A 疫学・診断
1.症状
2.分類
3.血管外漏出のリスク因子
4.鑑別診断
B 予防・治療
1.予防
2.治療
文献

血管外漏出とは、投与中の抗がん剤が血管外に浸潤あるいは血管外に漏出し、静脈内へ投与された薬液が血管から周囲の軟部組織へ拡散することをいう。周囲の軟部組織に障害を起こし、疼痛、発赤、腫脹、灼熱感などの症状が発現するが、水疱、潰瘍形成、壊死などにより外科的処置が必要となる可能性もある。確立された治療法がなく、予防することが最も重要となる。

1.症状

1)即時型発現

数分から数時間以内に痛みや熱感が生じる。通常、針の挿入部周囲で、薬剤投与中に痛みが起こる。針挿入部周囲に発赤が生じるが、必ずしも血管外漏出が生じる時に発赤が発現するとは限らない。潜在的に潰瘍形成が進行し、通常48-96時間に発現する。すぐに重症の腫脹が生じる。逆血がない、または薬剤投与中に逆血がみられる。滴下の状態が変化する。

2)遅延型発現

痛みや腫脹は通常48時間以内に出現する。発赤は発現が遅い。潰瘍は遅れて発現する。局所のひりひりした感覚やその他の感覚障害が生じる。

2.分類

殺細胞薬は毒性に応じ起壊死性(vesicants)、炎症性(irritants)、非壊死性(non vesicants)に分類される。起壊死性薬剤と炎症性薬剤の区別は確立されたものではなく、炎症性薬剤であっても壊死や皮膚剥離が報告されている薬剤もある。組織損傷の程度は漏出した薬剤の量と関係している可能性も示唆されている。

1)起壊死性薬剤(vesicant drug)

起壊死性薬剤は重篤で永久的な組織壊死を引き起こすおそれがある。漏出時は焼けるような痛み、締めつけられるような痛み、軽度の紅斑、瘙痒、腫脹がみられる。2、3日のうちに、紅斑、痛み、変色、硬結、乾燥剥離、水疱形成がみられる。少量の漏出であれば症状は数週間後に消失する可能性があるが、広範囲な漏出の場合、壊死、痂皮形成、膨隆性を伴った潰瘍形成、発赤、痛みや壊死組織が数週間以上後に現れる可能性がある。カテーテルを挿入する部位によっては、機能障害を残す可能性があるため、注意する。

アントラサイクリン系薬剤は多くのレジメンで使用されており、重篤な組織壊死を生じる可能性があるため注意を要する薬剤である。

・シスプラチン(0.5 mg/mL以上の濃度)

・アントラサイクリン系(ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン)

・ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン)

・マイトマイシンC、ミトキサントロン

※パクリタキセル(リポソーム製剤は除く)、ドセタキセル、オキサリプラチンは、まれに起壊死性となる。

2)炎症性薬剤(irritant drug)

炎症性薬剤は鈍い持続的な痛み、焼けるような痛み、締めつけるような痛みや、針刺入部または血管に沿った静脈炎を伴って炎症性の反応を引き起こす。漏出した部位で温感、紅斑、圧痛がみられるが、皮膚剥離や壊死はみられない。症状はたいてい短期間でおさまり、長期間続く後遺症はない。

・プラチナ系薬剤(カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン

・アルキル化薬剤(シクロホスファミド、イホスファミド)

・代謝拮抗薬(フルオロウラシル、ゲムシタビン)

・タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)

・トポイソメラーゼ阻害薬(イリノテカン、エトポシド)

・三酸化ヒ素、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、クラドリビン、ダカルバジン、リポソーマルドキソルビシン、ミトキサントロン、トポテカン

*血管外漏出した薬剤量の濃度に依存して起壊死性になる可能性もある。

3)非壊死性薬剤(non vesicant drug)

非壊死性薬剤は多少漏出しても炎症を生じにくい。多くは皮下投与や筋肉内投与が可能である。

4)リコール現象

タキサン系薬剤やドキソルビシン、エピルビシンでリコール現象が報告されている[2, 3, 4, 5, 6, 7]。リコール現象とは、以前に壊死性薬剤の血管外漏出を経験し、その後再度同じ薬剤を投与した場合に以前血管外漏出した部位で炎症が起こる現象である。放射線治療後に抗がん剤を投与した場合、放射線照射部位に炎症が起こるリコール現象が報告されている。

3.血管外漏出のリスク因子[8]

血管外漏出に関するリスク因子として、細くて脆い血管、硬化した血管、肥満、糖尿病や循環障害のような合併症、感覚障害、固定式静脈カテーテルの使用、医療者の知識や技術の不足があげられる。その他に考えられるリスク因子を以下にあげる。

・高齢者(血管の弾力性や血流量の低下)

・栄養不良患者

・化学療法を繰り返している患者

・多剤併用化学療法中の患者

・輸液などで既に使用中の血管ルートの再利用

・腫瘍浸潤部位の血管

・放射線治療を受けた部位の血管

・ごく最近施した皮内反応部位の下流の血管

・同一血管に対する穿刺のやり直し例

・24時間以内に注射した部位より遠位側

・創傷瘢痕がある部位の血管

・関節運動の影響を受けやすい部位や血流量の少ない血管への穿刺

4.鑑別診断

血管外漏出に類似した症状を呈する静脈炎やフレア反応との鑑別を行う。

1)静脈炎

静脈の炎症で、静脈に沿ってあるいはカテーテル挿入部の疼痛、発赤、腫脹がある。潰瘍は通常みられない。逆血を認める。

2)フレア反応

局所の疼痛を伴わないアレルギー反応で、血管に沿って紅斑や赤い線状の蕁麻疹が生じる。治療をしなくても発現後30分以内に消失する。潰瘍や腫脹は通常みられない。逆血を認める。

1.予防

抗がん剤治療における血管外漏出の予防ガイドラインはEuropean Oncology Nursing Society(EONS)[8]やOncology Nursing Society(ONS)[9]から入手できる。予防策を行うことにより血管外漏出のリスクを最小限に抑えることができる。要点を以下にあげる。

・末梢から抗がん剤を投与する際に、ラインは投与直前に確保し、より太くて損傷のない血管を選択する。点滴を開始する前には逆血があることを確認する。

・硬化や血栓症、傷跡などのある部位は循環障害を伴う四肢として点滴部位としては回避すべきである。乳がん患者ではリンパ浮腫予防のため切除した乳房と反対側にラインを確保することが望まれる。

・静脈留置針は刺入部を透明なフィルムドレッシング材で覆った後、刺入部周囲の観察ができるよう固定する。

・薬剤を投与する前に5-10 mLの生理食塩液や5%ブドウ糖液をフラッシュし、ラインの開通性を確認する。

・患者には痛みや紅斑、腫脹など、点滴部位の異常を感じた際にはすぐに医療者に知らせるよう教育を行う。

・抗がん剤は希釈調製後、生理食塩液や5%ブドウ糖液を流すメインルートの側管から投与する。

・起壊死性薬剤の投与は中心静脈カテーテルを使うことで確実に投与されるが、血管外漏出の予防には寄与しない。

2.治療

1)初期治療

起壊死性薬剤の血管外漏出が起きた、もしくは疑われた時は、すぐに点滴を止め、漏出部位に圧力がかからないようにする。5-10 mLのシリンジを用い、できるだけ漏出した薬剤や血液を吸引した後、カテーテルや針を抜去する。漏出した患肢を挙上する。

2)冷却

漏出部の冷却は、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン)とエトポシドを除くすべての起壊死性、炎症性薬剤で推奨される。間欠的な冷却は血管収縮を起こすことにより薬剤の広がりや局所の損傷の程度が軽減される。冷却圧迫も局所の炎症や痛みを軽減させるために有用である。

アントラサイクリン系薬剤(リポソーム製剤は含まず)は、漏出した日に限り、漏出後30-60分冷却し、その後15分毎に冷却を繰り返す。

リポソーマルドキソルビシン、マイトマイシンCは、漏出後24時間は15-20分の冷却を1日4回以上行う。

3)加温

ビンカアルカロイド系薬剤やエトポシドの血管外漏出は、冷却することで潰瘍形成を悪化させることが動物実験で報告されているため、冷却は禁忌とされている。これらの薬剤は局所を温めることで血管拡張や血流量の増加によって薬剤が拡散、希釈されるとして推奨されている。漏出後24-48時間は15-20分の加温を1日4回以上行う。

タキサン系薬剤では冷却と加温のどちらがよいか明確になっていない。

4)デクスラゾキサン(dexrazoxane)

アントラサイクリン系薬剤の血管外漏出と推定された80人の患者を含む2つの非ランダム化多施設研究で評価され[11]、European Medicines Agency (EMA)や米国Food and Drug Administration(FDA)ではリポソーム製剤を除くアントラサイクリン系薬剤の血管外漏出に対し適応承認されている。日本では2014年4月に薬価収載・販売され、使用できるようになった。

通常、成人には1日1回、投与1日目および2日目は1000mg/m2(体表面積)、3日目は500mg/m2を1〜2時間かけて3日間連続で静脈内投与する。血管外漏出後6時間以内に可能な限り速やかに投与を開始し、投与2日目および3日目は投与1日目と同時刻に投与を開始する。また、用量は投与1日目および2日目は各2000mg、3日目は1000mgを上限とする。クレアチニンクリアランス40mL/min未満では投与量を通常の半量とする。


5)副腎皮質ホルモン

エビデンスが少なく、ONSやEONSのガイドラインでは推奨されていない。

アントラサイクリン系薬剤の血管外漏出患者で全身、皮下、皮内投与が推奨されているが、有効性に関しては不明確である。エトポシドまたはビンカアルカロイド系薬剤の血管外漏出には皮膚障害を悪化させる可能性があり、禁忌とされている。大量のオキサリプラチンの血管外漏出では経口デキサメタゾン16 mg/日 (分2)14日間投与の有効性が報告されている[12]。

6)チオ硫酸ナトリウム(デトキソール静注用 10%®)(保険適用外)

63例のドキソルビシン、エピルビシン、ビンブラスチン、マイトマイシンCで血管外漏出を受けた患者で、ヒドロコルチゾンとデキサメタゾンの治療群とそれにチオ硫酸ナトリウム2%溶液の皮下投与を追加した群との比較試験で、どちらの群も潰瘍形成はみられなかったが、チオ硫酸ナトリウムを加えた群で平均治癒時間が加えない群の半分だったという報告がある[13]。チオ硫酸ナトリウムの4%または2%溶液の局所投与はダカルバジン、シスプラチン、カルボプラチンの血管外漏出に対し壊死や潰瘍形成予防に有効とされているが、エビデンスが少なく推奨されていない。日本では保険未承認である。

4%溶液の作り方は、10%チオ硫酸ナトリウムを使う場合、4 mLを滅菌注射用水6 mLと混ぜる。

7)ヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)、ジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide: DMSO)

ヒアルロニダーゼはタンパク分解酵素であり、ヒアルロン酸を加水分解することにより皮下に投与された溶液の拡散を促進する。ビンカアルカロイド、パクリタキセル、エトポシド、イホスファミドの血管外漏出に使用される。日本では該当する薬剤がない。

ジメチルスルホキシドのメカニズムは解明されていないが、アントラサイクリンまたはマイトマイシンCの血管外漏出に使用される。日本では保険未承認である。

8)外科的治療

一定のガイドラインはなく、初期治療を実施するも皮膚障害が悪化し、皮膚壊死や潰瘍形成される際は外科的治療が必要とされている。手術介入の最適な時期は議論の余地があるが、初期治療の対応が不十分な場合に手術の適応となる場合が多い。

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16. 矢ヶ崎香. 即時型合併症の予防,早期発見,対処 2. 血管外漏出: 小松浩子, 畠清彦編. がん化学療法看護テキストブック. 真興交易医書出版部. 2010.