A 背景
B 腎機能の評価
1.カルボプラチン投与量決定の観点からみた血清クレアチニン値と糸球体 濾過量の解釈
2.実際の腎機能の評価と解釈
C 透析患者への薬剤投与
文献

抗腫瘍薬は糸球体や尿細管、腎間質や微小血管系に作用し、不顕性の血清クレアチニン値上昇から、緊急透析が必要である急性腎不全まで種々の障害を起こす。

腎臓は多くの抗腫瘍薬およびその代謝物の排泄の主体を担う。腎臓における薬剤の排泄は主に2経路あるとされる。糸球体濾過経路は蛋白非結合性の小分子性抗腫瘍薬の排泄主体であり、糸球体毛細血管壁を通過して尿中に排泄される。また、蛋白結合性の分子量が大きい抗腫瘍薬は、糸球体濾過が不可能であり近位尿細管における分泌機能によって尿中に排泄される。

腎機能障害は薬剤の排泄と代謝の遅延を惹起し、結果的に全身毒性を増加させる危険性がある。腎障害が存在する場合、多くの薬剤で投与量の調整が必要である。具体的に投与量調整が推薦される薬剤を表1に記載する[29]。

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薬剤投与量決定に際して、腎機能の評価は非常に重要である。腎機能は主に糸球体濾過量(GFR)で測定され複数の推定方法がある。代表的なものはCockcroft-Gaultの計算式や24時間蓄尿クレアチニンクリアランスであり、実臨床において最も汎用される。

1.カルボプラチン投与量決定の観点からみた血清クレアチニン値と糸球体濾過量の解釈

1)血清クレアチニン測定法

従来米国での血清クレアチニンの測定はJaffe法で行われていた。Jaffe法は実際のクレアチニン値よりも0.2 mg/dLほど高く測定される傾向があり、測定法も標準化されておらず、測定値にばらつきが大きかった。現在米国では、Jaffe法よりも正確かつばらつきの少ないIDMS法を採用している。一方日本では、酵素法によって血清クレアチニンを測定しているが、IDMS法で測定されたクレアチニン値とほぼ同一の検査値が導出される。

2)糸球体濾過量の解釈

薬剤の投与量決定の際に最も糸球体濾過量(GFR)を考慮する必要がある薬剤のひとつがカルボプラチンである。カルボプラチン投与量の決定は、測定糸球体濾過量をCalvertの式に代入して導出される。

[Calvertの式]
カルボプラチン投与量(mg/body)=target AUC×(糸球体濾過量(mL/分)+25)

GFRを導出する方法は複数存在し、最も正確な方法はイヌリンクリアランスとされるが、測定は煩雑であり実地臨床の場で全例に施行することは困難であり、いかに正確かつ簡便に推定糸球体濾過量(estimated GFR)を導出するかが重要である。

代表的なGFRの推定方法は、Cockcroft-Gault式と24時間蓄尿クレアチニンクリアランス測定法が存在するが、これらの方法によって導出された値をCalvert式にそのまま代入すると、カルボプラチンの投与量が過量投与になることが指摘されている。日本におけるカルボプラチンベースレジメンの臨床試験においても、血液毒性が西欧諸国と比較して多く報告され、カルボプラチンの過量投与が原因とされている[35]。以下、各GFR導出方法における注意点を記載する。

(1)Cockcroft-Gault式
CCr(mL/分)={140−年齢×体重}÷血清クレアチニン(mg/dL)×72)×女性ならば0.85を乗する)

糸球体濾過量を導出する際に最も汎用される方法である。Gynecological Oncology Group(GOG)による臨床試験においても標準的に使用され(注)、計算されたクレアチニンクリアランス値をGFRに近似し、Calvert式に代入してカルボプラチンの投与量が決定される。しかし、本法によって測定されたGFR値は実測値よりも高くなる傾向にあるため、以下のように米国National Cancer Institute(NCI)が使用に際して勧告を出している。
[注]GOGではクレアチニンクリアランスとGFRを同等としており、本稿もそれに倣う。

・血清クレアチニン低値(0.7 mg/dL未満)の患者は、0.7 mg/dLを使用してクレアチニンクリアランスを測定する。
・Calvertの式に導出したGFRを代入する際は、GFRが125 mL/分を超えないこと。つまり、AUC 6であれば900 mg/bodyが最大量となる。

(2)24時間蓄尿クレアチニンクリアランスの測定
CCr(mL/)=尿中クレアチニン(mg/dL)×尿量(mL/)÷血清クレアチニ(mg/dL)×24時間×60分)

Cockcroft-Gault式と並んで汎用される方法であるが、本法によって導出された糸球体濾過量も、イヌリンクリアランスと比較して高値であると考えられている。下方らによると、24時間蓄尿クレアチニンクリアランス値を調整することによってより正確なGFRが導出されたと報告した[36]。以下、調整式を記載する。

調整24時間蓄尿クレアチニンクリアランス
=24時間蓄尿クレアチニンクリアランス(mL/)×血清クレアチニン(mg/dL)÷(血清クレアチニン(mg/dL)+0.2)

(3)estimated GFR(eGFR)
日本腎臓学会が提唱している換算式を用いて測定された値であり、血清クレアチニン、年齢、性別によって求められる[37]。(導出方法は割愛する。)実測のイヌリンクリアランスとの乖離も少なく、糸球体濾過量を反映するよい方法であるが、次の点に注意が必要である。

・慢性腎臓病を想定して作成されており、18歳未満の小児には単純に使用できない。
・体表面積による補正が必要である。すなわち、導出されたeGFRに対して体表面積/1.73 m2を乗する必要がある。

血清クレアチニンよりも正確にGFRを見積もる方法[38]が上記以外にも複数提唱されているが、カルボプラチン投与量を決定する基盤となる腎機能評価方法としての世界的なコンセンサスは得られていない。一方で、日本で卵巣がんにおけるdose-dense TC療法において、酵素法によって測定された血清クレアチニン値を、下限値を設定せずそのまま導入したにもかかわらず、生じた血液毒性の頻度はクレアチニン低値例と非低値例で変わらなかったという報告が2012年のAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)で発表された[39]。

今後、カルボプラチンの至適投与量を決定するためのコンセンサス策定に向けて、さらなるトライアルが必要となりえる。

2.実際の腎機能の評価と解釈

腎機能の解釈で注意すべき点として、クレアチニン値は腎機能以外にも筋量に相関することには必ず留意する。すなわち、筋量が少なくやせている患者や、高齢者では腎機能障害が仮に存在してもクレアチニン値が上昇しないことがある。したがって、このような患者層では、計算値のみならず以下のような臨床状況を勘案して腎機能を評価する必要性がある。

・脱水の存在、体腔液貯留などサードスペースへの漏洩の存在。
・腎毒性のある薬剤の併用:NSAIDsやアミノグリコシドなどの抗生物質。
・腫瘍による尿路閉塞。
・併存疾患による腎機能障害:慢性腎臓病や腎炎の存在、高カルシウム血症や高尿酸血症などの代謝内分泌系の問題。

透析患者における抗腫瘍薬の安全性や薬物動態はほとんど判明しておらず、単発のケースレポートが散見されるのみである。透析患者に化学療法を導入する場合、腎臓によるクリアランスがないことを考慮し、薬剤投与量を減量し過量曝露と全身毒性の軽減に努める。また、透析による薬剤クリアランスのタイミングを考慮し、抗がん剤の投与時期を調整することが必要となる[40]。透析に対する抗腫瘍薬の危険性と安全性に関して表2に記載した[29]。

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29. Edward Chu, et al. Physicians’ cancer chemotherapy drug manual 2009 Jones & Bartlett Pub. 2008.

35. Katsumata N. Dose-dense therapy is of benefit in primary treatment of ovarian cancer? In favor. Ann Oncol 2011; 22 Suppl 8: viii29-viii32. [PubMed]

36. Shimokata T, et al. Prospective evaluation of pharmokinetically guided dosing of carboplatin in Japanese Patients with cancer. Cancer Sci 2010; 101(12):2601-5. [PubMed]

37. Matsuo S, et al. Revised equations for estimated GFR from serum creatinine in Japan. Am J Kidney Dis 2009; 53(6):982-92. [PubMed]

38. Inker LA, et al. Estimating glomerular filtration rate from serum creatinine and cystatin C. N Engl J Med 2012; 367(1): 20-9. [PubMed]

39. Matsumoto K. Correlative study of low serum creatinine and hematological toxicities in Japanese patients with ovarian cancer treated by dose dense TC therapy. ASCO 2012 General Poster Session Abstract #5045.

40. Janus N, et al. Proposal for dosage adjustment and timing of chemotherapy in hemodialyzed patients. Ann Oncol 2010; 21(7): 1395-403. [PubMed]