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がん診療の現場から

2018/5/15

がんの本質について考えてみましょう(その2)

日本医科大学付属病院 教授、がん診療センター長 久保田 馨

その1から読む

 上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)のチロシンキナーゼの働きを抑える肺がん治療薬が、2002年に世界で初めて我が国で承認されました。ゲフィニブ(商品名イレッサ)です。チロシン(tyrosine)キナーゼ(kinase)の阻害薬(inhibitor)の頭文字をとってTKIといわれます。承認から2年後の2004年に、EGFR遺伝子変異とTKIの効果との関連が初めて明らかになりました。

 TKIが診療に用いられるようになった当初は、アジア人、腺癌、非喫煙者の患者さんにTKIが奏効する割合が高いことが報告されていました。喫煙歴が無いか軽度の肺腺がん患者を対象に、細胞障害性抗がん薬を用いた化学療法とTKIを比較するランダム化臨床試験が、日本を含めたアジア9カ国共同で行われました。この試験結果をみると、治療開始後、腫瘍が大きくなるまでの期間は当初TKI群が不良ですが、6カ月以降はTKI群が化学療法群を上回っていました。肺腺がん患者の中に、TKIの効果が高い群と、化学療法の効果がTKIよりも高い群が存在することが考えられます。これを分ける因子がEGFR遺伝子変異の有無だったのです。EGFR遺伝子変異があるグループでは、明らかにTKIの効果が良好でした。逆に変異なしの群では、化学療法の効果がTKIよりも良好だったのです。変異がない肺がんは、EGFRが発がんの原因ではありませんので、EGFR TKIが効果を示さないのは当然のことでした。

 最近では、免疫チェックポイント阻害薬が一般診療でも用いられるようになりました。それまでのいわゆる免疫療法はがんに対して効果を示しませんでしたが、免疫チェックポイント阻害薬は一部のがん患者に対して、かなり長期間の有効性を示しています。

 人間の身体では健康な人にもがん細胞が発生していると考えられていますが、免疫の働きで消滅しています。がん免疫は、腫瘍細胞から放出されたがん抗原を樹状細胞が捕捉し、樹状細胞がリンパ球を刺激、活性化します。活性化されたリンパ球は腫瘍の部位へ移動し、腫瘍細胞を認識した上で死滅させます。がん免疫の一部が破綻した場合にがん細胞が増殖し、臨床的な「がん」が発生すると考えられます。すなわち、がんの本質とは免疫の破綻とも考えられます。

 以上をまとめると、がんとは細胞の病気であり、分裂増殖を繰り返します。異常な分裂増殖を繰り返すのは、遺伝子の異常に基づいています。がん細胞を排除する免疫の仕組みが身体には備わっていますが、そのシステムの一部が破綻した場合に臨床的ながんが発生すると考えられます。

 次回は、これまでに述べたがんの本質から、がんの予防、治療について考えてみたいと思います。(つづく)


久保田 馨(くぼた かおる)氏
日本医科大学付属病院 教授、がん診療センター長

1983年熊本大学医学部卒。 国立がんセンター東病院病棟医長、Vanderbilt University Medical Center, Division of Medical Oncology, visiting scholar、国立がんセンター中央病院病棟医長などを経て、2011年に日本医科大学付属病院化学療法科部長、2012年より現職。
日本癌医療翻訳アソシエイツの理事長も務める。
専門は臨床腫瘍学、胸部悪性腫瘍の診断と治療、がんの支持療法、コミュニケーション技術、臨床的意思決定。

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