A 背景
B 各論
文献

肥満患者は全世界的に急増しており、米国ではBMI 25 kg/m2以上の患者が60%以上とされる[41]。一方日本でも、男性の29.3%、女性の20.2%でBMIが25 kg/m2以上の肥満あるいは体重超過であり、ここ数年横ばいと考えられているが、10年前と比較すると明確に増加傾向にある[42]。肥満患者における殺細胞薬投与量に関しては、実体重を用い投与量を計画したり、理想体重をもって計算された体表面積をもとに投与量を策定したりでこれまで見解が錯綜していたが、実測体重による投与量以下では化学療法の効果が減少する複数の報告が発表された[43, 44, 45]。これを受けて、American Society of Clinical Oncology(ASCO)はBMI 25 kg/m2以上のいわゆる肥満患者における殺細胞薬投与量のガイドラインを発表した[46]。以下、文献を交え概説する。

なお、同ガイドラインでは、肥満患者をBMI 25kg/m2以上の体重超過群と、BMI 30kg/m2以上の肥満群、BMI 40kg/m2以上の病的肥満群に分類して解説している部分があるので注意されたい。

1)BMI 25kg/m2以上の肥満患者において、殺細胞薬投与量は実測体重に即した投与量を推薦する。特に治癒セッティングの場合、投与量減量は効果の減弱を示すことが立証されており、安易に減量投与するべきではない

・実測体重を用いた投与はあくまで早期がんが対象であり、進行遠隔転移陽性がん、いわゆる緩和的治療においてはこの限りではない。
・肥満の有無は大きな投与量規定因子ではなく、したがって全身状態や併存症の程度、performance statusなどの他のパラメータを用いて決定されるべきである。
・殺細胞薬のみのガイドラインであり、分子標的薬に関しては明確なエビデンスが不足しており実測体重に基づいたほうがよいかどうかは不明である。

2)肥満の程度によって投与量の調整を行う必要はなく、実測体重に基づいた投与量を投与すべきである。ただし、BMI>40 kg/m2の病的肥満に関してのエビデンスは乏しい

・これまでの臨床試験においてBMI高値群は通常除外因子であった。特に病的肥満群においては、大規模前向き試験は存在せず、エビデンスとしては少数のケースレポート程度である。一方で、減量を明確に示すべきエビデンスにも乏しく、現行では肥満の程度によって投与量の調整は不必要と考えられる。ただし、肥満の存在は併存疾患の可能性も上昇させるため、体重以外の投与量規定因子の存在に常に留意するべきである。

3)実測体重以外の投与量規定を行う薬剤として、カルボプラチン、ブレオマイシン、ビンクリスチンがあげられる

・カルボプラチンは糸球体濾過量に基づいたarea under the curve(AUC)によって投与量が規定される。糸球体濾過量はCalvertの式によって導出されることが一般的であるが、体表面積が算出のパラメータであり、過剰体重を考えるうえでも合理的である。(ただし、Calvertの式ではGFRの上限は125 mL/分に設定されている。また、超高身長、超高体重においては算出体表面積の誤差が実測値と10%以上乖離することがあることに留意するべきである。)
・体表面積を導出するための公式は複数種類あるが、相互優越性はなくどれを用いても変わらないとされる。
・ブレオマイシンの投与量は精巣腫瘍等で用いられる場合は30単位(たとえばBEP療法では30単位/body、米国ではブレオマイシン硫酸塩0.5835 mg/U、日本ではブレオマイシン塩酸塩1 mg中ブレオマイシン0.607 mg含有でほぼ同力価)と規定されている。
・ビンクリスチンは、2.0 mg/bodyを超えることで有意に神経毒性が高度となることが判明しており、これ以上の投与量は推薦されない[47]。

4)治療関連毒性が生じた場合の対応に関しては、非肥満患者と同様に行う。すなわち、肥満の存在によって投与量減量の程度や投与の延期等を変更するというエビデンスはない

・体重や肥満の程度にかかわらず、実測体重を用いてよい。肥満患者において実体重に即した投与が短期的または長期的な毒性の増加を示すエビデンスはない。肥満患者では骨髄抑制の程度や発熱性好中球減少症の発症頻度が非肥満患者よりも少ない、または同程度であることが判明してい
る[43, 45]。

5)肥満患者における薬物動態、薬物力学的事項に関しては不明な点が多いが、これらの因子が実測体重による投与を制限するというエビデンスは乏しい

・薬物動態に最も関連する因子としてはクリアランスがあげられる。クリアランスは主として肝臓と腎臓の機能によって規定される。肥満による脂肪肝によって肝血流が変化するとされるが、影響は不明である。また、肥満と腎機能の明確な関連性は不明である。
・近日の報告として、(1)肥満患者は非肥満患者と比較して高いクリアランスを呈する、(2)クリアランスは体重と線形比例関係にはない、(3)クリアランスと除脂肪体重は相関する、との報告がある[48]。

41. Wang YC, et al. Health and economic burden of the projected obesity trends in the USA and the UK. Lancet 2011; 378(9793): 815-25. [PubMed]

42. 厚生労働省. 平成21年国民健康・栄養調査.
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001041744

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