A 臨床試験の登録・公開
B 臨床試験登録制度の概要
1.経緯
2.日本における臨床試験登録機関
3.米国における臨床試験登録機関
4.日米以外の臨床試験登録機関
文献

臨床試験登録制度とは、事前に臨床試験情報を適切に公開することにより、その透明性を確保し、臨床試験に参加する患者(被験者)の保護と臨床試験の質を担保するための制度である。

がん領域のみならず、臨床試験を実施しようとする際には以下(1)-(3)に示す理由により臨床試験の登録・公開は必要である。

(1)科学的側面

臨床試験情報を登録・公開することにより、試験進捗に加え、試験結果が論文化(公表)されているのかどうかが把握できるようになるため、いわゆる公表バイアスの防止につながる。

(2)倫理的側面

また、臨床試験情報の登録・公開は同様の臨床試験の乱立防止につながる。仮に試験結果がネガティブで、その治療法と同様の臨床試験が複数実施されていた場合には、それは被験者の不利益となるが、試験結果の公開により、不必要な、意義が失われた研究の重複実施を避けることに役立つ。

(3)臨床試験へのアクセス性の向上

臨床試験情報が登録・公開されることにより、研究者や患者がどのような臨床試験が実施されているのかを把握することが可能となり、これは臨床試験への患者登録促進にもつながりうる。

国立がん研究センターがん対策情報センターでは、研究者向けおよび患者向けのウェブサイトにおいて、がんの臨床試験情報(臨床試験登録サイト)を紹介している[1]。

1.経緯

従来、前向き研究(臨床試験)においては、その実施中にどのような臨床試験が実施されているのかに関する情報が公表されることはなく、試験が最終段階まで実施されない、結果が研究実施者にとって都合の悪いネガティブな結果であった場合には論文化(公表)されないといった問題が生じていた。また、都合のよいポジティブな結果が得られた場合のみ公表され、そうでない場合には公表されないため、これら臨床試験結果を用いた後向き研究(メタアナリシス)の結果も過大評価となってしまっているといった、いわゆる公表バイアスも指摘されていた。

このような背景を受けて、2004年9月に、主要な医学雑誌の編集者の集まりである医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)が「生医学雑誌への投稿のための統一規定(Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals)」を発表し、医学雑誌に臨床試験結果を投稿する際に探索的段階の試験等を除き事前に試験情報の登録・公開を必須とすることを表明した[2]。

ほぼ時を同じくして世界保健機関(World Health Organization: WHO)においても、臨床試験の登録と公開の問題を取り組むべき課題として掲げていた。2005年1月には臨床試験とその結果についての情報へ容易にアクセスできることを目的とした、国際的臨床試験登録プラットフォーム(International Clinical Trials Registry Platform: ICTRP)プロジェクトを立ち上げ、WHOが定めた要件を満たす臨床試験を登録・公開する機関としてWHO Primary Registryの認定を開始している[3]。WHO ICTRPは、各国、各団体が運営する「臨床試験登録システム」の統合を目的としており、WHO、ICMJEをはじめ、世界各国の臨床試験登録機関との連携のもと運営されている。

2.日本における臨床試験登録機関

日本においては、国立大学附属病院長会議(UMIN臨床試験登録システム)[4]、財団法人日本医薬情報センター(Japic CTI)[5]、社団法人日本医師会(臨床試験登録システム)[6]から構成されるJapan Primary Registries Network(JPRN)が2008年10月16日にWHO Primary Registryとして認められた[7](表1)。また、JPRNの運営にあたっては、国立保健医療科学院も参画しており、これら3つの登録機関にある情報を横断的に検索することが可能なポータルサイトを運営している[8]。

表1 Japan Primary Registries Network(JPRN)
登録機関名 システム名 URL
国立大学
附属病院長会議
UMIN臨床試験
登録システム
http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm
財団法人
日本医薬情報センター
Japic CTI http://www.clinicaltrials.jp/user/cte_main.jsp
社団法人日本医師会 臨床試験
登録システム
https://dbcentre3.jmacct.med.or.jp/jmactr/

臨床研究に関する倫理指針(平成20年7月31日全部改正)の「2 研究責任者の責務等(5)」では、「研究責任者は、第1の3(1)1及び2に規定する研究であって、侵襲性を有するものを実施する場合には、あらかじめ、登録された臨床研究計画の内容が公開されているデータベース(国立大学附属病院長会議、財団法人日本医薬情報センター及び社団法人日本医師会が設置したものに限る。)に当該研究に係る臨床研究計画を登録しなければならない。」とあり、国内で実施される治験以外の臨床試験はすべて、これらいずれかの機関を通じて情報を登録・公開することが求められている。

(本章3.「(2)医師主導治験、高度医療評価制度」で述べた先進医療(旧 高度医療評価制度)においても、「先進医療実施届出書」に「14. 試験計画の公表方法(下記のいずれかへの登録の有無)」という欄が設けられている。)

なお、臨床試験情報の登録・公開にあたっては、これらいずれか一つを通じて登録すればよく、複数の臨床試験登録サイトに同一の臨床試験情報を登録する必要はない。また、多施設臨床試験として実施する場合には、一臨床試験として登録すればよく、医療機関単位で登録するべきではない。

3.米国における臨床試験登録機関

米国では2007年FDA改正法(Food and Drug Administration Amendments Act of 2007)の規制対象となる臨床試験を実施する際には、ClinicalTrials.govへの登録が義務化されている[9](表2)。

ClinicalTrials.govは、WHOのPrimary Registryではないが、ICMJEが当初の「統一規定」の中で登録要件を満たす機関として記載していた「登録システム」で、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)が運営し、米国医学図書館(National Library of Medicine: NLM)が支援する最も権威のある登録システムのひとつで、登録数においても世界最大である[10]。

4.日米以外の臨床試験登録機関

日米以外では、表3に示す臨床試験登録機関がWHO Primary Registryとして認められている。

JAMA、New England Journal of MedicineThe Lancetなどの一定レベル以上の医学雑誌へ臨床試験結果を投稿するには、臨床試験情報が登録・公開されていることが必須とされていること、また、わが国においては平成20年の全部改正で「臨床研究に関する倫理指針」に明記されたこともあり、臨床試験登録は浸透しつつある。

西内らの報告[11]にもあるように、臨床試験情報は事前に登録・公開されるだけでなく、試験終了後にどのような結果が得られたのかを明らかにする(UMIN臨床試験登録システムでいう「試験結果の公開状況」、「結果掲載URL」、「主な結果」の情報を更新する)ことが必要で、そのためのフォローアップをいかに進めていくべきかが今後重要である。

本稿で概説したWHOにおける取り組みについては、ICTRPのサイトに最新の情報が掲載されており、また、わが国における臨床試験登録の実際や経緯等より詳細な内容は、UMIN臨床試験登録システム(UMIN-CTR)サイトに掲載されているため、ぜひ参照いただきたい。

1. 独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター. がん情報サービス. http://ganjoho.jp/public/index.html

2. International Committee of Medical Journal Editors. Clinical Trial Registration: A Statement from the International Committee of Medical Journal Editors. http://www.icmje.org/clin_trial.pdf

3. WHO International Clinical Trials Registry Platform (ICTRP). http://www.who.int/ictrp/en/

4. UMIN臨床試験登録システム. http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm

5. JAPIC 医薬品情報データベース. http://www.clinicaltrials.jp/user/cteSearch.jsp

6. JMACCT 臨床試験登録システム. https://dbcentre3.jmacct.med.or.jp/jmactr/

7. 厚生労働省. 世界保健機関による日本の治験・臨床研究登録機関の認定について(Japan Primary Registries Networkの認定について). http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/10/tp1017-1.html

8. 国立保健医療科学院. 臨床研究(試験)情報検索. http://rctportal.niph.go.jp/

9. 2007年FDA改正法(Food and Drug Administration Amendments Act of 2007)成立に伴う米国における臨床試験登録および結果開示への影響. https://dbcentre3.jmacct.med.or.jp/jmactr/App/JMACCT/Sources/FDAAA2007.pdf

10. ClinicalTrials.gov. http://clinicaltrials.gov/

11. 西内啓, 木内貴弘. 臨床試験登録の必要性,現状とその展望. 臨床薬理 2009; 40(3): 111-7.