A 背景
B 化学療法、放射線療法による肝障害
1.臨床症状と診断
2.化学療法による肝機能障害の予後
3.併存肝疾患の影響
4.B型肝炎ウイルス
5.C型肝炎ウイルス
文献

化学療法を受ける患者における肝障害のメカニズムは、主に以下の3つに大別される。
・投与薬剤の直接肝臓毒性によるもの。
・ウイルス肝炎など背景肝疾患の増悪。
・背景肝疾患による肝機能障害により、肝臓に代謝排泄を依存する化学療法薬剤の血中濃度の上昇と曝露の遷延が生じ、骨髄毒性をはじめとする全身毒性が増強するもの。

多くの肝毒性を有するとされる薬剤は、直接的な肝細胞障害や、炎症や胆汁うっ滞を介した肝毒性を有するが、血管内皮障害や肝類洞閉塞症候群(hepatic sinusoidal obstruction syndrome: SOS)などの形態をとることもある。

肝への放射線照射はそれ自身が肝臓毒性となりうるが、耐用線量内の照射量であっても、化学療法と併用することで重篤な肝障害を引き起こすことが報告されている。ビンクリスチン、ドキソルビシン、ダクチノマイシンなどで報告がある[26, 27]。

1.臨床症状と診断

化学療法起因性肝障害の臨床症状は、無症候性で血液データのみの異常から、急性黄疸症状まで多岐にわたる。

鑑別疾患として、肝の原発巣や転移巣の進行、併存肝疾患の増悪、抗腫瘍薬以外の薬剤による肝障害があげられる。化学療法が原因である肝障害を示唆する所見として、肝疾患の既往欠如、抗腫瘍薬投与後の肝障害の進行、抗腫瘍薬中止による肝機能障害の改善などがある。

CTや超音波などの画像モダリティ使用は、器質的病変を否定する目的で重要であるが、肝生検まで施行しなくてはならない場合は通常まれである[28]。

2.化学療法による肝機能障害の予後

化学療法による肝障害の経過は様々であり、可逆性の反応を呈する薬剤もあれば、薬剤を中止しても線維化の進行による硬変肝化を呈する薬剤もある。薬剤の再導入によって肝障害が再発された場合、投与の反復は原則推薦されない。

3.併存肝疾患の影響

抗腫瘍薬による肝毒性が、肝胆道系の腫瘍の存在や併存肝疾患の存在、その他の全身状態において増加するかどうかは明確ではない。しかしながら、併存肝疾患や肝機能障害が存在する場合は、化学療法前にこれらに対する診断的ワークアップによる原因精査を施行することが望ましい。また、肝障害存在下における化学療法導入時は、肝毒性を有する薬剤の使用を回避したり、投与量を減ずる必要がある。投与量調整が推薦されている薬剤を表1に記載する[29]。

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4.B型肝炎ウイルス

全身性化学療法を受けた患者において、B型肝炎ウイルス(HBV)の再活性化や続発性の致死的重症肝炎の発症が報告されている。また、化学療法時に高率に使用されるグルココルチコイドの使用がHBVの複製を活性化させ、重症肝炎を誘発するリスクが指摘されている。このため、HBVキャリアには、ラミブジンなどの核酸アナログ予防投薬が推薦されている。

HBV既感染パターン(HBs抗原陰性、HBc抗体またはHBs抗体陽性)の患者でも、肝臓や末梢血単核球内でのHBV-DNA複製が潜在的に持続していることがあり、移植や悪性リンパ腫におけるリツキシマブの投与により、de novo肝炎という重症肝炎発症例が報告されている。

日本でも、HBVに関するスクリーニングガイドラインが制定されており、詳細はそちらを参考されたい[30]。骨子としては以下のとおり。

・化学療法施行前には全例HBs抗原を測定し、陰性の場合はHBc抗体とHBs抗体を測定。
(1)HBs抗原が陽性であった場合:HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA定量検査を施行し、核酸アナログの投与を行う。
(2)HBc抗体、HBs抗体のいずれかが陽性であった場合:HBV-DNA検査を施行。
・HBV-DNA検査にて検出感度以上であれば核酸アナログの予防投与が推薦される。
・検出感度未満であった場合、HBV-DNAならびに肝酵素の月1回の定期経過観察が推薦。
陽性化した場合はただちに核酸アナログを投与する。
これらのフォローアップは、治療終了後12か月までは施行するべきとされる。

一方で、American Society of Clinical Oncology(ASCO)が2010年に出した声明では、化学療法施行前のHBVの全例スクリーニングのリスクとベネフィットは不明としている。HBVの感染既往や、高率で曝露が予測される場合、造血幹細胞移植やリツキシマブの使用時など、臨床上HBV再活性化リスクが高いと判断された場合はスクリーニング検査を推薦するが、血清学的検索において、HBs抗体の有用性は認められるものの、HBc抗体に関してはエビデンスが不足しているとした。また、HBV感染が判明した場合の抗ウイルス療法の効果を示したランダム化比較試験は限定的であり、肝炎の治療やスクリーニングで化学療法の導入が遅れてしまうことには懸念を表明している[31]。

しかしながら、日本におけるB型肝炎キャリアは欧米よりも多数存在するとされており、欧米では0.1-1%であるのに対して、日本では2-7%の保有率とされ、米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)の2012年度の報告では、中等度流行とされている[32, 33]。今後は地域性を考慮した肝炎スクリーニングも検討されるべきである。

5.C型肝炎ウイルス

C型肝炎ウイルス(HCV)の再活性化による重症肝炎の発症は少数の報告レベルでは散見されるものの、HBVほどの強固な因果関係は証明されていない[34]。

26. Khozouz RF, et al. Radiation-induced liver disease. J Clin Oncol 2008; 26(29): 4844-5. [PubMed]

27. Kun LE, Camitta BM. Hepatopathy following irradiation and Adriamycin. Cancer 1978; 42(1): 81-4. [PubMed]

28. Pratt DS, Kaplan MM. Evaluation of abnormal liver-enzyme results in asymptomatic patients. N Engl J Med 2000; 342(17): 1266-71. [PubMed]

29. Edward Chu, et al. Physicians’ cancer chemotherapy drug manual 2009 Jones & Bartlett Pub. 2008.

30. 坪内博仁, 他. 免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策―厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班 劇症肝炎分科会および「肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究」班合同報告―. 肝臓 2009; 50(1): 38-42.

31. Artz AS, et al. American Society of Clinical Oncology provisional clinical opinion: chronic hepatitis B virus infection screening in patients receiving chemotherapy for treatment of malignant diseases. J Clin Oncol 2010; 28(19): 3199-202. [PubMed]

32. Maynerd JE. Hepatitis B: global importance and need for control. Vaccine 1990; 8 Suppl: S18-20. [PubMed]

33. U.S.Centers for Disease Control and Prevention(CDC). Travelers’Health. Yellow Book. Hepatitis B.
http://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2012/chapter-3-infectious-diseases-related-to-travel/hepatitis-b.htm

34. Zuckerman E, et al. Liver dysfunction in patients infected with hepatitis C virus undergoing chemotherapy for hematologic malignancy. Cancer 1998; 83(6): 1224-30. [PubMed]