A 補完代替医療の定義・概念
B 補完代替医療の現状
1.患者の利用実態
2.医療者の認知・態度
C 補完代替医療の科学的根拠
D コミュニケーションの重要性
文献

「補完代替医療」(complementary and alternative medicine: CAM)とは、現代西洋医学(通常医療)を補う「補完する」医療(補完医療)と、言葉どおり「代替する」医療(代替医療)を組み合わせた用語であり、この二つの医療は、別々に異なるものもあるが、多くは分けることが困難な場合が多く、両者をまとめて補完代替医療と呼んでいる。

米国では1992年に、国として国民の健康を守り増進していく立場からNational Institutes of Health(NIH)にOffice of Alternative Medicine(OAM)が設置され、さらに1998年になるとOAMは格上げされてNational Center for Complementary and Alternative Medicine(NCCAM; http://nccam.nih.gov/)となり、積極的に各種補完代替療法の臨床学的評価、情報収集・発信を行っている。なお、NCCAMは、補完代替医療を“Complementary and alternative medicine is a group of diverse medical and health care systems, practices, and products that are not generally considered part of conventional medicine.”と定義している。(ちなみに、わが国における補完代替医療の明確な定義はない。)さらに米国National Cancer Institute(NCI)内にはOffice of Cancer Complementary and Alternative Medicine(OCCAM; http://www.cancer.gov/cam/)を置き、がん患者に広く利用されている補完代替医療を取り上げ、現時点までに得られた情報から科学的な評価を下すとともに、一部のものでは有用性を検討するための臨床試験に対して助成を行っている。

参考までに、NCCAMによる補完代替医療の分類を以下に示す。

・天然産物(Natural Products):ハーブ、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品、プロバイオティクスなど。

・心身医療(Mind and Body Medicine):瞑想、ヨガ、鍼灸、深呼吸訓練、催眠療法、イメージ療法、漸進的弛緩法、気功、太極拳など。

アーユルベーダ医療(インド伝統医学)や中国伝統医学の概念が背景にある。

・手技療法と身体技法(Manipulative and Body-Based Practices):脊椎の徒手整復術(マニピュレーション)、マッサージ療法など。

カイロプラクティックやオステオパシー医学の概念が背景にある。

・その他(Other CAM Practices):運動療法(ピラティス、ロルフィングなど)、エネルギー療法(レイキ、ヒーリングタッチなど)、ホメオパシーなど。

しかし、米国において補完代替医療の範疇にある漢方薬が、わが国では保険適用として認められていることなど、補完代替医療の位置づけは保険制度や医学校での教育制度の有無によって大きく異なっている。したがって、わが国における補完代替医療の利用実態は、欧米とは異なる独自の要素を多く含んでいると考えられ、自国で模索・確立すべきであると考えられる。

1.患者の利用実態

わが国のがんの医療現場における補完代替医療の利用実態に関しては、2001年に厚生労働省がん研究助成金(現がん研究開発費)による研究班が組織され、がんの医療現場における補完代替医療に関する全国規模の実態調査が初めて行われた[1]。その結果、以下のことが明らかとなった。

・がん患者の45%(1382/3100人)が、1種類以上の補完代替医療を利用している。

・ 補完代替医療の利用にあたって、平均して月に5万7千円を出費している。

・利用している内容は、健康食品・サプリメントが最も多く(96%)、次いで気功(4%)、灸(4%)、鍼(4%)となっている。

・利用する主な目的は、がんの進行抑制(67%)、治療(45%)となっている。

・補完代替医療を利用している患者の5%が、副作用を経験したと述べている。

・補完代替医療を利用している患者の57%は、十分な情報を得ていない。

・補完代替医療を利用している患者の61%は、主治医に相談していない。

・主治医から補完代替医療の利用について質問された患者は、16%しかいない。

さらに、補完代替医療を利用していない患者であっても興味・関心をもっている患者は多く、利用している患者と合わせると8割を超えることも報告されている[2]。また、患者が補完代替医療を利用するきっかけとしては、「家族・知人からの勧め」が最も多く、患者だけではなく家族・知人に対しても、適切な情報提供とコミュニケーションが求められている。しかし、医師から補完代替医療の利用に関して尋ねられた患者は少なく、十分なコミュニケーションがとられていない実態も指摘されている[1]。

2.医療者の認知・態度

同じく厚生労働省がん研究助成金(現がん研究開発費)による研究班によって、臨床腫瘍医の補完代替医療に関する意識調査も行われている[3]。漢方、健康食品、鍼、カイロプラクティック、アロマセラピー、ホメオパシー、温泉療法、イメージ療法、ヨガ、タラソテラピー、催眠療法について、それぞれ「知識を持っているか」との問いに対して、漢方を除くその他種々の補完代替医療について、75-90%の医師が「知識はない」と回答している。また、補完代替医療を患者に実施・施行している医師も、漢方を除くと、0-1.5%とごくわずかであった。これらの結果の背景として、アンケートに答えた医師たちは「信頼に足るエビデンスがない」ことを理由としてあげている。

これらの現状を踏まえ、わが国のがんの医療現場における補完代替医療の問題点を整理すると、

(1)科学的根拠(エビデンス)不足

(2)コミュニケーション不足

の2点に集約される。そこで、この2点の問題点について具体的事例をあげながら解説する。

患者にとって、補完代替医療の情報源は多岐にわたっている。特に近年はIT技術の発展により、大量の情報に誰でも簡単にアクセスできるようになってきている。しかし、情報量が多いからといって正確な判断ができるわけではない。情報は、「真実」、「バイアス」、「偶然」のいずれかに分類され、様々な情報の中から「真実」だけを選び出す作業が重要になってくる。その作業を医学・医療に関して系統的に行うための手順が科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine: EBM)となる。

通常、医薬品として認められるためには、ランダム化比較した介入試験によって有効性が証明されなければならない。しかし、現状では、患者が利用している健康食品などの補完代替医療の多くは、抗腫瘍効果や生存率をエンドポイントとしたランダム化比較試験がほとんど行われておらず、その有効性については検証されていない。また、ランダム化比較試験を行ったものの、有効性が確認できなかった健康食品(例:サメ軟骨)もある[4-19](表1)。

なお、科学的根拠がないからといって、補完代替医療がすべて否定されるべきではない。科学的根拠がないということは、「効果がない」ということを意味しているわけではなく、「効果があるのかないのかわからない」という状況を表している。もちろん、そのような状況が許されるというわけではなく、今後、よく計画されたヒト臨床試験による科学的根拠が蓄積され、多くの不確かなことが補完代替医療の名のもと漫然と継続されることなく、順次、有効・無効、有害・無害が明らかにされていくことが必要である。

一方、近年、直接的な抗腫瘍効果ではないが、プロバイオティクスなどの機能性食品や鍼灸、アロママッサージによる患者のQOL改善効果や抗がん剤・放射線治療の副作用軽減効果がヒト臨床試験によって一部証明されているものもある[20, 21]。

参考までに、がんの補完代替医療(統合医療)に関する学術団体(http://www.integrativeonc.org/)が、2009年に発表した医療従事者向けのEvidence-Based Clinical Practice Guidelines for Integrative Oncology[20]を紹介する(表2)。

また、わが国におけるEBMの考え方にも様々な問題が内在している点も取り上げておきたい。科学的根拠に基づいた医療(EBM)とは、「研究によって得られた最良の根拠=エビデンス(best research evidence)、患者の価値観・意向(patients’ preferences and actions)、医療者の専門性(clinical expertise)、診療の現場環境(clinical state and circumstances)の4つを考慮し、よりよい患者ケアのための意思決定を行うものである」とされている[22]。さらにEBMを実践するにあたっては、「治療方針の意思決定は、エビデンスではなく、医師と患者によってなされるべきである(Evidence dose not make decision, people do.)」との記載もある[22]。

ともすると、EBMの4つの要素のうちの一つに過ぎないエビデンスのレベルが高いとされる大規模ランダム化比較試験の知見が得られれば、EBMそのものが確立し、臨床現場の意思決定までもが決まってしまうという短絡的な解釈も見受けられる。そのため科学的根拠に乏しい補完代替医療は、医師にとって否定的にとらえられてきた面も否めない。しかし、EBMを実践し患者にどのようなケアを行うかを判断する際には、エビデンスだけでは決まらず、他の要素も考慮するために、時にエビデンスの示すものとは異なった判断をすることがありうる。特に、エビデンスの希薄な補完代替医療の利用の可否を判断する際には、EBMにおける「患者の価値観・意向」「医療者の専門性」を考慮し、エビデンスの有無にかかわらず、次に述べる医師と患者とのコミュニケーションが重要性を帯びてくる。

補完代替医療に関するコミュニケーション不足に関しては、わが国のみならず欧米でも問題視されており、先に紹介したEvidence-Based Clinical Practice Guidelines for Integrative Oncology[20]においても、項目1および2において補完代替医療に関する積極的なコミュニケーションが推奨されている。

では、診療の現場において、補完代替医療を実際に利用する場合や、既に患者が利用していて相談をもちかけられた時にどのように対応すべきなのか? 前述したとおり、補完代替医療の「がんに対する直接的治療効果」に関して有効性を証明した報告は非常に少ない。逆に論文では報告されにくいのかもしれないが、無効性を証明した報告もほとんどない。現時点では、患者から補完代替医療の有効性について相談された時には「効果があるのかないのかはわからない」と返答することしかできないのが現状であろう。しかし、患者から相談を受けた時に「わからない」と返答するだけでは患者は納得しないケースもあると思われる。無論、補完代替医療の利用について頭ごなしに否定をしても問題の解決には至らない。逆に、患者は主治医に黙って補完代替医療を利用してしまう結果につながりかねない。

以下、参考までに、厚生労働省がん研究開発費による研究班が作成した「がんの補完代替医療 診療手引き」[23]に記載されている日常診療で相談を受けた時の対応の要点を列記する。

[コミュニケーションのポイント]

(1)直接的な抗がん効果が証明された補完代替医療はほとんどなく、標準治療に取って代わるような施術・療法は現時点では存在しません。その点を踏まえ西洋医学が主役で補完代替医療はサポート役であることを理解してもらう必要があります。これは、患者が補完代替医療に依存・傾倒して、標準治療を受ける機会を失わないようにするためにも非常に重要な点となります。また、説明にあたっては、患者を無理やり「説得」するのではなく、患者の心理的背景も汲み取り、最終的に患者自身が「納得」する形で判断できるようにコミュニケーションをはかることが大切です。

(2)医薬品との薬物相互作用や健康被害(副作用)に関して危惧される情報があれば積極的に提供する必要があります。

(3)安全性に問題がない場合、その補完代替医療を利用もしくは継続するかどうかは、あくまで患者の自己責任となりますが、突き放す対応をするのではなく、経過を十分に観察したうえで、「QOL改善など効果が実感できるか?」、「もし効果が実感できたとしても購入にかかる金額はそれに見合うか?」など、症例ごとに個別に対応することが大切になります。

重要な点は、患者の利用実態の把握である。そして、利用している場合や興味・関心がある場合、まずは耳を傾け、その背景にある状況や問題点を知ることが必要となる。また、その患者の気持ちに寄り添い理解を示すことで、その後、通常の診療を行ううえでの信頼関係も築くこともできる。医師がすべての補完代替医療について知識を身につけておく必要はなく、患者に、信頼できる情報の入手方法や調べ方をわかりやすく伝えるだけで十分であるとされる。また、必要に応じて、看護師、薬剤師、栄養士などの協力を得ることで効率的にコミュニケーションをはかることもできる。当然、患者が理解・納得したうえで、補完代替医療を「利用しない」という選択肢もあってしかるべきである。

なお健康食品・サプリメントに関する医薬品との薬物相互作用や健康被害(副作用)の情報については、独立行政法人国立健康・栄養研究所のホームページ「『健康食品』の安全性・有効性情報」(http://hfnet.nih.go.jp/)が、わが国では最大のデータベースとなる。このサイトでは、各種健康食品・サプリメントの素材に関する安全性のほか、有効性を検証した研究報告や有効成分分析の情報も提供されている。個別の製品に関する情報の掲載はないものの、各種素材に関して参考文献も付されている。

また、現在、筆者が参画している厚生労働省がん研究開発費(旧がん研究助成金)による研究班が、がん患者向けの情報提供資料として作成した「がんの補完代替医療ガイドブック」[21]を紹介したい。本冊子では、補完代替医療を利用する前に広く情報を集め、有効性や安全性、費用などを検討する必要があると注意を促している。また、インターネットや書籍から情報を収集する時は、情報の出典は事実に基づいているか、製品をすすめたり販売したりしていないかなど、情報収集のポイントもチェックリスト形式で掲載されている。さらに、患者と医療者との間におけるコミュニケーションツールとして活用できるように様々な工夫を凝らしているので、診療にあたっている先生方においては是非利用してみていただきたい。(本ガイドブックは、PDFファイルとして四国がんセンターのウェブサイト[http://www.shikoku-cc.go.jp/hospital/guide/useful/newest/cam/dl/index.html]から無料でダウンロードできる。)

最後に、わが国の医療システム全体の問題点として補完代替医療の将来的なあり方を考えると、医療が通常・補完代替あるいは主流・非主流などと相対していることは、ある意味患者にとって不幸であり、それを許容することは医学の怠慢とも考えられる。今後、補完代替医療の研究が進み、よりよい医療が国民に提供できる日が訪れることが望まれる。

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