A 疫学・診断
1.疫学・予後
2.リスク因子と発症機序
3.診断
4.病期分類(ステージング)
B 治療
1.形質細胞腫に対する治療
文献

1.疫学・予後

従来の多発性骨髄腫(multiple myeloma)はWHO分類では成熟B細胞腫瘍として分類されている。骨髄腫細胞の正常カウンターパートは形質細胞であり、これはB細胞が最終分化したものだからである。形質細胞腫瘍(plasma cell neoplasms)には5つの病型が含まれ、それは(1)単クローン性γグロブリン血症(monoclonal gammopathy of undetermined significance: MGUS)、(2)形質細胞腫(plasma cell myeloma)、(3)骨単発性形質細胞腫(solitary plasmacytoma of bone)、(4)骨外形質細胞腫(extraosseous plasmacytoma)、(5)単クローン性免疫グロブリン沈着病(monoclonal immunoglobulin deposition diseases)である。本稿では(2)の形質細胞腫を「従来の多発性骨髄腫」として述べる。

日本でのすべての多発性骨髄腫の発生患者数は2007年の集計[1]で5205人、罹患率は人口10万人あたり年間4.1人で(年齢調整罹患率では1.4人)、死亡率は人口10万人あたり年間3.2人である。

化学療法によって治癒が望めないとされる形質細胞腫の予後は、中央値で発症から3-4年とされているものの、症例によってはかなり幅があることが知られ、予後解析についてはよく研究がなされている。最もよく用いられる予後予測病期分類はDurie and Salmon(DS)分類[2]と国際病期分類(International Staging System: ISS)[3]である。DS分類は免疫グロブリン量を中心に分けられた3段階の病期と腎機能障害(クレアチニンが2 mg/dL未満か以上か)の有無の組み合わせが予後をよく反映している[4]。ISSはさらに簡便で、β2ミクログロブリンの値と血清アルブミン値だけを用いて分類した3つの病期が予後との高い相関性(それぞれ生存期間の中央値が62か月、44か月、29か月)を有することでよく用いられる[3]。この他に血清LDH値、CRP値、形質細胞の増殖速度、骨髄内の腫瘍量、形質細胞芽球の形態と遺伝子異常が予後予測因子になることが知られている。

2.リスク因子と発症機序

発症のリスク因子についてはあまり多くは知られていない。しかし形質細胞腫の小児例はみられないこと、成人であっても30歳未満には非常にまれであること、多くの症例が50歳以上であることから、加齢が関係していることが臨床的に示されている。一方で、近親者に形質細胞腫の発症をみる場合にはそうでない場合よりも形質細胞腫の発症相対リスクが3.7倍高まることが疫学的に明らかになっており、遺伝学的な要因も示唆されている。

発症機序については、感染症や他の慢性疾患に由来する特異的な抗原からの慢性的刺激が形質細胞腫の発症頻度を高めるという疫学研究結果があるものの、実際の症例において特異的な病因抗原や発症機序が同定されたことはない。

3.診断

1)症状

形質細胞腫の臨床症状は多彩であるが、末端臓器にみられる典型的な症状名の頭文字から“CRAB”と表現される[5]。CRABとは、高カルシウム血症(hypercalcemia)、腎機能障害(renal insufficiency)、貧血(anemia)、骨病変(bone lesion)である。これらは形質細胞腫の病態を理解するうえで非常に基本的な症候であり、他の症候のいずれもがこれら基本病態からの派生として説明が可能である。またCRAB症状を認める形質細胞の増加を、「症候性(symptomatic)」形質細胞腫として治療対象にすることからも、実臨床で疾患マネジメントを行ううえでも重要である。

2)診断

形質細胞腫は骨髄での腫瘍化した形質細胞の増加を基本病態とし、それに伴う単クローン性蛋白質の増加を証明して診断できる。時に(形質細胞腫全体の約3%)非分泌性の形質細胞腫を経験することがあるので、細胞質内の単クローン性免疫グロブリンの証明や、免疫グロブリン軽鎖(κもしくはλ鎖)の偏りなどをみて診断する。先に述べたCRAB症状を有する場合には、血液検査や画像検査を併用して症候性形質細胞腫としての診断が容易であるが、無症候性の場合には骨髄内での形質細胞増加(WHO分類では10%以上と定義)とM蛋白を確認して診断する。無症候性の場合には、診断したとしても治療を開始するかどうかは臨床的判断に委ねられる。

3)病理組織分類

形質細胞の腫瘍化は、特徴的な病理所見を有する形質細胞を観察することで確認できる。腫瘍化した形質細胞には未熟な形態を有するものから成熟したものまで様々なバリエーションがあるが、未熟な形質細胞は核異型が強く核小体が明瞭にみられるので容易に鑑別できる。また異常な形質細胞として、細胞質内に分泌免疫グロブリンを含んだ封入体がブドウ様(grape-like)といわれる形態で観察できれば、これは典型像である。

一方で、成熟した形態を示す腫瘍化形質細胞は正常の形質細胞との見分けが困難である。そればかりか、正常な形質細胞であっても、反応性増殖の際には腫瘍細胞にみられるような未熟核や多形性を示すことがままあるために、腫瘍細胞と正常細胞との厳密な区別は形態学的には困難なことがある。その際には形質細胞の表現型をフローサイトメーターで確認するのが有用である。腫瘍化した形質細胞は通常CD79a、CD138、CD38が陽性となり、さらに活性化マーカーとしてCD56が陽性となるために正常の形質細胞と区別が可能である。

4.病期分類(ステージング)

Durie and Salmon(DS)分類[2]と国際病期分類(International Staging System: ISS)[3]についてはすでに述べた。表1、2にそれぞれの内容を示す。

(*クリックすると拡大表示します)

1.形質細胞腫に対する治療

1)若年者の形質細胞腫の治療

MP療法 ✚✚✚ [6]

melphalan 8 mg/m2 内服 day1-4

prednisolone 60 mg/m2 内服 day1-4

4週毎に繰り返す

大量dexamethasone療法 ✚✚✚ [7]

dexamethasone 20 mg/m2 1時間点滴 day1-4, 9-12, 17-20

4週毎に繰り返す

VAD療法 ✚✚✚ [8]

vincristine 0.4 mg/body 24時間持続点滴 day1-4

doxorubicin 9 mg/m2 24時間持続点滴 day1-4

dexamethasone 40 mg/body 内服 day1-4

3週毎 3-4サイクル

TAD療法 ✚✚✚ [9]

thalidomide 200-400 mg/body 内服 day1-4

doxorubicin 9 mg/m2 24時間持続点滴 day1-4

dexamethasone 40 mg/body 内服 day1-4, 9-12, 17-20

4週毎 3サイクル

BD療法 ✚✚✚ [10]

bortezomib 1.3 mg/m2 静注 day1,4,8,11

dexamethasone 40 mg/body 内服 day1-4, 9-12, 17-20

3週毎 4サイクル

VTD療法 ✚✚✚ [11]

bortezomib 1.3 mg/m2 静注 day1,4,8,11

thalidomide 200 mg/body 内服 day1-2, 4-5, 8-9, 11-12

dexamethasone 40 mg/body 内服 day1-4

3週毎 3サイクル

若年者とは自家移植適応可能年齢と理解していただきたい。65歳以下の臓器機能が維持されている症例であれば移植の可能性を検討する[12]。いずれの治療も自家末梢血幹細胞移植の前にまずは腫瘍量を減じるための初回化学療法の位置づけである。この初回治療を何度か繰り返した後、理想的には寛解(PR)にまでもちこみ、不可能であれば大変良好な部分寛解(very good PR)にまでもちこんでから自家末梢血幹細胞移植を行う。自家末梢血幹細胞移植には、まず大量シクロホスファミドを用いた前処置により必要な自己末梢血幹細胞を採取し、その後大量メルファランによる大量化学療法を自家末梢血幹細胞移植でサポートする。なおBD療法のボルテゾミブの投与法については、末梢神経障害の軽減のために皮下注射のほうがよいことが2011年に示されている[13]。

移植前の化学療法としてはまずはサリドマイドの有用性と安全性が示され[9]、その後ボルテゾミブの効果も確認された後[10]、現在ではこの両者を組み合わせて使用する方法が検討された[11]。移植後の再発症例に対しては、それまでに使っていない治療薬を用いて病勢を抑えることになるが、移植後の維持療法としてlenalidomideの有用性が2012年に示された[14, 15]。

移植後lenalidomide維持療法✚✚✚ [14]

lenalidomide 10 mg/body 移植後100日後に内服開始 day1-21

4週毎に繰り返す

移植後lenalidomide維持療法 ✚✚✚ [15]

lenalidomide 10 mg/body 移植後最初の3か月内服 day1-21

15 mg/body 以降耐用可能なら増量内服 day1-21

4週毎に繰り返す

2)高齢者の形質細胞腫の治療

MP療法✚✚✚ [6]

melphalan 8 mg/m2 内服 day1-4

prednisolone 60 mg/m2 内服 day1-4

4週毎に寛解を目指して繰り返す

VMP療法(VISTA trail)✚✚✚ [16]

bortezomib 1.3 mg/m2 静注 day1,4,8,11,22,25,29,32(1-4サイクル目)

day1,8,22,29(5-9サイクル目)

melphalan 9 mg/m2 内服 day1-4

prednisolone 60 mg/m2 内服 day1-4

6週毎 9サイクル

LD療法 ✚✚✚ [17]

lenalidomide 25 mg/body 内服 day1-21

dexamethasone 40 mg/body 内服 day1-4, 9-12, 17-20

(5サイクル目以降繰り返す際にはdexamethasoneをday1-4のみに)

4週毎 4サイクル

高齢者とは自家移植適応不可能年齢と理解していただきたい。自己末梢血幹細胞移植を考える年齢であれば、移植前の幹細胞採取のために骨髄機能を損なわない初回治療を検討すべきであることからアルキル化剤を併用するMP療法は使いにくいレジメンのひとつであるが、幹細胞移植を適応しない場合は初回治療としてMP療法を実施し、効果がみられる限り継続していくことが一般的であろう。2011年10月から日本でも初回治療からのボルテゾミブ使用が保険適用として承認され、VMP療法が標準的になりつつあるが、末梢神経障害の発現頻度が高いことから、副作用対策には入念な注意が必要である。

1. 国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス. 最新がん統計.
http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics01.html

2. Durie BG, Salmon SE. A clinical staging system for multiple myeloma. Correlation of measured myeloma cell mass with presenting clinical features, response to treatment, and survival. Cancer 1975; 36(3): 842-54. [PubMed]

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10. Harousseau JL, et al. Bortezomib plus dexamethasone is superior to vincristine plus doxorubicin plus dexamethasone as induction treatment prior to autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma: results of the IFM 2005-01 phase III trial. J Clin Oncol 2010; 28(30): 4621-9. [PubMed]

11. Cavo M, et al; GIMEMA Italian Myeloma Network. Bortezomib with thalidomide plus dexamethasone compared with thalidomide plus dexamethasone as induction therapy before, and consolidation therapy after, double autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma: a randomised phase 3 study. Lancet 2010; 376(9758): 2075-85. [PubMed]

12. 日本造血細胞移植学会. 造血細胞移植ガイドライン 多発性骨髄腫. 2010. [PDF]

13. Moreau P, et al. Subcutaneous versus intravenous administration of bortezomib in patients with relapsed multiple myeloma: a randomised, phase 3, non-inferiority study. Lancet Oncol 2011; 12(5): 431-40. [PubMed]

14. McCarthy PL, et al. Lenalidomide after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med 2012; 366(19): 1770-81. [PubMed]

15. Attal M, et al. Lenalidomide maintenance after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med 2012; 366(19): 1782-91. [PubMed]

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