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知っておきたい骨転移

2013/8/20

第3回

過渡期にある骨転移診療

橋本伸之

 拙著「がんを生きるための骨転移リテラシー」では、私のこれまで歩んできた専門領域、整形外科の腫瘍診療について随分と紙面を割いて解説しました。骨転移診療にまつわる諸問題の根源と言いますか、構造的な問題として、整形外科の腫瘍専門医が全国に数百人しかいないという事実があります。このことを、ぜひ国民の皆さんに知っていただきたいという気持ちがあったからです。あまりにも小さな職能集団のため、まだ専門医制度も確立されていません。

 医師が専門化しすぎることについての懸念は社会問題となっていますし、整形外科専門医が行なう骨転移診療において、現状で大きな問題が生じている訳でもありません。真意は拙著をお読みいただきたいのですが、今後の骨転移診療を考える上で、1つの事実として国民に皆さんにも知ってもらいたいという思いがあります。

 例えば、私は現在、大阪府のがん診療連携拠点病院に勤務していますが、府下の大半の拠点病院に整形外科医で「腫瘍」を専門としている医師はおりません。地方では都道府県の拠点病院にも配置されていないところがあります。これらの病院では、熟練した「整形外科」専門医が診療にあたっており、大部分の骨転移に対して個別に対応しています。私も研修医の頃は、一般病院で多くの骨転移診療に関わりました。健常人の骨折と同じようにチタンプレートやスクリューで固定して放射線治療を行う、といった一連の治療はおよそ一般整形外科の技術の範囲で対応可能だからです。

 我々、整形外科の腫瘍専門医は通常、骨肉腫軟骨肉腫平滑筋肉腫といった肉腫と呼ばれる悪性腫瘍の治療を主たる業務としています。これらの腫瘍の発生頻度は、肺がんや乳がん、胃がんなどと比べると低く、1%未満です。中にはがんセンターであっても数年に1人しかみないようなきわめてまれな悪性腫瘍を扱うこともあります。これだけ患者数の少ない肉腫ですから、全国に数百人の専門医がいればまず十分なのです。

 一方、がん骨転移患者の毎年の新規発生数は15〜25万人程度とみられています。当然のことながら、数百人の腫瘍専門医ではカバーしきれず、整形外科専門医とともに骨転移の治療にはあたっているものの、骨転移の研究や一般向け情報発信までとても手が回らないというのが実情だと思います。

 そのため、どのように治療し、その治療成績がどうだったかなどの科学的検証は十分に進んでいません。

 こうした状況から、国立がんセンターに本部を置く日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)では、整形外科の腫瘍専門医が集まって、現在より精度の高い研究を行なおうと議論を始めたところです。多くの疾患でガイドラインを策定する動きが活発化していますが、現在のがん骨転移診療はその根拠となるデータの集積すら、圧倒的なマンパワーの不足によって十分とは言えない状況なのです。

 分子標的薬が登場して約10年、そして2006年に可決成立したがん対策基本法などにより、がん診療に多くの変革がもたらされ、骨転移を生じるようなステージであればもう余命はわずかであったという時代は過去のものとなり、治療成績は向上し、質の高い療養生活を送る基盤ができてきました。骨転移診療はおそらく過渡期に入りつつあるのだと思います。現状は、まだがん診療の変革に追いついていない状態のように私の眼には映ります。

 このような状況にあることを踏まえてまず優先すべきことは、ご自身の身を守れるように全てのがん患者さんに、骨転移の基本事項を知っていただくことです。骨転移が起こってからでは手遅れになってしまうということが、まだまだ十分に周知されていません。このような状況を改善するために、我々整形外科腫瘍専門医は取り組んでいきます。骨転移診療の改善にご支持、ご賛同をいただけたらとてもうれしく思います。

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