A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.頭蓋内圧のコントロール
2.放射線療法
3.髄腔内化学療法
4.全身化学療法
5.開発中の髄腔内療法
文献

1.疫学

がん性髄膜炎とは、腫瘍細胞が脳脊髄液を介して脳表やくも膜下腔、さらに脳室内や脳槽内に進展・浸潤した病態で、髄膜癌腫症や髄腔内播種とも呼ばれる[1]。原発性腫瘍の4.2%、転移性脳腫瘍の5.1%に臨床的に診断されるが、未確定あるいは無症状の症例を含めるとより高率であり、剖検症例では約20%にがん性髄膜炎を認める[2]。原発性脳腫瘍では髄芽腫、上衣腫、膠芽腫、星状細胞腫、松果体芽腫、乏突起神経膠腫などに好発し、転移性脳腫瘍では乳がん(12‐35%)、肺がん(10‐26%)、悪性黒色腫(5‐25%)、消化管悪性腫瘍(4‐14%)などに好発する[1,2]。乳がんでは、小葉がんが髄膜への転移をきたしやすい。

2.診断[3]

腫瘍細胞の軟髄膜への浸潤は、脳脊髄液の流れが比較的遅く重力の影響を受けやすい脳底部(脳底槽、後頭蓋窩)、シルビウス裂、馬尾に多くみられる。MRIと脳脊髄液検査は相補的であり、両者を行うことで診断精度が上昇する。脳脊髄液検査により、医原性の髄膜造影効果の増強がみられるため、造影MRI検査は、髄液検査よりも先に行うべきである。

1)自覚症状・理学所見

びまん性のがん性髄膜炎でみられる症状は、軟髄膜への浸潤の部位により多巣性にみられることが特徴である(表1)[4]。

2)画像診断

(1)MRI検査

ガドリニウム造影MRI検査の感度は76‐87%で、1回の脳脊髄液検査と比べ、感度は高いが特異度は低い。脳MRIで、薄くびまん性に軟髄膜が造影される症例や、くも膜下腔、小脳回、皮質表面に多数の結節を認める症例、水頭症の有無にかかわらず脳底部に腫瘤を示す症例などがみられる。脊髄MRIでは、脊髄全体に線状の造影効果や、馬尾に線状あるいは結節状の造影効果がみられる。

(2)脳槽シンチグラフィ

脳室およびくも膜下腔などの髄液腔にRI(ラジオアイソトープ)を注入し、間隔をおいてシンチグラフィを行い、髄液腔の形態の異常や髄液の流通あるいは吸収の状態を調べる。健常人では、注入したRIは3時間後には脳底部脳槽に達し、3‐6時間で大脳半球間裂および左右のシルビウス裂に対称性に分布し、24時間後には上矢状静脈洞付近に集積し、48時間後にはほぼ消失する。髄腔内投与された化学療法剤が均一に分布するのを妨げ、効果を減弱し毒性を強めるような閉塞起点が存在しないか確認するために、髄腔内化学療法の前に施行し閉塞起点に対し放射線治療を行うことが望ましい。

3)髄液検査

典型的な脳脊髄液所見を以下に示す。(2)と(3)の組み合わせは、他に異常がない場合でもしばしばみられる。

(1)初圧の上昇>16cmH2O

(2)タンパク濃度の上昇>38mg/dL

約80%にみられ、主に血液脳関門の破壊による影響と考えられる。

(3)白血球数の軽度上昇

50‐60%にみられ、通常はリンパ球の増加を示すが、急性リンパ性白血病やホジキンリンパ腫の再発では好酸球の増加を認める。

(4)キサントクロミー

脳脊髄液中への出血により生じる。悪性黒色腫でよくみられるが、他の腫瘍ではまれである。

(5)糖濃度の低下(脳脊髄液:血清比<0.6)

約30%のがん性髄膜炎症例でみられる。

(6)腫瘍マーカー

髄液中の腫瘍マーカー値(CEA、PSA、CA15-3、CA125、MART-1、MAGE-3など)が、血清中の濃度よりも高値の場合は、細胞診が陰性であってもがん性髄膜炎の診断はほぼ確定的である[2,3]。

4)細胞診

偽陰性を最小化するために、以下の方法が考えられる。

(1)細胞診のための検体量を10mL以上採取する。

(2)検体はただちにエタノールベースの固定液で固定する。

(3)既知の軟髄膜病変の部位より穿刺する(脳神経症状がある場合は脳室内あるいは頸椎より穿刺、脊髄根障害の場合は腰椎穿刺を行うなど)。

(4)初回検査で陰性であったが臨床的に強く疑われる場合は、再検査を行う。適当な再検査の回数は不明であるが、感度は単回では71%、2回で86%、3回で90%、3回以上行うと98%と上昇することが報告されている[5]

治療の目標は、神経学的症状の進行抑制あるいは改善や、生存期間を延長することであり、それが不可能な場合は症状の緩和である。performance statusの低下や、多彩な神経症状や症状の固定、有効な治療法がない状況での全身への転移、脳症や巨大な中枢神経病変がみられる場合は、予後不良であり、症状緩和を主に考えるべきである。一般にがん性髄膜炎症例は予後不良とされ、診断後の平均生存期間は約6か月以内(無治療;1か月、治療不応;2か月、悪性黒色腫;4か月、非小細胞肺がん;6か月、AIDS関連リンパ腫;6か月、乳がん;7.5か月、非AIDS関連リンパ腫;10か月)とされる[6]。

1.頭蓋内圧のコントロール

コルチコステロイド、一般的にはデキサメタゾンを、頭蓋内圧亢進に対する最初のマネジメントとして用いる。

dexamethasone 1回8mg 1日2回ワンショット静注あるいは30分で点滴静注(症状改善に応じて速やかに漸減) ✚✚

濃グリセリン 200mL(適宜1日1‐2回1時間かけて点滴静注)✚

ventriculoperitoneal(VP)シャント[7](dexamethasone不応例)✚

2.放射線療法

症状を呈する部位や巨大腫瘤に対する放射線治療は、症状軽減の点で、髄腔内化学療法と比べより有効である。神経障害は、根性痛や脳症に比べ一般的に改善しにくいが、新たな神経障害の出現を遅らせ防ぐことが可能である。放射線局所照射の副作用はまれであるが、照射野が広範囲になるにつれ、骨髄抑制、粘膜炎、食道炎、白質脳症などがみられる。白質脳症は、髄腔内化学療法や全身化学療法(特にメトトレキサート)の投与前あるいは同時に、全脳照射を行った場合に、明らかに発症しやすい。

全脳照射は、脳神経障害を有する症例や、局所的な腫瘍細胞の集中により非交通性水頭症を生じた症例に対し行われる。照射により速やかに症状が改善しない場合や交通性水頭症の場合は、脳脊髄液のシャント術を行うべきである。くも膜下腔の腫瘍細胞が、脳脊髄液の吸収を妨げることにより交通性水頭症が生じている場合は、全脳照射が有効である。

全脳照射 3Gy/回 計30‐36Gy✚✚✚[8]

下肢筋力低下や膀胱腸管機能不全の場合は、腰仙部の脊髄照射が行われる。

脊髄照射 8Gy単回〜2Gy/回 計40Gy✚✚✚[8]

分割照射は単回照射と比較し、局所コントロールが良好な傾向がみられるが、予後が限られている場合、同様な症状改善効果が得られることから単回照射が好まれる。

脳脊髄照射は、過度の骨髄抑制、重度の全身倦怠感、食道炎、下痢、嘔気がみられるため、局所的照射のほうが好ましい。

脳脊髄照射 全脳全脊髄1.6‐2Gy/回 計30‐36Gy✚

3.髄腔内化学療法

MRIで所見がみられるような大きな腫瘤がなく線状の造影効果のみを呈し、局所的な神経症状を示さない場合は、放射線治療よりも髄腔内化学療法が推奨される。

1)用いられる薬剤

メトトレキサートが最もよく使用され、20‐61%の症例で腫瘍細胞が消失する。乳がんや血液腫瘍に対し有効であるが、肺がんや肉腫などのその他の固形がんに対する効果は不良である。脳脊髄液中のメトトレキサートの半減期は4.5時間で、4日以内に治療域レベル以下となる。

methotrexate✚✚

methotrexate 10‐12mg

生理食塩水などでmethotrexate 4mg/mLまでに希釈し、数分かけてゆっくり投与

methotrexate髄注日よりleucovorin 10mgを1日2回、3日間内服(methotrexateの副作用軽減)

週2回投与から開始、1か月間投与し、効果がみられれば減量する。次の1‐2か月は週1回に減量、その後数か月は隔週投与、その後2‐4か月は月1回とし、6か月以内に終了する。メトトレキサートは脳脊髄液中では代謝されず、脈絡叢から吸収され全身に循環することにより副作用が生じるため、メトトレキサート投与当日から3日間、ロイコボリンを服用することが推奨される。ロイコボリンは血液脳関門を通過しないため、脳脊髄液中のメトトレキサート活性には影響しない。

その他、シタラビン(Ara-C)やリポソーム化シタラビン(日本未承
認)、チオテパ、3-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidiniylmethyl-12-chloroethyl-
1-nitrosourea hydrochloride(ACNU)などが使用される。

2)投与方法

側脳室内に留置したOmmayaリザーバーを頭皮上から穿刺して脳室内に投与する方法と、腰椎穿刺によりくも膜下腔内に投与する方法がある。一般的には、腰椎穿刺の場合、硬膜外や硬膜下に薬剤が誤注入される確率が約10%にみられること、腰部くも膜下腔からの投与では、頭蓋内くも膜下腔に十分な薬剤到達が得られず、脳室内に等量を投与した場合の10分の1にしか薬剤濃度が達しないことから、脳室内への直接投与がすすめられる。脳室内投与のほうが生存に寄与することも示唆されている[9]。

投与にあたり、髄注に伴う脳脊髄液量の変化が最小限になるよう注意する。穿刺部を消毒した後、三方活栓を付けた23ゲージの翼状針でリザーバーを穿刺する。ゆっくりと2‐5分以上かけて10mL以下のシリンジで、約15‐20mLの脳脊髄液を吸引する。1本目の10mLシリンジはそのまま装着しておき、2本目のシリンジを検査に提出する。次に化学療法剤を入れたシリンジを三方活栓に装着し、逆流があるのを確かめた後、2‐3分以上かけて薬剤を注入する。三方活栓に装着しておいた最初の10mLシリンジから、化学療法剤を注入したシリンジに髄液を移し、シリンジ、リザーバー内に残った薬剤を2‐3分以上かけて注入し、針を抜去する。ハイドロコルチゾン(15‐30mg)を化学療法剤と同時に注入することで毒性が軽減すると考えられていたが、エビデンスはなく最近はあまり使用されない。

3)効果判定

臨床症状、髄液中の腫瘍マーカーの定量、髄液細胞診、画像所見などをモニターする。脳室内と腰部くも膜下腔内の髄液所見が異なることはしばしばみられるため、脊髄液の採取は、両部位から行うか、以前陽性であった部位から行う。化学療法を開始後、1‐2か月以内に髄液中の腫瘍細胞が消失しない場合や、臨床的所見が増悪する場合は、治療を変更する必要がある。

4.全身化学療法

化学療法剤のなかには、適当な量を投与すれば脳脊髄液中の濃度が治療域に達するものがいくつかある。しかし、がん性髄膜炎の場合、血液脳関門が正常あるいは一部しか破壊されていないため、リポソーム化製剤か大量に静注投与しても安全性が保たれるものに限られる。メトトレキサートの大量投与(8g/m2)は、最も広く使用されているがその効果は一定していない。その他、カペシタビン[10]や、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤であるエルロチニブ[11]やゲフィチニブの有効例が報告されている。

5.開発中の髄腔内療法

マホスファミド(日本未承認)、エトポシド、ダカルバジン、ブスルファン、メルファラン、トポテカンなどによる治療例が報告されている。乳がんによるがん性髄膜炎に対するトラスツズマブ、リンパ腫に対するリツキシマブの髄腔内投与による有効例が報告され、臨床試験が進行中である。

1. 松谷雅生.神経上皮由来腫瘍, germ cell tumor,転移性脳腫瘍.脳腫瘍 第2版(高倉公朋,山浦晶・編).篠原出版. 1996 pp23-157, 281-304, 333-348.

2. Posner JB. Neurologic Complications of Cancer. F.A.Davis, Philadelphia. 1995.

3. Demopoulos A. Pathophysiology, clinical features, and diagnosis of leptomeningeal metastases (carcinomatous meningitis). 2010. [UpToDate]

4. Wasserstrom WR, et al. Diagnosis and treatment of leptomeningeal metastases from solid tumors: experience with 90 patients. Cancer 1982; 49(4): 759-72. [PubMed]

5. Glantz MJ, et al. Cerebrospinal fluid cytology in patients with cancer: minimizing false-negative results. Cancer 1998; 82(4): 733-9. [PubMed]

6. Chamberlain MC. Leptomeningeal metastases: a review of evaluation and treatment. J Neurooncol 1998; 37(3): 271-84. [PubMed]

7. Omuro AM, et al. Ventriculoperitoneal shunt in patients with leptomeningeal metastasis. Neurology 2005; 64(9): 1625-7. [PubMed]

8. Demopoulos A, Brown P. Treatment of leptomeningeal metastases (carcinomatous meningitis). 2013. [UpToDate]

9. Hitchins RN, et al. A prospective randomized trial of single-agent versus combination chemotherapy in menigeal carcinomatosis. J Clin Oncol 1987; 5(10): 1655-62. [PubMed]

10. Giglio P, et al. Response of neoplastic meningitis from solid tumors to oral capecitabine. J Neurooncol 2003; 65(2): 167-72. [PubMed]

11. Yi HG, et al. Epidermal growth factor receptor (EGFR) tyrosine kinase inhibitors (TKIs) are effective for leptomeningeal metastasis from non-small cell lung cancer patients with sensitive EGFR mutation or other predictive factors of good response for EGFR TKI. Lung Cancer 2009; 65(1): 80-4. [PubMed]