A 疫学・診断
1.概念
2.頻度
3.臨床所見
4.診断
B 治療
1.腫瘍に対する治療
2.高コルチゾール血症の是正
3.その他
4.予後
5.専門医へのコンサルト
文献

1.概念

下垂体以外の組織から発生した腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を産生・分泌したものを異所性ACTH産生腫瘍と呼び、過剰分泌されたACTHにより副腎皮質機能亢進をきたしてクッシング徴候、代謝異常などを呈したものを異所性ACTH症候群(ectopic ACTH syndrome: EAS)と呼ぶ。

2.頻度

クッシング症候群(Cushing syndrome: CS)における異所性ACTH症候群の占める割合は日本では3.6%と報告されている[1]。腫瘍の組織別では小細胞肺がん、気管支カルチノイドで半数以上を占め、胸腺腫、膵ラ島がん、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、神経内分泌腫瘍等があげられるが、それぞれの腫瘍性病変における異所性ACTH症候群の合併頻度についての報告はない。近年は診断技術の進歩により気管支、胸腺、消化管などのカルチノイドに合併した異所性ACTH症候群の報告が増加している。

3.臨床所見

1)身体所見[2]

クッシング徴候(特異的症候)として、

(1)満月様顔貌(moon face)

(2)中心性肥満(central obesity)または水牛様脂肪沈着(buffalo hump)

(3)皮膚の赤紫色皮膚線条(幅1 cm以上)(abdominal striae)

(4)皮膚の菲薄化または皮下溢血

(5)近位筋萎縮による筋力低下

がある。この他、非特異的症候として、

(6)ざ瘡

(7)多毛

(8)浮腫

(9)色素沈着

(10)骨粗鬆症

(11)精神異常

などがあげられる。

これらの症候の出現頻度や程度はACTH分泌の程度や期間によって異なる。カルチノイドなどの比較的ゆっくり成長する腫瘍ではクッシング徴候の頻度が高く、小細胞肺がんや胸腺がんなどで成長が速い場合は低カリウム血症や代謝異常が前面に出ることが多く、急速に進行する場合は体重減少や悪液質が目立つ。他の異所性ACTH症候群に比べて小細胞肺がんでは皮膚の色素沈着、下肢浮腫が多く、カルチノイドや小細胞肺がんを含む神経内分泌腫瘍では精神異常が出やすいとされている[3]。異所性ACTH症候群では著しい高コルチゾール血症を伴うことがあり、重症感染症や胃潰瘍出血を生じることもある。

2)検査異常

(1)血中ACTH、コルチゾールが高値〜正常(同時測定)

(2)尿中遊離コルチゾールが高値〜正常

(3)デヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)高値(年齢性別で基準値が異なるため注意)

(4)白血球増多(好酸球低下)

(5)低カリウム血症

(6)代謝性アルカローシス

(7)糖代謝・脂質代謝の悪化

(8)血圧の上昇

ACTHは主として副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン、性ステロイド)の産生促進作用があり、長期間過剰分泌が続くと両側副腎皮質過形成をきたす。副腎性コルチゾール分泌過剰との違いは、(1)副腎でのアルドステロン産生亢進のため高血圧、低カリウム血症および代謝性アルカローシスを伴いやすいこと、(2)性ステロイド産生亢進のためDHEA-S(年齢、性別で基準値が異なる)が高値になること、(3)ACTH関連ペプチドにメラニン細胞刺激ホルモン(MSH)が含まれていることから皮膚の色素沈着を伴いやすいこと、である。血中ACTH濃度はクッシング病(Cushing disease: CD)に比べて高値のことが多く、下垂体性のクッシング病や副腎性クッシング症候群と同様に日内変動は消失している。原疾患に対する化学療法に伴ってホルモンクリーゼを伴う場合がある。

4.診断

まず、身体所見や内分泌学的検査でクッシング症候群の診断を行い、次に局在診断を行う。

悪性疾患の精査加療中に色素沈着や低カリウム血症を伴った血圧の上昇、糖代謝の悪化等から本疾患を疑った場合は、スクリーニングとしてデキサメタゾン抑制試験を行う。

1)スクリーニング[2]

一晩少量(0.5 mg)デキサメタゾン抑制試験

ステロイド投与下での血中ACTH、コルチゾールを測定し、自律性分泌能を評価する。デキサメタゾン0.5 mgを23時に内服し、翌早朝空腹時(8-10時)安静臥床30分以上で採血を行い、血中コルチゾールが5 μg/dL以上で陽性と判断する。

2)内分泌学的検査

(1)一晩大量(8 mg)デキサメタゾン抑制試験

クッシング病と異所性ACTH症候群の鑑別に用いる。一般的にクッシング病では血中コルチゾール分泌が前値の50%以下に抑制されるが、異所性ACTH症候群では抑制されない。

(2)CRH試験

クッシング病と異所性ACTH症候群の鑑別に用いる。一般的にクッシング病では正常〜過剰反応(ACTHの頂値が前値の1.5倍以上)を示すが、異所性ACTH症候群では通常無反応である。

(3)デスモプレシン(DDAVP)試験

クッシング病でV3受容体が過剰発現することを用いてデスモプレシン(DDAVP)投与によるACTH分泌促進反応を評価し異所性ACTH症候群との鑑別に用いる。一般的にクッシング病では正常〜過剰反応(ACTHの頂値が前値の1.5倍以上)を示すが、健常者や異所性ACTH症候群では無反応である。

(4)日内変動

ACTH、コルチゾールの日内リズムの有無を確認する。通常は早朝にピークを認め、深夜23-24時に底値を示すが、クッシング症候群(異所性ACTH症候群を含む)では日内変動が消失し深夜の血中コルチゾールが5 μg/dL以上となり日内変動が消失する。

(5)下錐体静脈洞サンプリング(inferior petrosal sinus sampling: IPSS)

クッシング病と異所性ACTH症候群鑑別のゴールドスタンダード検査。血中ACTHの中枢/末梢比をCRH刺激前後で測定する。クッシング病で陽性、異所性ACTH症候群で陰性となる。解剖学的問題や手技的な影響が検査結果を左右するため施行可能な施設が限定される。まれにCRH産生腫瘍の場合があり、偽陽性となる。

3)画像検査

CT、MRI、FDG-PETは非特異的検査であるが腫瘍検索のため行う。異所性ACTH症候群は半数以上が胸部に病変を認めるため胸部CTを中心に検索を行うのが望ましい。カルチノイドや膵ラ島がんなどでは腫瘍が微小なことも多く、局在診断は困難なことがある。

機能的局在診断法としてソマトスタチン受容体シンチグラフィがあげられるが日本では保険未承認である。

4)診断基準[4]

以下の4項目のなかで(1)〜(4)のいずれか1項目以上があればほぼ確実であり、(4)をみたせば確実である。

(1)下垂体以外に腫瘍が存在し、ACTH過剰による高コルチゾール血症の臨床症状や臨床検査の異常が認められる。

(2)腫瘍を摘出するとこれらの症状や検査異常が消失し、再発すると再び出現する。

(3)選択的静脈サンプリングによって腫瘍静脈血中のACTHのステップアップを認める(あるいはIPSSで中枢/末梢比のステップアップがみられない)。

(4)腫瘍によるACTH産生を免疫組織化学やイムノアッセイで証明する。

第一選択は腫瘍に対する治療であり、この際には治療後の副腎不全発症に注意を要する。腫瘍切除ができない場合に高コルチゾール血症の是正を行う。高血圧や代謝異常に対しては程度により適宜治療を行う。

1.腫瘍に対する治療

(1)外科的腫瘍切除

(2)化学療法

(3)放射線療法

(4)その他

2.高コルチゾール血症の是正

1)メチラポン ✚✚

metyrapone(メトピロン(R)) 成人で750-3000 mg/日 分3-4 内服

2)ミトタン ✚

mitotane(オペプリム(R)) 500 mg眠前内服から開始 1週間毎に500 mgずつ食後に追加し2000-3000 mg/日 分3-4 まで増量

3)トリロスタン ✚

trilostane(デソパン(R)) 240 mg/日 分4 内服より開始 240-480 mg/日で維持量とする

4)ソマトスタチンアナログ ✚

somatostatin analogue(サンドスタチン(R)) 100-300 μg/日 分2-3 皮下注

あるいは徐放性製剤(サンドスタチンLAR(R)) 10-30 mg 月1回 筋注

5)両側副腎摘出術 ✚✚

腫瘍に対する治療が困難、あるいは治療を行っても高コルチゾール血症が是正されないコントロール不良の場合は副腎全摘あるいはコルチゾール合成阻害薬1)〜3)を用いる。血中コルチゾールのモニターを行い、副腎皮質機能低下を認めた場合は外因性ステロイドを補充する。

1)は長期投与での有効率が約80%と高く、エスケープ現象もみられないため[7]長期間の管理に有用である。2011年11月よりクッシング症候群に対する同剤の使用が保険適用となった。

2)は副腎皮質がん、手術適応のないクッシング症候群が適応で、副腎皮質を特異的に破壊し不可逆的に副腎でのステロイド合成を阻害する。効果発現までに数週間を要するため他剤との併用が推奨される。肝臓での6β-hydroxylaseによるコルチゾール代謝亢進作用もあるためステロイド補充量を1.5-3倍に増量する必要がある。ミトタン使用中は尿中遊離コルチゾールや血中ミトタン濃度(14-20 μg/mL)をモニターする。スピロノラクトン、ペントバルビタール使用中の患者では禁忌である。

3)は原発性アルドステロン症およびクッシング症候群に用いられているが、コルチゾール抑制効果は強くない。

4)については、抗腫瘍効果は期待できないが、ACTH過剰分泌のコントロールに有効との症例報告[8]があり、一部の異所性ACTH症候群症例で有効と考えられる。導入前に効果判定を行う必要があること、非常に高価であることが問題点である。

いずれの治療でも高コルチゾール血症のコントロールが困難な場合は両側副腎摘出術を施行する。

海外では抗真菌薬であるケトコナゾールとメチラポン、ミトタンの多剤併用療法が重症ACTH依存性クッシング症候群の治療に有用と報告[9]されているが、ケトコナゾールは日本では保険未承認である。

3.その他

低カリウム血症、高血圧が顕著な場合にはカリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンあるいはエプレレノン)投与を考慮し、血圧が高くない場合はカリウム製剤を投与する。糖代謝異常が著しい場合にはインスリン投与など病態に応じて治療を行う。末期がん患者などでは身体活動度や食事量の変化が予想されるため厳格な治療ではなく急性代謝失調をきたさないよう安全に治療を行うのが望ましい。

4.予後

異所性ACTH症候群の予後は腫瘍のタイプに依存し、小細胞肺がんが最も悪い。日本での報告でも悪性で切除不能例では全例が腫瘍の転移・増大により死亡している[10]。

5.専門医へのコンサルト

身体所見や検査所見からクッシング症候群を疑ったらまず血中ACTHとコルチゾールを測定し、ACTHとコルチゾールがともに高値の場合に異所性ACTH症候群を疑い専門医への紹介を考慮する。可能であれば一晩少量デキサメタゾン抑制試験を施行するとよい。腫瘍に随伴したものでは原疾患の予後も考慮して治療の必要があるかどうかの判断を行う必要がある。

早期がんやカルチノイドなどで進行が比較的遅い腫瘍では切除により完治が期待できるが、基本的に原疾患の治療が異所性ACTH症候群の治療を兼ねるため手術を優先する。手術までの期間により、適宜専門医にコンサルトして可能な検査を行うのがよい。摘出標本で組織のACTH免疫染色を行う。異所性副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)産生腫瘍の報告も散見されるが治療には影響しないため検索は病態が安定していなければ必須ではない。しかしながら、下垂体性ACTH産生腫瘍との合併や他臓器にACTH産生腫瘍を合併している可能性もあるため、臨床所見が改善したか確認し、軽快しなければ速やかに専門医にコンサルトする必要がある。

悪性度が高く予後が悪いと考えられる腫瘍に随伴するものでは、コルチゾール過剰により重症感染症や消化性潰瘍を合併するなど消耗が著しい場合、あるいは電解質異常や高血糖などの代謝異常の管理が臨床的に必要な場合、つまり患者のQOLや予後に影響すると考えられる場合には、高コルチゾール血症の管理目的でコンサルトするのが望ましいと思われる。

case

症例:71歳 男性。

主訴:全身倦怠感。

既往歴:慢性心不全、心房細動。

現病歴:2010年4月にSIADHを契機に右下葉小細胞肺がんと診断さ
れ、肝転移、骨転移があったためカルボプラチン+エトポシドによる化学療法を開始された。SIADHについてはデメチルクロルテトラサイクリン内服で良好に管理されていた。効果不十分あるいは副作用の問題からメニューを二度変更された。2011年1月の9サイクル目入院の際に低カリウム性の心不全悪化があり、スピロノラクトンを投与され退院した。外来受診時に著明な高血糖を認め、内分泌内科で糖尿病に対して内服治療を開始された。その後、下腿浮腫、全身倦怠感等が出現しほぼ寝たきりとなったが予定どおり10サイクル目の化学療法目的で同年2月に入院した。

身体所見:体温 36.4℃、血圧122/80 mmHg、SpO2 94%、

意識:傾眠傾向、甲状腺腫大なし、顔貌変化・中心性肥満なし、皮膚の色素沈着・皮下出血なし、両下腿に高度の浮腫を認めた。

検査所見:胸部単純撮影で心拡大、右肺門部に腫瘤影を認めるが胸水貯留は認めない。

採血:WBC 11900/μL、(Eosino 0%)、T-Chol 251 mg/dL、Glucose 627 mg/dL、Na 142 mmol/L、K 3.2 mmol/L、Cl 102 mmol/L、proGRP 41320.4 pg/mL、BNP 550.9 pg/mL

血液ガス:pH 7.544、PCO2 47.3 mmHg、PO2 56.0 mmHg、HCO3 39.9 mmol/L

日内変動:午前8時空腹時安静採血

ACTH 195.0 pg/mL、コルチゾール 42.1 μg/dL、血漿レニン活性 0.6 ng/mL/時、アルドステロン 132.0 pg/mL

経過:入院時は食欲もなく血糖著明高値で心不全の増悪を認めたため化学療法の継続が困難であった。低カリウム血症、代謝性アルカローシスも認めたためクッシング症候群を疑い血中ACTH、コルチゾールを測定したところいずれも著明に高値であった。原疾患の進行に伴って検査所見の増悪がみられたため臨床的に異所性ACTH症候群と診断された。インスリン治療およびスピロノラクトン、カリウム製剤内服にて血糖および血清カリウムの管理を行い退院したが間もなく原疾患の進行により死亡した。

クリニカルパール:小細胞肺がんの進行に伴い糖代謝異常や電解質異常が顕在化する場合は異所性ACTH症候群を疑う必要がある。

1. 名和田新, 他. 副腎ホルモン産生異常症の全国疫学調査 厚生省特定疾患内分泌系疾患調査研究班「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会, 平成10年度研究報告書. 1999: 11-55.

2. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 間脳下垂体機能障害に関する調査研究班. 平成21年度 総括・分担研究報告書「クッシング病の診断の手引き(平成21年度改訂)」. 2010. [PDF]

3. Isidori AM, et al. The ectopic adrenocorticotropin syndrome: clinical features, diagnosis, management and long-term follow-up. J Clin Endocrinol Metab 2006; 91(2): 371-7. [PubMed]

4. 平田結喜緒. 異所性ホルモン産生腫瘍の診断・治療, 異所性ACTH産生腫瘍. 日本臨牀2011; 69巻増刊2 内分泌腺腫瘍: 700-5. [PubMed]

5. Biller BM, et al. Treatment of adrenocorticotropin-dependent Cushing’s syndrome: a consensus statement. J Clin Endocrinol Metab 2008; 93(7): 2454-62. [PubMed]

6. 谷祐至, 平田結喜緒. クッシング症候群の薬物療法の現状, ホルモンと臨床 2008; 56(11): 1157-60.

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