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2008/9/16

標準治療アップデート 治療 病期で異なる標準治療、早期であれば内視鏡的治療が可能

 
 食道がん監修:京都大学医学部消化器内科准教授 武藤 学  
 
 
 食道がん監修:京都大学医学部消化管外科准教授 渡辺 剛  
 
 食道がんの主な治療法は、1)内視鏡によるがんの摘出(内視鏡的粘膜切除術=EMR、内視鏡的切開剥離法=ESD)、2)外科的手術、3)放射線と抗がん剤を組み合わせた化学放射線治療――の3種類です。

 初期であれば内視鏡的治療で治療できますが、リンパ節転移のあるII期からIII期の場合には、現段階では、手術が最も治療成績が高い治療法となっています。ただし、手術は8時間程度と長時間を有し、患者さんの体への負担は決して少なくありません。患者さんは高齢の方が多く、がん以外にも疾患を抱えていることが多いこともあり、手術が選択できないことも少なくないのです。そのため、手術に変わる治療法として化学放射線治療への期待も高く、効果の高い治療方法の研究が進められています。また、遠隔転移がある場合には、抗がん剤治療、放射線治療を単独で用い、副作用を抑えQOLを重視しながらの治療となります。

内視鏡的治療
 がんが粘膜内にとどまっていて、転移がない0期では、内視鏡的治療が一般的です。内視鏡的治療は、お腹や胸を切らずに内視鏡による手術でがんを取り除く治療です。のどのあたりに麻酔をかけて、口から食道の内部に内視鏡を入れて、それを見ながら、周囲の正常粘膜を含めて病変が存在する粘膜とその直下の粘膜下層を一緒に切除し、食道粘膜がんを切り取ります。胸やお腹を切り開く必要がないので、患者さんの体に大きな負担がかからないのが最大のメリットです。また食道は残りますので、術後の患者さんのQOLに大きな影響を与えずに済みます。

 ただし、薄い食道の壁を削りとるわけですから、出血や食道に穴があく(食道穿孔)、食道が狭まる(狭窄)といった合併症が起こることがあります。

 また、全身状態が不良で手術が困難な患者さんでは、粘膜下層に達しているがんでも内視鏡的粘膜切除術を行うことがあります。

外科手術による食道切除術
 手術は、がんの進行度や部位によって多少の違いはありますが、基本的には胸部を開いて食道を切除すると同時に、頸部、胸部、腹部のリンパ節を郭清します。胃の一部を切り、管状(胃管)にしてから、つり上げ、失われた食道として再建します。胃のかわりに小腸や結腸を用いる場合もあります。

?〜III期までは、原則として外科手術による食道切除術を行います。食道がんは、発生した部分により、1)首の部分にある食道のがん「頸部食道がん」、2)胸部の食道のがん「胸部食道がん」、3)腹部の食道のがん「腹部食道がん」――に分けられ、手術法などが異なります。

1)頸部食道がんに対する手術
 頸部食道がんは、ほかの臓器への浸潤も起こりやすいのですが、リンパ節の転移が頸部に限られていることが多く、その場合でも根治手術が可能です。

 がんが、のどの周辺まで広がっている場合は、頸部食道の全てと喉頭(声帯のある器官)を切り取る必要があります。また、気管への入り口も新たに造る必要があり、手術は非常に複雑になります。

 喉頭を切除すると、声が出せなくなります。ですから、喉頭合併切除を受けるかどうかは、術後のQOLも考えて慎重に決める必要があります。また、リンパ節を郭清する目的などから、甲状腺や副甲状腺を一緒に全切除した場合、一生、甲状腺ホルモンとカルシウム・ビタミンDを補充する必要が生じてきます。

 最近は、咽頭を温存し、咽頭と食道を吻合する喉頭温存食道切除術も試みられていますが、嚥下時の喉頭の上下運動が制限されやすく、誤嚥を生じやすい難点もあります。

 がんが第二胸椎までの高さであれば、胸を開かずに頸部(のどの部分)から食道を摘出できます。頸部のリンパ節も重点的に郭清します。胸部以下のリンパ節の転移はまれなので、郭清しないことが多いようです。

 一方、第二胸椎の高さを超えて食道を切除する必要がある場合は、食道全摘術を行います。胸部以下のリンパ節への転移への可能性が低ければ、頸部と腹部の創から食道を抜き取る「非開胸食道抜去術」を行うこともあります。胸部を切り開かないため、患者さんの体の負担が少ないのがメリットです。ただし、この手術で胸部のリンパ節の郭清ができないため、胸部のリンパ節への転移の可能性が高ければ、適応にはなりません。その場合は、右の胸にメスを入れて食道摘出、リンパ節郭清を行います。

 頸部食道がんでは、小腸の一部(遊離空腸)を用いて、新たな食道を造る(再建)のが一般的です。

2)胸部食道がんに対する手術
 胸部食道がんは、頸部、胸部、腹部の広範囲にリンパ節転移がみられることが多いのが特徴です。右側の脇の下からメスを入れ、胸部食道と腹部食道を摘出します。リンパ節は、頸部、胸部、腹部の3領域にわたって郭清します。なお、大きく開胸することなく、内視鏡による手術も行われつつあります。

 食道の再建経路は、1)食道を胸骨の前に通す「胸壁前経路」、2)胸骨の後ろで肺と心臓の前を通す「胸骨後経路」、3)肺と心臓の後ろに通す「後縦隔経路」――の3経路があります。もともと食道のある場所に再建するのは「後縦隔経路」です。最短ルートなので、縫合不全(つなぎ目がうまくいかずもれが生じること)のリスクは少ないのですが、心臓や肺の後ろにあるだけに、いったん縫合不全が起こると致命的になりかねないというデメリットがあります。

 一方、胸壁前経路は縫合不全が起こったときにも対応しやすいので致命的になりにくいのですが、経路が長くなるため縫合不全が起こりやすいというデメリットがあります。また、皮膚の下で食道が盛り上がって見えるという美容上の問題も少なからずあります。また、頻度は低く、漏斗胸のような胸骨後スペースの狭い場合に限られますが、再建経路が心臓を圧迫し頻脈を起こすというリスクもあります。

 現在、再建経路としては、胸骨後経路が主流となっています。ただし、それぞれの再建経路には、長所と短所があり、どの方法が最も優れているかという標準治療は定まっていないのが現状です。そのため、それぞれの患者さんで、進行度や手術の安全性、術後の嚥下機能などの合併症リスクや美容上の外観などを考えて、個別に治療法が決定されています。

 再建に使われる臓器は、胃を用いることが多いのですが、胃切除後や胃がん合併例などでは小腸や結腸を用います。

3)腹部食道癌に対する手術
 腹部食道から噴門(胃と食道の間)までにある「腹部食道がん」では、1)胸部食道がんと同様の方法で右側から開胸し、食道の摘出、リンパ節郭清、胃を用いて再建する、2)左側から開胸して、食道の下部と噴門側の胃の切除または胃全摘を行う、3)開胸を行わずに、腹部からアプローチする方法――があります。

 いずれにしても、腹部領域のリンパ節の郭清は十分に行います。再建臓器は、胃または空腸(小腸の一部)を用いる場合が多くなっています。食道と合わせて胃の一部を切除した場合、術後、逆流性食道炎が起こることがあります。

手術が行えない、手術を希望しない患者さんに対する同時化学放射線療法
 ?〜III期で、外科手術が行えない患者さんや手術を希望しない患者さんに対しては、化学療法(抗がん剤治療)と放射線療法を同時に行う「同時化学放射線療法」が推奨されています。

 食道がんは、他の消化器がんに比べて、化学療法や放射線療法に対する感受性が良い(効きがいい)ので、手術に代わる根治的な治療法として化学放射線療法への期待が大きいのです。ただし、現在までのところ、手術に匹敵する治療成績が示されてないため、標準治療とまでは言われていないのが現状です。

 同時化学放射線療法では、シスプラチンと5-FUいう2剤を中心に、幾つかの抗がん剤を組み合わせる多剤併用が一般的です。

 化学放射線療法では、治療開始後すぐに現れる早期有害事象と、半年以内に晩期有害事象、さらには数年以降に発生する後期の有害事象があります。前者は、化学療法の副作用による悪心や嘔吐、骨髄抑制、食道炎などです。

 晩期有害事象としては、放射線性肺臓炎、胸水、心のう水貯留などがあります。これらは、肺や心臓にも放射線が当たってしまうために起こります。最近では、心臓や肺に放射線が当たるのを軽減するために、CT画像を元にした三次元照射計画法が普及しつつあります。

手術の前後に行う補助療法について
 手術前に、がんを抗がん剤で叩いて、がんを小さくしてから手術を行う術前補助化学療法を行うことがあります。わが国で行われた臨床研究で術前に抗がん剤投与を行った方がその生存率の改善効果が大きいことが明らかにされたため、現在わが国においては手術の前に化学療法を行うことが標準的治療とされています。

遠隔転移などで手術ができない患者さんの治療
 他の臓器への遠隔転移があるIV期の食道がんの場合は、抗がん剤の治療が選択されます。食道がんが狭窄をおこし食事がとれない場合には、食道がんの部分だけに放射線療法を加える場合もあります。

 ただし、IV期の食道がんでも、食道周囲への臓器浸潤やリンパ節転移の場合でIV期と判断される場合、外科手術で取りきれるときもあり、また放射線が当たる範囲におさまる場合もありますので、その場合は外科切除や同時放射線化学療法が選択されることもあります。要は、IV期の食道がんの場合でも、根治性は低くなりますが、場合によっては治る可能性もあるということです。

 また、がんが大きくなって食道をふさいでしまった場合、食道の内側に形状記憶合金でできたステントを通して食道を広げることもあります。ただし、ステント挿入後の放射線療法や化学放射線療法、または放射線・化学放射線療法後のステント挿入は、出血や食道に穴(瘻孔形成)が開くなどの問題が起こることがあるため、原則として避けることが望ましいとされています。そうした場合は、点滴による栄養ルート(静脈ポート)を設置したり、お腹に穴を開けて直接胃に食べ物を送り込む胃ろうを造ることもあります。

再発食道がんの治療
 初回治療が適正に行われても、再発をみることは少なからずあります。手術後の再発に対しては、化学療法または化学放射線療法が選択されます。化学放射線療法後の再発の場合で手術が可能な場合は救済手術という手術が施行されることがありますが、無治療の状態で手術をするよりも、術後の合併症の発生する頻度や致死率が高いとされ非常に難しい手術になります。一方、救済手術が出来ない場合や希望されない場合は、化学療法が選択されますが根治性はありません。治療効果が見られない場合には、QOLの改善を目的とした治療が中心となります。

(まとめ:坂井 恵)

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