A 疫学・診断
1.疫学・予後
2.診断
3.病期分類(ステージング)(AJCC第7版、2009)
B 治療
1.限局期
2.進行期(転移・再発、腹膜播種)
文献

1.疫学・予後

1)罹患数・死亡数

日本の胃がんの罹患数は11万7320人(2007年)、死亡数は5万597人(2007年)である。

胃がんは近年、年齢調整罹患率の年次推移では減少傾向を示しているものの、50歳以上の男女ともに罹患数は上位に占めている(男性:胃>大腸>肺、女性:大腸>胃>肺)。死亡数においても、同様で年齢調整死亡率は半減しているものの、部位別で比較しても男女ともに上位を占めている(男性:肺>胃>大腸、女性:大腸>乳房>胃、昭和60年モデル人口にて調整)。世界的には、がん関連の死亡原因として世界で2番目に多く、毎年100万人以上が新たに胃がんと診断されている[1]。

2)リスク因子

胃がん発症にはヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori: ピロリ菌)の持続感染が重要な役割を担っていることが近年明らかになっている。その他、発がんの可能性が考えられている因子として塩分、塩蔵・高塩分食品があげられる。予防因子として、野菜(非でんぷん質やアリウム属)や果物が考えられている。アスピリンによるcox-2阻害作用における発がん予防も近年多くの報告がなされている。

3)予後

5年相対生存率[2]
Stage I:99.1%
Stage II:72.6%
Stage III:45.9%
Stage IV:7.2%

2.診断

1)検診

日本における胃がん検診は、胃(直接)X線検査、胃内視鏡検査、ペプシノゲン法の3つが広く施行されている。「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」[3]では胃X線検査のみが死亡率減少効果を示す可能性を指摘され、対策型および任意型検診の方法とされている。一方で、経鼻内視鏡検査の発展が著しく、被検者のコンプライアンスも向上したことで内視鏡検診によって胃がん死亡の減少効果も近年報告されている[4]。しかしながら、乳がんや大腸がんのようにランダム化比較試験での結果をもとにしているわけではないため、エビデンスレベルは低い。

将来的にはピロリ菌除菌を主体とし、ABC検診を用いたサーベイランスも推奨されている。

2)症状

体重減少、食欲不振、上腹部違和感、腹部膨満、吐血、嚥下困難、悪心・嘔吐などがあげられるが、非特異的である。自覚症状がなくても、検診などで指摘されることも少なくない。さらには、水腎症でみつかる腹膜播種を伴う症例や、DICによる出血傾向が初発症状である骨髄播種を伴う症例もあり、注意深さが要求される。

3)診断

診断としては内視鏡検査が最も有用な検査であり、早期がんの診断や原発巣からの組織学的診断が可能である。また、CTやMRIによって他臓器転移、リンパ節転移、消化管外へ診断を行う。近年では腹腔鏡検査によって腹膜播種の有無を評価したうえで治療方針を決定する事例も増えている。

4)病理分類

胃がん取扱い規約[5]による組織型分類を示す。

(1)一般型 common type
 a. 乳頭腺癌
 b. 管状腺癌(高分化型 tub1、低分化型 tub2)
 c. 低分化腺癌(充実型 por、非充実型 por2)
 d. 印環細胞癌
 e. 粘液癌

(2)特殊型 special type
 a. カルチノイド腫瘍
 b. 内分泌細胞癌
 c. リンパ球浸潤癌
 d. 肝様腺癌
 e. 腺扁平上皮癌
 f. 扁平上皮癌
 g. 未分化癌
 h. その他の癌

3.病期分類(ステージング)(AJCC第7版、2009)

1)TNM分類

2)病期分類

「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会 2010年10月改訂)[6]を基本にして施行されることが推奨される。

1.限局期

1)Stage I(T1a(M)、分化型、2 cm以下、UL(-))

内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection: EMR)や内視鏡的粘膜下層切開剥離術(endoscopic sumucosal dissection: ESD)による絶対適応病変である。近年では下記病変においても適応拡大病変として扱われており、日常臨床への応用もはかられている。また、内視鏡治療後にはピロリ菌感染の有無を検査し、陽性者では除菌を行うことが強く推奨される[7]。日本においても保険適用が追認されている。

・適応拡大病変
(1)2cmを超えるUL(-)の分化型cT1
(2)3cm以下のUL(+)の分化型cT1a
(3)2cm以下のUL(-)の未分化型cT1a

 これらの脈管侵襲(ly,v)がない場合にはリンパ節転移がきわめて低いため適応拡大の可能性を有している。

2)Stage I(上記を除く)〜Stage III

治癒切除を目的とし、定型手術や非定型手術が行われている。

定型手術とは、胃の2/3以上切除とD2リンパ節郭清を含む術式である。日本においては、大動脈周囲リンパ節郭清を加えるD3郭清術に関してはD2郭清術とのランダム化比較試験(JCOG9501)で生存率に差を認めなかったことにより行うべきでないと結論されている[8]。

進行度に応じて切除範囲やリンパ節郭清範囲を変えて行う非定型手術には、縮小手術と拡大手術がある。

(1)縮小手術:切除範囲やリンパ節郭清程度が定型手術に満たないもの(D1、D1+など)。
(2)拡大手術:他臓器合併切除を加える拡大合併切除手術、D2以上のリンパ節郭清を行う拡大郭清手術。

また、近年は非侵襲的治療として腹腔鏡下手術が日常臨床に導入されている。早期胃がんにおける腹腔鏡下手術の5年生存率は99.4%、またStage IA 99.6%、IB 100%と開腹手術と比較しても同等の良好な成績を示している[9]。

Stage II/IIIの術後症例では、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1[S-1])80 mg/m2(分2)28日間、14日休薬 1年間を用いた術後補助療法群と手術単独群とを比較するランダム化比較試験(ACTS-GC)が行われ、3年生存率で術後補助療法群が有意差をもって(80.5% vs. 70.1%、p=0.003)良好な結果を報告されている[10]。また日本ではいまだ保険適用外であるが、CLASIC試験にてカペシタビンとオキサリプラチンの併用も良好な成績を示している[11]。

S-1療法 ✚✚✚

tegafur・gimeracil・oteracil potassium(S-1) 80 mg/m2 分2 28日間、14日休薬 1年間

2.進行期(転移・再発、腹膜播種)

1)ファーストライン治療

切除不能進行・再発がんに対する標準治療は、一定の全身状態を有する場合には化学療法が適応となる。しかし、化学療法において治癒や長期延命を望める可能性は少なく、病状進行に伴う症状の緩和が治療の目的となる。(胃がんの化学療法)大部分の患者は早期に症状が認められないため早期診断が困難である。手術不能進行再発胃がんに対しては全身化学療法が第一選択となるが、化学療法のsurvival benefitについてはbest supportive care(BSC)を対象としたいくつかのランダム化比較試験が施行されており、いずれの検討でもBSCの生存期間3-4か月に対して化学療法群9-12か月と化学療法による生存期間の有意な延長が報告されている[12, 13, 14]。

進行胃がんに対する標準治療のひとつとして、フルオロピリミジン+シスプラチン療法が使用されている[15]。しかし世界的な標準的治療は存在せず、現在の日本ではS-1+シスプラチンが標準治療となっている。これは2007年に発表されたJCOG9912試験(フルオロウラシル持続静注に対してイリノテカン+シスプラチンの優越性とS-1の非劣性を検証した第III相試験:生存期間中央値はフルオロウラシル約11か月、イリノテカン+シスプラチン約12か月、S-1 約11か月で、フルオロウラシルに対するS-1の非劣性が証明された)[16]、およびSPIRITS試験(S-1に対しS-1+シスプラチンの優越性を検証した第III相試験:S-1群の生存期間中央値約11か月に対し、S-1+シスプラチン群では生存期間中央値約13か月と有意な延長を認めた)[17]に基づいている。残念ながらFLAGS試験[18]では、S-1+シスプラチンのフルオロウラシル+シスプラチンに対する優越性を示すことはできなかったが、用量設定などの問題も内在しておりS-1+シスプラチンが日本における標準療法のひとつであることに変わりはない。

S-1のベストパートナーは何であるかという問いに対してこれまでいくつかの臨床試験が行われてきたが、イリノテカンとパクリタキセルに関しては2008年に示された第III相試験(TOP-002)において、S-1+イリノテカンがS-1に対し全生存期間で延長傾向はあるものの有意差がつかなかった(生存期間中央値10.8か月 vs. 12.8か月)[19]ことに加え、2010年のAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)で「S-1+イリノテカン vs. S-1+パクリタキセルのランダム化第II相試験においていずれも第III相試験の候補とはなりえない」(大阪消化管がん化学療法研究会[OGSG0402])との結果が報告され、奏効率が低く一次治療としてイリノテカン、パクリタキセルいずれもS-1の併用薬としては推奨されない結果となった[20]。

オキサリプラチンに関しては、2006年にREAL-2試験が報告されている[21]。ECF(エピルビシン+シスプラチン+フルオロウラシル)療法を対照群としてEOF(エピルビシン+オキサリプラチン+フルオロウラシル)、ECX(エピルビシン+シスプラチン+カペシタビン)、EOX(エピルビシン+オキサリプラチン+カペシタビン)を比較した第III相試験である。いずれの群も奏効率40%、1年生存割合40%程度、生存期間中央値が10か月前後であり、フルオロウラシルをカペシタビンに、シスプラチンをオキサリプラチンに置き換え可能であることが示唆された。わが国でもS-1にオキサリプラチンを併用したG-SOX試験(第II相試験:無増悪生存期間6.5か月、奏効率59%、病勢コントロール率84%、1年生存割合71%、生存期間中央値16.5か月)で、S-1+オキサリプラチンが胃がんファーストライン治療で有望である可能性が示唆された(2013年3月現在、オキサリプラチンは日本では保険未収載)[22]。現在、S-1+シスプラチンに対するS-1+オキサリプラチンの非劣性を検証する第III相試験が進行中である。

EOX療法 ✚✚✚

epirubicin 50 mg/m2 静注 day1

oxaliplatin 130 mg/m2 静注 day1

capecitabine 1250 mg/m2/日 内服 21日間

1サイクル21日

ドセタキセルについては、日本がん臨床試験推進機構(JACCRO GC-03)でS-1に対するS-1+ドセタキセルの優越性を検証する第III相試験(STARTS試験)が行われているが、2012年のEuropean Society for Medical Oncology(ESMO)で結果が報告された[23]。報告の経過に難点はあるが、生存期間の延長がみられていた。シスプラチンが適応となりがたい患者(腹水、高齢者など)に適応が考慮できるかもしれない。

一方、ファーストライン治療におけるフルオロウラシル系薬剤に関しては、前述のREAL-2試験で示された「フルオロウラシルをカペシタビンに代替可能」という報告に加えて、韓国から報告された第III相試験(フルオロウラシル+シスプラチンに対するカペシタビン+シスプラチンの非劣性試験:無増悪生存期間5.0か月 vs. 5.6か月、ハザード比0.81であり、カペシタビン+シスプラチンの非劣性が証明された[p<0.001])においてもフルオロウラシルをカペシタビンに置き換え可能と結論されている[24]。

S-1+シスプラチンに加えてカペシタビン+シスプラチンという選択肢も副作用プロファイルなどを考慮しながらファーストラインとして検討することになる。

2)セカンドライン治療

paclitaxel毎週投与 ✚✚

paclitaxel 80 mg/m2 静注 day1,8,15 28日間

docetaxel療法 ✚✚✚

docetaxel 60 mg/m2 静注 day1 21日間

irinotecan療法 ✚✚✚

irinotecan 150 mg/m2 静注 day1 14日間

胃がんセカンドライン治療ではパクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカンをそれぞれ単剤で用いているのが現状である。3剤いずれにおいても前化学療法ありの症例では奏効率約20%と考えられており、この場合も3剤の副作用プロファイルを考慮しつつ選択することとなるが、セカンドライン以降の治療は「サードライン治療が行える可能性のあるperformance status・病状か」、「肝機能や消化管通過障害が早晩出現する可能性」などを考えて選択する必要性も加わることになる。イリノテカンは大量腹水や黄疸を有する症例においては禁忌であるため使用には注意が必要である。

ただ日本ではweekly パクリタキセルが選択されることが多く、同法がcommunity standardといえる状況であろう。イリノテカンとパクリタキセルを直接比較した検討において、現在西日本がん研究機構(WJOG4007)でフッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤併用療法に不応進行・再発胃がんを対象としたイリノテカン vs. weekly パクリタキセルの第III相試験が行われ、二次治療であっても8-9か月の生存期間が期待できることが報告された[25]。

さらにフッ化ピリミジン系薬剤を含むレジメンに不応の腹膜転移を有する胃がんに対するbest-available フルオロウラシルとweekly パクリタキセルを比較したランダム化II相試験の結果(JCOG0407)が報告されているが、全生存期間は7.7か月 vs. 7.7か月と有意差を認めなかったのに対し、無増悪生存期間は2.4か月 vs. 3.7か月とパクリタキセル群で有意に良好であった。これはフルオロウラシル群のサードライン治療としてパクリタキセルが多く用いられたcross overが全生存期間と無増悪生存期間の不一致をもたらしたものと考えられている[26]。

3)胃がん治療における分子標的治療薬

他がん種における分子標的治療がそうであるように、胃がん治療における分子標的治療も最近のトピックスのひとつである。以下にToGA試験[27]、AVAGAST試験[28]、EXPAND試験[29]、REAL3[30]について述べる。

HER2は胃がんの6-35%で過剰発現していると報告され、基礎研究においてHER2を過剰発現した胃がんの細胞株に対して、抗HER2モノクローナル抗体のトラスツズマブが有効であることが示されている。HER2陽性の進行胃がん患者におけるsurvival benefitを検証するためのglobal studyとしてToGA試験が行われた。

トラスツズマブはIgG1ヒト化モノクローナル抗体でありHER2陽性乳がん治療で用いられているが、HER2陽性(免疫染色3+またはFISH陽性)胃がんにおいても有効であることが2009年のASCOで報告された(ToGA試験)[27]。カペシタビン+シスプラチンもしくはフルオロウラシル+シスプラチンにトラスツズマブの上乗せ効果を検証した第III相試験で、カペシタビン/フルオロウラシル+シスプラチンの奏効率34.5%に対しカペシタビン/フルオロウラシル+シスプラチン+トラスツズマブの奏効率47.3%、無増悪生存期間は5.5か月 vs. 6.7か月、全生存期間は11.1か月 vs. 13.8か月といずれにおいてもトラスツズマブ併用群で有意に良好であった。

HXP療法 ✚✚✚

trastuzumab 6 mg/m2 静注 day1

capecitabine 2000 mg/m2 分2 内服 14日間

cisplatin 80 mg/m2 静注 day1

6サイクル(21日間)

7サイクル以降はトラスツマブのみまたはトラスツマブとカペシタビンのみ進行(PD)まで継続

HER2発現評価法

トラスツズマブはHER2蛋白質を治療標的分子としており、その治療効果はHER2蛋白質の発現レベルによって異なる。HER2蛋白質の過剰発現は、基本的にはHER2遺伝子の遺伝子の増幅によって起こる。したがって、トラスツズマブの適応を決める検査法としては、遺伝子増幅、蛋白質過剰発現を解析する方法がとられる。遺伝子増幅を解析する方法としてfluorescence in situ hybridization(FISH)法が、また蛋白質過剰発現を解析する方法として、免疫組織化学染色法(immunohistochemistry: IHC法)がそれぞれ用いられる。

FISH法上、陽性と陰性の腫瘍の間で、トラスツズマブ奏効率に明らかな差異を認めており、FISH法上、陽性の症例はトラスツズマブ治療の適応症例と考えられる。しかし、FISH法は解析コストが高く、全例に施行することは難しい。この点では、IHC法の有用性が指摘されている。IHC法で3+を示す腫瘍では、FISH法の陽性率は75-100%と高率である。IHC法2+の腫瘍では、FISH法の陽性率は24-81%とばらつきが大きい。したがって、IHC法で3+の腫瘍はトラスツズマブ治療の適応症例として対応し、IHC法で2+の腫瘍については、可能であればFISH法でさらに解析して、FISH法陽性であれば、トラスツズマブ治療の適応症例とするのが妥当とされている。ToGA試験のHER2状況別の解析では、「IHC 0/FISH+」もしくは「IHC 1+/FISH+」の場合、化学療法群の全生存期間中央値は8.7か月、トラスツズマブ併用群は10.0か月、ハザード比は1.07(95CI 0.70-1.62)で有意差はなかったが、IHC(2+)でFISH(+)またはIHC(3+)と評価された症例であれば、トラスツズマブの効果が高い傾向が認められた。IHC(2+)/FISH(+)またはIHC(3+)の446例に限って解析を行うと、生存期間中央値は11.8か月 vs. 16.0か月、ハザード比0.65と、トラスツズマブの上乗せ効果がより明確になった。

ベバシズマブはVEGF-Aに対するIgG1ヒト化モノクローナル抗体であり、大腸がんをはじめとするいくつかのがん種で有効性と安全性が証明されているが、進行再発胃がん患者を対象にカペシタビン+シスプラチンあるいはフルオロウラシル+シスプラチンにベバシズマブまたはプラセボを併用する第III相試験(AVAGAST試験)が2010年のASCOで報告された[28]。結果はベバシズマブ併用により無増悪生存期間や奏効率においては有意差が認められたものの、全生存期間は統計学的有意差に至らなかった(無増悪生存期間6.7か月 vs. 5.3か月[p=0.0037]、奏効率46%vs. 37%[p=0.0315]、全生存期間12.1か月 vs. 10.1か月[p=0.1002])。現在、バイオマーカーの解析が進行中である。

セツキシマブはEGFRに対するキメラ化IgG1モノクローナル抗体である。現在、胃および胃食道接合部腺癌を対象としてカペシタビン+シスプラチン vs. カペシタビン+シスプラチン+セツキシマブ(EXPAND試験)[29]、カペシタビン+オキサリプラチン±パニツムマブ(REAL3)の第III相試験[30]が報告され、抗EGFR抗体の上乗せは認められなかった。

さらに二次治療のHER2陽性例にラパチニブの結果が報告されたが、HER2 IHC3+に良好な傾向を認めたものの、全体としての上乗せは認められなかった[31]。

4)シスプラチンの外来投与

海外では1990年代に入りシスプラチンの入院投与から外来投与へ切り替わっていったのに対し、日本が入院中心の投与を行ってきたことには二つの理由が考えられる。

一つは腎機能保護におけるhydrationの考え方である。日本では腎保護目的にday2以降も補液が行われているが、シスプラチン静注時の血中動態(シスプラチン投与後4時間以内に90%以上が血漿蛋白と不可逆的に結合し、腎障害の原因となる遊離型シスプラチンの血漿中濃度は4-6時間で測定限界以下になる[32])を考えた際、day2以降の補液はあくまで嘔気・嘔吐による経口摂取困難な場合の水分補充ととらえることができる。実際、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のオーダーテンプレートには「シスプラチン投与前後に合計1000 mL(1時間500 mL)補液すること」と書かれており、肺がんおよび胸膜中皮腫を対象としたシスプラチン75 mg/m2以上/サイクルの外来投与を行った後向き検討[33]では、腎機能障害により抗がん剤投与を断念せざるをえなかった症例は4.6%(5/107)と報告されている。

二つめの理由は効果的な制吐対策の遅れである。現在でこそ日本でもNK-1受容体拮抗薬(アプレピタント)、5HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾンの3剤併用が一般化してきたが、制吐対策が不完全な環境でシスプラチン投与による経口摂取困難が、シスプラチン入院投与を余儀なくした一因ともいえるだろう。

胃がん化学療法に話を戻すと、胃がんの外来シスプラチン投与の特徴としては、胃の病変であるがゆえに大量の飲水が困難な場合があること、また腹膜播種による腸管通過障害合併もあり、非消化器がんに比べて注意を要することがあげられる。胃がんに対するS-1+シスプラチン外来化学療法の試みとして国立がん研究センター中央病院を中心として、S-1内服開始後シスプラチンを投与するまでの1週間、飲水量を患者に記録してもらい1500 mL/日以上の飲水が確保できた症例に対してのみ外来シスプラチン投与を行い検討したところ、36例中32例(89%)で1500 mL以上の飲水が確保され、うち25例(69%)で外来シスプラチン投与2サイクルが完遂されたと報告している[33]。

また、欧米における外来シスプラチン投与ではマグネシウムを加えることが標準とされており、マグネシウムを追加した群としない群の腎障害の程度を比較した試験では、マグネシウムをシスプラチン投与前に追加した群で有意に腎障害が軽いと報告されている[34]。

したがって、以下の点を実践することでS-1+シスプラチン外来化学療法が可能になる。すなわち、(1)十分な飲水量ができるかどうかの確認、(2)シスプラチン投与当日の補液はpre hydrationも十分に行う、(3)アプレピタント、5HT3受容体拮抗薬(パロノセトロンの使用も考慮)、デキサメサゾンの3剤をきちんと併用する、(4)マグネシウムの投与も検討。これらによりS-1+シスプラチン療法のシスプラチン60 mg/m2のみならずカペシタビン+シスプラチン療法のシスプラチン80 mg/m2も十分外来投与の適応になる。

胃がん化学療法を取り巻く問題は実に様々である。

エビデンスという観点からは、日本(またはアジア人)におけるエビデンスの構築はもちろん重要と考えられるが、同時に、欧米と共有できる治療ストラテジーをいかに作り上げていくかといういわば対極に位置するテーマのバランスをいかにとるかが難しい点といえるであろう。また、患者のQOL上昇や入院を回避することによる治療費の削減を期待しての外来化学療法の導入は確かに大切であるが、様々ながん種の治療が外来へシフトしていく趨勢のなかで、外来化学療法センターの病床数やマンパワー不足をいかに解消していくかも大切な課題といえる。さらに、日ごろよく直面する問題として、容易に腹膜播種をきたし大量腹水による摂食障害やperformance status低下による抗がん剤治療の断念を招きやすい胃がんの腹水症例への対策は十分とはいえない現状であり、さらなる改善が望まれている。

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