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2008/11/11

標準治療アップデート 治療 難易度の高い膵がん手術実績の豊富な医療機関で受けよう

 
 膵がん監修:京都大学肝胆膵・移植外科准教授 土井 隆一郎  
 
 膵がんの治療の手段は、主なものとして手術、放射線療法、抗がん剤による化学療法です。これらを組み合わせることもあります。しかし、完治を目的とした治療は、手術によってがんを取り除く以外にはありません。したがって、がんが膵臓やその近辺に限られている場合は、切除手術を中心とした治療を行います。

 完治を目指した手術では、できる限り切除術を行います。病期IVa以下の膵がんで、腹腔動脈や上腸間膜動脈といった重要な血管への浸潤がない場合は、根治を目的とした手術切除法を行うのが一般的です。ただし、手術療法は患者さんの全身状態によっては手術が行えない場合もありますので、慎重に判断する必要があります。

 膵臓がんの手術は、周辺の臓器を一緒に切除するのが標準治療です。切除部分は、がんができる場所によって違ってきます。

 膵がんの中で、最も多いのは膵頭部(膵臓の右側)にできるがんです。この場合、「膵頭十二指腸切除術」と呼ばれる手術、または「全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術」を行うのが一般的です。

 膵頭十二指腸切除術は、膵頭部と胃の3分の2、十二指腸、胆管、胆嚢を含めて切除する手術です。以前は、この術式を行うことが多かったのですが、最近はリンパ節に転移をしている場合を除いては、胃と幽門(十二指腸につながる胃の出口)を残す「全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術」を行うことが多くなっています。

 胃を残す手術の方が、手術時間が短く出血量が少なくて済むため、身体への負担が少ないというメリットがあるからです。また、胃を取ることで術後の生存率が高まるという明らかなデータがないというのも、全胃幽門輪温存十二指腸切除術を行われることが増えている理由の一つです。

 ただし、今のところ全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を受けた患者さんの術後長期間にわたってのデータが整っていないため、長期的な治療成績については分かりかねる点もあります。今後の検討が待たれます。どちらの術式でも、切除後に膵臓、胆管、消化管の再建が必要となります。

 膵臓の頭部よりも尾側にがんがあるケースでは、膵臓の体尾部と脾臓を一緒に切除する「膵体尾部切除」を行います。切除後の消化管の再建は必要ありません。

 がんの範囲によっては、膵臓の全てを切除する膵全摘術が必要となる場合もあります。膵臓を全部摘出してしまった場合は、血糖を調整するために生涯にわたってインスリン注射が必要になります。膵臓の一部を残せた場合は、もともと糖尿病の傾向がある場合を除いては、糖尿病になることは少ないようです。

広範囲を切除する拡大手術は減少
 膵がんは周りの血管に浸潤しやすく、かつては広範囲にわたってのリンパ節郭清と、腹腔動脈や上腸間膜動脈などの血管周囲の神経鞘を取り除く拡大手術を行っていました。

 しかし最近では、拡大手術をしても治療成績は向上しないことがわかってきました。また、拡大手術をすることで手術時間が長くなり、合併症が増える可能性が高まります。さらに、神経鞘をまるごとむくと、術後にはひどい下痢が起こることになり、患者さんのQOLの低下につながります。そのため、最近では拡大郭清を行わないことが多くなってきています。

 膵がんの手術では、手術中にがんの摘出後膵臓のあった後腹膜などを中心に放射線を照射する「術中照射」を行うことがあります。これは、がんの再発を予防する補助療法として行われます。ただし、再発予防に効果があるかどうかは、確実なデータがあるわけではなく、現在、検討されているところです。また、術後に化学療法を行うこともあります。

 いずれの術式であっても膵がんの手術では、膵臓を切断した断面を胃や腸とつないで再建する必要がありますが、膵管から膵液がもれて傷口の縫合不全を起こすことがあります。最近では、吻合方法や膵液を排出するドレーン(管)を工夫し、傷口の治癒を妨げないようにすることで、重い合併症は起こりにくくなっています。

手術は手術件数の多い施設で
 しかし膵がんの手術が、術後の管理を含めて今でも難しい手術であることには変わりありません。そのため、ガイドラインでは「専門の外科医がいて、周術期管理に優れた施設」で手術を行うことを推奨しています。手術の件数が多い施設では、合併症の頻度が低く、合併症が起こったときに適切な対応が行えるからです。膵頭十二指腸切除術に年間20人の患者数以上の経験があることを、一つの基準に挙げています。

 局所進行切除不能膵がん(がんが膵臓周囲に限局しているものの重要な血管へ広がっていたり、後腹膜に広範囲に広がっていて根治切除ができないがん)に対しては、抗がん剤による化学療法を単独で行うか、化学療法と放射線療法を併せて行う放射線化学療法を行うのが一般的です。

 以前、5-FU(一般名:フルオロウラシル)という抗がん剤が膵がんの化学療法の中心だったころは、化学放射線療法が標準治療と考えられていました。80年代には放射線単独より化学放射線療法(抗がん剤は5-FU)が優れているとの報告もされています。

 しかし、ジェムザール(一般名:塩酸ゲムシタビン)という抗がん剤が開発されて状況は変わってきました。現在は、膵がんの化学療法の第一選択薬として塩酸ゲムシタビンが広く使われるようになっています。

 また、塩酸ゲムシタビンを用いた化学放射線療法群と、塩酸ゲムシタビンによる化学療法単独群とを検討した近年の研究では治療成績に差はなく、安全性や外来治療可能といった観点では、塩酸ゲムシタビンによる化学療法単独の方が優れているといった意見も少なくありません。ガイドラインでも、塩酸ゲムシタビンによる化学療法単独を、治療選択肢の一つとして上げています。

 しかし現在でも、化学療法単独と放射線化学療法ではどちらが優れているのか、まだはっきりした結論は出ていません。ガイドラインでは、化学放射線療法も局所進行切除不能膵がんに対する有効な治療法であり、治療選択肢の一つとして推奨しています。この場合に放射線療法と併用される標準的な化学療法には5-FUを推奨しています。今のところ、放射線療法と塩酸ゲムシタビンの併用については、「有効性が示唆されるものの、5-FUに代わるものとして積極的に推奨するだけの科学的根拠は十分ではない」となっています。

 さらに、2006年8月に胃がんや肺がんの治療薬として使われているティーエスワンが、膵がんに対する適応を取得しており、膵がん治療の新たな核となる薬剤として期待されています。単独での投与や、塩酸ゲムシタビンとの併用療法などが行われつつあります。

 遠隔転移しているがんについては、治療ガイドラインでは、塩酸ゲムシタビンによる化学療法を推奨しています。患者さんが感じる副作用が少ないことなどから、既に体調が悪化しつつある膵がん患者さんに安全に投与できるといったメリットや、さらにがんが小さくなるといった効果が得られない場合でも、腹痛などのがんによる痛みが改善することがあるようです。

 塩酸ゲムシタビンに他の薬を併用した結果、生存期間が上回るとの報告もありますが、標準的な治療と位置づけるには十分なコンセンサスが得られていないのが現状です。

 またこの段階では、がんの治癒ではなく、膵がんに伴う症状を改善するために手術を行うことがあります。例えば、膵がんによって十二指腸などが閉塞して食事がとれなくなるのを防ぐために胃と小腸にバイパスを造ったり、黄疸が出ないようにするために胆管と小腸にバイパスを造る手術を行うことがあります。

 化学療法の副作用は使用する抗がん剤によって違いますが、よく見られる症状としては食欲不振や吐き気、下痢などの消化器症状や白血球や血小板が減ってしまう血液の異常などがあります。薬剤によっては湿疹や脱毛が起こるものもあります。

 放射線治療の副作用は、放射線を照射する場所や量によって違います。一般的な副作用としては、嘔気・嘔吐、食欲不振や血液の中の白血球などが減ってしまうことがあります。放射線の影響で胃や腸の粘膜があれて出血し、黒色便や下血が起こることもあります。

(まとめ:坂井 恵)

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