妊娠1000例から2000例に1件ほど母体にがんが合併するとの報告があり、その発生率は漸増する傾向にあるとされ、乳がんや血液腫瘍が多いとされている[20]。原則的に胎児を勘案するあまりに母体の化学療法が遅延し、予後が悪化することは好ましくない。しかしながら、妊婦への化学療法導入は非常に難しい問題をはらむ。ほとんどの抗腫瘍薬は、米国Food and Drug Administration(FDA)の安全性カテゴリー(表1)ではDであり、人体への催奇形性があると判断されている。また、胎児に対しての安全性に関しても少数の報告を基に規定されており、エビデンスレベルとしては低い。母体に化学療法を施行するかどうかは、十分なインフォームドコンセントが必要である。

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妊娠4週以内における抗がん剤の曝露は、流産に至るかほとんど影響がないかのいずれかとされているが、妊娠第一期(first trimester)とよばれる妊娠14週までは器官形成期であり、抗がん剤の曝露で重篤な奇形を生じるリスクが最も高い期間である。この期間内は、抗がん剤に限らずその他の薬剤も投与回避が望ましいとされる。

妊娠中期以降では胎児奇形の発生頻度は1.3%程度と低率であるとされ、リスクとベネフィットを熟考したうえで化学療法が施行可能であるとされる[21]。シクロホスファミドやドキソルビシン、フルオロウラシルはこれまで投与経験が蓄積されてきており、比較的安全に投与が可能とされているが[22]、タキサン系やメトトレキサート、タモキシフェンなどは妊婦の使用は推薦されていない。その他の薬剤においてもデータが不足し安全性の明確なデータはない。胎児奇形の発症率は低下するものの、子宮内発育遅延や早産のリスクが上昇することも考えられる。

さらに母体に投与された抗がん剤が胎盤を介して胎児へと移行し、胎児骨髄抑制を生じることがある。出産時の児出血や感染の危険性が上昇する可能性があるため、出産予定日の3-4週以内の抗がん剤投与は避けるべきとされている。また、分娩後の授乳は抗がん剤の母乳移行性を勘案すると原則禁忌である[23]。

胎児は放射線感受性が高いため、妊娠中の放射線療法は原則禁忌である。また、器官形成期では全身精査目的でのCT検査も推薦されない。

母体化学療法施行後の出産児の認知機能ならびに心機能の成長発達は、正期産であった場合は通常分娩した児とほぼ大差がないとされるが、早期産では障害を受けるとされている[24]。医原性に出産を早めるような化学療法は可能ならば回避するべきであるが、血液腫瘍の治療など、化学療法を待機することで母体の危険性が上昇する場合は、リスクとベネフィットをしっかりと検討したうえで、妊娠の中断や人工妊娠中絶などの選択肢も検討されることがある[25]。

文献

20. Stensheim H, et al. Cause-specific survival for woman diagnosed with cancer during pregnancy or lactation: a registry-based cohort study. J Clin Oncol 2009; 27(1): 45-51. [PubMed]

21. Doll DC, et al. Management of cancer during pregnancy. Arch Intern Med 1988; 148(9): 2058-64. [PubMed]

22. Berry DL, et al. Management of breast cancer during pregnancy using a standardized protocol. J Clin Oncol 1999; 17(3): 855-61. [PubMed]

23. Thomas W. Medications and Mother’s Milk, 13th ed. Pharmasoft Medical Pub. 2008.

24. Amant F, et al. Long-term cognitive and cardiac outcomes after prenatal exposure to chemotherapy in children aged 18 months or older: an observational study. Lancet Oncol 2012; 13(3): 256-64. [PubMed]

25. Horning SJ, et al. Female reproductive potential after treatment for Hodgkin’s disease. N Engl J Med 1981; 304(23): 1377-82. [PubMed]