A 意思決定支援
1.意思決定場面の現状
2.看護介入
B 緩和ケアにおける看護師の役割
C 抗がん剤投与時のマネジメント
D 化学療法に関する診療報酬
1.外来化学療法加算(平成24年度診療報酬改定)
2.外来化学療法加算に関する施設基準
E 社会保障制度の活用
1.高額療養費制度
2.医療費控除
3.傷病手当金
4.健康保険の任意継続
5.生活保護
6.障害年金[14]
7.介護保険法によるサービス
8.医療保険法によるサービス
文献

1.意思決定場面の現状

がん患者とその家族は、がんと診断されてから、治療、療養の場など様々な場面で意思決定を迫られ、そのどれもが患者のその後の人生を左右することが多い。そのため意思決定の際に重要な要素となる治療等に関する十分な情報、患者と家族のこれまで生きてきた価値観、信念、今後の希望を加味したうえで決定されることが望ましい。意思決定支援について検討した報告では、意思決定支援を行うことで知識、リスクの理解、患者の価値観に矛盾しない決定が増加し、意思決定上の葛藤、受動的で決定できない患者の減少がみられている[2]。また意思決定の特性として正確な知識、リスクの理解、数値に基づいた価値判断があげられ、意思決定のプロセスの特性として説明の感覚と明確な価値の感覚があげられる[2]。 看護師はチーム医療の一員として、患者・家族が自らの価値観、信念をもとに、より質の高い意思決定ができるよう、医師と共に支援していくことが求められている。

2.看護介入

1)患者の準備状態を整える

患者の価値観に沿った意思決定支援を行うなかで最も重要なことは「意思決定できる準備状態であるか」をアセスメントし、準備状態を整えることである。意思決定場面においては、がんの告知、再発の告知、治療効果が不十分などいわゆるバッドニュースの後に、今後どのように治療していくか等の説明が行われることが多い。バッドニュースに大きく心揺れる患者にとって、意思決定の選択肢について自身の価値観に沿って考えることは困難である。そのため患者の心理状況の把握と感情の共有をすることから始める必要がある。また身体的苦痛が生じている時は冷静に判断することができないことが多く、心理的準備と合わせて身体的準備を整えることが重要である。

(1)身体的苦痛の除去

患者の身体状態を確認し、心理的に影響する身体的苦痛が生じていないかアセスメントし、積極的に苦痛の除去に努める。

(2)心理状態の準備

患者の感情に注目し、患者が感じている思いを共感し受け止め寄り添う姿勢をもつ。

これまでの人生や療養生活を患者と共に振り返り、感情の整理を行う。

患者と共に置かれている状況の整理をする。

2)意思決定支援の実際

意思決定場面では患者自身が意思決定における自らの役割を認識できるように支援し、臨床医からの非難を受けずに自らの価値を優先できるよう精神的支援が必要である[3]。そのためには看護師が積極的に意思決定場面にかかわり、患者の価値観に沿った意思決定支援を行っていくことが求められている。O’Connorは心理学、社会心理学、意思決定分析、意思決定上の葛藤、価値、社会支援、自己効力感からOttawa Decision Support Framework[4]を開発し、患者が自身にとって必要で十分な情報を獲得し、最終的に納得のいく決断をするためのOttawa Personal Decision Guide[5, 6]を作成している(表1)。患者と共に表1に示すプロセスを通じて意思決定内容を明確にし、意思決定を行うために必要な情報の整理、患者自身の価値観に沿った選択肢の吟味、周囲の意見の整理を促すことができる。

WHOは「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ オブ ライフを改善するアプローチである」[8]と定義している。医療者は患者・家族を「疾患をもち、様々な側面の苦悩を抱えた人間」としてとらえ、全人的なケアを行う必要がある。

患者・家族のもつ多くの苦痛に対し包括的なケアを行うには、患者・家族の価値観やこれまでの生活背景・習慣などを知り、医師・薬剤師・医療ソーシャルワーカーをはじめとする多くの職種によるチームアプローチが重要となる。

看護師は最も長い時間ベッドサイドにいる職種として、系統的・包括的に治療の効果・副作用をアセスメントし、多職種と連携して症状の緩和を図るとともに、「その人らしく」過ごすことができるよう、日常生活の支援や心理的なサポートを行うことが求められる。

また、早期から緩和ケアの介入によりQOLと気分の改善、生存期間の延長をもたらしたという報告[9]もあり、治癒を目指した時期からの介入が必要であるといえる。看護師は自分たちがケアを行いながらも専門職・チームの介入時期を察知し、よりよい症状緩和や生活環境調整への支援などを行えるよう、医療チームを調整しながらケアをコーディネートする役割も担う。可能な限りこれまでの生活を維持、近づけるようにすることが患者・家族のQOLの維持・改善へとつながり、生を支えることとなる。

がん化学療法薬は細胞毒性が強く、人体に与える影響は大きい。そのため医療者は、取り扱いに注意し、患者の状態に合わせて安全かつ確実に実践することが重要である。化学療法を安全・確実に実践していくためには、化学療法に関する専門的知識に基づいて、患者の病態に合った治療計画、患者の身体状態のアセスメント、確実な投与管理、緊急時に対応するための準備、副作用に対する症状マネジメントが必須となってくる。

American Society of Clinical Oncology(ASCO)と米国Oncology Nursing Society(ONS)が中心となり、化学療法管理安全基準が作成された。この基準は7つの領域、31の基準からなり、化学療法を安全に行うために必要な内容が網羅されている[10](表2)。化学療法に関する基準を作成し、基準に則って実践することで安全に化学療法を実践することができる。

1.外来化学療法加算(平成24年度診療報酬改定)

入院中の患者以外の悪性腫瘍等の患者に対して、抗悪性腫瘍剤等による注射の必要性、副作用、用法、用量、その他の留意点等について文書で説明し同意を得たうえで、外来化学療法にかかわる専用室において、悪性腫瘍等の治療を目的として抗悪性腫瘍剤等の投与がされた場合に、投与された薬剤に従い、いずれか主たる加算の所定点数を算定できる(表3)。

1)外来化学療法加算A

添付文書の「警告」もしくは「重要な基本的注意」欄に、「緊急時に十分対応できる医療施設及び医師のもとで使用すること」または「infusion reactionまたはアナフィラキシーショック等が発現する可能性があるため患者の状態を十分に観察すること」等の趣旨が明記されている抗悪性腫瘍剤またはモノクローナル抗体製剤などヒトの細胞を規定する分子を特異的に阻害する分子標的薬を皮内、皮下、筋肉注射以外の方法で投与した場合。

2)外来化学療法加算B

外来化学療法加算A以外の抗悪性腫瘍剤(ホルモン効果をもつ薬剤を含む)を投与した場合。

2.外来化学療法加算に関する施設基準

1)外来化学療法加算1

(1)外来化学療法を実施するための専用のベッド(点滴注射による化学療法を実施するに適したリクライニングシート等を含む)を有する治療室を保有していること。なお、外来化学療法を実施している間は、当該治療室を外来化学療法その他の点滴注射(輸血を含む)以外の目的で使用することは認められないものであること。

(2)化学療法の経験を5年以上有する専任の常勤医師が勤務していること。

(3)化学療法の経験を5年以上有する専任の常勤看護師が化学療法を実施している時間帯において常時当該治療室に勤務していること。

(4)化学療法にかかわる調剤の経験を5年以上有する専任の常勤薬剤師が勤務していること。

(5)急変時等の緊急時に当該患者が入院できる体制が確保されていること、または他の保険医療機関との連携により緊急時に当該患者が入院できる体制が整備されていること。

(6)実施される化学療法のレジメン(治療内容)の妥当性を評価し、承認する委員会を開催していること。当該委員会は、化学療法に携わる各診療科の医師の代表者(代表者数は、複数診療科の場合は、それぞれの診療科で1名以上(1診療科の場合は2名以上)の代表者であること)、業務に携わる看護師および薬剤師から構成されるもので、少なくとも年1回開催されるものとする。

2)外来化学療法加算2

(1)外来化学療法を実施するための専用のベッド(点滴注射による化学療法を実施するに適したリクライニングシート等を含む)を有する治療室を保有していること。なお、外来化学療法を実施している間は、当該治療室を外来化学療法その他の点滴注射(輸血を含む)以外の目的で使用することは認められないものであること。

(2)化学療法の経験を有する専任の常勤看護師が化学療法を実施している時間帯において常時当該治療室に勤務していること。

(3)当該化学療法につき専任の常勤薬剤師が勤務していること。

(4)急変時等の緊急時に当該患者が入院できる体制が確保されていること、または他の保険医療機関との連携により緊急時に当該患者が入院できる体制が整備されていること。

1.高額療養費制度

1)内容

同じ医療機関で保険診療による1か月の自己負担額が限度額を超えた場合に超えた分の医療費について数か月後に払い戻しが受けられる制度である。

自己負担限度額の算出法は年齢や所得区分によって異なる。

先進医療、食事代や差額ベッド代など保険外の費用については対象とならない。

入院と通院は別々に計算される。

2)申請

対象:後期高齢者医療制度以外の医療保険加入者。

窓口:加入中の公的健康保険(保険者)に申請する。

必要なもの:医療費を支払った領収書、健康保険被保険者証が必要である。

3)高額療養費限度額適用制度

高額療養費制度を利用すると限度額を超えた部分の費用が払い戻されるが、いったんは自己負担額を全額支払わなければならない。この際に支払いが困難な場合、健康保険より交付される「限度額認定証」(保険料が未払いの場合発行されない)を提示すると医療機関への支払いが自己限度額までで済むようになる制度である。2012年より、入院医療費だけでなく、外来医療費にも利用可能である。

医療費を支払う前に加入中の公的健康保険(保険者)に申請・手続きをする必要がある。詳しくは厚生労働省のウェブサイト参照。

2.医療費控除

1)内容

1年間(1月1日〜12月31日)に10万円を超える医療費がかかったとき、その年の税負担額を軽減する目的で行われる。

所得によって控除額の算出方法が異なる。

2)申請

対象:一定の収入がある人。

窓口:住居地域の税務署に申請する。

必要なもの:源泉徴収票、医療費を支払った領収書が必要である。

医療費控除の対象となる主なものを表4に示す。

3.傷病手当金

1)内容

社会保険に加入している場合に病気休業中の健康保険加入者とその家族の生活を保障する制度である。

傷病が理由で働くことができず、事業主から報酬などを受けていない場合に、1日について標準報酬日額の3分の2に相当する額が4日目以降から支給される。

年金を受給している場合、事業主から報酬額を受けている場合は傷病手当金が調整される。

1疾患に対し最長1年半の支給を受けることが可能である。

2)申請

対象:被用者保険(健康保険、共済、船員保険)の被保険者本人。

窓口:加入中の公的健康保険(保険者)に申請する。

必要なもの:傷病手当金請求書(事業主の証明と医師の意見の記載が必要)、仕事を4日間休んだことが証明できるものが必要である。

4.健康保険の任意継続

1)内容

会社を退職し健康保険加入者の資格を喪失した場合に、保険料の全額本人負担により健康保険加入者の資格を最長2年まで継続できる。

退職後20日以内に手続きをしなければならない。

2)申請

対象:会社を退職し健康保険加入者の資格を喪失した人。

窓口:加入中の公的健康保険(保険者)に申請する。

必要なもの:健康保険任意継続被保険者資格取得申出書等の書類が必要である。

5.生活保護

1)内容

最低限の生活を保障し、自立を助けることを目的として定められた制度である。

福祉事務所のケースワーカーが自宅を訪問し、生活・仕事・資産状況を調査し、必要な扶助が決められる。

2)申請

対象:世帯全体の収入を合計しても、国で定めた最低生活費に満たない世帯。

窓口:市町村役場の福祉窓口、福祉事務所に申請する。

6.障害年金[14]

1)内容

重度の障害が残った65歳未満の人に、障害の状態(障害等級)に応じた年金を早くから支給する制度である。

人工肛門造設や咽頭部摘出、日常生活での介助が不可欠な状態、就労の面などで困難が多くなった場合などに認定される。初診日から1年6か月後経過した日(障害認定日)に一定の障害状態にあることが条件となる。

障害基礎年金の受給決定は都道府県が、障害厚生年金の受給は日本年金機構が行うため、該当するかどうかは申請してみないとわからない。

2)申請

対象:(1)65歳未満で障害基礎年金の定める1級か2級の障害の状態の人。

(2)65歳未満で障害厚生年金の定める1級、2級、3級の障害の状態の人。

窓口:初診日に加入していた年金保険制度の担当事務局に申請する。

7.介護保険法によるサービス

1)内容

介護度に応じて介護サービスを1割の自己負担で受けることができる制度である。

訪問調査員による調査、主治医の意見書をもとに審査、認定が行われる。

介護度によって支給限度額が決まっている。

2)申請

対象:(1)65歳以上の人。

(2)40歳から64歳で末期がんを含む16種類の特定疾患に罹患している人。

窓口:居住地の市区町村の介護保険課に申請する。

8.医療保険法によるサービス

1)内容

介護保険の対象とならなくても、医療保険の被保険者であれば、保険診療で往診や訪問看護を受けることが可能。

2)申請

窓口:申請方法については各医療機関の医療ソーシャルワーカーに相談。

1. 国立がん研究センターがん対策情報センター. がん情報サービス: 最新がん統計; 地域がん登録における5年生存率(1997〜99年診断例).

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5. Ottawa Hospital Research Institute (OHRI). Ottawa Personal Decision Guide. http://decisionaid.ohri.ca/decguide.html(2012.3.20閲覧)

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13. 国税庁. 確定申告に関する手引き等: 給与所得者の医療費控除用の記載例(医療費控除を受けられる方へ). http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shotoku/tebiki2012/pdf/04.pdf(2012.8.21閲覧)

14. 日本年金機構. 障害年金. http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=3225(2012.3.14閲覧)

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