A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.がん患者における静脈血栓塞栓症の治療
文献

1.疫学

1)悪性腫瘍と凝固能亢進

がん患者では凝固能が亢進している。この原因としては、様々な要因の相互作用が考えられている。たとえば、がん細胞はトロンビン産生を促進させ、凝固能を亢進させる働きがある。さらに、臥床や感染症、手術や薬剤も、がん患者における血栓塞栓症発症の修飾因子として関与している[1]その他外部からの圧迫や脈管浸潤により静脈血栓症が引き起こされる可能性がある。

血栓塞栓症の程度としては、症状がなく検査異常にとどまるものから肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)に代表される致死的な血栓塞栓症に至るまで幅広い[2, 3]。血栓症は悪性腫瘍の診断から月〜年単位で先行して生じることがあり、以下の病態をとりうる[4]。

・特発性の深部静脈血栓症やその他の静脈血栓症

・播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)

・血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)

・遊走性表層性血栓性静脈炎(トルソー症候群: Trousseau syndrome)

・非細菌性血栓性心内膜炎(衰弱性心内膜炎: marantic endocarditis)

・動脈塞栓症

2)がん患者における血栓塞栓症の発症頻度

がん患者における血栓塞栓症の発症頻度は約11%と報告されており、悪性腫瘍と診断された患者では死因の第2位にあげられる[5, 6]。がんの原発部位ごとの静脈血栓塞栓症の発症割合を表1に示す[7]。

悪性腫瘍の状態によっては、血管外からの圧迫や脈管浸潤による静脈血栓症を発症する。たとえば、腎細胞がんは5-9%で下大静脈へ浸潤する[8]。また、肝細胞がんは肝静脈を圧迫あるいは肝静脈に浸潤し、巨大な縦隔腫瘍や腋窩リンパ節腫大は上肢の静脈血栓症を引き起こす。

悪性腫瘍と血栓症の関係性について、1988年から1990年までの800万人以上の米国メディケアの記録を用いて調査が行われている[9]。

・初回入院時に深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)または肺血栓塞栓症(PTE)と診断された患者における、がん合併割合は0.60%であり、非がん患者(0.57%)を上回っていた。

・初回入院から半年以内にDVTの再発、PTEを発症した割合は、がん患者22%に対して、非がん患者が6.5%であった。

・DVT、PTEによる入院から半年以内に死亡する割合は、がん合併例で94%、非がん例では29%であった。

3)がん患者における血栓塞栓症のリスク因子と予測因子

がん患者における静脈血栓塞栓症のリスク因子を表2に整理する[10]。

急性の静脈血栓症を発症したがん患者257人を対象とした多変量解析の結果、血栓塞栓症の予測因子として、以下の項目が抽出された[11]。

・集中治療室への30日以内の入院(OR=7.02; 95CI 2.38-20.64)

・先行する深部静脈血栓症(OR=3.48; 95CI 2.14-5.64)

・30日以内の手術(OR=2.43; 95CI 1.19-4.99)

・3日を超える臥床(OR=2.02; 95CI 1.08-3.78)

・外来通院(OR=0.38; 95CI 0.19-0.76)

2.診断

本節では、静脈血栓症の診断と治療について詳細に解説する。血栓性微小血栓塞栓症、動脈塞栓症、トルソー症候群、非細菌性血栓性心内膜炎は、まれな病態であるため、本節では概要の解説にとどめる。(DICについては本章「2.播種性血管内凝固」を参照。)

1)静脈血栓症

(1)静脈血栓症の臨床像はどのようなものか

深部静脈血栓症(DVT)患者に最も認められる症状として、下肢の疼痛と腫脹が代表的であるが、限局した静脈血栓や、不完全閉塞、側副路が存在する場合には症状は現れにくく、DVT全体の3分の2以上が無症候性である。また、臥床によって生じたDVTは浮遊血栓になりやすく、下肢の腫脹をきたしにくい原因と考えられている。

さらに、静脈血栓が肺血管床を閉塞すると肺血栓塞栓症(PTE)を発症する。一般的に、浮遊血栓は遊離してPTEを発症しやすい。PTEの臨床像も、無症状から突然死に至る重症例まで様々である。この理由としては、血栓が溶解されることで病態が変化すること、治癒過程においても血栓塞栓症が再発するなど複数の病期が混在すること、閉塞する血管床のサイズに幅があること、心肺機能を低下させる基礎疾患の存在によって重症度が大きく異なること、などの多くの要因が考えられる[12]。

(2)静脈血栓症の診断はどのように行うか

National Comprehesive Cancer Network(NCCN)ガイドライン(2012年)は、一般的にDVTの診断に用いられているWells prediction rule(DVT用の臨床予測ルール:表3)[13]について、その作成プロセスには少数のがん患者しかかかわっていないことから、このルールをがん患者に適応できるかは不明としている[14]。さらに、Wells prediction ruleの低リスク群においてDVTの除外診断に用いられる高感度D-dimer検査(注)についても、がん患者ではD-dimer検査の偽陽性が3倍も非がん患者よりも増加することから、DVTやPTEの除外診断に用いることはすすめられていない[14]。

[注]高感度D-dimer:D-dimerは、通常ラテックス凝集法、あるいはELISA法により測定される。静脈血栓塞栓症の除外診断を行うために用いられる高感度D-dimerとは、ELISA法を意味する[15]。

具体的なDVTの診断方法としては、臨床的にDVTが疑わしい患者に対して、超音波検査(duplex venous ultrasonography)が推奨されている[14]。duplex venous ultrasonographyとは、静脈圧迫(注)とドップラーイメージを複合させた超音波検査である。臨床的にはDVTを強く疑われるが、超音波検査が陰性の場合は造影CT、MRI、静脈造影などを用いる[14]。

[注]圧迫エコー(compression ultrasound):圧迫によっても静脈が圧縮されない場合(lack of compressibility)の近位DVTに対する感度は93.8%、特異度は97.8%、遠位部DVTに対する感度が56.8%、圧迫エコー・カラードップラーの併用は近位DVTに対する感度は92.1%、特異度は94.0%、遠位部DVTに対する感度は71.2%と報告されている[16]。(ただし、これらの感度・特異度は、がん患者の血栓症に対するデータではない。)

肺血栓塞栓症(PTE)に関しても、いくつかの臨床予測ルールが存在する[17]。PTEの臨床予測ルールには、Wells clinical decision rule(表4)[18]、revised Geneva score[19]、Pulmonary Embolism Rule-Out Criteria(PERC)[20]等がある。

臨床的にPTEが疑われる場合、NCCNガイドラインは禁忌がない限り、診断方法として造影CT検査を推奨している[14]。その他には、換気血流シンチグラフィを造影CTが実施できない場合の代替検査として考慮する。

(3)すべての悪性腫瘍患者にDVTの検索を行うべきか

すべてのがん入院患者には静脈血栓塞栓症が併存している可能性を考慮して問診、診察、血液検査(CBC、PT、aPTT、クレアチニン)の精査を行うべきである。そして、静脈血栓塞栓症の可能性が疑われれば超音波検査などの追加検査を行う。

静脈血栓塞栓症が疑われない状況においても、出血や抗凝固療法の禁忌がない場合には、すべてのがん入院患者に対して抗凝固薬の予防投与が推奨されている[10, 14]。この根拠として、以下のような高いDVTの併存割合と、予防的投与の有効性を示す数多くの研究結果が紹介されている。

・がん入院患者は、静脈血栓症の併存割合が0.6-18%[10]。

・がん入院患者に対して予防投与を行った二重盲検ランダム化比較介入試験の結果、低分子ヘパリン、ダルテパリン、fondaparinuxを用いて予防的に抗凝固療法を実施した群において、静脈血栓塞栓症が有意に減少した[21, 22, 23]。

(4)静脈血栓症が検出された際、潜在的な悪性腫瘍検索をどの程度行うか

「がんと診断されていない患者が静脈血栓症を発症した場合、どこまで積極的に悪性腫瘍の検索を行うか」という問題について、費用効果を検討した先行研究はない。そのため、再発性のDVT患者を除いて、DVT患者全員に対して潜在的な悪性腫瘍を積極的に検索する正当性は低いと考えられる[24]。したがって、DVT患者を診察する際には、まず注意深い病歴聴取、身体診察(直腸診、便潜血検査、内診を含む)、ルーチン検査(血算、生化学、電解質、カルシウム、クレアチニン、肝機能検査、尿検査、胸部X線、50歳以上の男性であればPSA検査)を行い、異常が認められた場合にのみ、積極的な悪性腫瘍検索を行うことが推奨されている[24]。

2)血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)

血栓性微小血管症(TMA)は、微小血管溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA)、血小板減少、破砕赤血球、微小血管の塞栓、そして急性腎障害をはじめとする様々な臓器合併症を特徴とする疾患である。TMAとしては、病理的には類似疾患と考えられている血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)と溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)の2つが有名である[25]。また、マイトマイシンC、シスプラチン単剤、シスプラチン+ブレオマイシンまたはゲムシダビン併用、造血幹細胞移植に先行して行われる放射線照射と大量化学療法もTMAの原因となりうる[26]。

TMAは、異常に大きなvon Willebrand因子の多量体が蓄積することで血管内皮細胞障害や血小板の活性化が生じ、血小板が直接消費されることによって引き起こされると考えられている[27]。

TTPの明確な診断基準は存在しない。TTPに特徴的な検査所見としては、微小血管性溶血性貧血(貧血、網赤血球の増加、ハプトグロビンの低下、LDHの上昇、間接ビリルビンの増加)の存在、破砕赤血球の出現、血小板減少、Coombsテスト陰性がある[27]。TMAの発症機序は播種性血管内凝固(DIC)における凝固系の活性化とは異なり、凝固因子活性は正常でありPTやaPTTが延長することは少ない[24]。von Willebrand factor cleaving protease(ADAMTS13)活性は、現在のところTTPの初期診断には用いられないが、インヒビターが存在しない状況下でADAMTS13活性の低下が認められるケースでは、血漿交換による治療効果が期待できる[28]。

HUSの診断基準は、Htが30%未満かつ末梢血スメアで破砕赤血球が認められる溶血性貧血の存在、血小板が15万/μL未満、血清クレアチニン値が年齢を考慮した上限値を上回る、敗血症等の他に過凝固となる原因疾患がないことである[29]。

TTPに類似したTMAとしては、播種性で、多くは潜在的なムチン産生型の腺癌(乳房、消化管、膵、肺、前立腺がん)の症例が報告されている。がんに起因したTMAでは神経学的異常(頭痛や意識障害、麻痺)は生じるものの、腎不全の頻度が一般的に低い。この病態は転移性腫瘍の6%程度に生じるとされている。TTPとの違いは、ADAMTS13の値が正常、血漿交換の効果が乏しいことである[30]。このタイプのTMAの予後は不良で、背景にある悪性腫瘍がコントロールできなければ、診断後、数日から数週以内に死亡する。

3)動脈血栓症

がん患者における動脈血栓症は、静脈血栓症より頻度は低い。過去の報告では、がん患者の1.5-5.2%に発症していた[31]。多くは非感染性心内膜炎(非細菌性血栓性心内膜炎;後述)に起因するが、DVTから右-左シャントを介して発症する奇異性の脳梗塞も含まれる[32]。中枢神経や四肢に生じる動脈血栓症については、本態性血小板血症や真性多血症などの骨髄増殖性疾患との関連性も報告されている[33]。

4)トルソー症候群(Trousseau syndrome)

トルソー症候群とは、遊走性表層性血栓性静脈炎(migratory superficial thrombophlebitis)とも呼ばれる、主として腕や胸部といったふだんみられない部位の表層静脈に生じる、再発性で遊走する特徴をもつ、まれな静脈血栓症である。その多くは、血栓症の発症時には診断されていない潜在的な腫瘍が関与しており、腫瘍の大部分は腺癌(膵がん、肺がん、前立腺がん、胃がん、大腸がん)である[4]。腺癌によって産生されるムチンが白血球や血小板産生を再活性化させることで、本症を発症する可能性が指摘されている。本症は難治性で、ヘパリンは症状を改善させうるが、ワルファリンは無効と考えられている[34]。

5)非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis: NBTE)

衰弱性心内膜炎(marantic endocarditis)、Libman-Sacks endocarditisとも呼ばれる。進行がん患者において、弁(多くは大動脈弁、僧帽弁)に顕微鏡的な血小板凝集が生じるものから巨大疣贅をきたすものまで、その程度は幅広い。主要な臨床症状としては、弁の機能不全よりも全身に生じる塞栓症(中枢神経系や冠動脈、脾臓、腎臓、四肢)の頻度が高い[35]。NBTEの発症機序は不明だが、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)やインターロイキン1(interleukin-1: IL-1)によって血管内皮が傷害され、血小板凝集が生じることが原因ではないかと考えられている。

1.がん患者における静脈血栓塞栓症の治療

がん患者における血栓塞栓症の治療に関しては、American Society of Clinical Oncology(ASCO)ガイドライン(2007年)[10]、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン(2012年)[14]等の診療ガイドラインが策定されている。以下に整理した各治療方針については、主にNCCNガイドライン2012. Ver. 1を参照した。詳細に関しては同ガイドラインを参照していただきたい。

1)予防的投与

(1)がん入院患者に対する予防的抗凝固薬投与

静脈血栓塞栓症が認められない場合でも、出血や抗凝固療法の禁忌(注)がない場合には抗凝固薬の予防投与が推奨されている[10, 14]。退院後も、外科的切除を受けた患者であれば、術後4週間は抗凝固療法の継続が望ましい。また、内科的治療を受ける患者についても高リスク(表2)と考えられる場合は、抗凝固療法を継続する[14]。

[注]抗凝固療法の禁忌事項[14]

《1》絶対禁忌

・最近生じた中枢神経系の出血、頭蓋内や脊髄における出血のハイリスク状態

・活動性出血(24時間以内に2単位以上の輸血を必要とした出血)

・脊椎麻酔/腰椎穿刺

《2》相対禁忌

・慢性的で、臨床的に有意で確認可能な48時間以上の出血

・血小板減少(血小板数 <5万/μL)

・重篤な血小板機能障害(尿毒症、薬物、dysplastic hematopoiesis)

・併存する出血素因

凝固因子異常(例:重症肝疾患)

PT、またはaPTTの上昇(ループスインヒビターを除く)

・転倒(頭部外傷)のハイリスク状態

低分子ヘパリン✚✚✚

・dalteparin 5000単位 皮下注 1日1回

・enoxaparin 40 mg 皮下注 1日1回

・tinzaparin 4500単位または75単位/kg皮下注 1日1回(日本の保険適用はない)

fondaparinux 2.5 mg 皮下注 1日1回 ✚✚✚

未分化ヘパリン 5000単位 皮下注 1日3回 ✚✚✚

(2)がん外来患者に対する予防的投与

がん外来患者全員への抗凝固薬予防投与(routine prophylaxis)は推奨されない。ただし、サリドマイド、レナリドミドを化学療法または高用量デキサメタゾン(>480 mg/月)と併用されている場合は血栓症のリスクが高まるため、予防投与を考慮する[10, 14]。

低分子ヘパリン

(入院患者に対する投与法を参照) ✚✚✚

warfarin 2-5 mg 内服 1日1回 (注1)

(目標INR値2.0-3.0)(注2) ✚✚✚

[注1]ワルファリンは、2-5 mg/日から開始して目標INRに到達するまで3日毎にINRを測定して調整する。筆者の経験上、2-3 mgから開始することが一般的であるが、warfarin sensitivityを考慮して初期投与量を検討する必要がある[36]。

warfarin sensitivity:投与前のINRが1.5以上、65歳以上、体重45 kg未満、絶食が3日を超える、低アルブミン血症(2 g/dL未満)、慢性下痢、相互作用のある薬物投与、心不全ではワルファリンの効果が出やすいため、より少量から開始することが望ましい。また、血栓症の患者にワルファリンを開始する場合は、ヘパリン等と最低5日間は重複して投与する。

[注2]日本人では目標INR 2.0(1.5-2.5)が推奨される[37]。

aspirin 81-325 mg 内服 1日1回 (低悪性度の多発性骨髄腫のみ)
✚✚✚

2)治療的投与

(1)静脈血栓塞栓症に対する治療的抗凝固療法

原則としては、抗凝固療法としては経口抗凝固薬よりも低分子ヘパリンの投与が推奨されている。しかしながら、毎日の皮下注射を回避するほうが患者によっては価値があるなど経口抗凝固薬が推奨される状況もあるため、個々の患者に応じた対応が求められる[10, 14]。

がん患者の深部静脈血栓症(DVT)に対する妥当な治療期間としては、低分子ヘパリンを用いて抗凝固療法を開始し、最低3か月間は抗凝固治療を継続することが推奨される[14]。抗凝固療法を中止すると、がん患者の静脈血栓塞栓症の再発リスクは許容し難いくらい高くなることから、低分子ヘパリンまたはワルファリンの投与を無期限に継続する、あるいはがんが治癒するまで継続することが推奨される。カテーテルに関連した血栓症の場合、カテーテルが体内に残存する限り、抗凝固療法は継続する。カテーテルが抜去された場合でも、最低3か月間は抗凝固療法を継続する。

(1)診断時または検査中の静脈血栓塞栓症

低分子ヘパリン(強く推奨) ✚✚✚

・dalteparin 200単位/kg 皮下注 1日1回

・dalteparin 100単位/kg 皮下注 12時間毎

・enoxaparin 1.5 mg/kg 皮下注 1日1回

・enoxaparin 1.0 mg/kg 皮下注 12時間毎

・ tinzaparin 175単位/kg 皮下注 1日1回(日本の保険適用はない)

・fondaparinux 5 mg[<50 kg];7.5 mg[50-100 kg];
10 mg[>100 kg] 皮下投与 1日1回

未分化ヘパリン 80単位/kg ボーラス静注、以降18単位/kg/時間、目標aPTTをコントロールに対して2.0-2.5に設定 ✚✚✚

(2)慢性期への移行

低分子ヘパリン(強く推奨) ✚✚✚

・dalteparin 200単位/kg 皮下注 1日1回

・dalteparin 100単位/kg 皮下注 12時間毎

・enoxaparin 1.5 mg/kg 皮下注 1日1回

・enoxaparin 1.0 mg/kg 皮下注 12時間毎

・ tinzaparin 175単位/kg 皮下注 1日1回(日本の保険適用はない)

warfarin 1日量2-5 mgで開始し、INR値に応じて用量調節。目標INR値2.0-3.0 ✚✚✚

※前項「1)予防的投与」のwarfarinの項目の注1、2を参照。

[ポイント]低分子ヘパリンか、ワルファリンか

急性期に未分化ヘパリンやXa因子阻害薬が投与されているなら、慢性期への移行を考慮して低分子ヘパリンかワルファリンに移行する。なお、近位部のDVTや肺血栓塞栓症(PTE)の患者、進行がん患者の再発性静脈血栓塞栓症の予防に対しては、ワルファリンよりも低分子ヘパリン単剤治療の有効性が高いことが証明されている[38]。

・6か月間のダルテパリン(1か月は200 IU/kg/日、以降150 IU/kg/日)投与とワルファリン(目標INR 2.0-3.0)を、672人の有症状の静脈血栓塞栓症の患者を比較したところ、ダルテパリン治療群では6か月間の静脈血栓塞栓症累積発症が統計学的有意差をもって減少した(9% vs. 17%、HR=0.48; 95CI 0.30-0.77)。

・この低分子ヘパリン投与法では、血液凝固系検査のモニタリングは必要とされていない[14]。

(2)抗凝固療法以外の治療:下大静脈フィルター留置

抗凝固療法が禁忌である場合、近位DVTが認められるがん患者に対して、PTEの予防を目的として下大静脈フィルターを留置する。その他の下大静脈フィルターの適応としては、適切な抗凝固療法を行っているなかでのPTEの発症、抗凝固療法のコンプライアンス不良、PTE増悪によって致命的となりうる心肺機能障害がある場合に留置を考慮する[14]。

3)継続的な状況評価の必要性

個々の患者において、現在行っている抗凝固療法のリスクとベネフィットを頻繁に再評価して、QOLや予後を含めた患者の全体像を考慮する姿勢が求められる。

たとえば、化学療法中の骨髄抑制によって血小板が5万/μLを下回ることが予想される場合は、抗凝固療法の一時中断が必要になるかもしれない。抗凝固療法の継続が困難な状況であれば、下大動脈フィルター留置も考慮するべきであろう。

また、抗凝固療法を行わない判断材料としては、患者が抗凝固療法を拒むケースや、生命予後が限られているなど、抗凝固療法によって得られる利益が乏しいケース、皮下注射による疼痛が強いことや頻回のモニタリングによる負担が大きなケースなどがあげられる[14]。

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