このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

2009/2/17

標準治療アップデート 治療 早期であれば内視鏡で治療可能 II期以上では術後の抗がん剤投与が普及

 
 胃がん監修:京都大学消化管外科教授 坂井 義治  
 
 胃がんの治療方針は、原則、日本胃癌学会による「胃癌治療ガイドライン」に沿って決定されます。ガイドラインは、有用性が科学的に検討されている治療法や多くの医師が経験的に妥当と考えている治療法を「日常診療」として示しています。さらに、ある程度の安全性が確保されており、試すに値する科学的根拠がある治療法を「臨床研究」として示しています。

 最も有効で標準的な胃がんの治療法は、胃の切除と周辺のリンパ節を取り除くリンパ節郭清を行う治療です。胃切除の範囲は、がんがある場所と広がり具合の両方から決定します。切除した範囲に応じて、食物の通り道をつくり直す再建術も行います。リンパ節郭清は、リンパ節への転移の可能性がほとんどなければ必要ありません。

 ガイドラインに示された標準治療を、病期ごとに見てみましょう。

I期の治療方針
 IA期では、内視鏡を使った粘膜切除術か、または切除範囲を小さくした縮小手術が推奨されています。

 内視鏡を使った粘膜切除術は、「内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection;EMR)」と言います。検査にも使われる内視鏡を使って病変を取り除く方法です。がんが胃の粘膜の浅いところに留まっていてリンパ節などへの転移がない場合に行います。また、患者さんの体力が手術に耐えられない場合に行うこともあります。

 ガイドラインでEMRによる治療が推奨されるのは、がんの大きさが2cm以下で、胃の最も浅い粘膜層にとどまるがん(粘膜がん)、かつ、がんの組織型が分化型の場合です。がんの組織型は、分化型と未分化型に分けられ、分化型とは胃や腸の粘膜構造を残したがんのことです。一方の未分化型は、粘膜構造が少なくバラバラになっているがんです。未分化型は早期に転移することが多く、小さくてもリンパ節に転移していることがあるので、内視鏡的粘膜切除術の適応にはなりません。

 内視鏡による切除術の技術は年々高まっており、より進行したがんに内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Disection;ESD)を行うこともあります。

 IA期で、内視鏡による切除術の適応とならない胃がんは、縮小手術が推奨されています。これは、胃の切除範囲を縮小したり、リンパ節郭清を一部省略したり、通常は胃と一緒に切除する大網(脂肪組織)を取り除かない手術です。大網とは、胃に付着している脂肪組織のことです。

 縮小手術として、胃の出口部分(幽門部)の一部を残す「幽門保存胃切除術」があります。幽門部を残すことで、胃切除後の代表的な後遺症であるダンピング症候群や腸液が胃に逆流するのを防ぐことができます。また、大網を切除しないことにより、術後の合併症である腸閉塞の頻度が減少します。また、胃の周囲の神経を残した場合、術後の下痢や胆嚢に結石ができる頻度が低くなります。

 さらにリンパ節を取り除く(郭清)範囲を縮小します。リンパ節郭清の範囲によって、縮小手術Aと縮小手術Bの2通りがあります。がんが粘膜内にとどまりリンパ節転移がないと判断される場合は縮小手術Aを、がんが粘膜下層まで及んでいるがリンパ節転移がないと判断される場合は縮小手術Bを行います。

 IB期は、縮小手術Bまたは「定型手術」が推奨されています。定型手術とは、胃がんの標準的な手術のことで、胃の3分の2以上を切除し、さらに胃に接している第1群リンパ節と胃に流れ込む血管に沿っている第2群リンパ節を取り除く「D2郭清」を行う手術です。

 がんが、胃に接したリンパ節に転移していて大きさが2cmを超えていれば、定型手術を行います。がんの深逹度が筋層に達する場合は、がんの大きさに関係なく定型手術を行います。

 切除する部分は、がんが胃のどこにできるかによって違ってきますが、多いのは胃の出口(幽門)側の切除です。この場合、胃の入口である噴門は残され、ある程度の胃体部が残ります。小腸に食物が流れるのを調整する役割を持つ幽門を切除してしまうと、手術後の後遺症として、ダンピング症候群が起こることが少なくありません。

 がんが、噴門(胃の入り口)の近くにある場合は、胃を全部摘出する「胃全摘」を行うことが多いですが、噴門寄りの胃だけを切除して幽門を温存する「噴門側胃切除術」を行うこともあります。幽門を残すことで、ダンピング症候群が少なく、体重の回復も早いようです。

 腹腔鏡手術は、腹部に小さい穴を数カ所開けて、専用のカメラや器具で手術を行う方法です。通常の開腹手術に比べて、手術による体への負担が少なく、手術後の回復が早いため、手術件数は増加しています。ただし、開腹手術と比べて、リンパ節郭清が難しいこと、消化管をつなぎ直す技術の確立が十分とはいえないことなどから、胃がんに対する腹腔鏡手術件数は全体としてはまだ少ないのが現状です。腹腔鏡手術を検討する場合には、胃がんの腹腔鏡手術件数が多い施設を選ぶとよいでしょう。

II期の治療方針
 II期では、定型手術が推奨されています。手術後に、抗がん剤による補助化学療法を行うことが多くなっています。手術でがんを切除できたと思われても、目に見えないがんが残り後に育ってくることがあるため、それを予防する目的で行うのが補助化学療法です。通常、飲み薬の抗がん剤(経口抗がん剤)が用いられます。

 がんの広がりによっては手術前に抗がん剤による化学療法を行うこともあります。これは、抗がん剤でがんを小さくしてから手術することで、より確実に切除できることを期待して行うものです。しかし術前化学療法が全く効果がなかった場合、単に手術が遅れるだけでなく副作用で手術の条件が悪くなることもあるため、適応を慎重に決める必要があります。

III期の治療方針
 IIIA期の治療は、がんが周囲の臓器に浸潤していなければ、定型手術が推奨されています。がんが膵臓や大腸にまで広がっている場合は、膵臓や大腸を含めて切除します。これを「拡大手術」と呼びます。

 拡大手術を行った上で、さらに遠くのリンパ節まで郭清することもあります。また、手術前に抗がん剤による治療を行ったり、手術後に抗がん剤治療を行うこともあります。

 IIIB期は、IIIA期と同様にほかの臓器に浸潤していなければ定型手術を、他臓器に浸潤している場合は拡大手術が推奨されています。ただし、この病期になると、満足できる治療成績が得にくいため、より遠くの大動脈周囲のリンパ節を含めたリンパ節郭清が行われる傾向にありました。しかし、現在では、より遠くの大動脈周囲リンパ節を郭清しても、生存率が改善しないことが判明したため、リンパ節郭清を拡大する手術は控える傾向にあります。

IV期の治療方針
 IV期はかなり進んだ胃がんで、その中にはさまざまな状態が含まれています。したがって治療もさまざまです。ときには、根治を目的に拡大手術を行うこともあります。また、がんを全て取り切れなくても、できるだけ取り除いてがんを減らすことで、がんによる症状を改善したり、生存期間を長くするのを目的に拡大手術を行うこともあります。がんの切除が難しい場合、患者さんの状態が比較的良好で、肝臓や腎臓の機能に大きな異常がない場合は、化学療法を行います。

 胃がんに効果がある抗がん剤はいくつかありますが、がんが進んで手術できない状態で、抗がん剤だけで完全に治療することはまだ難しいのが現状です。しかし、身体の状態が悪くなければ、抗がん剤による治療を受けることで、受けない場合に比べて長生きすると考えられています。また、比較的長期間病状を安定させることができることも多いようです。

 胃がんに使用される抗がん剤は、5-FU、マイトマイシンC、メトトレキサート、シスプラチン、イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセルなどがあります。1種類単独で使用する場合と、複数の抗がん剤を組み合わせる併用療法を行う場合があります。

 抗がん剤による治療は、副作用が問題になることが少なくありません。その頻度や種類は、用いる抗がん剤や治療を受ける個人によって違います。一般的には、患者さん自身が感じられる副作用として、食欲低下や下痢、吐き気、倦怠感などがあります。これらは、例えば吐き気や嘔吐に対しては、吐き気止め薬(制吐剤)など副作用を抑える薬を一緒に飲むことによって、できるだけ防ぐ工夫がなされます。

 ほかに、血液検査などに異常値として現われてくる副作用もあります。白血球減少、貧血、血小板減少、肝機能や腎機能の低下などです。これらが重篤にならないように、定期的に検査を行い慎重に抗がん剤治療が行われます。副作用が著しい場合には治療薬の減量や変更、治療の中断などを検討することもあります。

 がんが小腸や大腸に広がって、それが原因で腸閉塞となり食事がとれなくなった場合には、腸管にバイパスを作って食事が通るようにしたり、腸が狭くなった部分を切除するなどの手術を行うこともあります。ただし、こうした手術は、患者さんの身体の状態が良いことが条件になります。

 患者さんの状態が悪い場合には、症状の緩和を念頭においた緩和ケアを行います。

胃切除で生じる症状
 胃を切除した後は、食べ物がうまく流れるように小腸や食道などをつなぎ合わせて再建する必要があります。再建方法には、幽門側胃切除後は残胃(残った胃)と十二指腸を直接つなぎ合わせる方法や、十二指腸の断端を閉鎖して残胃と空腸をつなぎ合わせる方法などがあります。いずれも一長一短があり、どの再建法が最も優れているかを客観的に評価した十分なデータがありません。そのため、施設によって得意な方法を選んだり、患者さんの状態によって決めます。

 手術で胃を全部切除してしまったとしても、消化吸収は小腸で行われますので心配は不要です。ただし、胃の全摘や幽門側胃切除で幽門を取り除いてしまうと、食物の流れを調節することができなくなり、食物が急に腸に流れ込むことで起こるダンピング症候群などの後遺症が起こりやすくなります。

 ダンピング症候群は、胃の出口が開放状態となり食べ物がどんどん小腸に流れ込んで吸収されるため、食後に血液中の糖分の値(血糖値)が急激に上昇することによって起こります。体は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを大量に分泌し、血糖値が下がりすぎてしまい食後2〜3時間ごろに突然、脱力感、冷汗、倦怠感、集中力の途絶、めまい、手や指の震えなど、いわゆる低血糖症状が起こります。ひどい場合には、意識が遠のくこともあります。また糖分の濃い食物がそのまま腸に流れ込み、その浸透圧に反応して、多量の腸液が急激に分泌されることなどから、食事中から食後30分ごろに動悸、発汗、めまい、眠気、腹鳴(おなかがごろごろはげしく鳴ること)、脱力感、下痢などが起こることもあります。

 ダンピング症候群を予防するためには、少量ずつ良く噛んで食べ、食事時間を長めにとることです。また、炭水化物が多い食事の後に生じやすいため、たんぱく質が多く炭水化物が少ない食事を少量ずつ取ることも勧められています。胃切除後、消化管が正常の機能を取り戻すのには1年程度かかるといわれています。

 また胃を切除すると、鉄分やビタミンB12が吸収されにくくなり、貧血が起こります。特にビタミンB12は、手術して4〜5年後ぐらいになると体内の蓄積がなくなってしまうため、補充が必要となります。またカルシウムの吸収が悪くなるため、骨が弱くなります。必要に応じてカルシウムやビタミンDなどを服用します。

(まとめ:坂井 恵)

この記事を友達に伝える印刷用ページ