A 疫学・診断
1.疫学
2.診断
B 治療
1.胸水ドレナージ(癒着療法併用なし)
2.胸膜癒着術
3.カテーテル挿入部やポート部への播種
4.胸腔内への線維素溶解剤の注入
5.胸腔鏡
6.長期間にわたる外来での胸腔留置カテーテル
7.胸膜切除術
文献

1.疫学

がん性胸膜炎の定義は、がん細胞を含む胸水の存在(悪性胸水)、もしくは胸膜播種病変が単独あるいは悪性胸水を伴っている病態とされる。悪性腫瘍の剖検例の約15%に悪性胸水を認め[1]、がん性漿膜炎のうちがん性胸膜炎は最も頻度が高いとされる。原発臓器として、肺がん(38%)が最も多く、乳がん(17%)、悪性リンパ腫(12%)に多くみられる。一方、原発不明がんの約10%にも悪性胸水を認める[2]。

2.診断

胸水貯留は日常臨床でよくみられる病態で、胸膜や肺の疾患、全身状態・臓器機能の低下や薬剤など50以上の原因により生じうる[3]。悪性胸水のほとんどは滲出性胸水であるが、3‐10%は漏出性を示す。滲出性胸水の42‐77%は悪性腫瘍に続発した胸水であり、大量胸水の最も多い原因は悪性腫瘍である。

1)胸水細胞診

がん患者に胸水が認められた場合、胸水中にがん細胞が証明されるか否かが、治療法選択の第一条件となる。胸水細胞診の診断学的感度はおよそ65%で、特異度は97%である[4]。診断率は、中皮腫や扁平上皮癌、リンパ腫、肉腫に比べて、腺癌で高い。異なる複数の部位から検体を採取する意義は低く、避けるべきである。細胞診に必要な胸水量についてのエビデンスはないが、初回は診断用に20‐40mL提出し、悪性胸水が疑われるにもかかわらず陰性であった場合は、2回目の検査時には、より多くの検体量による診断を考慮すべきである。形態学的に悪性胸水と診断された場合、免疫細胞化学的に鑑別を加える。形態学的に類似している転移性腺癌と悪性中皮腫の鑑別は免疫染色が有用であるが、悪性中皮腫の確定診断には可能な限り胸膜生検を行うべきである。

2)腫瘍マーカー

胸水中の腫瘍マーカーは、正確性において十分とはいえず、ルーチンでの測定はすすめられない。CEA、CA125、CA15-3、CYFRAといった腫瘍マーカーを用いた胸水の良・悪性の診断では、単独のマーカーでは感度が30%以下で、すべてのマーカーを用いても54%の感度でしかない[5]。悪性中皮腫の診断における可溶性メソテリン(日本未承認)は、他の腫瘍マーカーに比べ、感度、特異度とも高いが、卵巣がんや膵臓がん、気管支原性肺腺がん、リンパ腫の胸腹水中でも上昇するため、治療経過のモニタリングには有用であるが、組織学的診断を代用できるものではない。

3)画像診断

造影CT検査は、胸膜病変をより明確に判断するため、胸水を完全にドレナージする前に行うことが望ましい。結節状の胸膜肥厚、縦隔胸膜の肥厚、壁側胸膜の肥厚(>1cm)、周囲の胸膜肥厚が多くみられる。胸膜中皮腫と胸膜播種との鑑別は困難である。MRI検査は、T2強調画像における信号強度の違いが良・悪性の鑑別に有用である。胸膜病変の形態学的特徴においては、CTと同等の診断能力をもつが、横隔膜や胸壁への関与を判断する場合は、より有用である。ダイナミック造影MRI検査やPET-CT検査は、胸膜中皮腫に対する化学療法の効果をモニタリングする際に有用である可能性が報告されている。

4)侵襲的検査[3]

胸膜生検は、キュレット、外套、穿刺針、内套の4つのパーツからなるCope針、または3つのパーツからなるAbrams針を使用することが多い。穿刺針に内套を挿入し、さらにこれを外套に挿入した状態で穿刺し、内套を引き抜き胸水が吸引されることを確認した後、針と外套を胸水が引けなくなる位置(胸膜の外側)まで引き戻す。針を外套から引き抜いた後、キュレットを挿入し、壁側胸膜をキュレットのフックに引っかけた状態で外套を進め検体を切離する。下側、内側、外側方向の複数箇所の生検を行うが、Cope針やAbrams針を用いた胸膜生検は盲目的に行うため、壁側胸膜の一部にしかがん病巣がない場合には、その診断的価値は低い。Abrams針により胸膜生検を施行した2893例では、診断率は57%であった。胸水細胞診単独に対し、7‐27%の診断率の上乗せがみられる。Abrams針による生検における合併症は、局所の痛み(1‐15%)、気胸(3‐15%)、迷走神経反射(1‐5%)、血胸(<2%)、血腫(<1%)、一過性の発熱(<1%)、非常にまれであるが出血による死亡が報告されている。一方、造影CTガイド下の胸膜生検は、異常な胸膜病変部位に対しアプローチできるため、診断率は86‐88%と高く有用である。胸腔鏡検査は、滲出性胸水で悪性胸水が疑われ、胸水細胞診で確定診断がつかなかった症例に対し、選択肢のひとつとなる。局所麻酔下の胸腔鏡検査による合併症として、膿胸、出血、肺炎など(2.3%)がみられるが、死亡率は0.4%と安全に施行可能である。診断率は92.6%と高い。ビデオ胸腔鏡下手術(video-associated thoracoscopic surgery: VATS)は、全身麻酔下で行うため、全身状態の低下や重篤な合併症を伴う患者には適さない。診断率は約95%と高く、比較的安全に施行可能である。

悪性胸水の治療法は、いくつかの因子により決定する。症状やperformance status(PS)、予後、原発腫瘍の薬物療法への反応性、胸水ドレナージ後の肺の再膨張の程度により選択する。小細胞肺がんやリンパ腫、乳がんは、通常化学療法に奏効しやすいため、呼吸困難が重度でなければ化学療法を先行することが可能である。

1.胸水ドレナージ(癒着療法併用なし)

悪性胸水を伴う患者の多くは、呼吸困難や胸痛、咳、胸部不快感などの症状を呈しており、このうち呼吸困難が最も多くみられる。胸水ドレナージにより一時的に症状を軽減させることができるが、1か月以内に再貯留する可能性が高いため、予後が1か月以内と限られておりPSが不良な患者において、症状コントロールのために行うべきである。一度に大量の胸水がドレナージされた場合、虚脱した肺が急速に膨張することにより、再膨張性肺水腫がまれに生じることがあるため、胸水のドレナージは、1回の穿刺で1.5Lを超えないように時間をかけて行う。

2.胸膜癒着術

予後が非常に不良な場合や、肺が虚脱していない場合を除き、細径のチェストチューブを挿入し胸膜癒着術を行うことが推奨される。

1)ドレナージチューブ挿入

肋間に細径(10-14Fr)チューブを挿入しドレナージを行う。太径(24-32Fr)のほうがフィブリン栓による閉塞が生じにくいと以前は考えられていたが、細径と太径を比較した3つのランダム化比較試験[7, 8, 9]では、胸膜癒着術の成功率は同等で、胸部不快感は細径のほうが少ないことが示された。

2)胸水ドレナージ

初回は1.5Lを上限とする。胸水貯留量が多い場合は、2時間間隔をあけてさらに1.5Lドレナージし、胸部不快感や持続する咳、迷走神経症状が出現した場合は中止する。

癒着術の成功に必要な条件[2]

・肺の完全な再膨張:肺の広がりが不良な場合は胸腔カテーテルの留置が推奨される。根拠に乏しいが、臓側胸膜と壁側胸膜が半分以上接していれば、胸膜癒着術を試みてもよいかもしれない。

・1日の胸水の排液量:完全に肺が拡張した時点で速やかに癒着術を施行した群(大半が24時間以内)と、1日の胸水排液量が150mL未満となってから癒着術を施行した群のランダム化比較試験[10]では、前者におけるカテーテル挿入期間と入院期間の短縮が認められた。1日の排液量は癒着術の成否とは相関しない。

・薬剤注入後のカテーテル留置期間は癒着術の成否に影響しない[11]。

・不完全な肺の拡張やエアリークが持続する場合に、持続吸引を行う場合は、徐々に-20cmH2Oまで陰圧をかける。

3)局所麻酔薬の前投薬

癒着術の前にカテーテルから局所麻酔薬を注入することにより、薬剤を胸腔内に投与することに伴う痛みや不快感が軽減できる。

リドカイン3mg/kg(上限250mg/body)を癒着剤胸腔内注入の直前あるいは同時に注入する。

4)胸腔内投与薬剤の有効性と合併症

炎症を惹起し胸膜癒着を生じさせる物質の投与が種々試みられ、日本においてはOK432、欧米においてはタルクが最も頻用されている。

(1)OK432(ピシバニール(R)[12]

OK432 0.2KE/kg(最大10KE)+生理食塩水20‐100mL胸腔内注入✚✚

A群溶連菌をペニシリンGの存在下に一定条件で処理し、凍結乾燥した菌体製剤である。1か月後の胸水非貯留割合は75.8%と高い効果がみられる[12]。副作用は、発熱が高頻度で認められる。

(2)タルク(Mg3Si4O10OH2)[13]

タルク5g+生理食塩水50-100mL胸腔内注入✚✚✚

タルクは、2通りの方法で用いられ、一つは、胸腔鏡を用い、完全に胸水を排液した後にタルクを噴霧器で肺表面に噴霧する方法、もう一つは、胸腔ドレナージチューブから、胸水排液後に生理食塩水に懸濁したタルクを注入する方法である。効果は同等とされ、奏効率は81‐100%と高い。他の薬剤との比較試験では、いずれも40例未満と少数例の検討であるが、ブレオマイシン、テトラサイクリンに比べ、タルクの有効性が証明されている[14, 15, 16]。副作用は、胸膜痛や微熱が高率にみられ、重篤なものとして成人呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)が報告されている。ARDS発症の機序は不明であるが、タルクの粒子径との関連が指摘されており、小粒子径は肺実質へ分布し炎症を惹起するため粒子径の大きいものを使用する。なお、日本では、胸腔内投与が承認されたタルク製剤はない。

(3)抗生物質

minocycline300‐400mg+生理食塩水50‐100mL胸腔内注入
✚✚[13, 17, 20]

米国では、1990年代まではテトラサイクリンが標準的な胸膜癒着療法剤として使用されていた。製造中止に伴い、ミノサイクリンで代用されることがあるが、ミノサイクリンは刺激性が強く、注入後の胸痛、発熱に注意が必要である。

(4)抗がん剤

(1)ブレオマイシン

bleomycin1mg/kg(最大60mg)+生理食塩水50‐100mL
胸腔内注入✚✚[12, 13, 17]

抗がん剤のうち、胸膜癒着に対し最も頻用されている。奏効率は58‐85%(平均61%)である。投与量の45%が循環血中に吸収されるが、骨髄抑制はほとんどみられない。

(2)その他の抗がん剤

アドリアマイシン、マイトマイシンC、エトポシド、フルオロウラシルなどが試みられたが、奏効率が低く現在はほとんど使用されていない。シスプラチンは、単剤あるいはエトポシドとの併用投与[12]などが報告されており、低張性溶液を使用した第II相試験では、1か月後の胸水コントロール率は83%と良好であった[18]

低張性シスプラチン溶液✚✚

cisplatin25mg+蒸留水500mL胸腔内投与[18]

5)薬剤注入後の体位変換[13, 19, 20]

放射線ラベルしたテトラサイクリン(日本発売中止)を胸腔内投与した検討[19]では、テトラサイクリンは数秒内に胸腔内に拡散し、患者の体位変換による影響はみられなかった。同様に、テトラサイクリン、ドキシサイクリン(日本発売中止)、ミノサイクリンを使用した場合の体位変換群と非体位変換群のランダム化比較試験[20]では、癒着の成功率や胸水ドレナージの期間に差は認めなかった。

6)クランプとチューブ抜去

薬剤注入後、1時間クランプする。

胸腔カテーテルの抜去時期は、1日の胸水排液量が150mL未満になった後が推奨されているが、エビデンスはほとんどない。

薬剤注入からチューブ抜去までの期間は、明確なエビデンスがないが、長期間のドレナージによる不快感のため、24‐48時間以内に抜去することが推奨される。

3.カテーテル挿入部やポート部への播種

悪性胸膜中皮腫以外の悪性胸水症例で、診断や治療目的での胸腔穿刺、胸膜生検、胸腔カテーテル挿入、胸腔鏡施行部位に、局所再発や播種が出現することはまれである。一方、胸膜中皮腫では、約40%の症例に胸膜への処置部位に播種を認める。胸腔穿刺や胸膜生検部位に比べ、胸腔鏡や開胸術、太い径のチェストチューブを挿入した部位への局所再発、播種のリスクが高く、予防的放射線照射が推奨される。

4.胸腔内への線維素溶解剤の注入

ランダム化比較試験は存在しないが、胸腔内への線維素溶解剤(ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ)の注入により、ドレナージ抵抗性の多房性悪性胸水による息切れの軽減がみられ、安全性においても問題はなかったことが報告されている。

5.胸腔鏡

胸腔鏡の利点は、診断、胸水ドレナージ、胸膜癒着術が一連の流れで施行可能なことである。診断率は90%を超え、胸腔鏡下のタルク散布による胸膜癒着の成功率は77‐100%である。

6.長期間にわたる外来での胸腔留置カテーテル

虚脱した肺を伴い、再発性で症状を呈する悪性胸水をコントロールするために、皮下トンネルを作成し留置した胸腔カテーテルを、ディスポーザブルの真空吸引容器に接続し携帯する方法もある。入院期間の短縮が可能で、全例で症状の緩和がみられ、胸腔内に挿入された異物(カテーテル)により炎症が生じ、60%弱の症例で自然癒着を認めた[21]

7.胸膜切除術

侵襲が大きく周術期の死亡率が10‐19%と高い。エビデンスが十分でなく、再発性の胸水や虚脱肺の症例に対する胸膜癒着術や胸腔カテーテル留置の代替法とはいえない。

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