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今話題の新しいがん免疫療法ってどんなもの?

2016/3/18

第5回

これからがん免疫療法はどうなっていく?

慶應義塾大学医学部先端医科学研究所長の河上裕氏に聞く

小崎丈太郎=日経メディカルCancer Review編集長

 これまで、がんの免疫療法の多くは期待された治療効果を見ることなく、消えていくケースが多かった。しかし、免疫チェックポイント阻害薬が登場し、がん免疫療法を取り巻く状況は一変した。がん免疫療法の最新動向を、長年この分野の研究に携わってきた慶應義塾大学医学部先端医科学研究所長の河上裕氏に聞いた。


──がん医療の分野で免疫療法に対して大きな関心が集まっています。

(写真:清水 真帆呂)

河上 以前は「がん免疫を研究している」と言うと、先輩などから「がん免疫への期待はサイン−コサインカーブのように上昇と下降の繰り返しじゃないか」と返されることもありました。しかし、ここ数年は全く違います。海外の主要ながん関連学会でも、トピックスといえばがん免疫の話。著名な論文雑誌である米Science誌が2013年のブレークスルー・オブ・ザ・イヤーにCancer immunotherapyを選んだほどです。

──がん免疫療法を取り巻く状況が変わった理由はどこにありますか。

河上 なんといっても免疫チェックポイント阻害薬と遺伝子改変T細胞を用いた養子免疫療法の登場が大きな衝撃でした。この2つの治療法が、がん免疫療法のイメージを一新させてしまいました。

編集部注

遺伝子改変T細胞を用いた養子免疫療法
 遺伝子組み換え技術を用いてがん細胞への攻撃性を高めたT細胞を試験管内で作製し、投与することで抗腫瘍効果を得ようという治療法。最近注目されているものに、キメラ抗原受容体(CAR;Chimeric Antigen Receptor)を用いた遺伝子改変T細胞療法(CAR-T療法などと呼ばれる)がある。がん特異的な抗原を認識し、T細胞内に情報を伝達するよう改変したもので、このT細胞は細胞障害活性と増殖能が高まるというもので、現在、世界中で研究が進んでいる。

難治・進行癌でも完全寛解例

河上 体には免疫機構があります。遺伝子異常を持つがん細胞には免疫防御をくぐり抜ける「がん免疫逃避機構」があります。その中心経路の1つとして近年明らかになってきたのが、免疫の恒常性に関与し、T細胞にブレーキを掛ける、免疫チェックポイントと呼ばれるCTLA4経路とPD-1/PD-L1経路です。これらは、T細胞の癌細胞への攻撃をブロックしています。CTLA4やPD-1に対する阻害抗体を作成し、そのブレーキを解除する治療が免疫チェックポイント阻害療法です。

 最初に、既存治療に抵抗性となった悪性黒色腫、腎がん、肺がんで、抗PD-1抗体、あるいは抗CTLA4抗体が効くことが明らかになり、他の固形がんや造血器腫瘍(血液がん)にも効くのではないかと期待されました。日本では最初に悪性黒色腫で抗PD-1抗体と抗CTLA4抗体が承認され、今では非小細胞肺がんでも承認を得ています。その後、抗PD-1抗体は、膀胱がん、MSI陽性大腸がん、頭頸部がん、小細胞肺がん、中皮腫、卵巣がん、肝臓がん、胃がん、食道がん、乳がん、脳腫瘍、悪性リンパ腫などにも効果が認められると報告されました。ホジキンリンパ腫では既存治療不応症例に対して、90%近い奏効率が報告されています。

編集部注

MSI陽性大腸がん
 MSIとは、マイクロサテライト不安定性を指す。細胞内でDNAが複製される際、ある確率で間違いが起こるが、細胞にはこうした間違いを修復する機能がある。しかし、こうした修復機能が何らかの原因で低下してしまうと複製ミスが残り、異常の原因となり得る。マイクロサテライト不安定性とは、修復機構に変異があることで結果としてゲノム中に存在する繰り返し配列が正常な細胞と異なる繰り返し数となっていることを指す。このマイクロサテライト不安定性がある大腸がんでは免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られやすいという研究結果があり、臨床試験が進められている。

河上 もう1つのT細胞利用養子免疫療法に関しては、悪性黒色腫で腫瘍浸潤T細胞(TIL)投与の強力な治療効果が報告されていましたが、キメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞療法(CAR-T)でも、化学療法抵抗性造血器腫瘍で驚くような治療効果が確認されています。再発・難治の急性リンパ性白血病(ALL)では完全寛解(CR)が約90%でした。

──こうなってくると、がん免疫療法に注目しないわけにはいきません。

河上 そうなのですが、一方で課題も山積しています。

さらなる工夫が必要に

河上 免疫チェックポイント阻害薬は効く症例では確かによく効きます。他の薬物療法に不応となり、多発転移をして、もう手だてがない患者さんに対してもCR例を含む腫瘍縮小効果があり、その中から年単位の延命例が出ています。これは今までの治療法では期待できなかった結果です。

 しかし抗PD-1抗体単独投与の効果は、悪性黒色腫でも奏効率は約30%、他のがんでは10〜20%。ここ数年、世界中で進められた臨床試験によって、膵がんなど効かないがんもあることが分かってきました。

──使い方の工夫が必要というわけですね。

河上 その1つはより早期に使う、例えばフロントラインで使うことです。悪性黒色腫の場合、抗PD-1抗体は2次治療以降に使用すると奏効率は約30%ですが、最初から使うと約40%に上がります。非小細胞肺がんでは、約18%だった奏効率がフロントライン治療で約25%です。従って、今後、検討されるべきは、「どのような症例で、最初から使うと治療成績が上がるのか」ということです。加えて、適切なバイオマーカーを見つけて、あらかじめ効果が期待できる患者さんを選んで治療すること、効かない患者さんには別の治療法を検討することが重要です。

第6回に続きます。

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