A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.全身薬物療法
2.腹腔内薬物療法
3.外科切除治療
4.症状緩和
文献

1.疫学

がん性腹膜炎とは、主に腹部原発のがんが播種性に腹膜に転移した結果、腹水貯留、腸閉塞、尿管閉塞などを引き起こした病態をいう。一般的に、がんに伴う腹水は、腫瘍による腹部リンパ管閉塞、肝転移による門脈圧亢進症、下大静脈圧迫によるBudd-Chiari症候群などによる腹水を含めて論じられる。

2.診断

初期のがん性腹膜炎の診断は困難で、手術時の開腹所見や、腸管狭窄による症状、腹水がきっかけで診断されることが多い。

1)自覚症状・理学所見

腹膜転移が多発、増大した結果、癒着、腸管運動制限、狭窄、腹水貯留により、食欲不振、食物つかえ感、体重減少、腹鳴、腹痛、腹部膨満感、消化液逆流、嘔気・嘔吐などの症状が現れる。理学的に直腸指診でダグラス窩に結節、腫瘤を触れることがある。

2)画像診断

(1)CT、MRI、超音波、PET検査

腹膜転移は必ずしも腫瘤を形成しないため、これらの画像診断では感度はよいとはいえない。1cm以下の腹膜結節に対するCTの感度は15‐30%とされ、腹膜結節を検出するよりも、腹水、水腎症や腸管拡張、腸間膜の肥厚、大網の肥厚などの間接的所見が、がん性腹膜炎を示唆する情報となる。

(2)内視鏡・消化管造影検査

消化管造影では、狭窄所見やアコーディオン様の腸管変形、造影剤の排泄遅延がみられる。内視鏡では、腸管の硬化性あるいは浮腫状の狭窄として認められ、内腔からの生検ではがん組織が得られないことも多い。

3)腹腔穿刺による腹水検査

(1)肉眼的所見[1]

細胞混入により混濁していることが多い。血性腹水は、がん性腹膜炎の10%未満にみられ、広範囲な肝転移を伴う場合は約3分の2に認められる。

(2)細胞数、細胞分画[1]

がん性腹膜炎では、約75%の症例で腹水中の白血球がリンパ球優位に増加しており(500/mm3以上)、広範囲な肝転移を伴うがん性腹膜炎では80%に増加がみられる。

(3)タンパク、糖、LDH[1]

広範囲な肝転移や肝硬変を伴う肝細胞がんを除き、がん性腹膜炎の95%の症例で、腹水中の総タンパクは2.5g/dL以上となる。腹水中の糖は、がん細胞の消費により低値を示し、一方、腹水中のLDHは高値を示すことが多く、74%の症例で血清の正常上限値を超え、54%の症例で同時期の血清LDH値よりも高値を示したとの報告がみられる。

(4)細胞診

腹水細胞診による診断率は約58‐75%である。採取後適切に処理されれば、検体量は50mLあれば十分であり、初回検査での陽性率が83%、3回の検査で97%まで上昇する[1]。悪性疾患に伴う腹水は、約3分の2ががん性腹膜炎によるものであり、残りの3分の1は前述のように腹部リンパ管閉塞、肝転移による門脈圧亢進症、下大静脈圧迫によるBudd-Chiari症候群などによるため、腹水細胞診は陰性となる。腹膜中皮腫は、細胞診での診断は困難であり、特に卵巣がんの漿液性乳頭腺がんとの鑑別が困難なため、腹腔鏡検査による組織生検、免疫組織学検査が必要である[2]。

4)腹腔鏡、大網生検

腹腔鏡下に、びまん性の白色ないし黄白色の不整形結節を生検した場合は、ほぼ100%診断可能である。また、エコー下あるいはCT下に、肥厚した大網の生検を行う。これらの診断方法は、腹水細胞診で診断がつかない場合に行われる。

5)腫瘍マーカー

腹水中のCEAやCA125は、感度、特異度とも限られ、がん性腹膜炎の診断に用いることは不適である。特にCA125は、腹水や胸水の貯留がある場合には、どのような原因であっても非特異的な上昇を示すため注意が必要である。

原疾患に対する薬物療法が治療の中心になる。薬物療法により、腹水の完全消失や通過障害の回復などの臨床的効果が得られる場合もある。

1.全身薬物療法

腹水大量貯留例での薬物療法は、安全性が不明なことが多く、慎重に投与する必要がある。イリノテカンは腸管狭窄や大量腹水を伴う症例では禁忌である。また、大量補液を伴うシスプラチンは、腹水貯留や水腎症により腎障害を伴う症例では使用できない。

2.腹腔内薬物療法

抗がん剤の腹腔内投与(intraperitoneal:IP)は、腹膜転移に対して非常に高い薬剤濃度で長時間直接接触することで局所効果が得られると同時に、腹腔内から血中に移行した薬剤の全身への効果を期待したものである。腹腔内病変が予後を規定、あるいはQOLを損なう合併症が生じうるがん種に対し適応となる。

卵巣がんは、IP治療のエビデンスが最も豊富であり(表1)[3, 4, 5]、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)[6]や日本婦人科腫瘍学会の治療ガイドライン[7]では、optimalに減量手術ができた進行卵巣がんに対して、IP療法が推奨(エビデンスレベル1)されている。しかし、過去の主な臨床試験で行われたレジメンは、現在の標準治療と異なること、10%前後にIPカテーテルに伴う合併症を認めること、完遂率が低いことから、現在、日本の日常診療では点滴静注療法が主に行われている。今後、ランダム化比較試験によりIP療法の標準化したレジメンが示されることが待たれる。

その他の胃がんや大腸がん、腹膜中皮腫においては、IP療法の優位性を示すエビデンスは確立されておらず、今後の検討が必要である。

3.外科切除治療

骨盤外にも腹膜転移を有するStage IIIや遠隔転移を有するStage IVの卵巣がんでは、術後の腹腔内残存腫瘍の大きさが予後を規定するため、安全に可能である最大限の減量手術(cytoreduction)が推奨される[8]。一方、胃がんの腹膜播種病変に対する腫瘍減量手術は、効果が不明で現時点では試験的治療と考えられる。

4.症状緩和

1)腹水

(1)穿刺・ドレナージ✚✚✚

腹部膨満感などの自覚症状の改善のために行う。循環動態の変化を懸念することなく、大量の穿刺排液(21Lまで)が可能[9, 10]である。穿刺排液のための入院や、排液中の静脈内点滴は不要である。腹水穿刺排液は栄養状態の悪化につながるが、アルブミン製剤の投与は通常行わない。

(2)利尿剤

がん性腹膜炎に伴う腹水に対する利尿剤の有用性は低いが、多発肝転移に伴う門脈圧亢進症や肝硬変を伴う肝細胞がんには有用かもしれない。以下の薬剤を、低ナトリウム血症、低カリウム血症、高カリウム血症などの電解質異常や腎機能障害に注意しながら開始する。

furosemide(ラシックス(R))40mg/日✚✚

spironolactone(アルダクトン(R))100mg/日✚✚

(3)その他の方法

頻回に腹水穿刺排液が必要な場合は、以下の方法が行われることもあるが、有用性は確立されておらず慎重に適応を検討する必要がある。

(1)腹水濾過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy: CART)[11]✚

ドレナージした腹水を、濾過器を用いて細菌やがん細胞などを除去した後、濃縮器で除水しアルブミンなどの物質を濃縮して体内に戻す方法である。下記の腹腔−静脈シャントと異なり、血球やがん細胞、細菌などを除去した濃縮液を再静注するため、DICやがん細胞の播種のリスクがないとされているが、その安全性や有用性は十分には証明されていない。

(2)腹腔─静脈シャント(peritoneovenous shunts)[12, 13]✚

・Denverシャント✚

腹腔から腹水を一方弁のついたシャントチューブを用いて、皮下を経由して鎖骨下静脈に還流させる方法である。133例の後向き検討[12]では、82%に一時的な腹部症状の改善を認め持続期間の中央値は26日であった。合併症として、シャント閉塞(45%)、凝固異常(27%、DIC5.3%)、消化管出血(9.8%)、敗血症(3.8%)、急性心不全(3.0%)を認めた。

・経皮経肝腹腔静脈シャント(transjugular transhepatic peritoneovenous venous shunt: TTPVS)✚

腹腔から腹水を、経肝的に肝静脈を経由して鎖骨下静脈に還流させる方法である。安全性を主要評価項目として日本で33例に対し第I/II相臨床試験が行われた[13]。有害事象として低アルブミン血症(24%)、ヘモグロビン低下(18%)、カテーテル挿入部の皮膚炎(9%)、胸水(9%)、心不全(3%)、発熱(3%)がみられた。処置1週後の奏効率は67%であったが、カテーテル周囲のフィブリンシースのため32%に症状の再増悪を認めた(中央値25日)。

2)腸閉塞

イレウス管の挿入を行い、改善しない場合は外科手術を検討するが、がん性腹膜炎による腸閉塞は複数箇所で狭窄しており、バイパス術やストーマ造設術が困難な場合も多い。症例の予後や全身状態を考慮して手術の適応を決める必要がある。

3)水腎症

腹膜播種により腎後性腎不全の恐れがある場合は、尿路閉塞の解除目的で、経尿道的に尿管ステントを挿入、あるいは腎瘻造設を行う。一般的に、腎機能低下がみられる場合は、水腎症が両側あるいは片側であるにかかわらず適応となる。

1. Runyon BA, et al. Ascitic fluid analysis in malignancy-related ascites. Hepatology 1988; 8(5): 1104-9. [PubMed]

2. Hassan R, et al. Current treatment options and biology of peritoneal mesothelioma: meeting summary of the first NIH peritoneal mesothelioma conference. Ann Oncol 2006; 17(11): 1615-9. [PubMed]

3. Alberts DS, et al. Intraperitoneal cisplatin plus intravenous cyclophosphamide versus intravenous cisplatin plus intravenous cyclophosphamide for stage III ovarian cancer. N Engl J Med 1996; 335(26): 1950-5. [PubMed]

4. Markman M, et al. Phase III trial of standard-dose intravenous cisplatin plus paclitaxel versus moderately high-dose carboplatin followed by intravenous paclitaxel and intraperitoneal cisplatin in small-volume stage III ovarian carcinoma: an intergroup study of the Gynecologic Oncology Group, Southwestern Oncology Group, and Eastern Cooperative Oncology Group. J Clin Oncol 2001; 19(4): 1001-7. [PubMed]

5. Armstrong DK, et al. Intraperitoneal cisplatin and paclitaxel in ovarian cancer. N Engl J Med 2006; 354(1): 34-43. [PubMed]

6. Epithelial Ovarian Cancer/ Fallopian Tube Cancer/ Primary Peritoneal Cancer. NCCN guidelines version 2. 2012.

7. 日本婦人科腫瘍学会編. 卵巣がん治療ガイドライン2010年版(第3版). 金原出版. 2010 p68-71.

8. Winter WE 3rd, et al. Tumor residual after surgical cytoreduction in prediction of clinical outcome in stage IV epithelial ovarian cancer: a Gynecologic Oncology Group Study. J Clin Oncol 2008; 26(1): 83-9. [PubMed]

9. Cruikshank DP, Buchsbaum HJ. Effects of rapid paracentesis. Cardiovascular dynamics and body fluid composition. JAMA 1973; 225(11): 1361-2. [PubMed]

10. Halpin TF, McCann TO. Dynamics of body fluids following the rapid removal of large volumes of ascites. Am J Obstet Gynecol 1971; 110(1): 103-6. [PubMed]

11. Japanese CART Study Group, Matsusaki K, et al. Novel cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy (KM-CART) for refractory ascites associated with cancerous peritonitis: its effect and future prospective. Int J Clin Oncol 2011; 16: 395-400. [PubMed]

12. Sugawara S, et al. Radiological insertion of Denver peritoneovenous shunts for malignant refractory ascites: a retrospective multicenter study (JIVROSG-0809). Cardiovasc Intervent Radiol 2011; 34(5): 980-8. [PubMed]

13. Arai Y, et al. Phase I/II study of transjugular transhepatic peritoneovenous venous shunt, a new procedure to manage refractory ascites in cancer patients: Japan Interventional Radiology in Oncology Study Group 0201. AJR Am J Roentgenol 2011; 196(5): W621-6. [PubMed]