A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.薬物療法
2.非薬物療法
文献

1.疫学

呼吸困難は呼吸不全(PaO2≦60Torr)と異なり、あくまで主観的な症状である。呼吸困難はがん患者の46-59%、肺がん患者の75-87%、終末期がん患者の60%にみられ、悪液質やせん妄、performance statusの低下などと並び、独立した予後規定因子である[29]。

2.診断

がんに関連した原因(胸水、胸壁腫瘍、心嚢水、上大静脈症候群、気管支圧迫、肺塞栓、がん性リンパ管症、感染症など)や全身状態による原因(貧血、心不全、腹水、肝腫大、悪液質に伴う呼吸筋疲労、発熱、不安など)と多岐にわたる。これらは、詳細な病歴聴取、身体所見、血液検査、画像検査により多くの場合同定できる。特に終末期がん患者の場合は検査自体が負担になることがあるため、身体診察の重要性が増してくる。

呼吸困難の原因や病態に応じた治療を行いつつ、症状への対応を行う。

1.薬物療法

1)モルヒネ ✚✚✚

がんと関連した呼吸困難を伴う終末期がん患者において、モルヒネのプラセボに対する有用性がランダム化比較試験で示されており[56, 57]、系統的レビューでもモルヒネの全身投与が推奨されている[58, 59]。モルヒネは適切に使用すれば、それ自体で酸素飽和度の低下やEtCO2の上昇、呼吸抑制などをきたすことはない[60]。その他の強オピオイド(オキシコドン、フェンタニル)の有効性は明らかでない。

頓用から開始

・塩酸モルヒネ内服液(5 mg) 0.5-1包 内服

・塩酸モルヒネ注 2 mg(0.2 mL) 皮下注

定期投与の開始量

・硫酸モルヒネ徐放製剤 20 mg/日

・モルヒネ注 5-10 mg/日 持続静注・持続皮下注

・モルヒネ既投与時は、20-30%増量

レスキュー

・内服・座薬は1日量の10-20%の速放性製剤を使用(1時間あけて反復可)

・注射剤は1時間分を早送り(15-30分あけて反復可)

2)ベンゾジアゼピン系薬 ✚✚

ベンゾジアゼピン系薬単剤投与の効果については一致した見解が得られていない[61, 62]。呼吸困難に不安が合併している場合、またモルヒネを用いても呼吸困難が改善しない場合にベンゾジアゼピン系薬の使用を慎重に考慮する[63]。

頓用としての単独投与、あるいはモルヒネとの併用

・alprazolam錠(0.4 mg) 0.5-3錠 分1-3 内服

・lorazepam錠(0.5 mg) 1-3錠 分1-3 内服

・diazepam座薬(4 mg) 1-3個 分1-3 挿肛

・midazolam 2.5 mg/日から持続静注・皮下注を開始、眠気が許容できる範囲で10 mg/日まで増量[63]

3)コルチコステロイド ✚

観察研究において、がんの呼吸困難に対するコルチコステロイドの全身投与の有用性が示唆されている[64, 65]。呼吸困難の緩和作用を期待しうる原因病態(がん性リンパ管症、上大静脈症候群、気管狭窄、気管支攣縮、化学療法・放射線治療による肺障害など)がある場合は、予後を考慮し、副作用の出現に注意しながらコルチコステロイドを使用する。

betamethasone 4-8 mg/日 内服または静注・皮下注 数日投与
効果を認める場合は漸減し、効果の維持できる最小量(0.5-4 mg/日)で継続。効果がない場合は中止。

2.非薬物療法

1)酸素療法 ✚✚✚

低酸素血症がある場合は酸素吸入の有用性を支持する根拠がある[58, 66]。Brueraらは低酸素血症(SpO2<90%)を有するがん患者14人に対し二重盲検ランダム化比較試験を行い、酸素吸入あるいは空気吸入(5 L/分 マスク)の効果を比較した[66]。酸素吸入群は空気吸入群に比して有意に呼吸困難を改善させた。一方、低酸素血症のある患者、低酸素血症のない患者の混在した2件のランダム化比較試験では、低酸素血症を有する患者のサブグループ解析で酸素吸入の空気吸入に対する優位性が示されなかった[67, 68]。ランダム化比較試験のサンプル数が小さいこと、ランダム化比較試験自体が少ないことより、酸素吸入の有用性を疑問視する系統的レビューもあり[69]、統一された見解は得られていない。

低酸素血症がない場合は酸素吸入が空気吸入より有効であるという根拠はないが、いずれの吸入にても呼吸困難症状が改善する可能性がある[67, 68, 69, 70, 71]。Abernethyらは、重篤な疾患を有し治療抵抗性の呼吸困難を呈するPaO2
>55 mmHgの患者計239人(54人の進行期がん患者を含む)に対し、2 L/分の経鼻酸素あるいは空気吸入を7日間行う効果を比較する、多国間二重盲検ランダム化比較試験を行った[71]。有効性に群間差はなかったが、どちらの群でも7日間にわたり呼吸困難症状は有意に改善し、治療開始時の呼吸困難症状が強い患者ほど大きな効果がみられた。現在、経鼻の空気吸入は医療現場で一般的に使用されていないため、低酸素血症がない場合でも呼吸困難に対して酸素吸入が行われることが少なくない。酸素吸入による望ましい効果と、煩わしさ、行動制限、気道の乾き、危険性(在宅において患者や介護者が喫煙する場合など)、経済的負担などの望ましくない効果を個々の患者ごとに確認し使用を検討するのが肝要である。使用開始後治療の影響を再評価し、酸素投与を続行するか否か判断する。

2)その他の対応

・咳嗽、喀痰へ対処。

・胸水、腹水、気道分泌、肺水腫のある終末期患者では輸液を減量(500-1000 mL/日)。

・看護ケア(体位の工夫、呼吸法のトレーニング、外気・うちわ・扇風機による送風、室温の調節、ナースコールや頓服薬を手元に置いておくなど)、呼吸リハビリテーション、精神療法、リラクセーション、補完代替医療などもあるが、これらの多くはがん患者には経験的に使われる対応である。

(本節末に掲載)