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がん臨床研究のABC−Z

2018/5/17

第1回

臨床研究とはなんでしょうか?

 臨床研究に参加する患者さんへの説明同意文書の冒頭には、一般的に次のような記述があります。

 「私達の病院で患者さんが受けておられる治療は、現時点で最も良いと科学的に評価されている治療法が中心になっています。それでは、どうしたら、最も優れた治療法がわかるのでしょうか? 新しい治療法(手術法、新薬など)が、これまでの治療より優れているかどうかはどうしたらわかるのでしょうか?そのことを確かめるために行われてきたのが『臨床研究』です。

 臨床研究では、研究計画にしたがって患者さんが治療を受けられ、医師はその治療法が患者さんにどのような効果をもたらすかを検討します.臨床研究は多くの患者さんのご理解と協力を頂くことで初めて成り立ちます。

 しかしながら、臨床研究では場合により患者さんに負担がかかったり、副作用などの危険性も考えられるため、どのような研究においても患者さんを守るための様々な工夫がされています。」

 この説明文の最初のキーワードは、「科学的に評価されている治療法」です。現在のように臨床研究で科学的な評価が行われていなかった時代には、個々の先生が自分の経験から最も良いと思っている治療を選択していました。経験が全てで、一度効果があると、ずっとその治療を続けてしまい、他の治療法には目をくれない「俺ん家治療」「俺が村治療」をしていました。特に経験が物を言う外科手術に関してはその傾向が強く現われていました。自分が一番で、他と比べることをしないので、科学的とは言えませんね。

 臨床研究の基本は「比較」です。比較していない治療の成果は単なる報告、あるいはただの日記で、見る人に「どうだすごいだろう」と言っているだけの「俺ん家治療」の典型例です。

 新しい治療法(新治療)がこれまでの治療(標準治療)より優れているかどうかを科学的に比べるための、最も信頼のおける研究デザインが「無作為比較試験」と呼ばれる方法です。同じ病態の患者さんに、新治療を受ける群と標準治療を受ける群に無作為に(サイコロを振って決めるように)分けて治療を行い、成績(がんの場合は生存期間)を比較します。ここで大事なことは、もし新治療群では無く標準治療群に割り当てられたとしても、標準治療は現在最も良い治療法だという事です。

 なぜ無作為に治療を分けるのかと言うと、新治療群と標準治療群の患者背景に偏りが少なくなるからです。そうしないと片方に高齢者が多く含まれたり、腎機能が悪い方が多かったり、状態が悪く研究の成果に大きな影響を及ぼす患者さんが片方に多く含まれ、バラツキが多くなり結果に影響を及ぼします。無作為比較試験の基本は、同じ条件の下で「どちらが良いか分らないので比べる」ことです。そして新治療が必ず標準治療に勝つとは限りません。今までも数多くの新治療が、無作為比較試験で標準治療を凌駕することが出来ずにいました。

 胃癌では、胃癌手術後の病理検査で stage II、IIIと診断された患者さんを対象とし、従来から標準治療とされて来たリンパ節廓清を伴う胃癌手術単独群と、これに経口抗癌剤であるS-1を加えた新治療群の無作為比較試験(ACTS-GC)が行われました。ACTS-GC試験では、新治療であるS-1の1年間の経口投与が stage II、 IIIの生存を延長することが統計学的有意差をもって科学的に検証されました。初めて胃癌の補助化学療法の有用性が認められた臨床研究でした。現在はこの研究の成果が、胃癌診療ガイドラインによってわが国の標準治療として認められています。


 この成果は、日本全国の109施設からの1059名の患者さんの参加によって成し遂げられました。日本には7500以上の病院がありますが、臨床研究に積極的に参加している施設はまだ少ないのが現状です。日本がん臨床試験推進機構は「臨床研究の裾野を広げる」ことをスローガンにしています。

 次回は「なぜ臨床研究が必要なのでしょうか?」です。


藤井 雅志(ふじい まさし)氏
特定非営利活動法人日本がん臨床試験推進機構(JACCRO)臨床試験委員長
前日本大学医学部医学部消化器外科学 教授、1975年日本大学医学部卒

 連載で「臨床研究」に関する情報をお届けしたいと思います。
 簡単な自己紹介を致します。消化器外科医ですが、主にがんの化学療法を担当しています。現在「NPO法人日本がん臨床試験推進機構:通称JACCRO」に所属して、主に消化器がんの臨床研究を行っています。私が医師になった昭和50年代は外科医が主にがんの化学療法を行っていました。胃がんばかりでなく、乳がん、大腸がんの化学療法も外科医の守備範囲でした。後になって「外科医の片手間の化学療法」と揶揄されるようになったのですが、当時は目の前にいる切除不能胃がん、再発胃がんを診ていただける腫瘍内科がまだ無い時代でしたので、われわれ外科医が化学療法をせざるを得ませんでした。現在でも多くの外科医が癌の化学療法の一端を担っています。

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