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知っておきたい骨転移

2013/12/24

第14回

腎がん、肝がん、甲状腺がんの骨転移の特徴と対策

橋本伸之

 腎がん肝がん骨転移にはいくつかの共通点があります。まずこの2つのがんについて共通点を紹介し、後半で治療上の類似点が多い甲状腺がんの骨転移について触れます。

【腎がんと肝がん】
 第2回でも紹介しましたように、腎がんと肝がんでは骨転移の頻度が中等度であることをはじめとして、骨転移の管理上の注意点がよく似ています。病変はともに溶骨型を示し、とくに腎がんは骨を溶かす傾向が非常に強いのが特徴です。したがって、骨折のリスクにつねに配慮する必要があり、荷重骨(第6回参照)は定期検査において注意すべき重要箇所となります。骨転移部位は体幹部分が中心で、肘や膝から先の末梢骨に発生することはまれです。脊椎に発生することも多いため、麻痺の出現にも十分な警戒が必要です。第4回第5回の記事は十分に目を通しておいて下さい。

 こうしたリスク回避のために定期検査が重要になるのですが、これら2つのがんに共通する問題点があります。まず腎がんには、有用な腫瘍マーカーがありません(肝がんにはAFPがあります)。血液検査で簡便に測定できる活動性の指標がありませんので、画像検査に頼らざるを得ないのですが、腎がん・肝がんともに、一般的な骨転移のスクリーニング検査である骨シンチは偽陰性(骨転移があるのに異常所見を示さない)現象が比較的多く、必ずしも有用ではありません。また内臓への転移も含めて検査するのに、今日ではPET検査が実施されることも一般的となっていますが、この2つのがんでは、やはり偽陰性の問題により骨転移がないことを立証する決定打とはなりません。

 重要な情報源となるのはCT画像です。再発や転移の点検目的に実施される胸部や腹部のCTでは、骨転移は溶骨型となって現れますので(第6回参照)、発見は比較的容易です。麻痺を引き起こす原因となる胸椎や腰椎、また体重を支える大切な骨である骨盤や股関節周囲については、大部分撮像範囲に入ってきますので、最も回避されなければならない麻痺リスクに関しては情報が得られます。放射線被曝の問題がないMRI検査も骨転移病変の検出に大変有用です。

 しかし、CT、 MRIともにあまりに頻回の撮像は現実的でないことや、撮像範囲が限られるためにからだの一部の情報しか得られないなどの欠点があります。第13回に解説した前立腺がんなどと比較すると、リスクの予測精度が落ちることは否めません。

 したがって、第4-5回の記事にあるように、悪化してくる痛みに気づいたら早めに主治医に伝える姿勢がより重要になってきます。部位がある程度絞り込めれば、通常のレントゲンやCT、 MRIで原因箇所を特定することは比較的容易になります。現在の医療技術では、腎がん・肝がんの骨転移を主治医に全てお任せでは十分ではありません。検査技術の問題点は、主治医との協力関係ではじめて上手くカバーすることが可能になることを、ぜひともご理解頂きたいと思います。患者さんがご高齢の場合には、痛みのサインを訴えていないか、ご家族もご配慮下さるようにお願いいたします。

 次の共通点は、放射線治療の効果についてです。これらのがんでは放射線治療の効果は中等度です。一概には言えませんが、早い方では治療後1年ほどで再発してくることがあります。すなわち骨折や麻痺のリスクが元々高くなりがちな上に、放射線治療が早すぎても将来の再発の懸念を生じ、いいタイミングを見計らうのが難しいということになります。

 そしていざというときの手術治療時に、出血量が多くなるというもう一つの問題点があります。がんは活発に活動するために血管をも周囲から呼び込んで、増殖しやすい環境を作ろうとする性質があります。これは一般的に多くのがんに当てはまる特性なのですが、腎がん・肝がんともに病変やその周囲の血管の発達が顕著で、中でも腎がんは血流が非常に豊富ながんとして知られています。

 このため手術の際、骨転移病変を直接こそぎ取るような操作(掻爬(そうは)とよばれる方法)が加わると、出血量が多くなります。ときには大きな血管を損傷したのではないかと思うくらい、強い出血を生じることすらあります。このため大出血の危険についての説明がなされたり、病変へ流入する血管をあらかじめ遮断する塞栓術という前処置がさらに必要になったり、その処置に伴う他の合併症に関する説明があったりと、患者さんやご家族の心理的負担も大きくなりがちです。

 1つの解決策として、病変部の掻爬を実施しなくて済むよう、周囲の健常な骨を少しつけて遠巻きに切除する術式(広範切除とよばれる方法)を選択する場合があります。腎がんと肝がんでは、大出血を回避するのに拡大手術が必要となることが多い一つの要因となっています。

 これらのがんにおいても、分子標的治療薬をはじめとした薬物療法が近年急速に発展してきています。肺がんと同様、そう遠くない将来に課題の多い現在の骨転移管理に大きな変革がもたらされていくことでしょう。

 我々腫瘍整形外科医もこの2つのがん骨転移への対策はとくに重要と考えています。麻痺が生じた場合の医療コストを考慮すれば、麻痺の危機に晒された場合にIMRT(第9回参照)が実施できるよう、保険制度も議論されなければならないと思います。腎がん・肝がんでは、このような骨転移の情報も十分広がっていなかったのが現状ですので、医療者側も、患者さんやそのご家族も、骨転移への認識は十分に身につけておいて頂きたいと思います。

【甲状腺がん】
 最後に甲状腺がんについてですが、一般に経過が緩徐なことが多く、骨転移の頻度も高いものではありません。腫瘍マーカーにはサイログロブリンが用いられており、骨転移のスクリーニング検査としても有用です。

 急速に進行する場合の骨転移は、多くは溶骨型を呈し他のがんと画像診断上で大きな違いはありませんが、甲状腺がん特有の緩徐な経過を示す場合には、骨転移の病変も当初は骨破壊が目立たず、ときに良性骨腫瘍にも類似した所見を取ることがあります。またスクリーニング検査の骨シンチでも、腎がん・肝がんと同様に偽陰性が比較的多く発生します。

 このため腫瘍整形外科医にとっても、甲状腺がんの骨転移は画像診断上のピットフォール(落とし穴)の1つとなっており、骨転移かどうか判断に迷う場合には1回ではなく、しばらく経過を追って、大きくなってこないか確認が必要なことがあります。

 治療上の特色も、腎がん、肝がんと同様、放射線治療の効果が中等度です。活動性の高い骨転移では、治療後に再発するまでの期間は比較的短く、早い方では1-2年のことがあります。また手術に際しての出血しやすさも、類似しています。

 なお経過が緩徐なことが多い甲状腺がんでは、当初の積極的な治療終了後、10年以上を経過してから、骨転移で再発することがときどき見られます。治療から10年が経過して、一区切りと主治医の先生から話があったとしても、第4-5回で解説した骨転移の前兆を念頭に、骨転移には注意しておいていただきたいと思います。


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