A 背景
B 加齢に伴う臓器機能の変化
1.肝機能
2.腎機能
3.骨髄機能
4.薬剤の分布と吸収
5.心機能
6.多剤の服用
C 高齢者への実際の適応
文献

多くの腫瘍性疾患は60歳以降で発症率が増加し、日本における高齢者の悪性腫瘍による死亡割合も高率である[1]。

これまでの臨床試験では、高齢者は原則除外基準に相当し、十分な検討がされていないことが多い。高齢者を対象とした一部の臨床試験においても、良好なperformance statusや、併存症や合併症がないまたは軽微であること、臓器予備能が保たれていることなど、いくつかの選択基準を設けており、被験者の選択に関して慎重に行われている。このため、これらの高齢者を対象とした臨床試験の結果をすべての同一年齢層に適用することはできないことに注意するべきである。

1.肝機能

加齢は、肝体積ならびに肝臓の機能的予備能の低下に関連するとされ、結果的に薬物代謝機能は低下し、高濃度長時間の薬剤曝露を受ける[2, 3]。加齢によって肝体積や肝血流は減少傾向を呈するが、これらの点を勘案して投与量を調整する必要性はないとされている。しかし、原疾患による肝病変や、アルコール性肝疾患やウイルス肝炎などの背景肝疾患を有する患者では、肝臓における薬物代謝機能の低下はさらに高度であり、注意深い肝機能モニタリングが必要である。

薬剤投与量の調節は、ビリルビンやアミノトランスフェラーゼの値によって施行されることが多いが、臨床症状やアルブミン、凝固能など他のパラメータも勘案して肝機能を評価することが重要である。

2.腎機能

腎機能も加齢によって低下し、薬剤の血中濃度のピーク値上昇と曝露時間の延長を呈するため、腎排泄薬剤の毒性が増強する。

腎機能の評価として、血清クレアチニン値に関しての解釈は注意が必要である。加齢による骨格筋量の低下によって、血清クレアチニン値の減少を招くことがあり、高齢者における腎機能とクレアチニンは相関が希薄となり、不顕性の腎機能障害を呈することがある[4]。したがって、血清クレアチニン値よりもクレアチニンクリアランスによって腎排泄薬剤の投与量は決定されるべきである。(詳細は「腎機能障害と化学療法」の節で後述する。)

また、高齢者は脱水などの体液量の減少によって、容易に腎前性腎不全パターンの腎機能低下を起こしうる[2]。若年例では通常軽症と考えられるような化学療法による嘔吐または下痢などの症状においても、高齢者では高度の脱水症状をきたしている場合があり、注意深い体液量のマネジメントが必要となることがある。

3.骨髄機能

骨髄機能は加齢と相関して低下するため、化学療法起因性の血球減少は若年者と比較して重篤かつ遷延する傾向にある[3, 5, 6]。American Society of Clinical Oncology(ASCO)ガイドラインでは、20%以上の発熱性好中球減少症の危険性が見積もられるようなレジメンに関しては予防的にG-CSFの使用を推薦しているが、高齢者では血球増殖因子の柔軟な使用が許容され、効果が不十分であった場合は、投与量の調整、延期が必要となってくることが多い[3, 7]。

貧血は原疾患や治療によってよく認められる有害事象であり、男女ともに加齢にともなって発現の可能性が増加する。高齢者における貧血の放置は、代償性心不全の危険性を上昇させる。化学療法による貧血において、エリスロポエチン製剤の使用は日本では認められていないため、Hb<7.0 g/dLを割り込む重症の貧血では、適宜輸血による補充が考慮される。欧米ではエリスロポエチン製剤の使用が容認されているものの、死亡、血栓症のリスクが上昇した報告などもあり、使用には注意が必要である[8]。

4.薬剤の分布と吸収

1)分布

高齢者は若年者と比較して脂肪分が体重の15-30%と倍増するのに対して、細胞内の水分は減少するとされる[9]。これらの変化は、水溶性かつ極性の高い物質の血中濃度の上昇をきたすが、脂溶性薬剤の血中濃度低下と半減期の延長をきたす。また、加齢によるアルブミンの低下も、これらに結合するような薬剤の分布に影響を与える可能性がある。しかし、加齢による薬剤分布の変化によって投与量や投与期間を調整する必要があるかどうかは明確ではない。

また、胸水や腹水などの体腔液貯留患者に対するメトトレキサートの使用は特に注意が必要である。サードスペースに貯留した体腔液に薬剤が漏出し、血中に持続的に吸収されることで全身曝露や毒性のリスクが増加する。

2)吸収とコンプライアンス

加齢による消化管粘膜の萎縮や消化酵素の分泌低下は経口薬剤の吸収遅延を招く可能性があるが、投与量調整の必要性は不明であり通常は施行されない。さらに、経口薬剤は服薬コンプライアンスの問題もあり、定められた期間、定められた用量で内服を継続できているのか留意する必要がある[10]。

5.心機能

加齢により心筋の収縮拡張能も低下し、無症候性の心疾患は年齢と相関して増加するとされる。

アントラサイクリン系やフルオロピリミジン系の薬剤の使用は、心毒性や冠血管攣縮の発症を考慮するべきである。高齢者におけるドキソルビシン含有レジメンの使用により、29%心不全リスクが増加し、高血圧を有する患者での導入が特にリスクが高いとの報告がある[11]。その他の心毒性が生じる可能性のある代表的な薬物を表1に列記する。

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6.多剤の服用

高齢者は若年者と比較して3倍の薬剤を服用しており、9割の高齢者で1種類以上の常用薬があり、平均4種類の内服薬があるとされる[13]。常用薬の種類が増えれば薬物相互作用が生じる可能性があり、特にチトクロームP450系を介した代謝経路に乗る薬剤投与は考慮する必要がある。チトクロームP450系を抑制させる薬剤は潜在的に化学療法の毒性を増強させ、有害代謝物産生を増加させる可能性がある。一方で、チトクロームP450系を誘導する薬剤は薬物代謝を亢進させ、治療効果を減少させることがある。チトクロームP450系に作用しうる代表的な薬剤を表2に列記する。

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高齢者の進行がんにおける化学療法導入は、原則若年者と同様に検討される。若年層と比較して毒性の増強が報告されているが[14]、健康な高齢者においては若年者と同様のベネフィットが得られ、生存の短縮や治療関連死の増加は認められないとの報告もある[15]。

人間は加齢によって生理的な臓器予備能の低下を認めるため、化学療法などの高度の外的ストレス曝露に対しての代償機能が高齢者では一般的に低下している。しかし、必ずしも暦年齢が臓器機能低下と相関するわけではなく、臓器機能には個人差が大きく関与する。実年齢のみにとらわれず、臓器機能や併存症の重症度に着目し、治療導入に際しては悪性腫瘍としての予後と併存症の予後も併せて検討する必要がある。生存期間の延長よりもQOLの改善に重点をおく必要性も検討する必要がある。

臓器予備能や全身状態の把握のために、複数の評価方法がある。簡便かつ汎用される方法がperformance status(PS)であるが、PSのみの評価では臓器障害を低く見積る危険性が指摘されている。高齢者の機能状況をより詳細に把握する方法としてactivity of daily living(ADL)とinstrumental activity of daily living(IADL)などの基礎生活を送るうえで必要な能力を評価する方法がある。また、ADLやIADLなどの機能状態に、社会経済状態や認知精神機能、服薬薬剤数、栄養状態などを加えより包括的に評価する方法としてcomprehensive geriatric assessment(CGA)がある。Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG-PS 2以上やkarnofsky PS(KPS) 80以上の一般的には全身状態が良好であると判断されている患者群のなかでも、ADLやIADLの障害が40%弱に認められ、有害事象が高頻度に発現したり、医療資源を多く必要とした報告もあり、PSのみの評価では不十分とされることもある[16, 17, 18]。CGAを使用した評価項目で、Grade 3以上の化学療法の毒性が高度に出現すると考えられているリスク項目を表3に示す[19]。

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しかし、これらの包括的老年医学的評価に関しては、
・国際的な標準的評価基準が定まっていない
・評価項目が多く煩雑であり、実臨床への応用が困難である
などの問題をはらんでいる。現在CGAの単純化を図る目的で多くのアプローチが試みられている。

1. 厚生労働省. 平成22年人口動態統計年報 主要統計表: 死亡. [PDF]

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