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2008/7/8

乳がん 標準治療アップデート 治療 手術、放射線、薬剤を組み合わせた集学的治療が基本

 
 乳がん監修:京都大学乳腺外科学教授 戸井 雅和氏  
 
 乳がんは、明らかな遠隔転移がみられない段階でも、全身にがん細胞が広がりやすいがんです。そのため、浸潤がんとなった時点で全身病として治療を行うべきと考えられています。手術や放射線療法などの局所療法で大きながん組織を取り除き、検査では見えないような小さながん細胞は、薬物療法で退治するというのが、乳がんの基本的戦略であり、この考え方を「集学的治療」と称しています。

 乳がん治療のキーワードは「集学的治療」です。集学的治療とは、手術や放射線療法という局所療法と、全身に効果が期待できる薬物療法を組み合わせた治療を指します。

【手術(外科療法)】
 乳房にできたがん組織を切除するために行われます。がんの再発を予防するため、乳がん手術の歴史は広めに切除する方法から始まりました。そのため、乳がんの手術といえば、乳房だけでなく胸の筋肉までも切除する術式(定型的乳房切除術、ハルステッド法)が長年、一般的な治療法となっていました。

●乳房温存術
 その後、しこりが小さい比較的早期の乳がんであれば、乳房の一部を切除するだけの手術(乳房温存術もしくは乳房部分切除術)でも、放射線治療を組み合わせることで治療成績に差がないことが確認されました。現在、早期(ステージ0、1、2)の乳がんでは乳房温存術が標準的な治療法となっています。

 乳房温存術は、乳房内の再発(局所)のリスクを高めることなく、患者さんが満足できるきれいな乳房を残すことを目指して行われます。そのため、切除部位の大きさと元の乳房の大きさのバランスを考慮した上で、温存術にするか乳房切除術にするかを決めることになります。

 海外では、乳房温存術の対象となる腫瘍の大きさは、4cm以下とするガイドラインが多くなっています。その一方、日本乳癌学会のガイドラインでは乳房温存術の適応は原則3cm以下です。この意味は、日本の乳がん治療が保守的であるという訳ではなく、日本人の比較的小さな乳房では、3cm以上のしこりを切除した後に、ゆがみの無いきれいな乳房を残すことが難しいという考えから来ています。

●乳房切除術
 乳房切除術とは、胸筋温存乳房切除術とも呼ばれるもので、乳房とわきの下のリンパ節の全部あるいは一部を切除する術式です。非浸潤がんの場合は、リンパ節を切除しない乳房切除術(単純乳房切除術)も行われます。

 乳房切除術では胸の筋肉(胸筋)が残ります。そのため、過去に長い間行われていたハルステッド法に比較して胸の変形が少なく、また乳房を再建しやすいといわれています。乳房切除術後に、「乳房再建術」を組み合わせることで、失われた乳房(乳首も含めて)を人工的に取り戻すことが可能です。

 乳房切除術は、原則としてステージ3の乳がんにおいて標準的な乳がんの術式となっています。ステージ3以外の乳がんでも、しこりが大きい場合(日本乳癌学会のガイドラインでは3cm以上)や乳がんが乳腺内に広範囲に広がっている場合、複数のしこりが乳房の離れた場所にある場合、温存術後に何らかの理由で放射線治療を受けられない場合、患者本人が希望する場合などに乳房切除術が行われます。

●乳房再建術
乳房再建術は、乳房切除術を受け失われた乳房(乳頭含む)を人工的に再建する手術です。乳房再建術は大きく分けて「インプラント法」と「自家組織移植法」があります。

 インプラント法では、シリコンなどの人工物を乳房の中に入れます。インプラント法の長所は、手術が比較的簡単で体への負担が少ない点です。ただし、人工物を埋め込む際に、確率は少ないながらも感染症が生じるリスクがあります。また、シリコンを埋め込んだ場合、見た目は自然でも、触った場合に不自然さが残る、乳房が下垂(たれる)しないため、年と共に左右の形が揃わなくなる、インプラントが変形・破損する危険性があるなどの欠点があります。

 自家組織移植法では、自分自身の背中や腹部の組織を手術で取り、その組織を乳房に移植します。そのため、インプラント法に比べて手術の身体的な負担が大きく、背部や腹部に手術の傷跡が大きく残るという欠点があります。加えて、移植した組織に血行不良が生じた場合は、移植した組織が壊死することも、希ですが生じるリスクです。ただし、自分の組織を移植するため、再建した乳房は触った感覚もかなり自然な状態となります。自然であるが故に、年と共に再建した乳房は下垂(たれる)しますし、変形・破損の危険性もありません。

●放射線療法
 放射線療法は、高エネルギーの放射線(X線)を照射してがん細胞を殺す治療法です。乳がんの治療では、体の外部から放射線を照射する外部照射が一般的です。

 乳がんの治療で最も放射線療法が使われるのは、乳房温存治療との組み合わせです。乳房温存術を受ける場合は、ステージ1、2の早期乳がんだけでなく、ステージ0の非浸潤がんでも、術後の放射線療法は原則、必要な治療法です。乳房温存術に放射線療法を併用することで、温存した乳房内の再発を約3分の1に減らすことができます。また、生存率が向上する可能性も示されています。乳房温存術後の放射線療法では、約5〜6週間かけて照射が行われます。

 加えて放射線療法は、骨や脳などに生じた転移に対して痛みなどの症状を緩和する目的でも利用されています。

【薬物療法】
 乳がんの治療に用いられる薬物療法は、ホルモン療法、化学療法(抗がん剤)、分子標的療法の3種類に大別されます。

 薬物療法に用いる治療薬の選択は、がん細胞の種類、女性ホルモン受容体を有するかどうか(ホルモン受容体陽性もしくは陰性)やHER2(ハーツー)というがん細胞の増殖に関連するたんぱく質を有するかどうか(HER2陽性もしくはHER2陰性)、がんの増殖の早さや、リンパ節転移の程度、年齢、閉経前か後かなどの様々な因子を考慮した上で選択されます。

 薬物療法は、手術前にしこりを小さくする目的で投与する場合(術前薬物療法)、手術後に再発予防のために投与する場合(術後薬物療法)、遠隔転移のみられる転移・再発乳がんにおける治療の主役として利用されています。

●術前薬物療法
 術前に化学療法を行うと7〜9割で腫瘍の大きさが半減することが知られています。また、4割程度の患者さんでは、触ってもしこりが分からなくなっています。手術後に比べて手術前に抗がん剤投与を受けた方が、しこりの大きさが小さくなることを実感できる、体力があるため抗がん剤の副作用に耐えやすいなどのメリットがあるといわれています。

 ただし、術前の薬物療法が効かず、がんが大きくなる場合も有り得るため、術前薬物療法を行うかどうかは、メリットとリスクを理解した上で選択する必要があります。

●術後薬物療法
 一方、術後薬物療法は、各患者の再発リスクを考慮して決められます。再発リスクを判断するうえで、最も参照されているのはスイスSt.Gallenで開催される乳がん国際会議の推奨です。この推奨では、乳がんの再発リスクを3段階(低リスク群、中間リスク群、高リスク群−下表参照)に分け、それぞれの群に対して治療法を推奨しています。

 リンパ節転移が無くホルモン感受性で、腫瘍2cm以下、病理学的異型度(核異型度)がグレード1、腫瘍周囲の広域な脈管浸潤がなく、35歳以上でHER2の発現が無い場合は、低リスク群に分類されます。低リスク群の再発リスクは5〜10%です。

 低リスク群では、ホルモン療法もしくは無治療が選択肢となります。閉経後のホルモン剤としてはタモキシフェンもしくはアロマターゼ阻害剤、閉経前であればタモキシフェンもしくは卵巣機能を抑制するLH-RHアゴニストが選択肢となります。ホルモン療法は5年〜10年間継続する必要があります。

 リンパ節転移が無く、かつ以下の1)〜6)のどれか1つ以上に当てはまる場合は中間リスク群となります。1)腫瘍2cm以上、2) 病理学的異型度(核異型度)がグレード2〜3、3) 腫瘍周囲の広域な脈管浸潤がある、4) ホルモン非感受性、5) HER2の過剰発現の場合、6) 35歳以下。加えて、リンパ節転移が1〜3個あり、かつホルモン感受性でHER2陰性も中間リスク群となります。

 再発リスクは比較的高くなるため、補助薬物療法は必須となります。ただし、高リスク群ほど再発リスクは高くないため、ホルモン感受性かつHER2陰性の場合は、ホルモン療法のみの選択も可能です。ホルモン感受性かつHER2陽性の場合はホルモン療法にさらに、トラスツズマブと抗がん剤を併用し、ホルモン非感受性かつHER2陽性の場合はトラスツズマブと抗がん剤を併用します。ホルモン療法は5年〜10年間、トラスツズマブの投与期間は1年間が基本です。

 一方、ホルモン非感受性かつHER2陰性の場合(トリプル・ネガティブ)は、抗がん剤を用いた治療となります。現在国内で推奨されている術後化学療法は、リンパ節転移がない場合はアントラサイクリン系抗がん剤(下表参照)を含む治療法、もしくは6サイクルのCMF療法が推奨されています。リンパ節転移がある場合はアントラサイクリン系抗がん剤に続いてタキサン系抗がん剤3〜4サイクルを投与する併用療法が勧められます。

 わきの下のリンパ節転移が1〜3個で、かつホルモン非感受性またはHER2陽性の場合、もしくは、わきの下のリンパ節転移が4個以上ある場合は、再発高リスク群となります。

 高リスク群では、再発リスクを下げるために利用可能な薬物療法を全て行います。すなわち中間リスク群の治療方針に抗がん剤が上乗せされると考えてください。高リスク群では、まず抗がん剤の治療を行い、その後、ホルモン感受性やHER2の有無に合わせた治療薬が選択されます。

St.Gallen国際会議で推奨されている乳がんのリスク分類

(まとめ:小板橋 律子)

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