A 疫学
1.脱毛の発生機序・頻度(表1)
2.脱毛の評価
B マネジメント
1.化学療法開始前のオリエンテーション
2.脱毛時の援助
3.化学療法終了後の支援
4.脱毛予防について
文献

近年がん薬物療法は、様々な臨床試験の結果化学療法の有用性が明らかとなり、適応範囲も拡大されたことにより、多くの患者は化学療法を受けるようになった。また副作用対策の進歩によって日常生活を送りながら外来で安全に化学療法を行えるようになったが、脱毛は患者にとって大きなストレスを与える副作用のひとつである。生命に直接かかわるものではないが、他人から見てわかってしまうという精神的苦痛が大きくQOLを低下させる副作用である。そのため患者には脱毛の現状や脱毛する時期、髪質の変化や育毛状態、まゆげやまつげの変化など具体的にイメージのつくオリエンテーションを行い、患者の予期的悲嘆への十分なサポートが重要であると考える。

1.脱毛の発生機序・頻度(表1)

抗がん剤による脱毛の機序は明らかではないが、毛包内にある毛母細胞が障害された結果であると考えられている。毛包には毛周期があり成長期・退行期・休止期のサイクルを繰り返している。毛髪は成長期に伸長し、休止期に脱毛する。頭髪の成長期は2-6年で、頭髪の85-90%を占めており、成長の速度が速く抗がん剤の影響を受けやすい。

抗がん剤の影響による脱毛は、成長期脱毛と休止期脱毛に分けられる(図1)。成長期脱毛は、毛母細胞が障害され細胞分裂が抑制されることにより成長期が中断され、毛根が変性壊死することにより脱毛が生じる。そのため抗がん剤治療から約2-3週間で脱毛が始まる。一方、休止期脱毛は、毛母細胞に対する障害は弱いが、障害を受けた毛母細胞が急速に休止期に移行することによって脱毛が生じるため、治療後3-6か月で脱毛が生じる。

抗がん剤治療による脱毛は一過性でありかつ可逆性であるため、抗がん剤治療終了後約1-3か月で毛母細胞の再生が始まり1年程度で回復してくるが、個人差がある。再生後の毛髪は髪質が脱毛前と異なったり、部分的に伸びる速度が違うと訴える患者も多い。

2.脱毛の評価

脱毛の評価はCommon Terminology Criteria Adverse Events(CTCAE ver.4.0)を用いる(表2)。

1.化学療法開始前のオリエンテーション

化学療法といっても薬剤により脱毛の程度は様々である。アントラサイクリン系を含む多剤併用療法やタキサン系薬剤では脱毛は必発する。その事実は隠さずきちんと説明し、共に対応策を考える。しかし脱毛は一過性で可逆性であるため、投与が終了すればまた生えてくることも説明する。

(1)化学療法開始前の患者に対して具体的な情報提供を行う

脱毛の時期や抜け方について説明する。投与後2-3週間目くらいから脱毛が始まり、抜け始めると4、5日で全体の70-80%が脱毛することを伝える。また抜け始めの頃に「頭皮がぴりぴりする」とか「頭皮がむずむずする」などといった症状を訴える患者もいる。

(2)治療前になるべく頭髪を短くすることをすすめる

脱毛を目立ちにくくし、脱毛量を減らすことが目的である。頭髪を剃ってしまうと頭皮を傷つけることになるのですすめられない。

(3)かつらや帽子、スカーフ、つけ毛の紹介を行う

かつらの準備において、患者によって様々な思いがある。とにかく周りの人々にかつらであることを知られたくないと思っている人が多いので、その場合はなるべく現在の髪型やカラーに近いかつらを選択してもらう。

かつらを購入する際に注意が必要で、サイズの調整ができるものを選んでもらう。以前デパートで帽子のようにかつらを購入したら、脱毛した後、かつらがゆるくなり結局もう1つ購入した患者がいた。かつらは人毛・混合毛・人工毛の種類がある。それぞれの特徴についても説明を行う。患者にとって利便性の高いものを選択してもらう。値段も選択するうえで大きな要因となるが、実際にかつらを使用する時期は平均すると1年程度にはなるので、その旨理解してもらったうえで購入をすすめる。患者によってはかつらをおしゃれととらえ、今までとは違う髪型やカラーを選ぶ人もいる。脱毛を苦痛と感じるのではなく、おしゃれととらえて選ぶこともよい方法であると後押しする場合もある。脱毛というボディイメージの変化をどのようにとらえているかを知り、アドバイスすることは重要であると考える。また脱毛時の対応として、かつらだけでなく帽子やバンダナ、つけ毛などで工夫している人も多いので、それらの紹介も合わせてすすめることもよい方法である。

化学療法による脱毛は頭髪だけでなく、薬剤によってはまゆげやまつげも抜ける。さらに鼻毛や陰毛、体毛も抜ける場合がある。まゆげやまつげの脱毛に対しては、化粧やつけまつげなどで対応してもらう。また鼻毛が抜けた患者は乾燥しやすく、少しの刺激で鼻出血すると話す。その場合はワセリンなどを使用し、鼻腔内の湿潤を促すようにすすめている。

2.脱毛時の援助

脱毛初期は、頭皮を清潔に保つよう心がける。脱毛を恐れず脱毛前と同様にシャンプーで頭皮を洗い、十分に洗い流すよう指導する。頭皮の清潔を保つ目的は、治療中の骨髄抑制の時期と重なると毛包炎などによる頭皮湿疹ができやすいからである。またリンスは頭皮には必要ないもので、脱毛時はシャンプーによる洗髪だけで十分である。

頭皮に刺激の少ないブラシを使用する。

ドライヤーはできれば避ける。使用する場合は低温で頭皮を痛めないように使用する。

脱毛が始まったら、自宅ではシャワーキャップをかぶるとよい。シャワーキャップの中に抜けた頭髪ごと捨てられるという手軽さがある。また始終かつらを装着していると頭部の締め付け感が強くリラックスできない。自宅にいる時はなるべくかつらを外しシャワーキャップや帽子・スカーフなどで通気性も保つことをすすめる。

治療中の育毛剤の使用は、血行を促進し毛根の代謝を活性化させる作用があるためさらに毛根にダメージを与える可能性があるので、使用は避けるように指導する。

治療中の頭皮ケアは治療終了後の育毛にも影響するので、頭皮の清潔や湿疹対策は重要である。

3.化学療法終了後の支援

化学療法が終了すると約3か月程度で全体の頭髪が生えそろってくる。この時期にはバランスのよい食事をとることが大事で、特に髪や頭皮を強化するために重要なミネラル(根菜・海藻・貝類)を多く含んでいる食事をすすめる。

頭皮のマッサージや育毛剤の使用は頭皮の血行を促進するのでよいとされている。この時期に多い質問は「いつから毛染めをしてよいか」とか「パーマをかけてよいか」というものである。しかしいつからならよいという具体的な指標はなく、経験上医師からは3か月程度経過したらなるべく頭皮に対して低刺激なものを美容師と相談のうえ使用してもらうようにと説明している。

また生え始めた頭髪が以前と違う髪質であるという話もよく聞く。以前より髪が細くなった、以前は直毛だったのにウエーブが出てきた、白髪が増えたなどという意見である。これらも、だいたい2-3年程度で以前と同様の髪質に戻ったという人が多いが、戻らないという人もいる。個人差があるので、個別な対応を行っていくことが重要である。

4.脱毛予防について

脱毛予防として、化学療法中に頭部冷却やミノキシジルなどの薬剤を使用したという方法が試みられている[3, 4, 5, 6]。これらの方法により、脱毛が軽減されたという報告もあるが、完全に脱毛を予防することはできず、有効性は示されていない。またその後の頭部転移の危険性が危惧された。

1. 吉田清一監. がん化学療法の有害反応対策ハンドブック 第4版. 先端医学社. 2004.

2. 佐々木常雄編. がん化学療法ベスト・プラクティス. 照林社. 2008 p116.

3. Dorr VJ. A practitioner’s guide to cancer-related alopecia. Semin Oncol 1998; 25(5): 562-70. [PubMed]

4. Vendelbo Johansen L. Scalp hypothermia in the prevention of chemotherapy-induced alopecia. Acta Radiol Oncol 1985; 24(2): 113-6. [PubMed]

5. Rodriguez R, et al. Minoxidil (Mx) as a prophylaxis of doxorubicin--induced alopecia. Ann Oncol 1994; 5(8): 769-70. [PubMed]

6. Duvic M, et al. A randomized trial of minoxidil in chemotherapy-induced alopecia. J Am Acad Dermatol 1996; 35(1): 74-8. [PubMed]

7. 国立がんセンター中央病院看護部編, 丸口ミサヱ, 他責任編集. がん化学療法看護 スキルアップテキスト. 南江堂. 2009 pp103-10.