A 未承認医薬品、適応外医薬品
B 医師主導治験
C 高度医療評価制度
文献


現在の標準治療は、過去に実施された臨床試験の結果に基づいており、新たな標準治療(新しい治療法)を確立するには新たな臨床試験を行う必要がある。

新たな臨床試験を行う際には、現在、ある適応症が薬事法で承認され保険適用されている医薬品のみならず(保険診療下での臨床試験)、これらに該当しない医薬品の使用が必要な場合もある。

本稿では、日本で医師自らが未承認医薬品、適応外医薬品を用いた新しい治療法を確立するにあたって、知っておくべき臨床試験にかかわる制度として、医師主導治験、高度医療評価制度を紹介する(医師主導治験、高度医療評価制度はともに医薬品のみならず医療機器も対象としているが、本稿では医薬品の場合を取り上げる)。

まず、医師主導治験、高度医療評価制度を紹介する前に、未承認医薬品、適応外医薬品について取り上げる。

・未承認医薬品
(1)国内外の薬事制度で承認されていない医薬品。
(2)いずれかの国の薬事制度で承認されているものの、日本の薬事法では承認されていない医薬品。

・適応外医薬品
日本の薬事法で何らかの適応が承認されているものの、必要としている疾患に対して薬事法の承認がない医薬品。
新しい治療法を評価するため手段としては図1に示すような選択肢が考えられるが、用いようとする医薬品が未承認医薬品であるのか、適応外医薬品であるのかの違いで臨床試験を実施する際に求められる要件が異なってくるため、まずは用語の違いを把握しておくことが必要である。

医師主導治験は、採算性の問題などから企業が積極的に開発しない医薬品であるなどの理由で日本では未承認、あるいは適応外の医薬品について、医師自らが治験を実施することで薬事法上の承認を取得する制度である。

2002(平成14)年7月の薬事法改正により、「自ら治験を実施する者」に関する規定が初めて設けられ、2003(平成15)年6月の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」、いわゆるGood Clinical Practice(GCP)の改正により、従来は薬事法上未承認・適応外の医薬品を用いた治験を医師自ら実施することはできなかったが、この新たに設けられた医師主導治験にかかわる制度の枠組みの中では、これが可能となった[1, 2]。

医師主導治験は、後述の高度医療と同様、保険外併用療養費制度下の評価療養の対象として扱われ、通常の診療にかかわる部分については保険診療下での実施が可能とされている(表1)。

医師主導治験では治験依頼者(企業が実施する治験で企業が果たす役割を担うもの)が存在せず、医師自らが治験を実施する者としてGCPを遵守し、治験を企画立案し、必要な書類の作成、手続きを行わなければならない。すなわち、治験実施計画書、治験薬または治験機器概要書、症例報告書の見本などの作成に始まり、治験計画届書や副作用報告書の提出、モニタリング手順書、監査に関する計画書および業務に関する手順書などの作成、治験総括報告書の作成も自ら治験を実施する者が行うことになる(図2)。

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これらの作業、手続等は企業が実施する治験であれば相当の人数で行われているが、医師主導治験では現状では医師および治験コーディネータ(CRC)などの少数の協力者で行わざるを得ない。そのため、医師主導治験をより活発に実施するには、支援体制を拡充するためのマンパワーの確保、インフラ整備も必要である。

医師主導治験の結果、当該医薬品の安全性、有効性が確認された場合には、治験薬提供者(企業)によって厚生労働省に薬事法上の製造販売承認申請がなされ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency: PMDA)により審査されることとなる。PMDAでは、申請資料が倫理的かつ科学的に信頼できるものであるかどうかが調査される(信頼性調査)とともに、当該医薬品の効果や副作用、品質等についての審査(承認審査)がなされ、有効性が示され、安全性上の問題が臨床的に得られるメリットに見合うものと判断された場合には、厚生労働省に設置されている薬事・食品衛生審議会の諮問・答申を経て厚生労働大臣の承認を受ける、すなわち、当該医薬品は薬事法で承認され、その後保険収載(保険適用)されることとなる。

医師主導治験の届出件数は、平成16年度7件、平成17年度11件、平成18年度5件、平成19年度15件、平成20年度8件、平成21年度15件、平成22年度10件、平成23年度59件の計71件となっている[5]。

医師主導治験は、特に多施設共同で実施する場合にあたっては治験届の届出手続きや治験薬管理などに運用しにくい面があった。しかし、前者の治験届の届出手続きについては、これまで多施設共同試験では医療機関ごとに必要となる「自ら治験を実施する者」の届出書類に全員連名で記名押印する手続きが必要であったが、「自ら治験を実施する者」を代表する「治験調整医師」が届け出ることが可能となり、他の「自ら治験を実施する者」の記名押印が不要となったり、後者の治験薬管理については、これまで治験薬の容器や被包に「自ら治験を実施する者」全員の氏名、職名、住所を列記していたものが、治験審査委員会(IRB)の承認が得られれば、「治験調整医師」(当該治験実施計画書の解釈その他の治験の細目について調整する業務を担当する医師)のみの氏名、職名、住所の記載で可能となったなど、関連する通知の改定により治験調整医師の役割が広がり、実施しやすくなった[6, 7]。

また、日本医師会治験促進センターでは、治験推進研究事業として医師主導治験の実施を支援している[8]。

高度医療評価制度は、医療の高度化とこれらの医療技術に対する患者のニーズ等に対応するとともに、薬事法上の申請等につながる科学的評価可能なデータ収集の迅速化をはかることを目的として、未承認あるいは適応外の医薬品を用いる医療技術を、一定の要件の下に保険診療と併用することを認める制度で、2008(平成20)年4月に設けられた[9, 10, 11, 12]。

高度医療評価制度は、先行して設けられた先進医療制度に包含されるものであり、高度医療評価制度で認められる医療技術(以下、高度医療)は、先進医療制度で認められる医療技術(以下、先進医療)の一類型として位置づけられており、この制度下で実施する臨床試験は前述の医師主導治験と同様、保険外併用療養費制度下の評価療養の対象として扱われ、通常の診療にかかわる部分については保険診療下での実施が可能とされている(表1)。

高度医療評価制度に関連する各種通知・文書等では、先進医療を「第2項先進医療」、高度医療を「第3項先進医療」として記している場合がある。また、「先進医療」という用語が第2項先進医療と第3項先進医療をともに包含する場合(“広義の”先進医療)と第2項先進医療のみを指す場合(“狭義の”先進医療)とがあり、同じ表現であっても意味する内容が異なる場合があることに留意されたい(図3)。先進医療制度、高度医療評価制度は、それぞれ先進医療専門家会議、高度医療評価会議で審査・承認されることとなるが、前述のとおり先進医療の一類型として高度医療が含まれることから、それぞれの会議がカバーする範囲も図4のような包含関係となっている。すなわち、高度医療評価制度下で臨床試験を実施しようとした場合には、高度医療評価会議での評価(審査・承認)に続いて、先進医療専門家会議での評価(審査・承認)を経てはじめてその実施が可能となる。

高度医療としてその臨床試験の実施が認められるためには、医療機関としての要件、医療技術や臨床試験実施計画が満たすべき要件がそれぞれあげられている。詳細は割愛するが、高度医療評価制度下で臨床試験を実施するには、「臨床試験に関する倫理指針(平成20年厚生労働省告示第415号)」の遵守とともに、「高度医療に係る申請等の取扱い及び実施上の留意事項について(医政発第0331021号 平成21年3月31日)」(医政局長通知)において「試験記録の保管や管理が適切に行われ、データの信頼性が一定程度確保されている」ことが求められており、医師主導治験と同様、マンパワーの確保、インフラ整備が重要であることにも留意されたい。

高度医療として臨床試験の実施が認められた医療技術に用いる医薬品を日常診療として広く保険診療下で使用できるようにするためには、最終的には薬事法上の製造販売承認を取得する必要がある。薬事法上の製造販売承認は、以下の方法のいずれかで取得されることとなる。

一つめは、適応外医薬品が対象となるが、高度医療評価制度の下で実施された臨床試験の結果が公表され、治療ガイドラインに掲載されるなど専門家集団で受け入れられ、当該医療技術の有効性ならびに安全性が医学薬学上公知とみなされるようになった場合には、「適応外使用に係る医療用医薬品の取扱いについて(研第4号、医薬審第104号 平成11年2月1日)」(平成11年通知)に基づく、いわゆる公知申請を企業が行うという方法である。

二つめは、未承認医薬品を用いた高度医療の場合に必要な対応となるが、現状の薬事法ならびに関連する規制の下では高度医療評価制度下で実施した臨床試験結果のみに基づき薬事法上の製造販売承認が得られることはないため、高度医療評価制度の下で実施された臨床試験結果に基づき、薬事法の下で企業治験(ないしは医師主導治験)を実施し、その結果をもって薬事法上の製造販売承認申請を行うという方法である。

後者の、日本の薬事法では承認されていない医薬品について最終的に企業の関与を必要とするという仕組みは、一見非合理にもみえるが、薬事法上いかなる適応においても承認されていない医薬品を用いた医療技術を保険診療の中に組み込むためには、当該医薬品の品質の担保、安定した製造・流通の確保、各種安全対策等の規制要件への対応など、製造販売に対して責任をもつ組織の関与が必要であり、そのような組織の関与を念頭に置かない医薬品の開発は非現実的である。

適応外医薬品を用いる場合、未承認医薬品を用いる場合、いずれであっても、高度医療評価制度下で臨床試験を実施しようとする場合には、将来、その臨床試験結果に基づき企業が公知申請の枠組みで薬事法上の適応拡大のための承認申請を行うことを期待しているのか、その臨床試験の後に行われる治験ないしは医師主導治験の結果に基づき企業が薬事法上の製造販売承認申請を行うことを期待しているのか等といった開発ロードマップを明確にしておくことも必要である。

このような制度の導入後、どの程度の臨床試験が行われているかについてまとめると、2008(平成20)年4月以降2012(平成24)年6月現在までに、延べ46の臨床試験が高度医療評価会議に諮られ、38の臨床試験が高度医療として実施されており[13]、うち16試験が「適応外使用」、20試験が「未承認」、2試験が「適応外」と「未承認」との両方を含む医療技術(医薬品、医療機器)を用いた臨床試験である。

先進医療(その一類型である高度医療を含む)は、審査体制の効率化、重点化をはかることを目的として見直しが検討され、2012(平成24)年10月1日より新しい制度で運用が開始された[14]。新制度では、現行の先進医療専門家会議、高度医療評価会議の両会議における審査が一本化され、第2項先進医療(先進医療)、第3項先進医療(高度医療)の名称もそれぞれ「先進医療A」、「先進医療B」と改められ、その対象も表2のとおり変更される。

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新制度では、年1回の「定期報告」に加え、試験期間もしくは症例登録の終了時に「総括報告書」の提出が必要となる。一方で、従来、未承認・適応外医薬品を用いた医療技術の申請時に数例以上の使用実績が必要であったものが、高度で質の高い臨床研究を実施することのできる医療機関(早期・探索的臨床試験拠点、臨床研究中核病院等)において医療技術が有効で安全に実施可能なことが明らかである場合には、実績が問われなくなった。

最新の情報、変更の経緯等については、厚生労働省のWebサイトや、これらサイトからリンクされている関係会議における資料・議事録等も参照されたい[14, 15]。

医師主導治験にかかわる制度、高度医療評価制度が設けられたことにより、従来企業のみがイニシアチブをとって行われてきた医薬品の研究開発とは別に、臨床現場での問題意識に基づき医師が研究開発のきっかけをつくる、需要本位(needs-driven)な研究開発の道が開かれた。

薬事制度や、医師主導治験にかかわる制度・高度医療評価制度、それらに関連した行政的な知識は、医師には関心の薄いものであるかもしれない。しかし、臨床試験(治験を含む)の結果がどのように評価されるのかを知らなければ、臨床試験の質を高く保つために必要なこと・不要なことを区別することは難しい。また、新たに見出されたシーズがどのような過程を経て臨床現場に届くのかを知らなければ、新たなシーズを評価するための倫理的・科学的な臨床試験実施計画や治療開発戦略の立案は困難である。治療開発の結果を日常診療に反映させるためには、医師自らが医師主導治験、高度医療評価制度などといった社会の制度を知っておく必要がある。

1. 藤原康弘(編). 医師主導治験業務の実際. じほう. 2008.

2. 清義之, 山本学. 治験促進センターの活動 4 医師主導治験について. Clinical Research Professionals 2010; 19: 36-9.

3. 全国健康保険協会. 保険外併用療養費. http://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31704/1954-20862

4. 厚生労働省. 保険診療と保険外診療の併用について. http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/heiyou.html

5. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. 業務報告 平成22年事業年度. http://www.pmda.go.jp/guide/outline/report/report_22.html

6. 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知. 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」の運用について(薬食審査発1024第1号, 平成23年10月24日).

7. 厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知. 自ら治験を実施しようとする者による薬物に係る治験の計画の届出等に関する取扱いについて(薬食審査発0221第1号, 平成24年2月21日).

8. 社団法人日本医師会 治験促進センター. 医師主導治験. http://www.jmacct.med.or.jp/clinical-trial/index.html

9. 堀田知光. わが国における未承認薬・未承認適応の現状と課題. Capsule 2009; 87: 4-9.

10. 藤原康弘. 高度医療評価制度. 腫瘍内科 2010; 5(4): 419-25.

11. 宮田俊男. 抗悪性腫瘍薬の適応外使用における高度医療評価制度の活用. 腫瘍内科 2011; 7(1): 121-4.

12. 柴田大朗. 先進医療制度・高度医療評価制度. 西條長宏, 他(編). がん化学療法・分子標的治療update. 中外医学社. 2009.

13. 厚生労働省. 先進医療の各技術の概要.
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan03.html

14. 厚生労働省. 旧高度医療評価制度について. http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/koudoiryou-hyouka/index.html

15. 厚生労働省. 審議会・研究会等(医生局) 高度医療評価会議. http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008zaj.html