A 要因
1.生殖機能障害
2.性機能障害
B 治療
1.男性
2.女性
文献

医療者はがんが引き起こす性と生殖関連の諸問題および対処方法について正確な知識をもつと同時に、治療選択時に患者やパートナーに基本的情報を伝える必要がある。生殖機能保存について関心をもつ患者にはできる限り早い段階で専門家に相談することがすすめられる。

1.生殖機能障害

1)化学療法

[男性、女性ともに性腺に対する影響が不明な薬剤]

タキサン系薬剤、オキサリプラチン、イリノテカン、モノクローナル抗体(トラスツズマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ)、チロシンキナーゼ阻害薬(エルロチニブ、イマチニブ)。

(1)男性

男性における精子の生成に対する影響をリスク別に以下に示す[1]。

・長期にわたる無精子症の要因となりうる薬剤(累積投与量)

シクロホスファミド(19 g/m2)、プロカルバジン(4 g/m2)、メルファラン(140 mg/m2)、シスプラチン(500 mg/m2

・無精子症を高頻度で起こす薬剤と併用されることが多く、単独で無精子症の要因となりうるか不明な薬剤

ブスルファン(600 mg/kg)、イホスファミド(42 g/m2)、アクチノマイシンD

・報告された投与量では長期にわたる無精子症が認められない薬剤

カルボプラチン(2 g/m2

・長期にわたる無精子症の要因となる薬剤との併用で付加的な効果を示すが、単独では一時的な精子数の減少を起こす可能性のある薬剤

ドキソルビシン(アドリアマイシン)(770 mg/m2)、ビンブラスチン(50 g/m2)、ビンクリスチン(8 g/m2

・従来のレジメンで使用する投与量では一時的な精子数の減少だけだが、付加的な影響がありうる薬剤

ブレオマイシン、ダカルバジン、ダウノルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン

・精子生成に影響はない薬剤

インターフェロンアルファ

(2)女性

女性における永久無月経の原因となる化学療法をリスクごとに以下に示す[1]。

・高危険群(80%)

40歳以上でCMF療法、CEF療法、CAF療法×6サイクル

・中等度危険群(20-80%未満)

30-39歳でCMF療法、CEF療法、CAF療法×6サイクル、40歳以上でAC療法×4サイクル

・低危険群(20%未満)

ABVD療法、CHOP療法×4-6サイクル、CVD療法、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病の治療、30歳以下のCMF療法、CEF療法、CAF療法×6サイクル、40歳以下のAC療法×4サイクル

・超低もしくは無危険群

ビンクリスチン、メトトレキサート、フルオロウラシル

(3)妊婦

妊娠初期(0-12週)は胎児の器官形成の時期であり、抗がん剤の投与は避けるべきである。妊娠中期(13-25週)〜後期(26-)は早産、死産、成長遅延などのリスクはあるが、投与可能とされている[2]。

・妊娠中は投与を避けたほうがよい薬剤

アルキル化剤(ブスルファン)、代謝拮抗剤(メトトレキサート)、タモキシフェン、アロマターゼ阻害薬、トラスツズマブ、サリドマイド、分子標的薬(ベバシズマブ、スニチニブ、ソラフェニブ、リツキシマブ、イマチニブ、エルロチニブ)

・妊娠中期〜後期に投与を考慮する薬剤

アントラサイクリン系、フルオロウラシル、シタラビン、ビンカアルカロイド系(ビンブラスチン、ビンクリスチン)、タキサン系、プラチナ系薬剤

・妊婦に対する影響が不明な薬剤

ペメトレキセド、ゲムシタビン、ビノレルビン、オキサリプラチン

2)放射線療法

放射線治療は照射部位、放射線量、患者の年齢等が性機能に影響を及ぼす。横隔膜下への放射線治療を受けた男性と女性の25%は不妊症のリスクがある[3]。

(1)男性への骨盤照射

男性の年齢は不妊のリスクに影響せず、線量に依存する。0.04 Gy以下では一時的な不妊を生じ、0.05 Gy以上では永久的な不妊を生じる[3]。

(2)女性への骨盤照射

卵巣組織に対しては化学療法よりも放射線療法のほうが影響は大きく、線量や年齢に依存する。卵胞、特に成熟卵胞よりも原始卵胞への影響が大きい点が化学療法と異なる。若年者の場合は次の卵胞が成長するまでの約6-18か月間の一時的な無月経ですむこともあるが、40歳以上では0.06 Gy以上で卵巣機能不全になる[4, 5]。0.2 Gyの分割照射を5-6週間受けた40歳以下の女性の95%は不妊症になる[3]。

(3)妊婦への照射[2]

可能なら分娩後に行われるべきである。

妊娠中期〜後期は細部の解剖学的情報が必要とされる時にのみ行われることがある。ガドリニウム含有MRI造影剤(オムニスキャ(R)、マグネビス(R))は胎盤を通過し、催奇形性を有するため投与されるべきでない。

胎児には0.05 Gy以上の過剰な放射線量の曝露を避けるべきである。この線量以下の曝露では一般集団より高い確率での奇形や発達障害は報告されていない。

2.性機能障害

ホルモン療法は、男性に対する影響として女性化乳房や勃起障害、陰茎・精巣の萎縮、性欲の減少・喪失、女性に対して腟の潤滑性の低下や性欲の変化、男性化、気分変動、顔面紅潮、睡眠障害、性交疼痛症などの更年期症状を伴う閉経が現れることがある。

化学療法は、男性に対する影響として性欲の減少がみられるが勃起障害等の影響は受けにくく、女性に対して卵巣機能障害に伴うエストロゲン分泌量の低下による、腟の潤滑性の低下、性欲の変化、気分変動、性交疼痛症などの症状が現れることがある。

放射線療法は、骨盤照射に関し、男性に対する影響として一時的あるいは永久的な勃起障害をきたすことがあり、女性に対して骨盤への脈管・神経損傷、卵巣機能障害に由来する急激な更年期症状(腟の潤滑性の低下、腟乾燥感、ホットフラッシュなど)や、閉経の有無にかかわらず腟組織の炎症と瘢痕収縮によって腟の内腔が狭小化し性交疼痛をきたしやすい。

小線源治療による勃起障害は外部照射と同様の割合でみられるが、発生頻度は患者の年代や体格指数、治療前の性生活に関連したQOLなど多くの要因に依存しており、放射線量が高いほど影響を受ける[6, 7, 8]。

1.男性

マスターベーションで得た精子を凍結保存する方法が生殖機能保護のための最も確立された技術であり、可能な限り治療開始前に実施することが望ましい[1]。

マスターベーション以外に吸引あるいは抽出、鎮静下における電気射精、マスターベーション後の尿サンプルから得た精子を凍結保存する方法が報告されているが、エビデンスレベルは低い。

放射線療法中、精巣に到達する放射線量を減らすためにシールドを使用した報告はあるが、エビデンスレベルは低い。

抗がん剤や放射線治療期間中、精巣組織を保護するための性腺刺激ホル
モン放出ホルモン(GnRHアナログ)投与は、有効性を得られていな
い[9, 10, 11, 12]。

2.女性

パートナーがいる患者に対して、胚凍結保存は治療法が確立されており、最も頻用される方法である[1]。卵子を採取、体外受精をし、凍結保存後移植する。月経開始後10-14日間の卵巣刺激を必要とする。ホルモン陽性乳がんの場合、卵巣刺激を要するため血中エストロゲンレベルの上昇により原病が悪化する場合がある[13, 14]。

パートナーがいない患者に対し、卵子凍結保存や卵巣凍結保存・移植が試みられているが、卵子は胚と比較し保存が難しいこと、卵巣転移の可能性がある場合は卵巣凍結保存が適応とならない等、研究段階である。

放射線療法中、生殖器官へ到達する放射線照射量を減らすためにシールドを使用した報告や、卵巣を照射野外に出す卵巣固定術、卵巣転移などの報告はあるが、エビデンスレベルは低い。

初期の子宮頸がんに限り子宮頸部切除を行った場合、適切な症例におけるがん再発率が高くなるというエビデンスはない。

抗がん剤や放射線治療期間中、卵巣組織を保護するための性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRHアナログ)投与については大規模なランダム化比較試験が進行中である。

1. Lee SJ, et al; American Society of Clinical Oncology. American Society of Clinical Oncology recommendations on fertility preservation in cancer patients. J Clin Oncol 2006; 24(18): 2917-31. [PubMed]

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3. 小島操子, 佐藤禮子監訳. がん看護コアカリキュラム. 医学書院. 2007 pp72-82.

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15. 日本臨床腫瘍学会編. 新臨床腫瘍学 改訂第2版. 南江堂. 2009 pp859-62.

16. 佐藤禮子監訳. がん化学療法・バイオセラピー看護実践ガイドライン. 医学書院. 2009 pp269-80.