A 疫学・診断
1.疫学
2.病態
3.診断
B 治療
1.心嚢穿刺
2.経皮カテーテルによる心嚢ドレナージ
3.剣状突起下心膜開窓術
4.硬化療法
5.再発後の治療
文献

1.疫学

がん性心膜炎は、悪性腫瘍の剖検例のうち1‐20%に報告されている[1]。心膜への転移を示す原発腫瘍としては、肺がんが最も多く、その他、乳がん、食道がん、悪性黒色腫、リンパ腫、白血病など種々の悪性腫瘍で発生する。逆に、悪性腫瘍と診断されていない心膜炎あるいは少量の心嚢液貯留患者の4‐7%に悪性腫瘍が認められる[2]。有症状の心嚢液貯留患者の予後は不良で、平均生存期間は診断時から2‐4か月とされる。リンパ腫などの血液疾患よりも固形腫瘍で予後は不良であり、固形がんのなかでも原発部位による差が大きく、乳がんでは10‐13か月に対し、肺がんでは3か月未満とされている。特に心嚢液中に悪性細胞を認める場合は予後不良である[3]。

2.病態

心臓・心膜への腫瘍の進展機序のうち、縦隔リンパ節転移からの逆行性転移が最も重要と考えられている。リンパ流が閉塞されて心嚢液が貯留し、この経路により心膜へ転移播種した病巣により滲出液がさらに心嚢液貯留の原因となる。

心嚢液貯留は心膜腔内圧の上昇をきたし、心臓の拡張障害により心拍出量が維持できない状態、すなわち心タンポナーデとなる。この状態で放置されると循環不全のため急激な生命の危機を生じる。心タンポナーデの発症は、貯留速度により異なり、急激な貯留の場合は150mLでも発症する一方で、緩やかな貯留の場合は1500mLでも生じないことがある。悪性心嚢液は、通常、亜急性に貯留する。

3.診断

1)症状

心膜炎、心嚢液貯留(心タンポナーデ)、心膜収縮により症状が異なる。心膜炎による胸痛は、深呼吸、臥位で増悪し、背部に放散する。心嚢液貯留による症状は、多くの場合、初期には無症状で、心タンポナーデになって初めて症状が出現する。心タンポナーデとなった場合には、呼吸困難、頻呼吸、起座呼吸、低拍出量に伴い発汗や末梢冷感、頸静脈怒張、脈圧の低下、奇脈、微弱心音さらには意識消失などが出現する。

2)検査所見

(1)心電図

心膜炎では、凹面のST上昇とPR部位の下方偏位(aVRでは上向き)を呈する。心嚢液貯留、特に心タンポナーデの場合は、QRS電位の低下や心拍ごとの電位変化(心臓の振り子様運動による)がみられる。収縮性心膜炎では、心房細動がみられることもある。

(2)画像所見

・胸部X線撮影:感度が低く、急性の心膜炎の場合、通常は正常である。亜急性の心タンポナーデを呈する場合は、心拡大がみられる。

・胸部CT:感度が高く、無症候性の心嚢液貯留の発見も可能である。

・心エコー:心嚢液の貯留の有無だけではなく、量や貯留部位、心膜の厚
さ、心嚢内の腫瘤の有無、血行動態の変化などの検索に有用である。心タンポナーデの場合は、右房および右室の虚脱や心臓の振り子様運動がみられる。心嚢穿刺の適応の決定に必須である。

(3)病理学的診断(心嚢液採取)

悪性心嚢液は、血性のことが多いが漿液性のこともあり、肉眼所見は診断には役立たない。細胞診による診断感度は67‐92%とされ、胸膜中皮腫やリンパ腫における感度は特に低い。盲目的な心膜生検の感度は56‐65%と低いが、心膜鏡(pericardioscopy)による直視下の生検では97%と良好である。

(4)血液検査所見

静脈還流の低下によりうっ血が生じるために、肝機能や腎機能の異常がみられることがある。

3)鑑別疾患

・特発性

・胸部放射線照射による心膜炎、心嚢液貯留

・感染(ウイルス、結核、細菌、真菌)による心膜炎

がん性心膜炎の治療は、循環動態や背景の悪性腫瘍の予後を含めた全身状態を考慮して決定する必要がある。心膜液貯留が軽度であって症状がなく、かつ全身治療の効果が期待できる場合は、現疾患の治療を優先することが多い。一方で、いったん心タンポナーデになると無治療では急激な死の転帰をとるため、緊急の適切な診断および処置が必要である。治療にあたり、心嚢液を除去し循環動態を改善させること、心嚢液の再貯留を防ぐこと、心膜収縮のマネジメント、背景の悪性腫瘍の治療について検討する必要がある。

1.心嚢穿刺✚✚

心タンポナーデを呈する患者に対し、救命手段として心嚢穿刺は非常に有効である。少量(50mL)の排液でも劇的な症状の改善がみられる。心嚢穿刺のみでは約60%に再貯留がみられる[4]。

2.経皮カテーテルによる心嚢ドレナージ✚✚

超音波ガイド下に心嚢穿刺後、セルジンガー法でカテーテルを心膜腔内に留置し持続ドレナージを行う。心嚢液の性状により、5‐12Fr程度の太さのカテーテルを選択し、数日間留置する。24時間で20‐30mL以下の排液になった時点で抜去する。70‐88%の症例に有効とされ、再貯留までの期間は明確ではないが、ある報告では再貯留をきたした30%の症例では平均39日間[5]であった。現在最も一般的に用いられている方法である。

3.剣状突起下心膜開窓術✚✚

心嚢液貯留に対する外科的治療法として最も頻用されており、局所麻酔下でも可能である。剣状突起下正中線上に4‐6cmの皮膚縦切開を行い、剣状突起を剥離切断して心膜を露出し、20‐28Frカテーテルを心嚢内に挿入し持続ドレナージを行う。

このほか、開胸あるいは胸腔鏡下に、経胸腔心膜開窓術✚や経胸腔心外膜切除術✚などが行われており、再貯留は5‐10%と少ないが、いずれも侵襲が大きいため適応は限られる。

4.硬化療法✚✚

排液量が減少しない場合や、カテーテル抜去後の再貯留を予防するために、心膜腔内に薬物を注入し癒着を起こさせる。カテーテルより20mL程度の生理食塩水に溶解した薬物を注入、1‐2時間のクランプの後、排液し、1日排液量が20‐25mL程度になったところで抜去する。合併症として胸痛、発熱、感染、カテーテル閉塞などがあり、晩期毒性として収縮性の心膜炎がみられる。テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、ブレオマイシン、OK432、マイトマイシンCなどが使用される。

・bleomycin 15mg +生理食塩水 20mL 心腔内ワンショット 48時間毎 追加投与は10mg[6]

・mitomycin C 2mg +生理食塩水 20mL心腔内ワンショット[7]

・OK432 5KE +生理食塩水 20mL心腔内ワンショット[8]

現時点では、経皮持続ドレナージ単独に比べ、硬化療法の明らかな有効性は示されていない。日本から報告された唯一の前向きランダム化比較試験では、肺がんのがん性心膜炎に対するブレオマイシン心膜腔内投与は、経皮持続ドレナージ単独に比べ有効性は高かったが有意ではなかった[6]。一方で、シスプラチン、カルボプラチン、ビンブラスチンなどの抗がん剤を心膜腔内に投与した報告がみられるが、いずれも少数例でありその意義は明らかではない。

5.再発後の治療

治療後に心嚢液が再貯留した場合、硬化療法の有無にかかわらず癒着が生じていることが多く、心嚢穿刺には注意が必要である。

1. Borlaug BA, et al. Pericardial disease associated with malignancy. 2012. [UpToDate]

2. Imazio M, et al. Relation of acute pericardial disease to malignancy. Am J Cardiol 2005; 95(11): 1393-4. [PubMed]

3. Gornik HL, et al. Abnormal cytology predicts poor prognosis in cancer patients with pericardial effusion. J Clin Oncol 2005; 23(22): 5211-6. [PubMed]

4. Tsang TS, et al. Outcomes of primary and secondary treatment of pericardial effusion in patients with malignancy. Mayo Clin Proc 2000; 75(3): 248-53. [PubMed]

5. Allen KB, et al. Pericardial effusion: subxiphoid pericardiostomy versus percutaneous catheter drainage. Ann Thorac Surg 1999; 67(2): 437-40. [PubMed]

6. Kunitoh H, et al. A randomised trial of intrapericardial bleomycin for malignant pericardial effusion with lung cancer (JCOG9811). Br J Cancer 2009; 100(3): 464-9. [PubMed]

7. Kaira K, et al. Management of malignant pericardial effusion with instillation of mitomycin C in non-small cell lung cancer. Jpn J Clin Oncol 2005; 35(2): 57-60. [PubMed]

8. Imamura T, et al. Intrapericardial OK-432 instillation for the management of malignant pericardial effusion. Cancer 1991; 68(2): 259-63. [PubMed]