このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

2008/6/3

標準治療アップデート 診断と予後 診断では画像診断と腫瘍マーカーが重要

 
 卵巣がん監修:京都大学婦人科学産科学講座教授 小西 郁生  
 
 卵巣は腫瘍が発生しやすい臓器です。卵巣腫瘍が良性か、悪性(卵巣がん)かの判断には、超音波検査やMRI検査などの画像診断と、血液検査による腫瘍マーカーの測定が有益です。ただし、がん細胞が腹腔内に拡がる危険性があるため、術前の針生検は一般的に行われません。そのため、「卵巣がんの疑いがある」という状況で手術が行われることがあります。

【卵巣がんとは】
 女性のもつ卵巣という臓器は、男性の精巣と比べても、はるかに腫瘍が発生しやすい臓器であり、女性の20人に1人には一生のうちになんらかの卵巣腫瘍が発生するといわれています。

 卵巣に発生する腫瘍は実に膨大な種類がありますが、その発生母地によって、上皮性の卵巣腫瘍、ホルモン分泌細胞に由来する性索間質性腫瘍、卵子に由来する胚細胞腫瘍に大別されます。胚細胞腫瘍の中にも悪性腫瘍(がん)はあり、小児や若い女性に稀にみられます。しかし、最も多いのは卵巣の表面を覆う表層上皮細胞から発生する上皮性腫瘍であり、その中に、良性のいわゆる卵巣嚢腫、悪性の上皮性卵巣がん、そして良性と悪性の中間型の境界悪性腫瘍があります。ここでは、卵巣がん全体の90%を占める上皮性卵巣がんに絞って解説します。

 上皮性卵巣がんが発生する原因ははっきりとわかっていません。ただし、どのような女性が卵巣がんに罹りやすいかは知られています。家族の中で、例えば姉妹や母親に卵巣がんになった方がいる場合や、妊娠・出産の経験がない場合にリスクが高いとされています。

 また、婦人科疾患では骨盤内炎症、多嚢胞性卵巣、子宮内膜症がリスク要因として挙げられています。その他には、肥満、高脂肪食、排卵誘発剤の使用、ホルモン補充療法なども関連しているといわれます。逆に、経口避妊薬(ピル)の使用は卵巣がんのリスクを低下させます。

【症状】
 上皮性卵巣がんの中にもいくつかの組織型(タイプ)があり、それぞれのタイプにより、進行するスピード、転移のしやすさ、抗がん剤の感受性(効きやすさ)などが異なっています。

 転移しにくい卵巣がんの場合は、がんができてから長期間卵巣内にとどまって徐々に発育しますので超音波検診で発見することができます。しかし、非常に早く進行するタイプは、当初は自覚症状もほとんどなく、残念ながら検診で発見することができません。腫瘍が大きくなると「腹部に圧迫感がある」、「鈍痛がある」、「下腹部にしこりを触れる」、膀胱が圧迫されて「尿が近くなる」などの症状が現れることがあります。

 転移しやすいがんの場合は、腫瘍が卵巣内であまり大きくならないうちに転移してしまう場合も多くみられます。「腹膜播種(ふくまくはしゅ)」といって、卵巣の表面からお腹の中(腹腔)全体に、種をまくようにがん細胞が拡がっていきます。腹膜播種が進行すると腹水がたまってきます。横隔膜を越えて胸腔内に拡がると胸水がたまります。

 このように、腹水で「腹部全体が大きくなる」、胸水がたまって「息切れがする」など、転移により初めて異常を自覚することも少なくありません。また、リンパ節転移もしばしばおこります。腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節がはれ、次第に胸部や首のリンパ節にまで拡がっていきます。

【診断】
 いろいろな症状があって、あるいは検診のために産婦人科を受診されますと、まず内診で卵巣が腫れていないかどうかを調べます。卵巣が腫れている場合は、腟からの超音波検査を行い、必要によりMRI検査を行います。これらの画像診断によって、卵巣腫瘍かそれ以外の腫瘍なのかを区別し、また腫瘍の内部構造を詳しく調べて良性か悪性かを推定します。この超音波検査とMRI検査の2つの画像診断がとても大事です。悪性が疑われれば、さらにX線によるCT検査で転移の有無を調べます。

 良性か悪性かを区別する際に、画像診断とならんで有用な検査が血液検査による腫瘍マーカーの測定です。卵巣がんではCA125、CA19-9、CEAなどが主な腫瘍マーカーで、これらの値が非常に高い場合には悪性の可能性が高いとされています。腫瘍マーカーは治療前だけでなく、がんの治療中や治療後に繰り返し検査を行い、治療効果の判定や経過観察に利用します。ただし、腫瘍マーカーは、良性の内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)などでも上がりますので必ずしも悪性とは限りません。また、卵巣がんでも初期には上昇しないことも多く、がんの早期発見には不向きとされています。

 卵巣腫瘍の臨床的経過、画像診断、そして腫瘍マーカーによる評価で、腫瘍が良性か悪性かあるいはその中間型かがかなりわかってきます。しかし、卵巣腫瘍の場合は、手術で腫瘍を摘出して病理組織検査を行い、最終的に卵巣がんの診断が確定します。

 手術前に「卵巣がんの疑いがある」といった表現が使われることがありますが、これは手術しないと良性か悪性かの鑑別が難しい場合があることを物語っています。他臓器のがんの場合、手術前に腫瘍の一部を採取する生検により病理組織検査を行い、がんかどうかを確定することが多いのですが、卵巣腫瘍では針を刺すとがん細胞が腹腔内に拡がる危険性があるため、術前の生検は行いません。

 がんの進行度を示す病期(進行期)についても、画像診断で明らかに転移がある場合はわかりますが、小さな腹膜播種は画像診断で見つけることが困難ですので、手術をしてから決定しています。

 手術中に直接目で見ることができる転移の有無、さらに手術で摘出した組織の病理組織検査によって病期を決定します。また、腹水や胸水が溜まっている場合には、手術の前にこれらの液体を採取してがん細胞の存在を調べます。ここでがん細胞が見つかれば確実にがんと診断されます。また腟内、鼠径部、首など採取しやすい場所に転移がみられる場合にはこれを一部採取し病理組織検査を行うこともあります。

【病期】
 卵巣がんにおいても、他臓器のがんと同様に、がんの拡がりの程度(病期)に応じて治療方針を決めます。しかし、腹膜播種のような転移を術前の画像診断で見つけることは難しいので、最終的な病期は手術により決定されます。

 病期の分類は、FIGO(国際産科婦人科連合)の進行期分類を取り入れた、我が国の「卵巣腫瘍取扱い規約(1997)」を用いており、次のように分類されています。

I期
がんが卵巣の片側だけ、あるいは両側だけにとどまっている状態。
II期
がんが卵巣の周囲、つまり卵管、子宮、直腸、膀胱などの腹膜に転移しているが、骨盤内にとどまっている状態。
III期
がんが卵巣の周囲(骨盤内)の腹膜だけでなく、上腹部にも転移しているか、あるいは、後腹膜リンパ節に転移している状態。
IV期
がんが腹腔外に転移しているか、あるいは肝臓内に転移している状態。胸水の中にがん細胞がみつかった場合も含まれます。
※「後腹膜(こうふくまく)」とは、腹腔の背側の腹膜と背骨や背筋との間の領域で、大動脈、下大静脈、腎臓、尿管などがある場所。後腹膜リンパ節は大動脈周囲の傍大動脈リンパ節と骨盤内の骨盤リンパ節に分けられます。

【予後】
 卵巣がんは、初期には自覚症状がほとんどなく、適切な検診法がないこと、発生してから非常に早く進行する場合があることなどから、発見されたときには約半数の患者さんがすでにIII期あるいはIV期の進行がんとなっています。そのため、卵巣がん全体の治癒成績はあまり高いとはいえません。

 しかし、卵巣がんに対する治療法は近年めざましく進歩し、患者さんの予後は大きく改善されました。一つは徹底的な手術療法(腫瘍減量手術)が行われるようになってきたことです。もう一つは化学療法の進歩であり、1970年代にシスプラチン、1990年代にパクリタキセルが登場したことです。卵巣がんは人体のさまざまの腫瘍の中で化学療法(抗がん剤治療)が最も有効ながんであり、薬物治療が奏功する場合が非常に多いのです。

 現在さらに、高い抗腫瘍効果をもつ抗がん剤の開発、がん細胞に特有の分子に働く薬剤(分子標的療法)の開発、がんの進展を阻害する免疫療法の開発が進行中であり、新しい薬剤の効果に大きな期待が寄せられています。

(まとめ:坂井 恵)

この記事を友達に伝える印刷用ページ