A 疫学・診断
1.疫学・予後
2.診断
3.病期分類(ステージング)(AJCC/UICC第7版、2009)
B 治療
1.手術療法
2.放射線化学療法
3.放射線化学療法前のinduction chemotherapy、放射線化学療法後の補助化学療法
4.フォローアップ・治療効果判定
5.放射線化学療法局所抵抗性・局所再発肛門がん
6.転移肛門がんに対する全身化学療法
文献

1.疫学・予後

肛門がんはまれながんである。日本での年間死亡者数は400人未満で全がん死の0.1%にすぎない[103]。肛門がんの頻度は最近30年で上昇している[104, 105]。罹患数の上昇はヒトパピローマウイルス(human papilloma virus: HPV)感染、複数のセックスパートナー、尖圭コンジローマ、喫煙、アナルセックス、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus: HIV)感染と関連している。

2.診断

1)症状

肛門からの出血が最も頻度が高く、肛門痛、肛門部の腫瘤が頻度の高い主訴である。患者が痔と自己判断してしまうことが少なくない。

2)診断

肛門がんは疫学的背景が子宮頸がんと似ている点や前がん状態が存在することから、一部のエキスパートから子宮頸がん検診のようながん検診を肛門がんでハイリスク群に行うということがすすめられているが、はっきりとした利益が示されているわけではない。肛門がんは体表に近いため、直腸診と肛門鏡による直接観察と生検によって診断が下される。

3)病理組織分類

代表的な病理組織は扁平上皮癌であり、多くの文献では「肛門がん=扁平上皮癌」である。肛門管内の線組織由来の腺癌、小細胞癌、肉腫なども起こるがまれである。

3.病期分類(ステージング)(AJCC/UICC第7版、2009)

American Joint Committee on Cancer(AJCC)とInternational Union Against Cancer(UICC)が共同で作成したTNM分類を使用する[106]。症状が出現しやすいため比較的早期がんでみつかることが多く、診断時に遠隔転移があることはまれである。センチネルリンパ節が鼠径リンパ節にあたり、リンパ節転移によって放射線療法の追加照射(boost)の必要性が変わるため正確なNステージングはきわめて重要である。身体所見、CT、MRIでリンパ節転移を見落とす可能性があることがわかっており、PET/CTによるステージングが検討されその他の検査で見落とされるリンパ節転移を検出することができるというデータが複数出ている[107, 108]。

1)TNM分類

2)病期分類

1.手術療法

かつては腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection: APR)が行われていたが人工肛門が必要になることや、後述する臨床試験において放射線化学療法の良好な成績がわかるにつれて手術を行うことは減少し、現在手術は放射線化学療法後に再発した症例に適応するのが通常である。

2.放射線化学療法

1970年代にWayne State UniversityのNigroらがフルオロウラシル+マイトマイシンCの化学療法+放射線治療を行うことによって高い病理学的完全奏効(pCR)が得られ手術を回避できる可能性を示し、このWayne State regimen(もしくはNigro regimen)をベースとした治療が今でも標準療法と考えられている。

副作用を減らすために化学療法なしで放射線療法のみやマイトマイシンC抜きの放射線化学療法も試されたが、いずれも局所再発の明らかな悪化がランダム化比較試験で認められた[109, 110, 111, 112]。肛門がんでは局所再発により人工肛門造設が必要となりQOLを明らかに落とすため、全生存期間で差がなくても臨床上差があるとみなされる。マイトマイシンCの代わりにシスプラチンを用いることで効果は維持しながら血液毒性などの副作用を減らすという試みもされた。しかしRTOG 98-11では標準治療であるフルオロウラシル+マイトマイシンCがフルオロウラシル+シスプラチン+放射線療法と比較され無病生存期間、全生存期間にてフルオロウラシル+マイトマイシンCが優れていることが示された[113]。もう一つのランダム化比較試験であるACT IIは、フルオロウラシル+シスプラチンはフルオロウラシル+マイトマイシンCに対して劣らないことがASCO 2009にて発表されているが最終解析の結果は出されていない[114]。持続点滴フルオロウラシルをカペシタビン、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(S-1)、テガフール・ウラシル(UFT)のような経口フルオロピリミジン製剤で代用することで簡便性を高めることが可能であるが、直腸がんでは非劣性が示されて標準療法になっているものの肛門がんでは大規模ランダム化比較試験は今のところ存在しない。

Wayne State regimen ✚✚✚[113, 114]

mitomycin C 10-12 mg/m2(最大量20 mg/body) day1,29

fluorouracil 1000 mg/m2/日 持続点滴静注 day1-4,29-32
(4000 mg/m2/サイクル)

放射線療法 45-50.4 Gy(1.8 Gy×25-28分割) 月〜金

3.放射線化学療法前の induction chemotherapy、放射線化学療法後の補助化学療法

T3/T4やリンパ節転移のある群は再発率が高いためより強い治療を行うことによって治療効果を改善しようという試みがされている。ACCORD3では、シスプラチン+フルオロウラシルのinduction chemotherapyをシスプラチン+フルオロウラシル+放射線療法の放射線化学療法前に追加されたが改善は認められなかった[115]。RTOG98-11では、フルオロウラシル+マイトマイシンC+放射線療法と2サイクルのフルオロウラシル+シスプラチンのinduction chemotherapy+フルオロウラシル+シスプラチン+放射線療法が比較されていて、induction chemotherapyを行った群のほうが劣っていた[113]。またACT II trialでは、フルオロウラシル+マイトマイシンC vs. フルオロウラシル+シスプラチンの放射線化学療法の後の2nd randomizationとして、adjuvant chemortherapyとしてのフルオロウラシル+シスプラチンをさらに2サイクル追加する群と経過観察だけの群の比較がされている。中間解析の段階では無病生存期間、全生存期間に差はみられなかったが最終解析の結果はわかっていない[114]。以上より、ハイリスク群であっても現時点ではフルオロウラシル+マイトマイシンC+放射線療法だけが標準療法としてすすめられる。

4.フォローアップ・治療効果判定

放射線化学療法終了後すぐに治療の最大効果が得られるわけではないのはよく知られていることであり、治療終了後早期の段階で臨床的完全奏効(cCR)や病理学的完全奏効(pCR)になっていなくても経過観察するだけでよいことが大半である。ACT IIでは放射線化学療法終了後4、11、18週にて直腸診による評価がされているが、4週でcCRを得られていない例の60%は18週ではcCRになっている[116]。NCCNガイドラインでは放射線化学療法終了後8-12週で最初の評価をして、その段階でcCRが得られた症例は3-6か月ごとのフォローがすすめられている。その時点でcCRが得られなかった場合は4週後に再評価をすることを推奨している。

5.放射線化学療法局所抵抗性・局所再発肛門がん

上記のように最も重要なのは、適切な時期に検査をしているか、評価時期が早すぎることがないかである。放射線化学療法に対して抵抗性、もしくは局所再発肛門がんの標準治療は手術(APR)とされており、長期生存も可能である[117]。RTOG/ECOG studyでは放射線化学療法に対して抵抗性の患者に対してフルオロウラシル+シスプラチン+放射線療法9Gyを行うことで手術を避けるアプローチが試されているものの、手術なしで完治が得られたのは20%未満であった[112]。

6.転移肛門がんに対する全身化学療法

転移先として最も頻度が高いのが肝臓である。結腸がんと同様に、metastasectomyで可能性は低いものの長期生存が得られることがある[118]。現在まで転移肛門がんにおける大規模試験は行われていないため最適な化学療法レジメンはわかっていない。肛門がんで初診時にStage IVであることはきわめてまれであり、ファーストラインの治療としてフルオロウラシル+マイトマイシンCが使用されていることが多いため、同じレジメンを転移再発時に再使用してどれだけ効果が得られるのかははっきりしていない。そのため一般的に広く用いられているのはフルオロウラシル+シスプラチンでありNCCNガイドラインでも推奨されている[119]。

cisplatin+fluorouracil ✚[119]

fluorouracil 1000 mg/m2/日 持続点滴静注 day1-5

cisplatin 100 mg/m2 静注 day2

4週毎

103. 国立がん研究センターがん対策情報センター. がん情報サービス. 統計.

http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html

104. Johnson LG, et al. Anal cancer incidence and survival: the Surveillance, Epidemiology, and End Results experience, 1973-2000. Cancer 2004; 101(2): 281-8. [PubMed]

105. Brewster DH, Bhatti LA. Increasing incidence of squamous cell carcinoma of the anus in Scotland, 1975-2002. Br J Cancer 2006; 95(1): 87-90. [PubMed]

106. American Joint Committee on Cancer. Seventh Edition of AJCC Cancer Staging. [available from: http://www.cancerstaging.org/]

107. Cotter SE, et al. FDG-PET/CT in the evaluation of anal carcinoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2006; 65(3): 720-5. [PubMed]

108. Winton ED, et al. The impact of 18-fluorodeoxyglucose positron emission tomography on the staging, management and outcome of anal cancer. Br J Cancer 2009; 100(5): 693-700. [PubMed]

109. UKCCCR Anal Cancer Trial Working Party. Epidermoid anal cancer: results from the UKCCCR randomised trial of radiotherapy alone versus radiotherapy, 5-fluorouracil, and mitomycin. Lancet 1996; 348(9034): 1049-54. [PubMed]

110. Northover J, et al. Chemoradiation for the treatment of epidermoid anal cancer: 13-year follow-up of the first randomised UKCCCR Anal Cancer Trial (ACT I). Br J Cancer 2010; 102(7): 1123-8. [PubMed]

111. Bartelink H, et al. Concomitant radiotherapy and chemotherapy is superior to radiotherapy alone in the treatment of locally advanced anal cancer: results of a phase III randomized trial of the European Organization for Research and Treatment of Cancer Radiotherapy and Gastrointestinal Cooperative Groups. J Clin Oncol 1997; 15(5): 2040-9. [PubMed]

112. Flam M, et al. Role of mitomycin in combination with fluorouracil and radiotherapy, and of salvage chemoradiation in the definitive nonsurgical treatment of epidermoid carcinoma of the anal canal: results of a phase III randomized intergroup study. J Clin Oncol 1996; 14(9): 2527-39. [PubMed]

113. Gunderson LL, et al. Long-term update of US GI Intergroup RTOG 98-11 phase III trial for anal carcinoma: survival, relapse, and colostomy failure with concurrent chemoradiation involving fluorouracil/mitomycin versus fluorouracil/cisplatin. J Clin Oncol 2012; 30(35): 4344-51. [PubMed]

114. James R, et al. A randomized trial of chemoradiation using mitomycin or cisplatin, with or without maintenance cisplatin/5FU in squamous cell carcinoma of the anus (ACT II). ASCO Meeting Abstracts 2009; 27(18S): LBA4009.

115. Peiffert D, et al. Induction chemotherapy and cose intensification of the radiation boost in locally advanced anal canal carcinoma: final analysis of the randomized UNICANCER ACCORD 03 trial. J Clin Oncol 2012; 30(16): 1941-8. [PubMed]

116. Glynne-Jones R, et al. Optimum time to assess complete clinical response (CR) following chemoradiation (CRT) using mitomycin (MMC) or cisplatin (CisP), with or without maintenance CisP/5FU in squamous cell carcinoma of the anus: Results of ACT II. ASCO Meeting Abstracts 2012; 30(15_suppl): 4004.

117. Allal AS, et al. Effectiveness of surgical salvage therapy for patients with locally uncontrolled anal carcinoma after sphincter-conserving treatment. Cancer 1999; 86(3): 405-9. [PubMed]

118. Pawlik T, et al. Liver-directed surgery for metastatic squamous cell carcinoma to the liver: results of a multi-center analysis. Ann Surg Oncol 2007; 14(10): 2807-16. [PubMed]

119. Faivre C, et al. [5-fluorouracile and cisplatinum combination chemotherapy for metastatic squamous-cell anal cancer]. Bull Cancer 1999; 86(10): 861-5. [PubMed]