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2008/4/8

がんを学ぶ 標準治療アップデート 治療 医師にしっかり相談して自分に合う治療法を選ぼう

 
 前立腺がん監修:京都大学医学部泌尿器科学教室教授 小川 修  
 
 前立腺がんの治療法は、大きく「待機療法」「手術療法」「放射線療法」「内分泌療法」に分けられ、選択肢は多彩です。自分に最も合った治療法を納得して受けるためにも、各治療法の特徴を理解することが重要です。

【治療】 前立腺がんの治療法は、大きく分けて特別な治療を実施せず経過観察する「待機療法」、「手術療法」、「放射線療法」、「内分泌療法」があります。抗がん剤による化学療法は、前立腺がんでは内分泌療法で効果が得られない進行したがんに対してのみ行われます。

 治療方法の決定には、発見時のPSA(前立腺特異抗原)の値、腫瘍の悪性度(グリーソンスコア)、病期診断が重要となりますが、加えて比較的進行がゆっくりしているがんであることから、患者さんの年齢と期待余命(これから先、どのくらい平均的に生きることができるかという見通し)なども考慮します。

 期待余命が10年以上あると考えられる場合に、各病期における推奨される単独での治療法は下の表のとおりです。実際の治療ではいくつかの治療法が併用して行われることもあります。期待余命がそれ以下と推定される場合には、手術療法はあまり推奨されず、手術以外のいずれかの方法が、単独、あるいは併用で選択されることになります。

●待機療法 前立腺生検の結果、悪性度が低いがんが少量のみで、特に治療を行わなくても余命に影響がないと判断される場合には、「待機療法」で様子を見ることがあります。具体的にはグリーソンスコア6以下で、PSAが20ng/mL以下、病期T1〜T2までの病態、さらには生検時のがん病巣が小さいことが待機療法のめやすの一つです。待機療法ではPSA値を定期的に測定したり、一定の間隔で前立腺生検を行うことによってがんの進行度をモニターすることが大切です。

●手術療法 がんが前立腺内にとどまっていて、期待余命が10年以上と考えられる場合には、手術による前立腺全摘除が選択肢となります。PSA値が10ng/mL以下、グリーソンスコア7以下、かつ病期T1c〜T2bの場合が、最も前立腺全摘除術による根治が期待できると考えられています。

 前立腺全摘除術は、前立腺と精嚢を切除し、尿道と膀胱をつなぎ合わせる手術です。がんが完全に切除されれば完治が期待されることや、万一、手術後に再発しても放射線治療を追加できるという利点もあり、前立腺内にとどまっているがんに対しては、長期生存を期待できる治療法と考えられています。

 ただし、例えばグリーソンスコア2〜4の場合では、前立腺全摘除術は、待機療法ののちに内分泌治療を行う遅延内分泌療法と生存率に差がないとの報告もあります。また、近年、放射線療法の成績は向上しており、前立腺全摘除術と、待機遅延内分泌療法、放射線療法を比較して、どの治療法が最も優れているかという結論は出ていません。そのため、医師とよく相談した上で、それぞれの治療法のメリット・デメリットを評価し、自分に最も適した治療法を選択する必要があるようです。

 前立腺全摘除術は、下腹部を切って前立腺を摘出する方法(恥骨後式前立腺全摘除術)と肛門の上を切り前立腺を摘出する方法(会陰式前立腺全摘除術)、さらに腹腔鏡とよばれる内視鏡を使って前立腺を切除する腹腔鏡下手術があります。

 腹腔鏡下手術は、下腹部に5カ所程度の穴を開け、細いカメラと長い鉗子を用いて、医師がモニターを見ながら手術を行うものです。開腹しないので、傷が小さく身体への負担が少ないというメリットがある一方で、手術自体が難しく一定の技術を持った泌尿器科医のもとでの手術が必要となります。いずれの摘除術にも特徴があり、がんの広がり等を勘案しながら治療を担当する泌尿器科医とよく相談して決めることが重要です。

 前立腺全摘除術に伴う副作用としては、尿失禁と性機能障害が生じる可能性があります。尿失禁に関しては、手術数の多い施設での治療では、それほど問題になっていないようです。ガイドラインにおいても、前立腺全摘除術は「ある程度の経験と熟練を有する手術である」として、症例数の多い病院で治療を受けることを推奨しています。

 勃起を支配する神経は前立腺・精嚢の近い部分を走っていますので、その神経が前立腺と一緒に切除された場合には勃起障害が起こります。病態によっては神経を温存する(残す)こともできますが、温存しても機能が必ずしも保持されるとは限りません。また、時間の経過とともに機能低下が起こることもあります。精嚢を切除しますので、射精は出来ません。

●放射線療法 転移していない前立腺がんには、放射線療法も選択肢となります。放射線療法には、「外照射法」と「密封小線源療法」があります。

 「外照射法」は、身体の外から患部である前立腺に放射線を照射するもので、最近では、コンピューター技術の進展によって直腸など周囲の臓器を傷付けずに、より高線量の放射線を前立腺に照射できるようになっており(強度変調放射線治療;IMRT、重粒子や陽子線といった粒子線治療)、手術療法に遜色のない治療成績が期待されています。

 一般的に1日1回、週5回で7週間前後が必要ですが、通常は外来通院が可能です。治療中の副作用としては、前立腺の近くにある直腸や膀胱への影響があるため、頻便や排便痛、出血、頻尿や排尿痛などが挙げられます。これらの副作用は、治療終了後、時間がたつと次第に落ち着いてきます。

 外照射法は、手術療法に比べて、身体への急激な負担が少ないのがメリットですが、この治療を受けられる施設が限られていることや、治療終了後数年(3年以内程度)経過した後に直腸出血などの合併症(晩期障害)が稀に起こることが欠点です。また、放射線治療後に内分泌療法を長期間継続する医師も多く、その場合、内分泌療法の副作用が問題になることもあります。

 外照射法は、手術療法の治療効果を高める目的で、手術後に行うこともあります(アジュバント療法)。また、再発した場合にも使用されます(救済放射線療法)。

 一方の「密封小線源療法(ブラキ療法)」は、放射線を発生する小さな金属チップを前立腺の内部に多数埋め込んで、前立腺の内側から放射線を当てるというものです。

 チップは直径1mm×長さ 5mmの微細なもので、通常50〜100個程度を前立腺内に埋め込みます。チップから放出される放射線は、数mm程度までしか十分には届かないので、直腸など周辺臓器への影響を抑えることができます。

 小線源療法は、がんが前立腺内にとどまっていて悪性度が低いがんが適応です。単独で行う場合にはPSA値が10ng/mL以下でかつ、グリーソンスコアで6かそれ以下が適しているとされており、この場合なら手術療法と同程度の効果が得られると考えられています。それ以外では、密封小線源治療に外照射法と組み合わせて治療することが勧められています。

 線源を埋め込むために数日間の入院が必要で、埋め込み直後は生活に一部制限がありますが、照射のために通院する必要がなく患者さんにとって負担が少なくてすみます。埋め込んだチップは半年くらいで効力を失い、取り出す必要はありません。

●薬物療法 一般に、転移がある進行性の前立腺がんの標準治療は、内分泌療法(ホルモン療法)です。前立腺がんの多くは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの影響を受けて増殖しています。そこで、男性ホルモンの分泌や働きを抑えることで、前立腺がんの増殖を抑えようとするのがこの治療法です。

 内分泌療法は、LH-RHアゴニスト剤か抗アンドロゲン剤の単独、もしくは併用投与が一般的です。前者は、精巣または副腎からの男性ホルモンの分泌を抑える薬で、後者は前立腺細胞内において、男性ホルモンの作用発現を抑える薬です。

 また、精巣からの男性ホルモンの分泌を抑える方法として、睾丸をとる「精巣摘除術(去勢術)」もありますが、LH-RHアゴニスト剤による薬物治療によって同等の治療効果が得られることがわかっています。

 最近では、男性ホルモンの約5〜10%は副腎より産生されることがわかってきました。そこで、精巣と副腎から分泌される男性ホルモンの影響を最大限抑えることを目的に、LH-RHアゴニストまたは精巣摘除術に、抗アンドロゲン剤を併用するMAB(maximum androgen blockade)療法が、進行性の前立腺がんの治療として用いられることもあります。

 MAB療法については、去勢術やLH-RHアゴニスト剤の単独投与に比べて、長期予後を改善する可能性を示唆する研究成果はありますが、最終的な結論には至っていません。そのため、副作用の出現状況や生活の質(QOL)への影響などを鑑みながら、治療法を選択する必要があります。MAB療法は、去勢術やLH-RHアゴニスト剤の単独投与に比べて、費用もかかり副作用も強く出る場合が多いためです。

 ホルモン療法は、男性ホルモンバランスが崩れるため、性欲の低下、勃起障害などの男性機能障害が出現し、発汗過多、ほてり、手のこわばりなど女性の更年期障害と似た症状が起こる場合があります。また、長期にわたると骨粗しょう症などの懸念があります。また、抗アンドロゲン剤では、女性化乳房、肝機能障害などがあらわれることがあります。

 内分泌療法は、手術療法や放射線療法の後に再発した場合にも行います。また、治療効果を高める目的で、手術や放射線療法の前(ネオアジュバント療法)、あるいは後(アジュバント療法)に併用することもあります。

 前立腺がんの薬物療法としては、まず、内分泌療法(ホルモン療法)が選択されますが、転移があるがんなどで内分泌療法が効かなくなった再燃という状態においては、抗がん剤による化学療法が選択されます。ただし、海外で生存率改善の効果が示されている抗がん剤であっても、日本では前立腺がんを対象に承認されていない薬剤があり、再燃前立腺がんに投与できる抗がん剤の種類が限定されることが問題となっています。

(まとめ:坂井 恵)

◆参考資料・前立腺癌診療ガイドライン2006年(日本泌尿器科学会/編)国立がんセンター がん情報サービス 前立腺がん

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