族歴をもとに行うのであり、生殖細胞系列遺伝子検査で当該遺伝子変異が認められなくても診断される。この点の理解不十分のために、明らかな遺伝性腫瘍家系が見逃されているといった現状が散見される。遺伝性腫瘍のなかには、Li Fraumeni症候群(LFS)のように放射線感受性が高いため、照射による二次発がんの蓋然性から放射線治療が禁忌[1]な疾患もあり、臓器別専門家にも無関係ではない。がん治療戦略を決定するため、詳細な家族歴の聴取が重要なのはこうした背景のためである。

倫理四原則の一つに無危害原則があるが、LFS家系の乳がん発症者に対する乳房温存療法と放射線治療は、意図せずこれを侵害している構造になる。無危害原則を担保するためというのは消極的な動機ではあるが、倫理四原則は最低限厳守すべきものであり、不知ゆえに侵すことは避けなければならない。患者側、医療者側双方のよりよいがん診療のために、遺伝性腫瘍は常に念頭に置くべきであろう。

一方、「遺伝性腫瘍」と診断をすることは、遺伝学的差別から当該家系をいかに保護するかという問題も内包する。日本の遺伝診療規制は、ガイドラインにより行われる。政府ガイドラインによる規制は、各省庁の権限内で行政指導などを通して一定の規制効果を確保可能で、変化の速い科学技術分野において柔軟性や立法に対する政策コストの少なさが利点となる。一方、専門家集団策定ガイドラインは内部規定であり、他の手段に比して規制効果が弱い[2]。遺伝診療では研究分野は三省指針(「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」[3])など政府策定ガイドラインにて規制される一方、臨床分野は主として10学会ガイドライン(「遺伝学的検査に関するガイドライン」[4])等の専門家集団策定ガイドラインで規制されている。しかし、「遺伝カウンセリング」の目的・方法に言及するのが三省指針(「第3 提供者に対する基本姿勢 12 遺伝カウンセリング」)しかないため、他は三省指針を準拠する構造にある。ガイドラインには策定側の意図があり、法の「立法趣旨」に相当するものである。一部分を取り出して、都合よく解釈することは厳に慎むべきである。たとえば、10学会ガイドラインでは「IV 遺伝学的検査と遺伝カウンセリング」で遺伝カウンセリングは「十分な遺伝医学的知識・経験をもち、習熟した臨床遺伝専門医などにより被検者の心理状態をつねに把握しながら行われるべき」と定めている。これより後に出された日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」[5]では、「3-1)すでに発症している患者の診断を目的として行われる遺伝学的検査」で既発症者に対する診断を目的として行われる遺伝学的検査について、遺伝学的検査の事前の説明と同意・了解の確認は原則として主治医が行うことと規定されるが、当該部分は「診断を目的として」行われる遺伝学的検査、つまり遺伝子検査をしなければ診断できない疾患を対象としている。とすると、診断自体は家族歴から行う遺伝性腫瘍にこの一文を適用することは不適切である。また、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」[6]では、「I-10. 遺伝情報を診療に活用する場合の取扱い」を特に定め、「遺伝学的検査等により得られた遺伝情報については、(中略)特に留意する必要がある。(後略)」と記載されている。このように、遺伝診療は医療のなかでも国が「特に留意する必要がある」と認める特殊な分野であるがゆえ、不十分な備えで踏み込むことは避けるべきである。臨床遺伝専門医との連携を欠いて遺伝性腫瘍の診療体制を整備することは困難である。それは、がん診療を腫瘍内科医と連携せずに行おうとすることに似ている。

1.定義

遺伝カウンセリング(genetic counseling: GC)の定義には多々あるが、最も広く受け入れられているのは、米国人類遺伝学会が1975年に提案した、「ある家系の遺伝疾患の発症や発症リスクに関連した人的問題を扱うコミュニケーション過程である」というものである。

この過程には以下の支援をすることが含まれる。

(1)診断、疾患の経過の概要、実施可能な治療法などの医学的事実を理解する。

(2)その疾患に関与する遺伝形式および特定の血縁者に再発するリスクを正しく評価する。

(3)再発リスクに対応する選択肢を複数理解する。

(4)リスクと、その家族の最終目標、倫理的・宗教的価値判断基準などを衡量し、適切と思われる方策を選択可能とし、その決断を実行可能とする。

(5)患者またはリスクのある家族に対して、実行可能な最善の調整を行う。

GCは、優生学的指導との相違を明確にするため、一方的な医学的情報伝達ではなく、双方向のコミュニケーションプロセスであること、最終的決定はクライエントの自律的な意思により行われることを最も重要視することが記載されている。

なお、GCは、保険診療で認められている疾患もあるが、がんに関しては現在のところ自費診療となっている。

2.遺伝カウンセリングの基本的理念

(1)自発的開始であること

自律的な意思決定を担保するために、最も重要である。

(2)十分で開かれたGC体制

GC体制は、理想的にはどの地域でも自由に受けられる体制が用意されるべきである。GCの重要性は認識されつつあるが、ことに腫瘍性疾患においては専門家が少なく、喫緊の課題である。

(3)十分な情報提供を行うこと

(4)得られた情報は完全に開示すること

クライエントには、知る権利とともに知りたくない権利も保証されるが、知りたくない権利は知る権利を行使してはじめて行使が可能となることに留意すべきである。

(5)非指示的であること

自己決定権の尊重が理念であり、GCを行う側の責任回避のためではない。

(6)心理的支援

遺伝学的問題がもたらす諸問題は多くて複雑であり、寄りそう姿勢が必要である。

(7)守秘義務

クライエント不承認での血縁者への情報開示は、悩ましい問題である。

(8)生命倫理の尊重

社会によっても必ずしも同じ基準とはいえないこともある。

1.総説

1)悪性疾患に対する遺伝学的易罹患性

悪性疾患に対する遺伝学的易罹患性は、3つに分類される[9]。

(1)一般集団にはまれであるが、明らかに遺伝的で、当該遺伝子変異を保有する者においては劇的にリスクが増加するもの(表1)。このタイプのがんは、一般集団においては非常にまれながんであることが多い。単一遺伝子変異の伝達が、易罹患性に寄与するという、優性遺伝形式をとる。しかし、劣性遺伝形式もあり、この場合はDNA修復機構の問題であることが多い。

(2)一般に多いがん種ではあるが、当該家系では、当該がん種の一般集団における発症率をはるかに上回って発症するもの(表2)。概して一般集団より若年発症し、当該家系の血縁者は同時性・異時性に発症する機会が多くなる。常染色体優性遺伝形式をとる。

(3)一般集団からすると、血縁者に発がんリスクが高まるもの。概して同一種のがんであるが、他のがん種の罹患リスクも増加する可能性がある。第一度近親者(両親、子供、同胞)に家族歴がある場合、報告される発がんリスクは2-4倍となっている。1980年代初頭に米国でCancer and Steroid Hormone Study(CASH)が55歳未満で発症した乳がん患者約5000人を対象に行った研究によると、一般集団の罹患率1.8%に対して、家族歴陽性では3.7%と報告されている。また、母親が55歳未満で乳がんを発症した娘たちの50歳未満の乳がん発症率は12.2%であった。しかし、これらの報告から、血縁者の発がんリスク増加に言及することは不可能である。こうした集団の遺伝学的発がんリスク増加要因を、合理的に説明できる単純な方法はない。

2)浸透率

American Society of Clinical Oncology(ASCO)では、1996年にがんの易罹患性に関する遺伝学的検査に初めて言及し、2003年、2010年とアップデートを重ねている。浸透率とは、ある家系における疾患原因となる遺伝子型を有する構成員中、疾病の症状や何らかの徴候のある構成員の割合をいうが、ASCOでは、責任遺伝子が明らかとなっている遺伝性腫瘍に関して、浸透率から3群に分類している[10]。

(1)高浸透率グループは、乳がんにおけるBRCA1遺伝子、大腸がんにおけるMSH2遺伝子、APC遺伝子、甲状腺髄様がんにおけるRET遺伝子が該当し、責任遺伝子として明確である。遺伝子変異の結果起こる転写産物の機能変化が、がんの易罹患性の獲得に寄与することが多い。検査結果の如何によって介入方針が決定可能な疾患群である。このグループの生殖細胞系列がん易罹患性遺伝子検査は、米国ではガイドラインに掲載され、多くは保険償還される。しかし日本では健康保険対象ではない。

(2)中間浸透率グループは、大腸がんにおけるAPCI1307K、乳がんにおけるCHEK21100delCが該当し、遺伝学的リスク増加に対する寄与は低い。

(3)低浸透率グループは一塩基多型(SNP)であり、genom-wide association studies(GWAS)の結果その存在が明らかとなった。大規模症例対照研究の結果、疾患との関連は強く示唆されるが、DNAの変異は対応遺伝子産物の機能を変化させないことがほとんどである。アレル頻度は50%以上と概して高く、オッズ比は多少上昇するものの、浸透率は環境や生活因子に左右されてばらつく。現在までに100のSNPsが発がんリスクと関連づけられている。

2.各論

高浸透率グループについて言及することとする。

1)遺伝性乳がん・卵巣がん(hereditary breast/ovarian cancer: HBOC)[11, 12]

BRCA1遺伝子もしくはBRCA2遺伝子(以下、BRCA1/2遺伝子と記載)の生殖細胞系列変異により、乳がん、卵巣がん、その他のがんの易罹患性が生じる。

BRCA1/2遺伝子の生殖細胞系変異に対する分子遺伝学的検査は、患者の既往や家族歴からみて発症リスクが高い場合、またBRCA1/2遺伝子に生殖細胞系変異を有する患者の血縁者であることから、発症リスクが高い場合に適応される。しかし、現時点でBRCA1/2遺伝子におけるがん易罹患性変異をすべて同定すると保証されている技術は存在しない。また、臨床的意義が不明の変異が同定される場合もある。

BRCA1/2遺伝子が関連する乳がんと卵巣がんの治療は、孤発例に対する治療と同じであるが、初発の乳がんに対して温存療法を受けた患者では、同側もしくは対側の乳がん発症リスクがきわめて高いことがいくつかの研究で示されており、一部の専門家は二次がんを予防する目的で両側の予防的乳房切除術を検討している[13]。乳房温存療法が選択された場合、予防的卵巣摘出術や綿密な経過観察が選択肢としてあがる[14]。BRCA1/2シグナル伝達経路を特異的標的とする新しい薬効群が試験中である。一次病変の予防としては、予防的乳房切除術や卵巣摘出術、タモキシフェンを用いた化学予防が行われているが、高リスク女性に対するランダム化比較試験や症例対照研究による評価は行われていない。予防的卵巣摘出術を行っても、原発性腹膜腫瘍のリスクは残っており、手術後の発症率は約2%である。

スクリーニングは家系内の最若年発症者の発症年齢マイナス10歳と、各検査の開始年齢の早いほうで調整するが、ランダム化比較試験や症例対照研究による評価はされていない。男女とも18歳から毎月の乳房の自己チェック、25歳(男性は35歳)からは6-12か月毎の病院での乳房触診、年に一度のマンモグラフィ、MRI撮影を組み合わせて行う。卵巣のスクリーニングは、35歳から6-12か月毎の骨盤部診察とカラードプラー併用経腟超音波検査、年に一度の血清CA-125の測定を行う。前立腺は40歳より毎年、直腸診と前立腺特異抗原(PSA)検査を行う。膵がんはBRCA2遺伝子関連腫瘍であるが、有効なスクリーニング手段はない。

患者にBRCA1/2遺伝子の生殖細胞系変異が同定された場合、発症リスクのある血縁者に検査を行うことにより家系特異的な変異を有する血縁者を同定することができるため、その血縁者は定期検査を受け、がんが見つかった場合には早期治療が可能となる。

2)Lynch症候群(家族性非ポリポーシス大腸がん hereditary non-polyposis colon cancer: HNPCC)[15]

マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability: MSI)に特徴づけられるミスマッチ修復(miss match repair: MMR)遺伝子の生殖細胞系列変異に起因する疾患群である。腫瘍では、正常アレルのヘテロ接合性の消失(loss of heterozygote: LOH)がほぼ全例でみられる。大腸がん、子宮内膜、卵巣、胃、小腸、肝胆道、尿管、脳、皮膚などのがんの発症リスクが高まる。

診断はアムステルダム基準、もしくはいくつかのMMR遺伝子の分子遺伝学的検査より行う。アムステルダム基準は1990年に研究目的で作られ、その後、臨床診断目的で他のHNPCC関連がんも含めるよう修正された。(1)HNPCC関連腫瘍を有する家族が3人以上で、そのうちの1人は他の2人の第一度近親者、(2)連続する2世代で罹患、(3)50歳以前にHNPCC関連腫瘍と診断された者が1人以上いる、(4)家族性大腸ポリポーシスが否定されている、がその基準である。HNPCCはMMR経路に関与する4つの遺伝子、すなわちMLH1MSH2MSH6PMS2の変異と関連し、MLH1MSH2の変異で全NHPCC家系の約90%を占める。MSH6変異は約7-10%、PMS2変異は5%未満と少ない。遺伝子変異を有するHNPCC家系の最大4割はアムステルダム基準を満たさないため、HNPCC遺伝子変異が同定された家系では家族歴の程度にかかわらずHNPCCとみなす。

大腸がんが発見された場合は大腸全摘術が推奨される。大腸内視鏡検査が予防手段として有効であるため、HNPCCと判明した人に対する予防的大腸切除術は通常行わない。出産年齢を過ぎた場合、予防的広範子宮全摘術が考慮されうる。定期検査では1-2年毎の大腸内視鏡検査と前がんポリープの切除を20-25歳、もしくは家系内の最若年発症者の発症年齢の10歳前の早いほうの年齢から開始する。子宮内膜、卵巣、胃、十二指腸、尿管のがんに対する定期検査の有用性については明らかでない。リスクのある人に対するHNPCCの遺伝学的検査は、通常未成年にはすすめられないが、家系内の最若年発症者の発症年齢の10歳前から定期検査を行うとすると、未成年の遺伝学的検査とスクリーニングの大腸内視鏡検査が必要になる場合もある。

3)家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis: FAP)[16]

歴史的に全大腸がんの0.5%を占めるといわれてきたが、リスクのある家族に対して、早期のポリープ発見と予防的大腸全摘術を行うようになって低下しつつある。

前がん病変である大腸ポリープが数百から数千個生じ、ポリープを背景に大腸がんを発症する腫瘍症候群である。ポリープ発症は平均16歳(7-36歳)であり、35歳までには95%のFAP保因者にポリープが生じる。大腸切除術を行わない限り、大腸がんの発症は避けがたい。未治療の場合、がん発症の平均年齢は39歳(34-43歳)である。大腸以外の病変は様々で、胃底部や十二指腸のポリープ、骨腫、歯牙異常、網膜色素上皮の先天性肥大、軟部組織腫瘍、デスモイド腫瘍、これらに関連するがんなどが含まれる。

本症はAPC遺伝子の変異によって生じる。診断は基本的には臨床所見に基づいてなされる。APC遺伝子の分子遺伝学的検査では発端者の95%で原因となる変異を検出でき、遺伝子検査は臨床的に利用可能である。分子遺伝学的検査はリスクをもつ患者家族の早期診断や、臨床所見のはっきりしない患者(腺腫性ポリープが100個未満)の確定診断の目的で行われる。35-45歳で100個未満の腺腫性ポリープの患者は、軽症型(attenuated)FAPと考えられるが、この診断基準は現時点で確立されたものはない。

20-30個以上の腺腫が見つかった段階で、大腸切除術が推奨される。NSAIDsことにスリンダクはFAPの腺腫を退化させ、結腸切除、空腸直腸吻合施行患者の残存直腸に発生するアブレーション対象となる腺腫の数の減少に寄与する。内視鏡的または外科的十二指腸腺腫切除術は、絨毛腺腫や高度異型、直径1cmを超える、または症候性となった場合に行う。骨腫は審美的に切除対象となる。デスモイド腫瘍には外科的切除またはNSAIDs、抗エストロゲン薬、殺細胞性抗腫瘍薬、放射線治療を行う。

推奨される経過観察としては、身体診察、腹部超音波検査、血清AFP定量による毎年の肝芽腫のスクリーニングを出生時から5歳まで行う。10-12歳以降は1-2年毎にS状結腸の内視鏡検査を施行する。いったんポリープが発見されたら大腸内視鏡検査を行う。ポリープが生じてから大腸切除術が1年以上遅れる場合は毎年下部消化管内視鏡検査を行う。対象者が10代で、腺腫が6 mm未満かつ絨毛様変化を伴っていない場合には、大腸切除術の延期も可能である。上部消化管内視鏡検査は大腸ポリープの発見後、または25歳で開始し、1-3年毎に再検し、この頻度は十二指腸腺腫の程度で決定する。十二指腸乳頭を観察するため側視鏡の使用が好ましい。症例によっては総胆管の腺腫を確認する目的で内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)が必要となる。十二指腸腺腫がある場合や大腸切除術前には小腸X線検査を行い、1-3年毎に再検する。審美的観点から腸以外の病変に注意する。甲状腺触診を含む年1回の身体診察を行う。甲状腺がんはFAPの2%で発生し、女性のほうが頻度が高い。

4)多発性内分泌腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type 2: MEN2)[17]

MEN2はMEN2A、MEN2Bおよび家族性甲状腺髄様がん(familial medullary thyroid carcinoma: FMTC)の3病型に細分される。MEN2Aの診断基準は、臨床的には甲状腺髄様がん、褐色細胞腫あるいは副甲状腺機能亢進症が1人の患者または近親者に認められることである。FMTCは、歴史的には家系内に甲状腺髄様がんを有し、褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症を伴わない患者が4人以上いる場合に診断されてきた。FMTCも単一遺伝子(RET)変異によって生じる疾患でMEN2Aの亜型と考えられ、家系に4人未満の患者しかいないのは浸透率の問題と考えられている。MEN2Bでは甲状腺髄様がんの他に口唇や舌の粘膜神経腫、消化管の神経線維腫、厚い口唇を伴う特徴的顔貌、マルファン様体型を認める。いずれの病型も甲状腺髄様がんの危険性を有する。MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫も高リスクであり、MEN2Aでは副甲状腺の過形成や腺腫を生じるリスクもある。甲状腺髄様がんはMEN2Bでは小児期、MEN2Aでは若年成人期、FMTCでは中年期に発症する。

RET遺伝子は本症との関連が知られている唯一の遺伝子である。遺伝学的検査によりMEN2AとMEN2Bでは98%以上、またFMTCでも約95%の家系で病的変異が陽性となる。

甲状腺髄様がんに対する治療は、甲状腺と所属リンパ節の切除である。生化学検査や核医学検査で発見された褐色細胞腫には副腎切除術を行う。副甲状腺機能亢進症に対しては単一腺もしくは複数腺の切除を行う。まれに副甲状腺ホルモン分泌を抑制する薬物治療が行われる場合もある。一次病変の予防としては、RET遺伝子変異陽性者では予防的甲状腺全摘術を行う。二次病変の予防としては、MEN2A、MEN2B患者では手術前に適切な生化学検査によって褐色細胞腫の可能性を除外することを必要とする。

甲状腺全摘術後は、予防的手術であったとしても残存腫瘍や再発を検出する目的で、年1回は血中カルシトニンを測定する。甲状腺全摘術と副甲状腺自家移植を受けた患者は、副甲状腺機能低下症に対する経過観察を行う。RET変異が同定されたときに褐色細胞腫を未症であった患者では、年1回生化学スクリーニングを行う。

褐色細胞腫を有する患者では、ドパミンD2受容体阻害薬やβ遮断薬は副作用を生じるリスクが高いため、これらを回避する。

RET遺伝子変異陽性確定後は、リスクのある血縁者全員に分子遺伝学的検査が推奨される。

3.結語

オンコロジストは、遺伝性腫瘍の可能性のある患者に一番身近に接する。したがって、遺伝性腫瘍患者の一次拾い上げをして、ジェネティシストによる二次拾い上げにつなげることができる能力が要求される。これまで述べてきたように、遺伝性腫瘍各疾患の特徴は、(1)若年発症、(2)家系における関連腫瘍発症の集中、(3)同一個体における同時性あるいは異時性の多重がん、などであり、これらを認める場合、専門家へのコンサルテーションを考慮されたい。また、近年、核家族化のために詳細な家族歴を得ることが難しくなっていることから、若年発症の場合には、たとえ一人であっても遺伝性腫瘍の可能性が否定できないため、特に留意されたい。一般に遺伝性腫瘍では、次世代で低年齢化するという表現促進現象はないとされるものがほとんどであるが、直上世代で高齢発症であっても、次世代では若年発症という家系もあり、同一家系に集中発症している場合はやはり注意を要する。

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