このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

2008/7/29

先輩患者からのアドバイス 闘病生活をうまく乗り越えるためにお互いの声を聴き合いましょう

 
 VOL-Net、伊藤朋子さん  
 
 2000年、乳がんの手術を受ける。2002年、勤めていた会社を退職し、心理学を学ぶために大学に進学。同時に乳がん患者の仲間たちと「声を聴き合う患者たち&ネットワーク「VOL-Net」を立ち上げ、患者会活動も開始。現在、乳がん専門クリニックでも患者サポートを行っている。

 慢性疾患である「がん」の治療は山あり谷あり――。特に乳がんの場合は、他のがんと比べて経過観察の期間が10年と長いのが特徴です。その間には、いくつか越えなければならないヤマがあります。

 最初のヤマは、がんが見つかり手術を受けるまでの間ですが、この時期は病気のことだけでなく、家庭や職場への対応など、入院・手術までにやらなければならないことが次から次へと押し寄せてくるので、意外とハイテンションで乗り越えられる方も多いです。

 しかし、このヤマを越えた後に襲ってくるのが言いようのない孤独感。“世の中で私が一番不幸”という状況に陥ってしまい、周りにいる家族や友人に励まされたり、相談に乗ってもらったりしても「あなたは健康だから、わからないのよ」と、つい反発しがちです。

こんな孤独感から抜け出すためには、「自分だけじゃない」と思えることがとても大切で、それには患者仲間とのよい出会いが気持ちを前向きにしてくれることがあります。

 私は2000年に乳がんを発病した後、「テディベア」というメーリングリストに参加し、患者仲間との交流を続けてきました。何の前触れもなく、乳がんであることを告げられ、「私、死んでしまうかもしれない」というところまで気持ちが追い詰められた患者にとって、自分と同じがんで生きている人がいることがわかるだけでも、それは心強いものです。そして、多くの患者仲間から科学的な根拠にもとづいて乳がんの治療を受ければ助かる確率が高いことを示唆してもらえると気持ちもだんだん落ち着いてきます。

 「私も何とかなるかもしれない」と乳がんに向き合える勇気が出てくるのです。

術後1年目はがん患者が自分なりの生き方を模索する時期
 でも、いったん持ち直した気持ちは、その後もさまざまな局面で揺れ動きます。私は、術後半年で職場復帰し、以前のようなハードな生活に戻ったのですが、うまく適応できずに会社で倒れてしまいました。今、振り返ると、原因は一つではなかったように思います。ホルモン療法による体調の変化や新しい職場の人間関係などが重なり、うつ状態になってしまったのです。それは手術からちょうど1年経った頃のことでした。

 実は、この時期って精神的に気をつけなければいけないんです。周りの人は、私が乳がんであることを忘れてしまい、元気な者として扱ってくれるのですが、「よかったわね。もう治ったんでしょう」という何気ない一言が心に突き刺さったりする。もちろん、体は元気になってきていますが、心の底から「私は健康です」とは言えない心情が患者にはあるのです。

 復帰した当初は、以前のような生活に戻ろうと努力するけれど、まったく同じ生活には戻れないことをだんだん感じるようになり、そのズレを埋めようとします。つまり、自分のアイデンディをもう一度作り直すことになるのです。

 そこで、誰もが戸惑うし、人によっては闘うこともある。さらに消えない再発の不安や家庭や職場の人間関係なども複雑に絡み、うまく作り直せなくなって、どうにも身動きがとれなくなったりすることもあります。術後1年目というのは、こんなふうに苦しみながら、がん患者が自分なりの生き方を模索する時期だと思います。人によっては、それが2年くらいかかることもある。

 そのときに一人で悶々と考えるのか、このヤマを越えてきた先輩患者さんの体験に学ぶのか、それは自分が乗り越えるときに大きな違いとなって現れます。先輩たちもいろいろな体験をしています。元の生活に戻るべく努力して、うまくいった人もいれば、方向転換して新しい人生を踏み出した人もいる。「なるようになる」と開き直ることで対処できた人もいます。

 こんな先輩たちの声を聴いて「どんな選択もありなんだ」ということをわかってほしい。

乳がんをきっかけに大学進学を決意、人生の方向転換を図る
 アイデンディを作り直す時期に、うつ状態になった私は会社を休職し、悶々とした日々を過ごしていました。やがて「このままでは嫌だ。私は何をやりたかったの?」と考えるようになり、心理学を学びたかったことを思い出したのです。そこで、大学を受験することを決め、受けたら合格してしまいました。

 ちょうどその頃、「テディベア」で知り合った患者仲間たちと乳がんの患者会「声を聴き合う患者たち&ネットワーク VOL−Net」を立ち上げる話が進んでいました。会を運営するにあたり、心理学を学んでいるスタッフがいたほうがよいということになり、それならば私がしたかったことでもあるし、合格した大学に行こうかと――。会社には非常に申し訳なかったのですが、そのまま退職し、晴れて心理学科の学生となりました。

 あれから7年――。この春には大学院の修士課程を修了し、現在は臨床心理士の資格試験を受けるべく準備中です。また、乳がん専門の銀座プリマ・クリニックで月2回、患者交流会を主催したり、手術直後の患者さんや術前化学療法を受けている患者さんへのピアカウンセリングも行っています。会社員時代に比べると収入は下がったけれど、この人生の選択にとても納得しています。

納得できる治療を選ぶにはQOLと治療の効果を比較する
 「選択」といえば、乳がんの治療場面においても、自分で選ばなければならないことがいろいろと多いものです。その際、治ることだけを考えていると、非常に迷うことになります。

 私が手術を受けたのは、CMF療法(シクロホスファミド、メトトレキサート、5-FUの3剤併用)とゾラデックス単剤投与の効果がほぼ同等という治験結果が出た頃でした。術後の補助療法を行うにあたり、担当医から「どちらにするのか決めてください」と言われたけど、データだけでは選べない。

 困った挙句、その治療をすることによって経済的な問題も含め、生活にどのような影響が出てくるのか、この先の治療スケジュールはどうなっていくのかという視点から選択することにしました。つまり、QOL(生活の質)と治療の効果を両天秤にかけたのです。このほうが自分自身、より納得できるのではないかと――。

 例えば、抗がん剤治療を行えば再発率は下がるかもしれない。でも、薬剤や年齢によっては閉経してしまうこともある。それが自分のライフプランにどのような影響を及ぼすのか、そこまで担当医と十分に話し合っておけば納得できるので、つらい治療にも立ち向かえる。「こんなはずじゃなかった」という後悔がなくなると思うのです。

治療の全体像も理解しなければ最善の治療は選べない
 また、先の見通しがなければ最善の治療は選べません。多くの患者が戸惑うのは治療の全体像が見えないのに「ここを選びなさい」といわれるからです。だから、治療に対する誤解も起こってくるし、選べなくて困ったりもする。このことは会のメンバーも経験で痛感していたので、治療の全体像がわかるフローチャートを作成することにしました。

 このフローチャートは、治療の流れがわかる構成にしたうえで、それぞれの場面での治療選択において、自分たちは何が知りたかったのかということを整理し、医学情報をまとめました。もちろん作成メンバーだけの経験では限りがありますので、会員の患者さんにもアンケート調査を行い、できるだけ多くの乳がん患者の要望を反映させています。

 さらにフローチャートの「診断確定・告知」の部分では「診断結果を聞くときの心構え」を、「病理結果」の部分では「病理結果チェックリスト」を掲載するなど、患者が上手に聞く工夫もアドバイスしています。

このフローチャートは、医療者からも問い合わせをいただくほどの自信作です。VOL−Netのホームページから誰でも閲覧することができますので、あなたの治療決定にぜひ役立てていただけることを願っています。

一人で頑張らないで、気の合う患者仲間はきっと見つかるはず
 乳がん治療におけるいくつかのヤマを上手に乗り越えるには「お互いの声を聴き合う」ことがとても大切だと思います。患者同士だけでなく、医師や看護師をはじめ、自分の闘病生活を支えてくれるすべての人たちとつながり合うことが必要で、それができればよりよい療養環境がもたらされると思うのです。

 そして、お互いの声を聴き合えるためにも、まず「苦しんでいるのは自分一人ではない」ことを知りましょう。あなた一人で頑張らなくてもいいのです。さまざまな乳がん患者会が全国各地で活動していますし、インターネットを覗けば、乳がん患者のブログは星の降る数ほどあります。少しの勇気を持ってコンタクトすれば、気の合う患者仲間はきっと見つかるはずです。お互いの違いを尊重し付き合っていくことで、あなたの力になってくれるでしょう。

(まとめ:渡辺 千鶴)

関連サイトVOL-Netの聴き合いの会

この記事を友達に伝える印刷用ページ