A 抗がん剤投与前のリスク評価
B 薬剤性間質性肺炎の診断
1.どのように発見するか
2.確定診断
C 薬剤性肺障害の治療
1.一般的な初期対応
2.例外的な対応(mTOR阻害薬の場合)
3.薬物治療
文献

薬剤性肺障害は、様々な薬剤で発現しうる間質性肺炎を主たる病型とした副作用であるが、なかでも抗がん剤は代表的な原因薬剤である。抗がん剤による間質性肺炎は重篤となる場合も多々あるため、患者のQOLを大きく損なう可能性が高い。薬剤性肺障害のマネジメントは発見・診断・治療から構成されるが、適切なマネジメントを行うためにはある程度習得しておくべき知識があり、特に診断後の対応については、一般的な事項の他に覚えておかなければならない特殊なケースも最近では出てきており、最新情報を理解しておく必要がある。

抗がん剤による治療に先立ち、薬剤性肺障害のリスク評価を行っておく必要がある。

薬剤性肺障害の発現状況の詳細を調査する目的で、3000例を超える日本人の非小細胞肺がんを対象にコホート内ケースコントロールスタディが行われた[1]。ゲフィチニブが従来の抗がん剤による化学療法以上に間質性肺疾患を起こしやすいことが示されたが、その他に、ゲフィチニブとゲフィチニブ以外の抗がん剤とで共通した間質性肺疾患の危険因子や予後不良因子が特定されている。すべての抗がん剤あるいは肺がん以外の領域にあてはまるかどうかは不明であるが、少なくとも非小細胞肺がん領域では参考となるデータである。

・危険因子

(1)55歳以上

(2)performance status 2以上

(3)喫煙

(4)正常肺占有率50%以下

(5)既存の間質性肺疾患

(6)心疾患の合併

・間質性肺疾患の予後不良因子

(1)65歳以上

(2)喫煙

(3)既存の間質性肺疾患

(4)正常肺占有率50%以下

(5)胸膜の癒着領域が50%以上

治療開始前には、performance statusと間質性肺疾患の有無や既存肺の状態から抗がん剤の適応を慎重に判断すべきといえる。既存の間質性肺炎はリスク因子として特に重要であり、治療開始前の評価方法は以下の3つが有用である。

(1)胸部聴診:fine cracklesなどの複雑音の有無。

(2)胸部X線撮影・胸部CT:すりガラス影、網状影、蜂巣肺などの間質性肺炎の所見の有無。

(3)呼吸機能検査:換気障害、肺拡散能の異常の有無。

異常を認めた場合には、専門医に相談することを考慮する。

なお、多くの抗がん剤で、間質性肺炎あるいは肺線維症の既往のある場合には慎重投与とされ、なかには禁忌とされているものもあることに注意する(イリノテカン、ゲムシタビン、アムルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシンなど)。

各薬剤での肺障害の発現頻度は、臨床試験成績、市販後調査、個別の施設データなど様々な情報源があるが、日本の治験データに基づいている添付文書上の発現頻度の記載を表1に示す。

1.どのように発見するか

薬剤性肺障害はいつだれに発現するのかは予測できない。肺障害がどのように発見されるのかについては、大きく分けて2通りある。一つは症状であり、もう一つは検査所見からの発見である。以下の所見が抗がん剤投与後に認められた場合には、薬剤性肺障害を疑い、さらなる検査を経て診断を進める。

1)症状

自覚症状は、一般的に、呼吸困難、乾性咳嗽および発熱などの非特異的症状である。

他覚症状は、胸部聴診におけるfine cracklesなどの副雑音の聴取であり、バイタルサインでは呼吸回数の増加、発熱などである。

2)検査所見

自覚症状が認められず、胸部画像検査(X線撮影、CTなど)を契機に発見されることがある。したがって、胸部画像検査を実施しないと見過ごす可能性がある。

間質性肺炎を発症しやすい抗がん剤では、投与後に胸部画像検査(X線撮影、CTなど)を定期的にチェックし、肺障害のモニタリングを行うよう推奨されているものもある(ブレオマイシン、mTOR阻害剤、膵がんに対するエルロチニブなど、表2参照)。

2.確定診断

薬剤性肺障害の診断は疾患特異性の高いマーカーがないため、診断は除外診断に依存する。診断基準[2]を表3に示す。

実際には以下に述べるような鑑別診断を進めたうえで薬剤性肺障害と診断するが、再投与(表3中の(5))についてはリスクを伴うことから、疑った時点以降に再投与し再現性を確認することは実施困難である。

具体的に、薬剤性肺障害と鑑別すべき疾患は、がん病変の悪化、呼吸器感染症、うっ血性心不全、薬剤とは関連のない間質性肺疾患、放射線肺臓炎、誤嚥性肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪、肺血栓塞栓症など、多岐にわたる。これらは各々異なる病態であるが、前述したように薬剤性肺障害の症状は非特異的であるため、このように多くの疾患が鑑別対象となる。これらの疾患を鑑別するためには様々な検査が必要となる。薬剤性肺障害の診断のフローチャートを図1に示す。

がん患者は免疫能低下がみられ、ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス肺炎など、間質性肺炎との鑑別が画像上難しい日和見感染症を起こしやすいことには注意が必要である。KL-6は間質性肺炎のマーカーであるが、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎でも上昇する場合がある。β-D-グルカンは間質性肺炎では上昇しないが、ニューモシスチス肺炎で上昇するため、鑑別に有用である。また、感染症の鑑別には喀痰検査の他、気管支鏡検査も有用である。たとえば、ニューモシスチス肺炎は、気管支肺胞洗浄液の塗抹標本による菌体の確認が最も迅速な診断方法であり、疑わしい場合には積極的に検査すべきである。

1.一般的な初期対応

原因薬剤を中止することが原則である。原因薬剤の中止のみにより軽快する場合もあるが、間質性肺炎はしばしば重篤であるため、ステロイドの投与が行われることも多い。ただし、ステロイドの投与前には感染症の鑑別を十分に行っておく。

2.例外的な対応(mTOR阻害薬の場合)

mTOR阻害薬(エベロリムス、テムシロリムス)については、一般的な対応はあてはまらない。概要は以下のとおりである。

(1)無症候性の間質性肺炎:mTOR阻害薬を継続し、慎重に経過観察。

(2)軽度の症状がある場合:mTOR阻害薬を休薬し、ステロイド投与を考慮。

(3)日常生活に支障のある症状がある場合:mTOR阻害薬を中止、ステロイド投与。

また、(2)の場合には、間質性肺炎が軽快した場合には、リスク・ベネフィットを考慮のうえ、mTOR阻害薬の再開も可能である。

なお、mTOR阻害薬は免疫抑制作用を有するため、日和見感染についても留意する。特に、間質性肺炎と同様の画像所見を呈するニューモシスチス肺炎は誤診することがないよう注意が必要である。

詳細は各々の適正使用ガイド[3,4]を参照されたい。

3.薬物治療

薬剤性肺障害に対するステロイド投与方法は、厳密な検討はなされておらず、概して経験的な治療法であるが、一般的に、以下のような投与がなされる。重症度に応じて、たとえば呼吸不全を伴うような重症例に対しては、ステロイドの大量投与も考慮する[5]。

・prednisolone 0.5-1 mg/kg/日(通常、開始量を4週間投与した後漸減する)✚[5]

・重症例では、methylprednisolone 500 mg-1 g/日 3日間✚[5]

薬剤性肺障害のパターン別にみたステロイドの治療反応性という点では、好酸球性肺炎(eosinophilic pneumonia)、細胞浸潤を主体とする非特異性間質性肺炎(cellular nonspecific interstitial pneumonia)、器質化肺炎(organizing pneumonia)、過敏性肺炎(hypersensitivity pneumonia)のパターンは良好な反応性を期待できる。一方で、びまん性肺胞障害(diffuse alveolar damage: DAD)や、まれではあるが通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia)などの線維化が強いパターンは反応性が乏しい。治療に反応が乏しく呼吸状態が悪化する場合には人工呼吸管理を必要とすることもある。

ステロイドの反応性が乏しい場合の薬物治療方法は明らかではない。免疫抑制剤が投与されることもある。

治療後に間質性肺炎が改善した場合にはステロイドの減量を行うが、急速な減量または中止は再燃を誘発する可能性があることに注意する。一方、治療経過によってはステロイドを長期投与する場合もあり、その際には日和見感染症の発症に注意しながら慎重に経過観察を行う。ST合剤によるニューモシスチス肺炎の予防も考慮する。

1. Kudoh S, et al. Interstitial lung disease in Japanese patients with lung cancer: a cohort and nested case-control study. Am J Respir Crit Care Med 2008; 177(12): 1348-57. [PubMed]

2. Camus P. Drug induced infiltrative lung diseases. In Schwartz MI, King Jr TE (eds). Interstitial Lung Disease 4th ed. B.C. Decker. 2003.

3. アフィニトール(R)錠5mg 適正使用ガイド. ノバルティスファーマ株式会社.

4. トーリセル(R)点滴静注液25mg適正使用ガイド. ファイザー株式会社.

5. 日本呼吸器学会薬剤性肺障害の診断・治療の手引き作成委員会. 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き. メディカルレビュー社. 2012.