A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
3.病理学的分類
4.病期分類(ステージング)(UICC 第7 版、2009)
B 治療
1.部位別の治療の概略
2.手術
3.放射線療法
4.薬物療法
文献

1.疫学

1)罹患数・死亡数

頭頸部がんは、他のがん種と異なり一臓器からの発生を示すものではなく、顔面頭蓋から頸部にかけての頭頸部領域に発生する上皮性悪性腫瘍を意味している。「頭頸部癌取り扱い規約」で対象とされている原発部位としては、(1)口唇および口腔、(2)鼻腔および副鼻腔、(3)上咽頭、(4)中咽頭、(5)下咽頭、(6)喉頭、(7)大唾液腺、(8)甲状腺、(9)粘膜悪性黒色腫である。

わが国の頭頸部がんの全がんに占める割合は約5%で、各部位別に分類すると頻度は低くなる。2006年の頭頸部がん罹患数と死亡数は、各部位それぞれ、口腔・咽頭が1万2626人と6802人、喉頭が3725人と1002人、甲状腺が1万234人と1669人である。

頭頸部がんの発症のピークは40歳以降であり、男女比は4:1で、高齢社会を迎えたわが国では増加傾向にあり、口腔・咽頭がんの罹患率が増えてきている。90%以上が扁平上皮癌であり、治療がこの組織型を中心として研究されてきたため、他の組織型におけるエビデンスは確立されていない。

唾液腺がんは頭頸部がん全体の約1%程度にすぎない。良性を含めた唾液腺腫瘍としての発生部位は約80%が耳下腺であるが、悪性である可能性は舌下腺90%、顎下腺・小唾液腺45%、耳下腺20%である。

甲状腺がんは、わが国では乳頭癌が90%を占めており、諸外国と比較してその割合は高い。

2)リスク因子

頭頸部がん発症の約80%に喫煙と飲酒が関与しており、生活習慣に起因する代表的ながんである。他の頭頸部領域の多発がんや同じリスク因子をもつ食道がんや肺がんなどとの重複がんも多い。

口腔がんでは機械的刺激として齲歯、不良充填物などもあげられている。

感染症としては、口腔〜中咽頭がんでヒトパピローマウイルス(HPV)感染との関連、アジアに多い上咽頭がんではEBウイルス(EBV)感染の関与がある。

甲状腺がんでは、チェルノブイリ原子力発電所事故による小児期〜思春期における放射線被曝と甲状腺乳頭癌発症の報告があり、わが国の福島第一原子力発電所事故に関連した今後の動向が継続的に追跡調査されることになっている。まれな髄様癌では、家族性髄様癌や多発性内分泌腫瘍症2型といった遺伝の関与もある。

3)予後

頭頸部がんの予後は、部位・亜部位による治療反応性や予後の差、治療法の施設間差、頭頸部がん以外の死亡の存在、遡及的な解析データという問題はあるが、おおよそ5年生存率がStage I、IIで70%、Stage III、IVでは50%以下である。初回治療後、局所再発率は60-70%、遠隔転移率が20-30%で、死因は遠隔転移よりも局所再発であることが多く、機能温存・形態温存も含め局所制御の向上が治療のポイントである。

TNM以外の予後因子として、原発(切除断端、細胞異型度、リンパ管浸潤、傍神経浸潤、血管浸潤)、リンパ節(節外浸潤、転移リンパ節レベル)、リスク因子の排除(禁煙)、全身状態(合併症、栄養状態、貧血)、HPV陽性などがある。

2.診断

1)検診(スクリーニング)

頭頸部がんは、表皮、導管、粘膜下から発生し、早期病変の肉眼所見としては発赤、小隆起、粗い粘膜表皮として認められる。扁平上皮癌は多段階発がんの過程をとり、前がん病変を認めることもあるが、他の目的で検査中偶然みつかるにすぎず、みつけるための検診は存在していない。口腔の前がん病変として口腔白板症があり、長期の経過で発症するがんが観察される。一度頭頸部がんに罹患した場合、再発の確認のみならず、他の領域における頭頸部がんや他臓器のがんの発症に関する検診は考慮すべきである。

2)症状

原発部位により症状が異なり多彩で、初診の時点でStage III、IVが約60%である。

(1)口唇
下口唇からの発生が多い。発赤、潰瘍、白板症、赤板症、知覚異常など。

(2)口腔
・口腔底:発赤、隆起、硬結、潰瘍、白板症など。
・舌:易刺激性、潰瘍、外耳関連痛、言語障害、嚥下障害、口臭、腫脹による変形など。
・頬粘膜:舌でのしこり感、耳下腺腫脹、耳関連痛、開口障害など。
・歯肉、硬口蓋:義歯不具合、痛み、抜け歯、下口唇知覚異常、白板症、外耳〜耳前部関連痛、開口障害、粘膜下腫瘍、顔面変形など。

(3)中咽頭
・舌根部:咽頭痛、嚥下障害、開鼻声、耳痛、舌固定、口臭、リンパ節腫大など。
・扁桃:咽頭痛、耳関連痛、義歯不具合、開口障害、側頭部頭痛、リンパ節腫大など。
・軟口蓋:咽頭痛、鼻咽頭逆流、開口障害、中耳炎、側頭部頭痛など。

(4)喉頭
・声帯:嗄声、痛み、嚥下障害、呼吸困難など。
・声門上:嚥下時痛、耳関連痛、頸部腫瘤、嗄声、体重減少、口臭、嚥下障害、誤嚥など。

(5)下咽頭
咽頭痛、嚥下障害、咽頭異物感、耳痛、唾液に線状の血液混入、変声など。

(6)上咽頭
上頸部リンパ節腫大、鼻出血、鼻閉、耳痛、顔面痛、後頭部・側頭部頭痛、頸部伸展時の頭痛、眼球突出、複視など。

(7)鼻腔
鼻汁、鼻閉、鼻出血、鼻柱腫大、前頭部痛、眼球突出、複視など。

(8)副鼻腔
・上顎洞:痛み、抜け歯、顔面腫脹、眼球突出、複視、結膜浮腫、鼻閉、鼻出血、頭重感、開口障害など。
・篩骨洞:前頭部痛、目頭周辺の有痛性腫瘤、眼球突出、複視、鼻閉、鼻出血、知覚異常など。

(9)唾液腺
・耳下腺:耳下腺腫大、耳下腺部痛、顔面神経麻痺、嚥下障害など。
・顎下腺:痛み、皮膚浸潤など。
・舌下腺:粘膜下腫瘤、違和感など。

(10)甲状腺
甲状腺の腫大、嗄声、嚥下障害、呼吸困難、血痰、内分泌症状など。

3)診断

(1)診察
頭頸部領域の診察は問診、視診、触診を行い、必要に応じて間接・直接喉頭鏡、内視鏡等を用いながら、原発の位置と広がり、リンパ節転移の範囲を確認する。

(2)画像検査
・原発とリンパ節:CT、MRI。
・遠隔転移:胸部X線撮影、CT、PET、骨シンチグラフィ。
・重複がんの確認:上部消化管内視鏡検査、気管支鏡検査。
・その他:パノラマX線撮影、下咽頭食道造影、硬性食道鏡、超音波検査、拡大内視鏡、狭帯領域内視鏡、ヨードシンチグラフィなど。

(3)病理検査
・原発巣生検:病理学的な確認と病変の広がりの確認。
・リンパ節生検:原発が不明な場合や悪性リンパ腫が疑われる場合のみで、実施して扁平上皮癌であった場合はリンパ節における組織の採取を実施。

(4)治療前
治療にあたる前に、栄養状態・歯の評価、合併症の状態と治療の影響の評価が必要である。

3.病理学的分類

1)異形成

異形成は浸潤を欠く上皮内腫瘍性病変であるが、この病変に関する病理医間の考えがわが国と欧米とで異なっており、現在診断においてはどちらの分類も可とされているため注意が必要である(表1)。

2)頭頸部領域の上皮性新生物の腫瘍組織分類(WHO分類 第3版、2005)

扁平上皮癌が全体の90%以上を占めており、その他は頻度が低いこともあって、治療開発は扁平上皮癌中心に行われてきた。

Epithelial Neoplasm 上皮性新生物
Squamous cell carcinoma in situ 上皮内扁平上皮癌
Carcinoma, NOS 癌, NOS
Squamous cell carcinoma, NOS 扁平上皮, NOS
 Verrucous carcinoma, NOS 疣状, NOS
 Spindle cell carcinoma, NOS 紡錘形細胞, NOS
 Carcinosarcoma, NOS 癌肉, NOS
 Transitional cell carcinoma, NOS 移行上皮, NOS
 Lymphoepithelial carcinoma, NOS リンパ上皮, NOS
Adenocarcinoma, NOS 腺, NOS
 Mucoepidermal carcinoma 粘表皮癌
 Acinar cell carcinoma 腺房細胞癌
 Adenoid cystic carcinoma 腺様嚢胞癌
 Adenosqumanous carcinoma 腺扁平上皮癌
 Carcinoma in pleomorphic adenoma 多形成腺腫内癌
Carcinoma, undifferentiated, NOS 癌, 未分, NOS
NOS: not otherwise specified

3)上咽頭がんにおける組織型分類(表2)

EBVが関連する組織型はType 2、3に多い。

4)唾液腺悪性腫瘍の組織型分類

耳下腺がんでは腺癌が、顎下腺がんでは腺様嚢胞癌の発生が多い。

acinic cell carcinoma 腺房細胞癌
mucoepidermoid carcinoma 粘表皮癌
adenoid cystic carcinoma 腺様嚢胞癌
polymorphous low-grade adenocarcinoma 多型低悪性度腺癌
epithelial-myoepithelial carcinoma 上皮筋上皮癌
clear cell carcinoma, NOS 明細胞癌, NOS
basal cell adenocarcinoma 基底細胞腺癌
malignant sebaceous tumors 悪性脂腺腫瘍
 sebaceous carcinoma 脂腺癌
 sebaceous lymphadenocarcinoma 脂腺リンパ腺癌
cystadenocarcinoma 嚢胞腺癌
mucinous adenocarcinoma 粘液腺癌
oncocytic carcinoma オンコサイト癌
salivary duct carcinoma 唾液腺導管癌
adeniocarcinoma, NOS 腺癌, NOS
myeloepithelial carcinoma 筋上皮癌
carcinoma ex pleomorphic adenoma 多型腺腫由来癌
carcinosarcoma 癌肉腫
metastasizing pleomorphic adenoma 転移性多型腺腫
squamous cell carcinoma 扁平上皮癌
small cell carcinoma 小細胞癌
large cell carcinoma 大細胞癌
lymphoepithelial carcinoma リンパ上皮癌
sialoblastoma 唾液腺芽腫

5)甲状腺悪性腫瘍の組織学的分類

papillary carcinoma 乳頭癌
follicular carcinoma 濾胞癌
poorly differentiated carcinoma 低分化癌
undifferentiated (anaplastic) carcinoma 未分化癌
medullary carcinoma 髄様癌
malignant lymphoma 悪性リンパ腫

4.病期分類(ステージング)(UICC 第7版、2009)[6]

1)TNM分類

T因子はそれぞれの部位・亜部位によって定義され、N因子は以下のように共通である。

2)病期:口唇・口腔、鼻腔・副鼻腔、中咽頭、下咽頭、喉頭、唾液腺のがん

3)病期:上咽頭のがん

4)病期:甲状腺がん

甲状腺未分化癌は非常に予後が悪く、すべてStage IVになる。

頭頸部がんの治療には、多領域にわたる課題と医療を有するため多職種による集学的治療チームの活動が必須であり、治療方針の決定や前処置だけでなく治療後の生活やリハビリテーションも含めた包括的な方針の決定がこのチームでなされるべきである。

頭頸部がんにおける治療の主体は手術と放射線療法であり、薬物療法はこれらを補助する集学的治療の一部を担っている。臓器機能・形態温存と手術侵襲、放射線感受性といった腫瘍側の要因だけでなく、合併症や患者希望といった宿主要因、方針や技術・体制といった医療機関の要因が実地診療では加わっている。

1.部位別の治療の概略

1)口唇・口腔、鼻腔・副鼻腔、中咽頭、下咽頭、喉頭、唾液腺のがん

2)上咽頭がん

3)甲状腺がん

2.手術

術前の評価として、切除可能性の判断が必要になる。原発巣や転移リンパ節が頸動脈や頭蓋底・頸椎〜椎前筋へ浸潤している場合は技術的に切除不能である。切除可能であっても、中咽頭がんなどでは巨大な腫瘍を切除することで嚥下障害、構音障害等の機能障害出現が見込まれる場合は手術適応がないとも判断されるし、N2cの多発リンパ節転移やN3の巨大リンパ節転移を有する場合はきわめて予後不良であり、手術でも根治性が低いと予想される場合も手術適応がないと判断されうる。さらに、手術により高度の障害が予想されるため患者が手術を拒否した場合も、手術適応がないとの判断になる。

原発巣は一塊に切除し、状況に応じて術中に追加切除を実施し、欠損部分に対しては再建術を行う。リンパ節転移の広がりによって、N0-N1の一部では予防と診断を目的に原発部位に応じたレベルでの選択的頸部郭清が、それ以上のNステージであれば治療と診断を目的に包括的な頸部郭清が行われる。切除標本は部位の特定が難しいことがあるため、術者と病理医との連携が重要である。組織型と分化度、深達度、浸潤様式、血管・リンパ管・神経侵襲の有無、リンパ節転移の有無と部位と大きさ、切除断端からの腫瘍までの距離等を検索し、追加の切除や頸部リンパ節郭清、術後放射線療法、化学放射線療法の判断を行う。

放射線療法に対する手術の利点としては、限局した範囲の治療、短時間で終了、放射線治療由来の急性・晩期反応の回避、二次発がんに対する放射線療法の温存などがあげられている。

3.放射線療法

早期であれば単独で、進行している場合には手術の前後、化学放射線療法、導入化学療法後に単独か化学放射線療法といった集学的治療で行われている。分割方法としては1日1回の単純分割照射、1日2回以上の多分割照射が行われている。多分割照射は単純分割照射と比較して有効性が高く晩期反応は同等であるが、急性反応が強く、特に粘膜炎の増強が問題になる[12]。

手術に対する放射線療法の利点としては、切除による後遺症・合併症の回避、機能形態温存、低侵襲、救済手術が術後再発より放射線治療後再発でより容易、などがあげられている。

4.薬物療法

1)がん化学予防薬

頭頸部扁平上皮癌患者では、発がん物質の曝露と遺伝的発がん素因に関連した二次発がんの危険性が高く、発現の危険度は1年あたり2.7-4%である。レチノイドやβカロチンは口腔の白板症を改善させるも投与中止で多くが再発しており、現状のがん化学予防薬はがんの再発の危険性を低下させるものではない。種々のがん化学予防薬で期待される報告はあるが、まだ臨床試験以外で使ってはならないレベルである。

2)再発・切除不能・転移症例に対する化学療法

頭頸部扁平上皮癌の転移・再発症例における化学療法単独での平均生存期間は6-9か月程度であり、1年生存率は20-40%程度である。無治療と比較しても若干の延命効果しか得られておらず、腫瘍縮小による疼痛緩和や滲出液の減少などの症状緩和効果が治療の意義となるが、これを主目的とした試験はこれまでほとんどない。初回治療時点で遠隔転移を有する場合は化学療法単独が選択されるが、局所制御が予後や局所症状の緩和に影響するため、M1でも転移病変が予後規定因子となりそうになければ放射線療法を中心とした局所治療が選択される場合もある。

[多剤併用療法]

CF(FP)療法 ✚✚✚

cisplatin 80-100 mg/m2 静注 day1

fluorouracil 1000 mg/m2/日 持続静注 day1-4

または 800 mg/m2/日 持続静注 day1-5

3-4週毎

CF(FP)+cetuximab療法 ✚✚✚

cisplatin 100 mg/m2 静注 day1

またはcarboplatin AUC 5 静注 day1

fluorouracil 1000 mg/m2/日 持続静注 day1-4

または 800 mg/m2/日 持続静注 day1-5

cetuximab 400 mg/m2 静注 day1、250 mg/m2 静注 day8

毎週

SP療法 ✚✚

tegafur・gimeracil・oteracil potassium(TS-1[S-1]) 40 mg/m2/回
1日2回 経口 day1-14

cisplatin 70 mg/m2 静注 day8

4週毎

[単剤]

docetaxel療法 ✚✚

docetaxel 60-70 mg/m2 静注 day1 3-4週毎

paclitaxel療法 ✚✚

paclitaxel 100 mg/m2 静注 day1,8,15,22,29,35 7週毎

TS-1(S-1)療法 ✚✚

tegafur・gimeracil・oteracil potassium(TS-1[S-1]) 40 mg/m2/回
1日2回 経口 day1-28 6週毎

methotrexate療法 ✚✚✚

methotrexate 40-60 mg/m2 静注 毎週(日本では保険未承認)

sorafenib療法(甲状腺乳頭癌) ✚✚

sorafenib 800 mg/日(400 mg/回 1日2回)経口(日本では保険未承認)

1980年代に化学療法とbest supportive care(BSC)の比較試験が行われシスプラチン(cisplatin: CDDP)の有用性が示されたが、メトトレキサートとの比較試験で生存に差がなかった。CF療法では奏効率が高かったため汎用されるようになったが、それぞれの単剤との比較試験が行われ、奏効率はCF 32%、CDDP 17%、フルオロウラシル(fluorouracil: 5-FU)13%であるも生存ではそれぞれ5.5か月、5.0か月、6.1か月と差がなく毒性も強かった[13, 14]。これらから、奏効率は単剤より多剤で高く、CDDPを含む化学療法で良好であるが、毒性は強くなることが認識され、performance statusにより化学療法が選択されるようになってきた。海外のCF療法の投与量は支持療法が充実した現在でも耐用性は厳しく3週間隔で継続するのは困難であり、実地医療では従来からの80% doseで行っている。テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(tegafur・gimeracil・oteracil potassium: S-1)はわが国で開発された薬剤で海外ではほとんど使用されていないため国内のデータであるが、奏効率44.1%、1年生存率60.1%、平均生存期間16.7か月で、毒性も許容できるとしている[15, 16, 17]。

単剤ではタキサン類の使用があるが、ドセタキセルは保険適用量が海外の100 mg/m2に対してわが国は60-75 mg/m2であり、海外のデータをそのまま外挿できない。わが国ではパクリタキセルが最近保険承認され、1週毎の投与で奏効期間7.4か月、生存期間14.3か月と報告されている[18]。海外ではメトトレキサートが使われているが、わが国では保険適用がない。

頭頸部扁平上皮癌では上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)の発現が進行した症例が多く、化学療法や放射線療法に耐性であり、遠隔転移も多く、予後不良で、生存期間も短いとされている。発現はmRNAレベルで約90%、蛋白レベルで約40%と報告されており、多変量解析では独立した予後不良因子であるため格好の標的と考えられるが、発現状況は部位によって異なっている。セツキシマブはEGFRの細胞外領域に特異的に結合するIgG1モノクローナル抗体であり、結合により増殖因子の受容体結合を競合的に阻害する分子標的薬として、頭頸部がんにおいても開発研究が行われてきた。この設定においては化学療法に対するセツキシマブの上乗せ効果を比較検討したEXTREME試験が報告されている[19]。化学療法のプラチナ製剤はCDDPまたはカルボプラチンが選択され、最大6サイクル投与、その後セツキシマブ併用群は安定(stable disease: SD)以上であれば進行(progressive disease: PD)になるまで継続された。無増悪生存期間はCF療法vs. CF療法+セツキシマブで3.3か月 vs. 5.6か月、奏効率は20% vs. 36%と約30年ぶりにこの設定でCF療法を上回る結果となった。プラチナ耐性例を対象とした単剤での検討では奏効率は6-20%で、無増悪生存期間は2-3か月、全生存期間は4.3-6.1か月と報告されている[20]。頭頸部がんに対して保険適用となり、使用可能となっている。

甲状腺乳頭癌に対する全身治療は131I、ホルモン療法以外にはなかったが、分子標的薬であるソラフェニブが検討され、奏効率15%、無増悪生存期間15か月と報告された[21]。この結果をもって世界規模での第III相試験が開始となっており結果が待たれる。

3)集学的治療のなかでの化学療法

化学療法は局所進行切除不能例、臓器機能温存、術後予後不良群などを対象とし、手術や放射線治療を絡めた集学的治療の設定で行われている。また反応性により、その後の治療法選択にも利用されてきている。行われる場面としては、放射線治療と同時併用する化学放射線療法、手術や放射線治療に先んじた導入化学療法、維持療法がある。

化学療法のメタアナリシスによれば、最も有効性が高いのは化学放射線療法であり、5年生存率で4%程度の上乗せ効果があるが、導入化学療法ではその効果が乏しかった[22, 23]。

化学放射線療法は抗がん剤の放射線増感作用を利用して局所効果を上げ治療成績につなげるものであるが、粘膜炎は高度となる。初回治療として、術後補助療法として、導入化学療法に続いての治療として用いられている。

tri-weekly cisplatin療法 ✚✚✚

cisplatin 100 mg/m2 静注 day1 3週毎

CBRT+cetuximab療法 ✚✚✚

放射線療法(同時追加照射計72 Gy/42回

1回/日 1.8 Gy/fr×5回/週×3.6週

2回/日 朝: 1.8 Gy/fr×5回/週×2.4週、午後: 1.5 Gy/fr×5回/週×2.4週

cetuximab 400 mg/m2 静注 day1、250 mg/m2 静注 day8-

喉頭温存のVALCSGの試験では、手術可能な喉頭がんを対象に化学療法に対する反応性を放射線療法の感受性試験的な位置づけにし、手術単独群と、化学療法(CF療法)を行って部分奏効(PR)または完全奏効(CR)であれば放射線療法、変化なし(NC)または進行(PD)であれば手術の群とを比較したところ、両群の生存期間に差はなく後者で喉頭温存ができたとしている[24]。

EORTCでも喉頭・下咽頭がんで、手術単独と、化学療法(CF療法)→CRであれば放射線療法とを比較し、同様に生存期間に差はなく後者で喉頭温存ができたとされ、この方法が行われた[25]。その後、喉頭がんを対象にしたRTOG9101では、放射線療法単独、化学療法(CF療法)→放射線療法+手術、化学放射線療法(シスプラチン+放射線療法[CDDP+RT])の3群による比較試験が行われた。それぞれ、2年喉頭温存率が70%、75%、88%、5年生存率が56%、55%、54%、5年無病生存率が27%、38%、36%と、化学放射線療法が喉頭温存の面で優れていることが報告され[26]、現在喉頭がんに対してはCDDP+RTが標準となっている。

上咽頭がんは手術困難である反面、化学療法と放射線治療に対する感受性が高い。放射線療法単独 vs. 化学放射線療法(CDDP+RT)では、3年無増悪生存期間が24% vs. 69%、3年全生存期間が47% vs. 78%と、どちらも有意にCDDP+RTが優れており現在の標準治療となっている[27]。

術後再発の危険が高いと考えられる場合(切除断端陽性、節外浸潤ありなど)に放射線治療が行われていたが、これを化学放射線療法(CDDP+RT)と比較したEORTC22931[28]とRTOG9501[29]の結果が報告されている。EORTCでは放射線療法vs.化学放射線療法(CDDP+RT)で5年無再発生存率36% vs. 47%、5年生存率40% vs. 53%、5年局所再発率31% vs. 18%、RTOGでは放射線療法vs.化学放射線療法(CDDP+RT)で2年局所制御率72% vs. 82%、無病生存期間はハザード比0.78であった。両者ともに有意に化学放射線療法群が優れているが、遠隔転移の発生割合では両者で両治療群に差はない。この比較試験からも化学放射線療法(CDDP+RT)が再発高危険群の補助療法として標準となっている。

さらなる治療効果の向上のため放射線療法(RT)に併用する薬剤を2剤にしたCDDP+5-FU+RT、5-FU+hydroxyurea+RT、CDDP+パクリタキセル+RTによる第II相比較試験RTOG9703の報告がある[30]。3年生存率が49.7%、62.8%、53.4%と3群間に差はなく、RTOGの単純分割照射、加速多分割照射、CDDP+RTよりも良好な治療成績であった。しかし、毒性は強くなっており、現在も標準化学放射線療法はCDDP+RTである。

放射線の強度を増しての検討も行われている。RTOG0129では放射線治療の強度とCDDPの強度の比較を2010年のAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)で報告している[31]。単純分割照射+CDDP×3 vs. 同時追加照射+CDDP×2で5年生存率は56% vs. 59%で差がなく、CDDPの投与回数と放射線治療期間が生存に関与しているも毒性の増加が懸念されていた。この試験では中咽頭がんの割合が60%を占めていた。中咽頭がんの発症にHPV感染の関与があり、どちらの群の中咽頭がん症例も約半数はHPVが陽性であった。これは独立した予後因子になっており、治療成績に差がなかった一因と考えられ、今後は予後によって分類した集団での臨床試験が必要とされている[32]。

CDDP以外の薬剤として注目されたのが分子標的薬であるセツキシマブ(C-mab)である。放射線療法単独と放射線療法+C-mabの比較試験が行われ[33]、全生存期間が29.3か月 vs. 49.0か月、無増悪生存期間がハザード比0.7で有意であった。この試験での放射線治療法は単純分割照射、多分割照射、同時追加照射(concomitant boost radiotherapy: CBRT)の3種類が許容されていたが、併用して最大効果が得られたのが同時追加照射であった。わが国の治験はこの照射方法で行われた。

CDDP+RTが標準治療であり、CBRT+C-mabが有効であったことから、CDDP+CBRTとCDDP+CBRT+C-mabを比較したRTOG0522がASCO 2011で報告されている[34]。2年無増悪生存期間64% vs. 63%、2年全生存期間80% vs. 83%と有意差はなく、G3-4粘膜炎(35% vs. 45%)はセツキシマブ併用で有意であった。これにより化学放射線療法にセツキシマブの上乗せをしても効果の改善は証明されなかった。

化学放射線療法と分子標的薬併用放射線療法とを直接比較した研究はなく、現状ではエビデンスの十分な蓄積のある化学放射線療法がまず推奨される標準治療である。

[導入化学療法]

TPF療法 ✚✚✚

docetaxel 75 mg/m2 静注 day1

cisplatin 75 mg/m2 静注 day1

fluorouracil 750 mg/m2/日 持続静注 day1-5

3週毎

導入化学療法をTPF療法にしてCF療法を超える治療成績向上を狙った比較試験がTAX323[35]とTAX324[36]である。TAX323はTPF療法またはCF療法→放射線療法、TAX324はTPF療法またはCF療法→化学放射線療法(カルボプラチン+放射線療法)となっている。CF療法vs. TPF療法で、無増悪生存期間はTAX323が8.2か月 vs. 11か月、TAX324が13か月 vs. 36か月、生存期間はTAX323が14.5か月 vs. 18.8か月、TAX324が30か月 vs. 71か月で、どちらもTPF群で優位であった。

TPF導入化学療法→化学放射線療法と化学放射線療法の比較試験がASCO 2012で報告された[37]。化学放射線療法は、ドセタキセル25 mg/m2、フルオロウラシル600 mg/m2、hydroxyurea 500 mg 1日2回、1.5 Gy 1日2回であった。導入化学療法→化学放射線療法vs.化学放射線療法で3年の生存率75% vs. 73%、無病生存率69% vs. 64%と、どちらも良好な成績で差がなかった。G3-4の好中球減少が導入化学療法中に認められた程度で、化学放射線療法中の毒性に差はなかった。原因としては、化学放射線療法の治療成績がよかったこと、もともと予後良好なHPV陽性の集団であったこと、症例集積の鈍化で登録数を減らしたため検出力が低下していることなどがあげられており、まだ検討の余地は残されている。

1. がんの統計 ’11. がん研究振興財団. 2012.
http://ganjoho.jp/public/statistics/backnumber/2011_jp.html

2. 日本頭頸部癌学会編. 頭頸部癌取扱い規約(第5版). 金原出版. 2012.

3. 日本頭頸部癌学会編. 頭頸部癌診療ガイドライン 2009年版. 金原出版. 2009.

4. 日本口腔腫瘍学会・日本口腔外科学会合同委員会編. 口腔癌診療ガイドライン 2009年度版. 金原出版. 2009.

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