A 疫学・診断
1.疫学
2.皮膚障害の種類・頻度・出現時期
3.重症度分類
B 予防・治療
1.予防
2.治療
3.休薬、減量
文献

1.疫学

日本で発売されている上皮増殖因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)を標的とした薬剤には、モノクローナル抗体であるセツキシマブ、パニツムマブと、経口小分子EGFR阻害薬であるゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブがある。これらの薬剤はいずれも、副作用としてしばしば著明な皮膚障害を引き起こす。一般に薬疹とされるアレルギー性や中毒性の皮膚障害とは異なり、皮膚におけるEGFR阻害により発現する症状と考えられている。たとえば、エルロチニブの国内第II相臨床試験における皮膚障害の発現率は、発疹98.1%、皮膚乾燥71.3%、掻痒症69.4%と高い[1]が、そのほとんどが軽度から中等度のものであり、適切な治療、必要に応じた休薬、減量等の対策を行うことによりコントロール可能である。皮膚障害の予防、発現した際の適切な対応は、QOL向上と治療継続の点から重要である。

2.皮膚障害の種類・頻度・出現時期

1)ざ瘡様皮疹(図1、2

最も頻度の高い皮膚障害であり、抗EGFR薬投与開始後1週間以内に尋常性ざ瘡様の丘疹、膿疱が出現し始める。紅潮を伴う毛包に一致した丘疹、膿疱であり、面ぽう(拡張した毛包に角栓が詰まった状態)を伴わない。主に鼻唇溝、口囲、頭皮、頸部、前胸部に出現するが、手掌・足底を除いた体幹、四肢へ拡大する例もある。油脂性鱗屑が付着することも多い。約3分の2の患者に出現するが、重症となるのは5-10%程度である[2]。また、約3分の1の患者では掻痒感を伴う[3]。

2)皮膚乾燥

抗EGFR薬投与開始後2-3週後で約半数の患者に出現する。落屑、皮膚の亀裂、掻痒感を伴う[4]。

3)掻痒症

掻痒症は単独では認められず、ざ瘡様皮疹や皮膚乾燥に伴って発現する[4]。

4)爪囲炎

抗EGFR薬投与開始後1-2か月で約3分の1の患者に出現し、疼痛を伴う[4]。母趾に特に多い。爪囲の炎症から始まり、二次感染(黄色ブドウ球菌によることが多い)を伴うことがある。しばしば血管拡張性肉芽腫を合併する。血管拡張性肉芽腫は、外傷などの刺激に反応して形成される紅色の過剰な肉芽組織であり、出血や滲出液をしばしば伴う。


5)毛髪の変化

抗EGFR薬投与開始後数か月から1年後に、頭髪の疎毛・縮毛や、睫毛の延長・カールが認められることがある。

3.重症度分類

NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events(NCI-CTCAE v4.0)の皮膚および皮下組織障害のGradeに基づいて重症度を分類する[5]。個々の患者の治療においては、同程度の皮膚症状でも苦痛を感じるか否かには大きな個人差がみられる[4]。皮膚障害の程度を範囲、症状、ADL阻害の有無、感染の有無により、mild/moderate/severeと分類する方法も提唱されている[6]。

1.予防

1)スキンケアの指導

患者本人によるスキンケアが重要であるといわれている[7]。清潔の保持、保湿、外的刺激からの保護を指導する。具体的には、洗顔料を泡立て手のひらでやさしく洗顔する、電気シェーバーの使用をすすめる、爪先を圧迫するような固くきつい靴を履かないなどの指導を行う。

紫外線により皮膚感受性が増強するとの報告があり[8]、皮膚障害は露光部に出現しやすいことから、サンスクリーン剤の使用が推奨されてきた[6]。一方で、ざ瘡様皮疹に対するサンスクリーン剤の予防効果についてのランダム化比較試験が行われ、110人の患者をサンスクリーン群とプラセボ群に分け、皮疹の発生率・重症度について評価したところ、両群で有意な差は見られなかった[18]。紫外線への曝露は皮疹治癒後の色素沈着の増強の可能性もあり、少なくとも有害な作用をもたらすことはないことから、使用を勧めてもよいと考える。


2)予防投与

テトラサイクリン系抗生物質の投与によるざ瘡様皮疹の予防については、4つのランダム化比較試験を用いたメタアナリシスが2012年に報告されている[19]。抗EGFR薬投与患者において、テトラサイクリン系抗生物質(ミノサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン)予防投与群を、プラセボ群または治療なし群と比較した。その結果、予防投与群では皮疹の発現率は低下しないものの、すべてのRCTにおいてGrade2〜3のざ瘡様皮疹の発現率が有意に低下しており、重症のざ瘡様皮疹の予防を目的としたテトラサイクリン系抗生物質内服は推奨される。


minocycline hydrochloride錠(50mg) 2錠分2(朝・夕食後)✚✚

2.治療

皮膚の外用薬には、主に軟膏、クリーム、ローションの3種類の剤形があり、それぞれに利点・欠点を有するため、皮疹の性状や部位を考慮して選択される。軟膏は、刺激感が少なく保湿力に優れる一方で、光沢やベタつきが忌避されることがある。クリームは、伸びがよく使用感に優れるものの、炎症の強い部位では刺激感が強いという欠点がある。ローションは、さらに塗り広げやすいが、より刺激感が強く、主に頭部など被髪部に用いられる。一般的には、軟膏を主とし、より広い部位に塗布する場合にはクリームを選択し、被髪部にローションを用いると考えてよい。


1)ざ瘡様皮疹

膿疱は無菌性であることが多く[4, 11]、一般には炎症を抑える目的でステロイド外用薬が用いられる。顔面ではweak〜strongクラス、それ以外ではstrong〜very strongクラスが用いられる。ステロイド外用薬は漫然と使用することで副作用の出現が予想されるため、1-2週で改善がみられない場合は皮膚科へのコンサルトをするのが望ましい。尋常性ざ瘡の治療薬であるレチノイド外用薬(tazarotene cream)がざ瘡様発疹の予防に有用であるかを検討するために、顔の左もしくは右の半分のみに外用するというランダム化比較試験が行われたが、有意な発疹の数の低下は認められなかった[10]。

治療目的におけるテトラサイクリン系抗生物質の有効性についてのRCTは行われていないが、実臨床ではしばしば用いられる。テトラサイクリン系抗生物質は尋常性ざ瘡に対し以前より用いられ、抗炎症作用が主な作用機序と考えられている[12]。ざ瘡様皮疹は、皮疹発現当初は無菌性であっても二次的に細菌感染を併発することがある[13, 14]。著明な痂皮や滲出液、他の部位と異なる性状の皮疹、急な増悪が二次感染を疑う根拠となる。膿の細菌培養を行い、一般的な抗菌薬治療が有効である。


[軽症]

hydrocortisone butyrate軟膏(ロコイド(R)軟膏) 20 g 1日2回
顔に塗布✚✚

prednisolone valerate acetate軟膏(リドメックス(R)軟膏) 40 g 1日2回 体幹、四肢に塗布✚✚

prednisolone valerate acetate液(リドメックス(R)ローション) 20 g
1日2回 被髪頭部に塗布✚✚

[中等症〜重症]

prednisolone軟膏(リドメックス(R)軟膏) 20 g 1日2回
顔に塗布 ✚✚

difluprednate軟膏(マイザー(R)軟膏) 40 g 1日2回
体幹、四肢に塗布✚✚

fluocinonide液(トプシム(R)ローション) 20 g 1日2回
被髪頭部に塗布 ✚✚

minocycline hydrochloride錠(50 mg) 2錠 分2(朝・夕食後) ✚✚

2)皮膚乾燥

保湿剤の外用を行う。症状が出現する前から予防的に用いられることもある。ヘパリン類似物質、尿素製剤、油脂性軟膏には特徴があり、症状に合わせて用いる。ヘパリン類似物質は使用感がよく、塗り伸ばしやすいローション剤もあるため用いやすい。尿素製剤はより保湿効果が高いが、皮膚炎や掻爬痕に外用すると刺激感がある。油脂性軟膏はさらに効果が長く続くが、光沢やべとつき感が好まれないことがある。

ヘパリン類似物質

ヘパリン類似物質軟膏(ヒルドイド(R)ソフト軟膏) 100 g 1日2回
全身に塗布✚

ヘパリン類似物質液(ヒルドイド(R)ローション) 100 g 1日2回
全身に塗布 ✚

尿素製剤

尿素軟膏(20%)(ケラチナミンコーワ(R)軟膏) 100 g 1日2回
全身に塗布 ✚

油脂性軟膏

白色ワセリン(プロペト(R)) 100 g 1日2回 全身に塗布 ✚

3)掻痒症

抗ヒスタミン剤の内服、外用を行う。ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥に伴って発現するため、それらの治療を行う。

抗ヒスタミン内服薬

epinastine hydrochloride錠(20 mg) 1錠 分1(夕食後) ✚

抗ヒスタミン外用薬

diphenhydramineクリーム(レスタミン(R)クリーム) 50 g 1日数回
かゆい所に塗布 ✚

4)爪囲炎

二次感染を予防し、炎症を抑える目的で抗菌薬含有ステロイド外用薬の塗布を行う。二次感染を伴う場合には抗菌薬内服を追加する。血管拡張性肉芽腫を形成している場合、医療用テープ(伸縮性粘着包帯:シルキーテックス(R)、Fixomull stretch(R)など)を用いたテーピングを行う。改善しない場合には皮膚科コンサルトのうえ、爪切りや血管拡張性肉芽腫の焼灼などを行う。

[軽症]

betamethasone valerate・gentamicin sulfate軟膏(リンデロン(R)-VG軟膏) 10 g 1日2回 爪周囲に塗布 ✚

[中等症〜重症]

clobetasol propionate軟膏(デルモベート(R)軟膏) 10 g 1日1回(朝) 爪周囲に塗布 ✚

nadifloxacin軟膏(アクアチム(R)軟膏) 10 g 1日1回(夜) 爪周囲に塗布✚

cefditoren pivoxil錠(100 mg) 3錠 分3(毎食後) ✚

テーピングの指導 ✚

5)毛髪の変化

睫毛が延長・カールし眼球に当たる場合には、短く切る。

3.休薬、減量

エルロチニブ、セツキシマブでは、ざ瘡様皮疹の重症度が生存率および治療への反応に正の相関を示すことが報告されており、安易な減量をするべきではないが[15, 16]、十分な予防、対症療法によっても皮膚障害のコントロールが得られない場合、抗EGFR薬の休薬、減量を行う。ざ瘡様皮疹、皮膚乾燥は1週間程度で改善を得られるが、爪囲炎の改善には数週間を要する[4]。減量の方法は、パニツムマブ、セツキシマブではGrade 3以上の皮疹出現時の減量方法について添付文書に示されており、用いることができる。例として、セツキシマブにおける減量方法の案を示す(表1)[17]。個々の症例では、典型的な皮膚障害に加えて二次感染や他疾患の合併が起こる可能性があり、また、専門的治療により皮膚障害の改善が得られることもあるため、皮膚科へのコンサルトも重要である。

1. タルセバ(R)錠25mg100mg150mg適正使用ガイド市販直後調査(平成19年12月〜平成20年6月). 中外製薬.

2. Jacot W, et al. Acneiform eruption induced by epidermal growth factor receptor inhibitors in patients with solid tumours. Br J Dermatol 2004; 151(1): 238-41. [PubMed]

3. Li T, Perez-Soler R. Skin toxicities associated with epidermal growth factor receptor inhibitors. Target Oncol 2009; 4(2): 107-19. [PubMed]

4. 前田七瀬, 他. エルロチニブ(タルセバ(R))による皮膚障害. 日皮会誌. 2010; 120(10): 2039-49.

5. National Cancer Institute (NCI). Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0. [PDF]

6. Lynch TJ Jr, et al. Epidermal growth factor receptor inhibitor-associated cutaneous toxicities: an evolving paradigm in clinical management. Oncologist 2007; 12(5): 610-21. [PubMed]

7. タルセバ錠Rash Management‐解説と具体的治療指針‐第3版. 中外製薬. 2011.

8. Lacouture ME, et al. Skin toxicity evaluation protocol with panitumumab (STEPP), a phase II, open-label, randomized trial evaluating the impact of a pre-Emptive Skin treatment regimen on skin toxicities and quality of life in patients with metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol 2010; 28(8): 1351-7. [PubMed]

9. Jatoi A, et al. Tetracycline to prevent epidermal growth factor receptor inhibitor-induced skin rashes: results of a placebo-controlled trial from the North Central Cancer Treatment Group (N03CB). Cancer 2008; 113(4): 847-53. [PubMed]

10. Scope A, et al. Randomized double-blind trial of prophylactic oral minocycline and topical tazarotene for cetuximab-associated ance-like eruption. J Clin Oncol 2007; 25(34): 5390-6. [PubMed]

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12. Simonart T, et al. Efficacy of tetracyclines in the treatment of acne vulgaris: a review. Br J Dermatol 2008; 158(2): 208-16. [PubMed]

13. Agero AL, et al. Dermatologic side effects associated with the epidermal growth factor receptor inhibitors. J Am Acad Dermatol 2006; 55(4): 657-70. [PubMed]

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15. Perez-Soler R, Salt L. Cutaneous adverse effects with HER1/EGFR-targeted agents: is there a silver lining? J Clin Oncol 2005; 23(22): 5235-46. [PubMed]

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17. アービタックス(R)注射液100mg 添付文書. 2012年12月改訂(第5版).

18. Jatoi A,et al:Does sunscreen prevent epidermal growth factor receptor(EGFR)inhibitor-induced rash? Results of a placebo-controlled trial from the North Central Cancer Treatment Group(N05C4).Oncologist.2010;15(9):1016-22. [PubMed]

19. Bachet JB,et al:Folliculitis induced by EGFR inhibitors,preventive and curative efficacy of tetracyclines in the management and incidence rates according to the type of EGFR inhibitor administered:a systematic literature review.Oncologist.2012;17(4):555-68. [PubMed]