A 疫学・診断
1.口内炎の発生機序
2.発生頻度
3.発生時期と発症期間
4.症状
5.口内炎を起こしやすい薬剤
6.評価方法
B 口腔粘膜炎の管理
1.予防
2.治療
文献

がん治療により口腔内粘膜炎が起こると、疼痛による水分や食事摂取量の低下から脱水や栄養状態の悪化、さらには会話が困難となることもある。また、口内炎が感染症の原因となる場合もある。これらの合併症の治療に使用するオピオイド鎮痛剤、栄養剤、抗菌剤などの費用は一般的に粘膜炎の重症度に相関して増加することが知られている。粘膜炎の発生防止または症状軽減は、QOLを改善し、治療費を減少させるために必要とされている[1]。

さらに、口内炎の発症により抗がん剤の減量やがん治療を中止した場合、がん治療の目的を達成することが困難となり、患者のQOLは著しく低下することになる。患者のがん治療による利益確保のためにも口内炎に対して積極的に予防の段階から取り組んでいく必要がある。

1.口内炎の発生機序

化学療法における口内炎の発生機序は、化学療法が口腔粘膜へ直接作用して障害が生じるもの(一次口内炎)と、白血球減少などに伴う骨髄抑制による口腔内感染が原因となるもの(二次口内炎)が考えられている。

また、放射線による口内炎の発生機序は、放射線照射により唾液腺組織に障害が生じ、唾液の分泌低下により口腔内の自浄作用が低下し局所感染が起こることで発生する(一次口内炎)と考えられ、さらに、化学療法と同様に治療による骨髄抑制により起こる口腔内感染が原因となる(二次口内炎)。

口腔粘膜炎の病態は、5段階に分類される[2, 3](図1)。

第1期(開始期):放射線や抗がん剤による細胞毒性で粘膜細胞内に活性酸素が発生し、細胞のDNAを損傷することで細胞死を引き起こす。

第2期・第3期(シグナル伝達・増幅期):上記と同様に、活性酸素により血管内皮細胞、線維芽細胞、マクロファージ、上皮細胞が活性化し、炎症サイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6など)を放出し、細胞死を引き起こす。炎症性サイトカインによる組織障害が、さらなるサイトカインを誘導し障害はさらに増幅される。このため粘膜炎はさらに増悪する。

第4期(潰瘍期):これまでの障害により粘膜表面では上皮層が破壊され、潰瘍を形成する。潰瘍表面には細菌コロニーが形成され、感染が成立する。グラム陰性桿菌の内毒素は潰瘍増悪の原因となる。同時に起こっている顆粒球減少により菌血症や敗血症のリスクは高まる。

第5期(回復期):上皮細胞の増殖・分化により粘膜上皮が再生する。

2.発生頻度

潰瘍性口腔粘膜炎は化学療法を受けた患者の約40%に発症する[2, 4]。このうち約50%は症状が重度であり、抗がん剤の変更や、治療を中止せざるをえない状況も起こりうる。

3.発生時期と発症期間

抗がん剤治療開始後7-10日目頃から発症し、期間としては5-14日間である。また、放射線治療では照射開始後2-3週間目頃からみられ、通常放射線治療のプロトコールは長いため発症後6-8週間継続する可能性がある[3]。

4.症状

1)口内炎の一般的な症状

・疼痛

・粘膜の紅斑

・粘膜出血

・偽膜

・潰瘍形成

好発部位としては、下口唇や舌側縁部、頬粘膜など可動性があり非角化粘膜で機械的刺激を受けやすい場所に発生することが多い。また限局していても融合することがしばしばみられる。それに対して分子標的薬によるものは、舌背部や軟口蓋などの機械的刺激が少ない部位に、局在するかたちでみられることが多い。

2)疾患別の症状

(1)ヘルペス性口内炎

単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: HSV)による口内炎はがん治療中の免疫力の低下が原因で発症する。がん治療によるHSV口内炎の発症率は好中球減少患者のほうが頭頸部がんに対する放射線治療を受けた患者よりも高い(49.8% vs. 0%)。HSV感染の発症率は、頭頸部の化学放射線療法を受けた患者で43.2%であり、口腔潰瘍がある場合にはさらに高くなる[5]。造血幹細胞移植中の免疫抑制剤やステロイド剤の投与により生じる場合も多い。

小さい2、3個の集簇性小水疱を形成するが、すぐに破れて融合し浅い潰瘍をつくる。持続性の刺すような強い痛みが特徴で、初感染の時は小水疱形成に前後して、発熱・食欲低下などの全身症状を伴う[4, 6, 7]。

(2)カンジダ性口内炎

がん治療中に全身状態が低下し、また唾液分泌低下、ステロイド剤使用により口腔内常在菌であるカンジダ(Candida)が増加し起こる日和見感染が原因で発症する(表1)。起炎菌として最も多いのはCandida albicansである[4, 6, 7]。全がん治療における臨床的口腔真菌感染症の有病率は、治療前で7.5%、治療中39.1%、治療終了後で32.6%である[5]。

急性と慢性に分類されるが、臨床上よくみられるのが急性の偽膜性カンジダ性口内炎である。粉チーズ様用の白苔が粘膜に広がり、ピリピリ、チクチクとした弱い痛みが特徴的である。一方、赤く、灼熱痛を生じるのは慢性萎縮性カンジダ性口内炎である。唾液分泌低下を伴い、また義歯に付着しているカンジダが原因で発症することが知られている[4, 6, 7]。

(3)移植片対宿主病(graft versus host disease: GVHD)

急性のGVHDは、幹細胞移植後2-3週間後に発症する。紅斑性粘膜、びらん、潰瘍形成が典型的な症状である[6]。慢性GVHDは幹細胞移植後70-100日頃に頬粘膜や口唇の水疱やレース様白斑がみられる。持続的な唾液線機能低下により口腔乾燥が強くなるため、患者はものを食べる時に痛みを生じる。舌乳頭の萎縮もみられる[4, 8, 9]。

5.口内炎を起こしやすい薬剤

口内炎を起こしやすい薬剤を表2にまとめた。分子標的薬による発生頻度と機序は今後の研究課題である。

6.評価方法

米国National Cancer Institute(NCI)のCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v4.0と、WHOが公表しているものが使用されている。しかし、NCI-CTCAE v4.0は口腔内の疼痛や経口摂取状況などを中心に評価しているため、口腔内所見と機能・症状で評価したNCI-CTCAE v3.0のほうがより具体的に評価しやすい(表3)。

またEilersらによるOral Assessment Guide(OAG)や、唾液(口腔乾燥)に関する項目などに関して改訂を加えたAndersonらによるRevised Oral Assessment Guide(ROAG)の評価方法もある(表4)[11]。

1.予防

1)口腔内の診察と評価

治療開始前、または口腔ケア状況変化時に診察と評価を定期的に行う。表5のようなツールを作成することで、スタッフが情報を整理して診察や記録を行いやすい環境を整えることが必要である。また、記録を残すことで患者の状況把握はもとより、情報やアセスメントの共有化、口内炎ケアや治療方針、がん治療の評価を行うことができる。

2)患者教育

患者の協力なしでは口内炎の予防や治療は困難である。口内炎の原因が化学療法や放射線療法などの治療による因子だけでなく、患者の口腔ケアの習慣やセルフケア能力とがん治療開始前の口腔粘膜の状態や栄養状態などの患者側の因子によるからである。がん治療開始前に患者に口腔ケアの必要性を説明し、自律した口腔ケアが行えるように患者教育を行う必要がある。

治療開始前の確認事項と指導内容

(1)齲歯、歯周病の確認と歯科治療

齲歯や歯周病がある患者や定期健診を受けていない患者には、すみやかに歯科を受診させる。その際にはがん治療を予定していることを歯科にも説明したうえで、処置をしてもらうようにする。どのような口腔外科手術を施行しても治癒が間に合うように、がん治療の少なくとも1か月前に診察するのが理想である[4]。

(2)セルフケア指導・ケア方法

患者に口腔ケアの重要性を説明し、セルフケア能力を高めていく。口内炎の知識や予防ケアの方法を指導する。

(1)含嗽

水または刺激の少ない洗口液での含嗽をする。苦痛なくできる方法で、食前・食後や就寝前、トイレに行った時など2時間に1回程度の含嗽を行う。

含嗽方法はガラガラうがいではなくブクブクうがいをすすめる。

(2)歯磨き

やわらかい毛の歯ブラシを使用して毎食後に行う。粘膜が弱い場合や、口腔乾燥がある場合はスポンジブラシなど、特別やわらかいものを使用する。1日3回歯磨きをすることが基本だが、少なくとも1日1回は、ほぼ完璧に清掃できることを目標にする。その場合は可能であれば就寝前を推奨する。

磨き方は歯ブラシを歯と歯肉の境目に当て細かく動かし、毛先で歯垢をよくこすり取ることが大切である。歯垢の除去効果が高いバス法(歯ブラシの毛先を歯面に対して45度であてる)をすすめる[14]。しかし、セルフケアが困難な患者に対してはスクラッピング法(歯面に直角にあてる方法)でもかまわない[4, 14]。

(3)口腔内の観察

口腔内の観察を1日1回は行うように説明する。

観察項目:粘膜の色、出血・腫脹・発赤の有無、口内炎によるびらん、潰瘍の状況。

(4)義歯の洗浄

食後は義歯専用の歯ブラシで磨く。使用しない時は乾燥による変形を防ぐため、清潔な水につけておく。夜間などは義歯洗浄剤につけておくと細菌や特にカンジダを除去できる[15]。

(5)血小板減少がある場合のケア

血小板が40000/mm3未満に減少しても、健康な歯肉組織は外傷を受けない限り出血はしない。ルーチンの口腔衛生の中止は感染リスクを増加させることになる[12]。やわらかい毛の歯ブラシを使用し、注意深く行うことを推奨する。

口腔粘膜より出血がある場合は、ガーゼや綿球で10-20分間圧迫し止血する。

血小板が20000/mm3以下であれば、自然止血が難しいため、その場合は医師、歯科医師による止血薬の使用または血小板の輸血を検討する。

3)保清・保湿

口腔内の細菌は、含嗽後2-3時間で元の状態に戻ることがわかっている。そのため2時間毎の含嗽や毎食後の歯磨きを行い、口腔内の清潔に努める。口腔内が乾燥すると口腔内の自浄作用が低下し細菌の増殖により局所感染が起こり、口内炎が発生しやすくなる。また食事摂取時に口腔粘膜組織の損傷の原因にもなる。頻回に少量ずつの水分をとることをすすめ、乾燥が強い時は市販の保湿剤や保湿スプレーなどを使用する。また、組織損傷のリスクを低下させるため、口唇乾燥の予防も重要である。リップクリームなどで乾燥を予防する。

ポビドンヨードは、効果時間としては2時間程度であり、アルコールを含有しているため乾燥を助長し、粘膜に刺激を与えるため推奨しない。

4)全身管理

(1)悪心・嘔吐の対処

悪心・嘔吐のコントロールがなされていないと、患者は口腔ケアを怠り、口腔衛生も悪化する。悪心・嘔吐のリスクが高い抗がん剤を投与している時は、ガイドラインに沿った制吐剤を使用し、予防することが重要である。また、嘔吐後は必ず含嗽を行うことも指導する。

(2)栄養管理

がん患者は病状自体の悪化や治療の合併症により栄養面の問題が生じやすい。特に頭頸部放射線治療は、口腔粘膜炎による疼痛や経口摂取が困難になる可能性が高いため、胃瘻を造設することを推奨している[2, 4]。

食事摂取量が少ない時は、高カロリーおよび高タンパク質の食事を摂取し、液体栄養補助食品等に変更し、栄養士と共に食事内容を見直すことが必要である。具体的にはヨーグルトやプリンなど口当たりのよいものや、おかゆやボタージュなどとろみのあるものに変更すると摂取しやすい。

口内炎発症時は、刺激のある酸味や香辛料のきいた食品は粘膜を刺激するので避ける。また、熱い料理は冷まして食べるように指導する。

5)予防対策

(1)クライオセラピー(凍結療法)✚✚✚

fluorouracilのボーラス投与(急速静脈注射)を行う場合は、30分間氷片を口に含む[12, 13]

フルオロウラシルのボーラス投与では、粘膜炎予防にクライオセラピーが推奨される[16, 17, 18]。ランダム化比較試験のなかでも最も対象数が多く、最近行われたもので口内炎予防におけるクロルヘキシジンとプラセボ(生理食塩水)、およびクライオセラピーの比較試験がある。大腸がんおよび胃がん患者における初回化学療法(フルオロウラシル+ロイコボリン療法 ボーラス day1-5)において、クロルヘキシジンによるうがいとプラセボ(生理食塩水)によるうがい、また砕いた氷を化学療法開始10分前〜開始後35分間口に含んでもらい、その予防効果を比較した。その結果、Grade 3-4の口内炎の発症がクロルヘキシジンでは9人(12%)、生理食塩水では21人(32%)、クライオセラピーでは7人(10%)と、クライオセラピーとクロルヘキシジンのうがいの有用性が示されている[18]。他の試験におけるクライオセラピーの施行時間については、30分と60分との比較では60分に有意な増強効果はみられなかった[19]。

この効果は、冷却により口腔粘膜の局所血管収縮を引き起こし、口腔粘膜への血流を減少させ、フルオロウラシルによる口腔粘膜の曝露量の減少を引き起こすためと考えられている[13]。しかし、大腸がんにおけるFOLFOX療法では、オキサリプラチン特有の低温刺激による感覚異常(呼吸困難感、嚥下困難感)を誘発するため、残念ながら使用することができない。

また、データは限られるが造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation: HCT)おける高用量メルファラン療法でもクライオセラピーが有効であることが示されている[12, 20, 21]。

(2)ケラチノサイト増殖因子:palifermin✚✚✚[10]

日本では未承認であるがpaliferminもランダム化比較試験でその粘膜炎予防効果が実証されている薬剤である。paliferminはケラチノサイト増殖因子の遺伝子組換えヒト蛋白質であり、上皮細胞のDNA損傷とアポトーシスの抑制、皮膚や口腔の表面などの組織内細胞を刺激し分裂、成長を促す。また、炎症性サイトカインの産生抑制効果も作用機序のひとつと考えられている。

造血幹細胞移植における前処置療法中の患者を対象にした試験においてpaliferminの効果が示されている。全身照射(total body irradiation: TBI)およびエトポシド6 mg/kg+シクロホスファミド 100 mg/kgを投与された血液がん患者212例において、palifermin(60 μg/kg/日 血液幹細胞投与前後3日間静注)とプラセボの研究では、palifermin投与によってGrade 3、4の口内炎発症率を減少させ(68% vs. 98%、p<0.001)、特にGrade 4の発症頻度を減少させた(20% vs. 62%、p<0.001)[22, 23]。

また、paliferminは、大腸がん患者における化学療法でも口内炎を軽減する研究結果が示されているが[24, 25]、現時点では自家造血幹細胞移植における大量化学療法と全身放射線照射を受ける悪性血液疾患の患者に限られている[12]。

paliferminによる副作用は、皮膚毒性(発疹、紅斑、浮腫、掻痒症)、経口毒性(感覚異常、舌変色、舌の肥厚、味覚障害)である。

(3)レーザー治療✚✚

ヘリウム─ネオンを用いた低レベルレーザー治療が造血幹細胞移植前の前治療中の口内炎予防に効果を認められることが、小規模ではあるがランダム化比較試験にて示されている[26, 27]。しかし、その使用は高価な機器や専門的な技術を必要とするため、造血幹細胞移植前の高用量の化学療法や化学放射線療法を受ける患者に対象が限られ、また、実施可能な施設が限られることになる[12]。

(4)グルタミン✚

グルタミンはアミノ酸の一種であり、ヌクレオチド合成の前駆体であり、消化管粘膜上皮細胞などの分裂が活発な細胞にとっては重要な栄養素である。口腔や消化管の粘膜保護、放射線療法や化学療法後の粘膜障害の治癒促進、免疫力の向上に作用すると考えられている。

非経口製剤がこれまでに造血幹細胞移植患者において試験されているが効果は認められていない。一方、経口製剤でも臨床試験におけるその効果は一定ではない。新しい経口製剤であるSaforis(日本未承認薬)はLグルタミンの経口懸濁製剤で口腔粘膜に対する生物学的利用能が高いのが特徴である。この製剤を用いて乳がん患者を対象とした第III相試験が行われている。アントラサイクリンをベースとする治療剤の投与を受けている乳がん患者326人を14日間Saforis(1日3回2.5 g)の投与群とプラセボ投与群にランダム化割付けを行い投与した結果、プラセボ群に比べSaforis群が初回サイクルでGrade 2の口内炎の発症率が有意に減少したと報告されている(39% vs. 50%)[28]。副作用が少なく安全性はあるが、現時点では推奨できる程の十分なエビデンスはないため、その応用は今後の研究に期待される。

(5)リン酸カルシウム✚[10]

中性過飽和リン酸カルシウムを含有する人工唾液(Caphosol(R))による二重盲検試験によると、造血幹細胞移植患者95例をフッ化物とフッ化物+リン酸カルシウムによるすすぎを行う群に分けてランダム化比較試験を行った。その結果、リン酸カルシウムによるすすぎを行う群は、粘膜炎の発症期間が著しく短く(3.7日 vs. 7日)、疼痛の軽減やモルヒネの使用も抑えられたと示している。有効性が確認された場合、特に毒性の強いレジメンを使用する同種造血幹細胞移植において口腔粘膜炎を減少させる有用な手段となる可能性がある。

(6)その他の対処方法

下記に示すその他の対処方法は対照試験においてデータが不十分なため、明らかな有効性を示すに至っていない。

(1)アロプリノール・マウスウォッシュ✚

粘膜細胞内でフルオロウラシル・モノリン酸塩からフルオロウラシルの活性化を阻害するために使用された。利点を報告する初期のレポートがあるが[29, 30]、ランダム化比較試験では有効性を確認できなかった[31]。

(2)プロパンテリン✚

抗コリン作用薬(プロパンテリン)は唾液分泌を減少させ、それによってエトポシドの経口粘膜への送達や唾液中に分泌される薬剤量の減少に使用され、いくつかの試験が行われている[32, 33]。しかし、どのような臨床設定での標準治療とするかを推奨するにはデータが不十分である。

(3)造血コロニー刺激因子✚

海外では、顆粒球コロニー刺激因子や顆粒球マクロファージ刺激因子による口腔粘膜炎を予防する対策がとられている[34, 35, 36, 37, 38]。また、日本でも少人数の臨床試験が行われているが[39]、費用が高価なため、粘膜炎を予防するための広範囲な使用はされていない。

2.治療

粘膜炎の治療は対症療法が中心となる。粘膜保護剤の使用や継続した口腔ケア(前項「1.予防」の「2)-(2)セルフケア指導・ケア方法」を参照)、感染対策、局所的・全身的鎮痛剤の使用が主な治療となる。

1)粘膜炎対策

(1)アズレンスルホン酸ナトリウム水和物製剤✚

一般的に使用される含嗽薬であり、口内炎による疼痛の緩和と創傷治癒促進作用、消炎作用、口内炎の疼痛緩和の効果がある。炭酸水素ナトリウムを含有する粘膜保護剤もあり、粘液溶解、局所の清浄化作用もある。

(2)ステロイド含有口腔用軟膏✚

トリアムシノロンアセトニドやデキサメタゾンなどステロイドを含有する軟膏は、びらんまたは潰瘍を伴う難治性口内炎、または舌炎を生じている患者に使用する場合がある。アフタ性口内炎の場合は疼痛などの症状が緩和され、治癒が促進されるかもしれない[40, 41, 42]。しかし、残念ながらエビデンスを示す臨床試験はなく、ガイドラインでも推奨されていない。口腔内に感染を伴う患者には感染症の増悪を招くおそれがあるので、原則として使用しない[40, 43]。

(3)ビタミンE✚[10]

2つのパイロット研究において、ビタミンEによる局所治療は粘膜炎のより速やかな回復が示唆されている。二重盲検によるプラセボをコントロールとしたランダム化比較試験で病変の完全治癒を示した患者は、ビタミンE治療群の患者9例中6例に対して、プラセボ群では9例中1例のみであった。ビタミンE局所療法が標準的治療になるにはより大規模な確認試験が必要とされる[44, 45, 46]。

(4)一次口内炎対策✚

化学療法薬が口腔粘膜へ直接作用して障害が生じる一次口内炎の対策には、抗がん剤の直接作用を遮断することによって粘膜炎発生を抑える方法もある。メトトレキサートによる粘膜炎に対してはアロプリノール・マウスウォッシュ[44, 47]や、葉酸やフォリン酸(ロイコボリ(R))のうがいを使用する。またフリーラジカル除去作用があるとされるレバミピド・ポラプレジンクの含嗽・内服療法は、がん化学療法施行中の口腔粘膜障害関連有症状患者に対する口腔粘膜障害の軽減に有効である報告もあるが、今後の大規模比較試験を期待する。

2)感染管理

(1)カンジダ性口内炎

白苔の薄い偽膜性カンジダの場合、ミコナゾールゲルやアムホテリシンBシロップのどちらを使用しても2-3日で消失する[4]。白苔が厚く堆積した肥厚性カンジダの場合は、イトラコナゾール内服が血行性に吸収され、局所および全身への確実な効果が期待できる[7, 48]。白苔のブラシによる除去は、粘膜の出血を伴うので原則行わない。

(2)単純ヘルペスウイルス

重度な免疫抑制状態をきたす大量化学療法や造血幹細胞移植を受ける血清抗体陽性患者に対しては、単純ヘルペスウイルスおよび水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化による口内炎発生リスクの増大を認識し、抗ウイルス薬を予防投与することによって発生率を劇的に低下させることが示唆されている[4]。また治療中に発症が疑われる時は、ヘルペス抗体価の結果がわかるまでに時間がかかるため、抗ウイルス薬を診断・治療的に投与する[6]。抗ウイルス薬としてはアシクロビルやバラシクロビルが使用される[6, 9]。

3)疼痛管理

口内炎が悪化すると疼痛を伴い、セルフケアはもとより、食事摂取にも問題を生じ、口内炎や栄養状態の悪化を招き、患者にとっては身体的、精神的にも苦痛を伴うことになる。そのためにもしっかりと疼痛コントロールを行うことが重要である。

局所コントロールとして、リドカイン(2%)は、ジフェンヒドラミンと生理食塩水、カオリンとペクチン懸濁液、そしてプラセボより有効との臨床試験がある[49]。

生理食塩水 500 mL

+lidocaine viscous(2%溶液 50 mL)

+重炭酸ナトリウム(1 mEq/mLの溶液 100 mL)

+diphenhydramine(12.5 mg/5 mLの溶液 50 mL)

1回10-15 mL 1日4-6回うがいする✚[10]

リドカインビスカス、ジフェンヒドラミンとマグネシウム水酸化アルミニウム(Maalox(R))を混合したうがい薬も局所コントロールには効果的である[10]

十分な栄養や経口摂取が困難な患者にはオピオイドを使用する。可能ならば経口で投与し、造血幹細胞移植患者など重篤な口内炎患者にはモルヒネやフェンタニルを使用した患者自己管理鎮痛法(patient controlled analgesia: PCA)をすすめる[12]

セルフケアの注意としては、歯ブラシを歯肉や粘膜にあてないように、歯のみを上手に磨くように指導する。

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