A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.予防
2.予防法施行後のTLSモニタリング
3.発症したTLSに対する治療
文献

1.疫学

腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome: TLS)は、急速に増殖し、化学療法に感受性が高く、腫瘍量の多い腫瘍の治療に伴って起こりやすい、オンコロジック・エマージェンシーのひとつである。腫瘍崩壊に伴って、大量のカリウムやリン、核酸が血液中に放出されることが原因となり、腎尿細管に尿酸やリン酸カルシウムが沈着することによって急性腎不全を引き起こす。

腫瘍崩壊症候群は高悪性度リンパ腫(特にバーキットリンパ腫)や急性リンパ球性白血病の化学療法開始後に起こりやすいことが知られているが、治療開始前であっても、また他のタイプの腫瘍であっても起こりうる。

腫瘍崩壊症候群に対するマネジメントとしては、大量補液と尿酸値を低下させる作用をもつラスブリカーゼ(rasburicase: 遺伝子組み換え型尿酸酸化酵素)やアロプリノール(allopurinol)の使用からなる発症予防が最も重要である。

2.診断

Cairo-Bishopの診断基準は腫瘍の診断時または治療後7日以内に出現したTLSの重症度判定も可能な診断基準で、laboratory TLS(表1)とclinical TLS(表2)に分類される[1]。

laboratory TLSは、化学療法施行前3日前から7日後の期間に、適切な補液と尿酸値を低下させる薬剤が使用された状態で、表1の検査値異常を2項目以上満たした場合である。

clinical TLSは、laboratory TLSの定義を満たし、使用薬剤による薬物有害事象に起因するものではないと考えられる、以下の項目が1つ以上出現した場合と定義される。

・血清クレアチニン値上昇(正常上限の1.5倍以上)

・不整脈/突然死

・けいれん

また、clinical TLSの重症度は、表2のようにグレーディングされる。

がんの化学療法時の有害事象の評価に最も汎用される、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(NCI-CTCAE)v4.03によるTLSのグレーディングはGrade 3(TLS出現)、Grade 4(致死的な状況;緊急処置が必要)、Grade 5(死亡)のみであり[2]、Cairo-Bishopの診断基準のほうが、TLSのグレーディングに関して、臨床上有用である。

1.予防

clinical TLSが発症してしまうと致死的になりうることも考慮すると、TLS発症のリスクを予想し、適切な予防を行うことが重要である[3]。

TLSのリスク分類は表3に示したとおりである。

具体的な予防法、薬剤の使用法は以下の項に述べるが、予防法はリスク別に以下のように大別される[4]。

・低リスク群:補液±アロプリノール

・中リスク群:補液+アロプリノール

ただし、化学療法前の尿酸値が7.5 mg/dL以上であれば、アロプリノールよりもラスブリカーゼがすすめられる。

・高リスク群:補液+ラスブリカーゼ

日常臨床上、TLS予防におけるエビデンスはないものの、新規キサンチンオキシダーゼ阻害薬であり、腎機能低下例にも使用しやすい、フェブキソスタット(febuxostat)がアロプリノールに代わって使用されることもある。

1)補液 ✚✚✚

5%デキストロース1/4生理食塩水 2-3L/m2/日(体重10 kg以下の幼児には200 mL/kg/日) 点滴

80-100 mL/m2/時(体重10kg以下の幼児には4-6 mL/kg/時)の尿量確保

TLS予防の大量補液は、中リスク群と高リスク群のすべての患者の治療前に推奨されている[3]。これは、大量の尿量を確保して、尿細管への尿酸の沈着を最低限に抑えるためである。2008 International Expert Panelによると、小児、成人とも2-3L/m2/日(体重10 kg以下の幼児には200 mL/kg/日)の点滴と80-100 mL/m2/時(体重10 kg以下の幼児には4-6 mL/kg/時)の尿量確保が必要とされている。利尿薬は尿量確保するために使用してもよいが、正常の腎機能、心機能の患者にルーチンで使用すべきではない。補液の種類は患者の状態に応じて選択すべきであるが、開始液としては5%デキストロース 1/4生理食塩水がすすめられている[3]。しかし、低ナトリウム血症や血管内脱水のある患者に対しては生理食塩水または細胞外液がよい。

2)尿のアルカリ化 ✚

acetazolamideやsodium bicarbonateを用いた尿のアルカリ化の意義は明らかではなく、確立されていない。

過去には、尿酸をより溶解しやすい尿酸ナトリウムに変化させ、尿細管への沈着を防ぐという目的で尿のpHを6.5から7.0以上にアルカリ化することがすすめられた。

しかし、このアプローチの有効性を示すデータは存在せず、生理食塩水による補液が尿酸の沈着を防ぐアルカリ化として有効であったという実験結果がある[5]。また、いったん腫瘍崩壊が始まってしまうと、高リン血症が存在する場合においては、尿のアルカリ化はかえってリン酸カルシウムの腎臓、心臓や他の臓器への沈着を促進するともいわれている。そこで、現在は、sodium bicarbonateの点滴は、代謝性アシドーシスが存在しなければ使用しないことがすすめられている[1]。特に、ラスブリカーゼを使用する際には、その薬剤機序を考えても、尿をアルカリ化する必要はない(注)。

[注]ただし、日本の白血病や悪性リンパ腫の臨床研究グループのプロトコールにも、「腫瘍崩壊症候群予防のために尿をアルカリ化する」という文言があるように、日常臨床上は、化学療法の際の維持輸液にsodium bicarbonateを混注していたり、尿pHチェックを定期的に施行していたりする施設も多いものと思われる。

3)アロプリノール ✚✚✚

allopurinol 200-300 mg/日 分2または分3

アロプリノールはキサンチン酸化酵素を完全に抑制するヒポキサンチンアナログで、ヒポキサンチンとキサンチンが尿酸に代謝されるのをブロックし、尿酸値を低下させる働きがある[6](図1)が、次のような弱点もある。

(1)既に存在する高尿酸血症に関しては効果がない。そこで、既に尿酸値7.5 mg/dLを超えるような高尿酸血症のある患者の尿酸値を低下させるにはラスブリカーゼのほうがすすめられる。

(2)ヒポキサンチンやキサンチン濃度を上昇させるので、キサンチン結晶が腎尿細管に蓄積して急性腎不全を引き起こす可能性がある。

(3)アロプリノールは他のプリン分解も抑制するので、6-MPやアザチオプリンと併用するときには65-75%の減量が必要である[7, 8]。また、シクロホスファミド、メトトレキサート、アンピシリン、サイアザイド系利尿薬など、他のたくさんの薬剤と相互作用をもつので、注意が必要である。

通常、化学療法開始24-48時間前から、血清尿酸値や他のTLSに関連する検査項目が正常化するまで、約3-7日間使用される。成人では1日200-300 mgを2ないし3回に分服する。腎機能障害がある症例では減量すべきである(Ccr 10-50 mL/分では50-100 mg/日 分1、Ccr 10 mL/分以下では 50 mg/日 分1に減量)[9]。

4)ラスブリカーゼ ✚✚✚

rasburicase 0.2 mg/kgを生理食塩水50 mLに希釈して化学療法開始前24時間から4時間前までの間に1日1回30分以上かけて点滴

(最大7日間使用できる)

ヒトは持っていないが、多くのほ乳類が持っている尿酸酸化酵素である。これを導入することで、速やかに尿酸を水溶性のアラントインに分解することができ、既に存在する高尿酸血症に対しても効果を示す(図1)。

小児高悪性度リンパ腫や白血病を対象としたランダム化比較試験[10]でも、成人におけるTLS発症リスクの高い血液腫瘍患者を対象としたランダム化比較試験[11]でも、アロプリノール群に比較してラスブリカーゼ治療群の有効性が高いことが示されている。

注意点として、G6PD欠損などの赤血球酵素異常症の患者には溶血性貧血が発症するおそれがあるので投与禁忌であり、また、過去の投与によって中和抗体が産生された報告や、再投与にて重篤なアレルギー症状が発現したという報告があり、過去にラスブリカーゼを投与された既往のある患者への再投与も慎重投与となっている。

具体的な使用法としては、化学療法開始前24時間から4時間前までの間に、ラスブリカーゼとして0.2 mg/kgを生理食塩水50 mLに希釈して(月齢24か月以下の患者の場合、希釈する生理食塩水は10 mLまで減らすことができる)、1日1回30分以上かけて点滴静注する。投与期間は最大7日間である。

ラスブリカーゼ投与後に血清尿酸値をモニタリングする場合には血液検体をあらかじめ冷却した試験管に入れ、速やかに氷浴などで低温状態にしたうえで4時間以内に測定しないと、採血後も本剤が尿酸を分解し、見かけ上、尿酸値が低値と出ることがあり、要注意である。

2.予防法施行後のTLSモニタリング

TLS高リスク群において、尿酸値、血清リン、カリウム、クレアチニン、カルシウム、LDHなど、TLSに関連する検査項目や水分のin-outバランスのモニタリングは、化学療法開始後4-6時間毎に施行するべきである[1]。TLS中リスク群においても、化学療法終了後24時間は適切にモニターされるべきである。多剤併用化学療法開始後、72時間以内にTLSが発症しなければ、その後にTLSが発症するリスクは非常に少ない。

3.発症したTLSに対する治療

ラスブリカーゼが導入されてからTLS高リスクの血液腫瘍の寛解導入療法時に血液透析が必要となる確率は低下してきている。しかし、TLSに対する適切な予防を施行し、ラスブリカーゼも使用したにもかかわらず、小児の1.5%、成人の5%の寛解導入療法施行症例が血液透析を必要としたというデータもある[12]。また、非ホジキンリンパ腫や急性白血病患者においては、化学療法前に既に自然にTLSの状態となっている場合もある。

発症したTLSに対する治療としては、各種電解質異常や急性腎不全に対する特異的な治療や、それ以前に使用していなければラスブリカーゼの使用、ループ利尿薬や補液で尿酸結晶を洗い流すこと、必要があれば血液透析を適切に行うことである。

以下のような臨床所見を認めたら、血液透析の適応の可能性があるので、腎臓内科医にコンサルトする。

・乏尿

・持続する高リン血症

・持続する高尿酸血症

・持続する低カルシウム血症

1. Cairo MS, Bishop M. Tumour lysis syndrome: new therapeutic strategies and classification. Br J Haematol 2004; 127(1): 3-11. [PubMed]

2. National Cancer Institute. Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0: available online at http://evs.nci.nih.gov/ftp1/CTCAE/CTCAE_4.03_2010-06-14_QuickReference_5x7.pdf (Accessed on April 27, 2011). [PDF]

3. Coiffier B, et al. Guidelines for the management of pediatric and adult tumor lysis syndrome: an evidence-based review. J Clin Oncol 2008; 26(16): 2767-78. [PubMed]

4. Cairo MS, et al. Recommendations for the evaluation of risk and prophylaxis of tumour lysis syndrome (TLS) in adults and children with malignant diseases: an expert TLS panel consensus. Br J Haematol 2010; 149(4): 578-86. [PubMed]

5. Conger JD, Falk SA. Intrarenal dynamics in the pathogenesis and prevention of acute urate nephropathy. J Clin Invest 1977; 59(5): 786-93. [PubMed]

6. Krakoff IH, Meyer RL. Prevention of hyperuricemia in leukemia and lymphoma: use of allopurinol, a xanthine oxidase inhibitor. JAMA 1965; 193: 1-6. [PubMed]

7. McLeod HL. Clinically relevant drug-drug interactions in oncology. Br J Clin Pharmacol 1998; 45(6): 539-44. [PubMed]

8. Keuzenkamp-Jansen CW, et al. Metabolism of intravenously administered high-dose 6-mercaptopurine with and without allopurinol treatment in patients with non-Hodgkin lymphoma. J Pediatr Hematol Oncol 1996; 18(2): 145-50. [PubMed]

9. 日本腎臓学会編. CKD診療ガイド2009. 東京医学社. 2009.

10. Goldman SC, et al. A randomized comparison between rasburicase and allopurinol in children with lymphoma or leukemia at high risk for tumor lysis. Blood 2001; 97(10): 2998-3003. [PubMed]

11. Cortes J, et al. Control of plasma uric acid in adults at risk for tumor lysis syndrome: efficacy and safety of rasburicase alone and rasburicase followed by allopurinol compared with allopurinol alone--results of a multicenter phase III study. J Clin Oncol 2010; 28(27): 4207-13. [PubMed]

12. Jeha S, et al. Efficacy and safety of rasburicase, a recombinant urate oxidase (Elitek), in the management of malignancy-associated hyperuricemia in pediatric and adult patients: final results of a multicenter compassionate use trial. Leukemia 2005; 19(1): 34-8. [PubMed]