A エビデンスレベル
エビデンスレベルの分類例
B ガイドライン
1.ガイドラインとは
2.ガイドラインの使い方
文献

生物の最大の特徴は多様性といえる。それぞれの個体によって、生理反応や、介入に対する反応も異なる。医学においても、各個人の予後、治療への反応は異なり、再現性は必ずしも認められない。しかしながら、医療行為を行うときには、その効果を予想して何かしらの判断をする必要がある。最良の治療方法を選択するためにあらゆる知識が動員される。従来の判断根拠は、生理学の知識と医療者の経験であった。医学の父と称される古代ギリシャのヒポクラテスの誓いのなかには、「書きものや講義その他あらゆる方法で私の持つ医術の知識をわが息子、わが師の息子、また医の規則にもとづき約束と誓いで結ばれている弟子どもに分かち与え、それ以外の誰にも与えない。」(小川鼎三訳)と記載されている。

しかし、その後の医学の科学的な発展のおかげで、知見、技術は莫大な量となった。各医療者がすべてを経験、把握し実践することはもはや不可能である。そこで、あらゆる医学的知識を集約した「辞書」(MEDLINE/PubMedなどのデータベース)とその「利用手引き」(ガイドライン)をつくることが求められた。医療は、この外的なエビデンスと各個人の臨床的な経験に基づいて行われることとなった。

情報を整理するにあたって、その重みづけはとりわけ重要な作業である。古今東西、無数の医学的研究が行われてきた。確実性、再現性と社会的な合意に基づき、科学的に妥当性のある結論を導く方法が徐々に確立してきている。エビデンスレベルは医学的な疑問に対する答えを、もっとも効率的に入手するための経験的な方法であり、それは科学的な確からしさに基づいて分類・格づけされている。

エビデンスの階層化によって臨床決断を導かれると仮定することはevidence-based medicine(EBM)の基本原則のひとつである[1]。このエビデンスに基づく医療はカナダのマクマスター大学でDavid Sackettらにより提唱され、Gordon Guyattによって1990年よりEBMと名づけられた[2, 3]。1998年には英国オックスフォード大学からエビデンスレベルが具体的に提唱された。最新版は2011年であり[4]、日本語訳(『診療ガイドライン作成の手引き2007』[5])はMinds(マインズ)のサイト(http://minds.jcqhc.or.jp/n/)から入手可能である。

エビデンスレベルの分類例[5]

1)治療に関する論文のエビデンスレベルの分類(質の高いもの順)

I システマティック・レビュー/randomized controlled trial(RCT)のメタアナリシス
II 1つ以上のランダム化比較試験による
III 非ランダム化比較試験による
IVa 分析疫学的研究(コホート研究)
IVb 分析疫学的研究(症例対照研究、横断研究)
V 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
VI 患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

2)治療・予防、病因・害

1a RCTのシステマティック・レビュー
1b 個々のRCT(信頼区間が狭いもの)
1c all or noneの研究
2a コホート研究のシステマティック・レビュー
2b 個々のコホート研究(質の低いRCTを含む)
2c 「アウトカム」研究:エコロジー研究
3a ケースコントロール研究のシステマティック・レビュー
3b 個々のケースコントロール研究
4 症例集積研究(および質の低いコホート研究あるいはケースコントロール研究)
5 系統的な批判的吟味を受けていない、または生理学や基礎実験、原理に基づく専門家の意見

3)予後

1a 前向きコホート研究のシステマティック・レビュー。異なる集団において妥当性が確認されたclinical decision rule(CDR)
1b フォローアップ率80%以上の前向きコホート研究。単一集団で妥当性が確認されたCDR
1c 全ケースシリーズ
2a 後向きコホート研究、あるいはRCTにおける未治療対照群のシステマティック・レビュー
2b 後向きコホート研究、あるいはRCTにおける非治療対照群のフォローアップ。CDRの誘導のみ、あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかったCDR
2c 「アウトカム」研究
4 症例集積研究(および質の低い予後に関するコホート研究)
5 系統的な批判的吟味を受けていない、または生理学や基礎実験、原理に基づく専門家の意見

4)診断

1a レベル1の診断研究のシステマティック・レビュー。複数の臨床施設を対象としたレベル1bの研究で検証されたclinical decision rule(CDR)
1b 適切な参照基準が設定された検証的コホート研究、あるいは単一の臨床施設で検証されたCDR
1c 絶対的な特異度で診断が確定できたり、絶対的な感度で診断が除外できる場合
2a レベル2の診断研究のシステマティック・レビュー
2b 適切な参照基準が設定されている探索的コホート研究。CDRの誘導のみ、あるいは妥当性が分割サンプルでしか証明されなかったCDR
3a 3b以上の研究のシステマティック・レビュー
3b 非連続研究、あるいは一貫した参照基準を用いていない研究
4 評価基準が明確でない、あるいは独立でないケースコントロール研究
5 系統的な批判的吟味を受けていない、または生理学や基礎実験、原理に基づく専門家の意見

5)経済的評価

1a レベル1の経済研究のシステマティック・レビュー
1b 臨床的に適切なコストや代替案に基づいた分析、あるいはエビデンスのシステマティック・レビュー;かつ多元的感受性分析を含む
1c 絶対的に経済学的に優れていること、あるいは絶対的に経済学的に劣っていることを証明した分析
2a レベル2の経済研究のシステマティック・レビュー
2b 臨床的に適切なコストあるいは代替案に基づいた分析。エビデンスの小規模なレビュー、あるいは単一の研究、かつ多次元的な感受性分析を含む
2c 監査研究あるいはアウトカム研究
3a レベル3b以上の経済研究のシステマティック・レビュー
3b 限られた代替案あるいはコストに基づいた分析、質の低い予測データ、ただし臨床的に適切な変動を取り入れた感受性分析を含む
4 感受性分析のない分析
5 系統的な批判的吟味を受けていない、また生理学や基礎実験、原理に基づく専門家の意見

1.ガイドラインとは

医療情報は4S(systems、summaries、synopses、studies)に分類することが提唱されている[6](表1)。さらにsynopsesの代わりにsynopses of synthesis、synthesis、 synopses of studyの6Sに分類するという案もある[7]。このなかで、ガイドラインはsummaryに分類される。synopsesにあるような解釈に基づく指針が含まれるガイドラインも増えてきている。

ガイドラインは蓄積された医学的知識を集約し、診療に適用するための「手引き」である。1990年にはアメリカの科学アカデミーに属するInstitute of Medicineが診療ガイドラインを「医療者と患者が特定の臨床場面で適切な決断を下せるよう支援する目的で、体系的な方法に則って作成された文書」と定義し、EBMの手順で作成することに最大の特徴があるとした[5, 8]。

日本でも厚生労働省の検討会、研究班などを通じて整備が進み、2007年には医療情報サービスMinds(マインズ)(http://minds.jcqhc.or.jp/n/)で38のガイドラインが掲載され、作成の手引きも公表されている[5]。

ガイドラインには作成、介入、評価の3つの段階がある。各ガイドラインは、作成後に第2、第3の段階を経て、改訂(作成)を繰り返すことが理想的とされている。作成の手順は、表2のとおりである。いわゆるパブリックコメントは介入に該当する。

ガイドラインの利用にあたっては、「推奨」される診療内容がどのように選ばれているのかを十分に理解しておく必要がある。表3にはMindsの推奨グレードを記載した。推奨の決定にあたっては、エビデンスのレベル、数と結論のばらつき、臨床的有効性の大きさ、臨床上の適用性、害やコストに関するエビデンスなどから総合的に判断される。しかるに、同じテーマであってもガイドラインごとに内容が異なることがある。たとえば、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)とAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)のガイドラインには相違があることがある。これは、ASCOがエビデンスに基づくガイドイランであるのに対し、NCCNはエビデンスに加えて作成委員のコンセンサス(合意に基づく)が含まれるからである。乳がんにおけるSt. Gallen Guidelineなども後者に分類されるが、バイアスが含まれる可能性についても認識しておく必要がある。

2.ガイドラインの使い方

EBMでは、「臨床的状況・環境」、「研究によるエビデンス」、「患者の価値観と行動」から意思決定をすることが「臨床家としての経験・熟練」と考えられている[9]。診療ガイドラインは、最良の研究によるエビデンスの集約であるが、それぞれの患者に決まった治療法といった医学的な介入を強制するものではない。ガイドラインに則った治療ができるのは全体の60-95%との報告もある[10]。またエビデンスを無批判に使用するのではなく、その限界を知ったうえで使用することも求められる。Appraisal of Guidelines Research and Evaluation(AGREE)instrument(AGREE共同計画)といった評価手法も開発されている[11](日本語版: http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/guideline/AGREE-final.pdf)。一方で、ガイドラインと大きく異なる診療行為をする時には、その理由を診療記録に記載することが、医療の質の観点からも望ましい[12]。

EBMには2つの基本原則がある。エビデンスの重みづけに基づいて臨床判断をすることと、意思決定者が利益とリスク、デメリット、そして代わりとなる治療などの介入方法に関連するコストを常に比較しなければならない。そしてその判断を導くのには、患者の価値観に重きがおかれる[13]。

1. Guyatt G, et al. Users’ Guides to the Medical Literature. McGraw-Hill Professional. 2008. p860.

2. Sackett DL, et al. Evidence based medicine: what it is and what it isn’t. BMJ 1996; 312(7023): 71-2. [PubMed]

3. Cook DJ, et al. Critical appraisal of therapeutic interventions in the intensive care unit: human monoclonal antibody treatment in sepsis. Journal Club of the Hamilton Regional Critical Care Group. J Intensive Care Med 1992; 7(6): 275-82. [PubMed]

4. Oxford Centre for Evidence-Based Medicine. 2011 Levels of Evidence. [PDF]

5. 福井次矢, 他編. Minds診療ガイドライン作成の手引き 2007. Minds. 2007. [PDF]

6. Haynes RB. Of studies, syntheses, synopses, and systems: the “4S” evolution of services for finding current best evidence. ACP J Club 2001; 134(2): A11-3. [PubMed]

7. DiCenso A, et al. ACP Journal Club. Editorial: Accessing preappraised evidence: fine-tuning the 5S model into a 6S model. Ann Intern Med 2009; 151(6): JC3-2, JC3-3. [PubMed]

8. Institute of Medicine (U.S.). Committee on Clinical Practice Guidelines, Field MJ, Lohr KN. Guidelines for clinical practice. National Academies Press. 1992. p426.

9. Haynes RB, et al. Physicians’ and patients’ choices in evidence based practice. BMJ 2002; 324(7350): 1350. [PubMed]

10. Eddy DM. Clinical decision making: from theory to practice. Designing a practice policy. Standards, guidelines, and options. JAMA 1990; 263(22): 3077, 3081, 3084. [PubMed]

11. AGREE Collaboration. Development and validation of an international appraisal instrument for assessing the quality of clinical practice guidelines: the AGREE project. Qual Saf Health Care 2003; 12(1): 18-23. [PubMed]

12. Hurwitz B. Legal and political considerations of clinical practice guidelines. BMJ 1999; 318(7184): 661-4. [PubMed]

13. Haynes RB, et al. Transferring evidence from research into practice: 1. The role of clinical care research evidence in clinical decisions. ACP J Club 1996; 125(3): A14-6. [PubMed]