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2008/12/16

標準治療アップデート 治療と予後 代表的な治療法は手術 さまざまな内科的治療も開発進む

 
 肝がん監修:
京都大学医学部附属病院 胆管膵・移植外科准教授 猪飼 伊和夫
  
 
 肝がんの治療では手術による切除は代表的な治療法の一つですが、手術以外にもさまざまな内科的治療が開発されています。また、非常に肝臓の状態が悪い場合に考慮される治療が肝移植です。がんの進行状態や肝臓の機能に応じて治療法が選択されます。

 厚生労働省研究班では、図1のような治療アルゴリズムをまとめています。

図1 肝細胞がん治療アルゴリズム

外科的治療
 肝がんの手術では、がんを含む肝臓の一部を切り取ります。がんが1個または少数で、さほど進行しておらず、肝機能が良好な場合にまず考慮される治療法です。

 肝がんを切り取る方法は、肝がんの大きさ、個数、場所、性質、肝臓そのものの状態に加え、患者の年齢や体力なども考え合わせて、慎重に判断します。病変を含む肝臓を切り取った後、残された肝臓の機能に問題が生じないかどうか、身体にかかる負担の大きい手術に患者が耐えられるかどうか、見極める必要があるからです。

 肝臓は、大きく「左葉」と「右葉」に分けられ、左葉はさらに「外側区域」と「内側区域」に、右葉は「前区域」と「後区域」に分けられます。この4つの区域が基本構造です。区域より小さな構造は「亜区域」と呼ばれ、8つの亜区域が定義されています。

 肝がんが大きくて肝臓の状態が悪くない場合には、がんの再発の可能性を考慮して、肝臓の基本構造に従って左葉もしくは右葉を切り取る「葉切除」や区域ごとにがんを切り取る「区域切除」が行われます。

 一方、がんが小さい場合や肝臓のはたらきが低下していて、大きく切除することが難しい場合には、門脈に沿って亜区域ごとに肝臓を切り取る「亜区域切除」やがんのある部分のみをえぐり取る「部分切除」が行われます。肝臓を切り取ってしまうと残された肝臓が十分に機能できないと判断されれば、手術は行いません。

 また近年、腹腔鏡下肝切除術が一部の施設で行われるようになってきました。腹腔鏡下手術とは、皮膚に数カ所小さな穴を開けて、そこから専用のカメラと手術器具を腹腔内に挿入し、通常の手術と同様の手術を行う方法です。お腹にできる傷が小さいために、身体の回復が早く、手術後の痛みも少ないとされています。左葉や右葉の肝辺縁にできた比較的小型の肝がんなどを対象に行われています。現在は、先進医療として行われているため、施行できる施設が限られています。

肝移植
 肝移植は、肝臓全体を取り出してほかの人の肝臓を代わりに移植する方法です。肝臓は再生能力が強く、約30〜60%の肝臓を移植すると数カ月で元の大きさ近くに再生するとされています。肝移植は肝機能が低下しているため他の治療が行えない患者を対象に行われます。

 肝移植には、親族や配偶者から肝臓の一部を提供してもらう「生体肝移植」と脳死状態の人から肝臓を移植する「脳死肝移植」があります。日本では肝がんに対しては「生体肝移植」のみが、設備の整った大学病院などの限られた施設で行われているのが現状です。

術後合併症について
 わが国の肝がん手術は世界でもトップレベルにありますが、肝がんの手術後、術後出血、胆汁の漏れ、術後肺炎、肝機能不全などの合併症が起こる可能性があります。肝臓はもともと血流が豊富な上に、肝障害がある場合には正常の肝臓よりも血液を凝固する働きが落ちており、出血しやすくなっています。術後出血は手術後1日以内に起こることが多く、その場合には、再度止血のために手術が必要となることもあります。

 また、肝臓を切離した部分から胆汁が漏れ出てくる胆汁の漏れ(胆汁漏)も比較的生じやすい合併症です。ほとんどの場合、自然に治癒しますが、漏れでる胆汁の量が多かったり、細菌感染を伴う場合には、細い管を刺して体外に胆汁を排出させる必要があります。

 肝臓は、横隔膜にある靱帯によって固定されています。肝がんの手術では靱帯を切り離すため、時に横隔膜が損傷し、肺炎や胸水、無気肺を来すことがあります。手術の前から心臓や肺に病気があり働きの悪い場合には、心不全や肺水腫というような重篤な状態にならないように注意が払われます。

 こうした合併症を防ぐには、手術後できるだけ早期から歩行などの運動を始めることが大切です。運動によって腸管の動きが早めに回復すれば、速やかに飲食が可能となります。体調がより早く回復することで、合併症の予防にもつながります。

 また、肝がんの手術から1週間ほど後に問題となる可能性があるのは、残りの肝臓が十分に機能しない肝機能不全です。肝障害が術前の予測以上に進展していた場合などに生じますが、原因が明らかではないことも多くなっています。

内科的治療
 肝がんの治療は手術による切除が基本ですが、がんが小さく内科的治療で手術と同じ程度の治療効果が期待できる場合や、逆に多数のがんが肝臓全体に広がったり肝機能が悪く手術ができない場合には内科的治療が行われます。内科的治療には、がんの大きさや部位によって、幾つかの治療法があります。代表的な治療であるラジオ波焼灼療法(RFA)、経皮的エタノール注入療法(PEIT)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、そして化学療法の4つを紹介します。

 ラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)は、腫瘍に電極を剌してラジオ波という電磁波による熱で腫瘍を凝固させる治療法です。長い針を使って皮膚の表面から肝臓の腫瘍に電極を入れる経皮的な方法が一般的ですが、腹腔鏡というカメラを使って肝臓を観察しながら行う方法や開腹して直接腫瘍に電極を剌し込む方法もあります。

 経皮的なラジオ波焼灼療法では、超音波やCTといった機器で腫瘍の位置を確認しながら、局所麻酔後に皮膚の外から針を刺し、針が腫瘍内部に到達したことを確認したら通電して、その針の先端からラジオ波を照射します。

 基本的には、がんの大きさが3cm以内で、がんの個数は3個以下と、小型で少数の肝細胞がんに対して施行されています。がんの大きさが3cm以下の場合、ラジオ波焼灼療法によるがん細胞の完全壊死達成率は90%以上と高いのですが、がんが大きくなると完全な壊死となる確率は低下する傾向にあります。治療効果が高くなることを期待して、肝動脈化学塞栓療法を行った後にラジオ波焼灼療法を行うこともあります。

 経皮的エタノール(アルコール)注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)とは、超音波の画像を見ながら腹部の皮膚の上から腫瘍まで長い特殊な注射針を刺し、100%のエタノール液(無水エタノール)を注入してがん細胞を壊死させる方法です。エタノールには、たんぱく質を凝固させる作用があり、その化学作用によって、がんを死滅させます。ラジオ波焼灼療法と同じく、基本的にはがんの大きさが3cm以内、がんの個数は3個以下の肝細胞がんに対して行われます。

 肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization: TACE)は、肝細胞がんに栄養を送っている動脈を薬剤によって塞ぐことで、がんをいわゆる「兵糧攻め」にして壊死させる治療法です。肝細胞がんはその大半が肝動脈から栄養を得ていますが、正常の肝細胞はおよそ8割が門脈から、2割が肝動脈から栄養を得ています。そのため、肝動脈を閉塞させても正常の肝細胞は維持されるわけです。具体的には局所麻酔後、カテーテルという細い管を大腿部のつけ根にある大腿動脈あるいは腕の動脈から挿入して肝動脈までカテーテルを進め、動脈に薬剤や塞栓物質を流して一時的に血液が流れないようにする治療です。

 以前は、肝動脈を閉塞させる物質のみを注入する肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)が多く行われていましたが、現在は、油性造影剤と抗がん剤を注入後、塞栓物質を注入する肝動脈化学塞栓療法が主体となっています。がんに対する治療の効果は手術やラジオ波焼灼療法よりも低いため、がんが肝臓全体に広がって手術やラジオ波焼灼療法ができないような場合に多く行われます。

 化学療法とは、抗がん剤などの化学物質を使って、がん細胞の成長や増殖を抑えたり、がん細胞を破壊する治療法のことです。肝細胞がんの治療では、肝切除や局所治療(エタノール注入療法やラジオ波焼灼療法)、肝動脈塞栓化学療法で効果が得られない場合、あるいは肝臓以外にがんが転移している場合に化学療法が行われます。

 化学療法には、大きく分けて2種類あります。抗がん剤を静脈内に注射するもしくは口から服用することで、抗がん剤が血液を通って全身に運ばれる全身化学療法と、肝動脈に抗がん剤を注入する肝動脈内注入化学療法(肝動注化学療法)です。全身化学療法よりも肝動注化学療法の方が有効性が高い傾向にあります。

 また近年、がん細胞への特異性を高めた分子標的薬といった新たな機序の薬剤の登場で、薬物療法による効果への期待が高まっています。

予後
 がん診療においては、「5年生存率」という言葉があります。がんの治療を始めた人のうち、治療開始から5年後に生存している人の割合のことで、治療効果の目安となる数字と位置づけられています。

 日本肝癌研究会の「第17回全国原発性肝癌追跡調査報告」(2002-2003)によれば、肝細胞がんの5年生存率は、全体で35.4%と、あまり高い数字とは言えません。ただし、個々のがんの大きさや個数、さらに元の肝機能の悪化程度によって選択できる治療法は異なり、それに伴って生存率も大きく変化します。現在の主治医に、自分の肝がんで選択できる治療法とその生存率について尋ねてみるのもよいでしょう。

 また、同じ調査報告によれば、肝がんは治療後、肝臓のほかの部位への再発が2年以内に約3割起こるようです。残っている肝臓の機能をできるだけ温存しながら、安全で効果的な治療を選択することが重要です。

(まとめ:小又 理恵子、小板橋 律子)

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