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知っておきたい骨転移

2013/7/29

第1回

知っておきたい骨転移 はじめに

橋本伸之

 骨転移の連載を担当することになりました橋本伸之です。私は骨格系に生じる腫瘍を主に診療・研究してきた23年目の整形外科医です。大学教授でも大病院の整形外科部長でもなく、中堅どころの実働部隊長といったところでしょうか。諸先輩を差し置いてこのような大役を仰せつかり荷が重いのですが、我々は現場の状況に精通している年代です。また一般向け情報を発信するには、意外にも我々の年代は適しているのかもしれないと思っています。

 骨転移に関して、一般の方への情報発信が急務と感じたのも、次々と運び込まれる骨転移患者さんを診てきたからに他なりません。一般向け図書「がんを生きるための骨転移リテラシー」を出版してほっとしたところですが、今日的な情報源であるインターネット上ではまだまだ骨転移は片隅に載っている程度です。私に残されたもう一つの重要な課題として筆を執ることに致しました。

 骨転移はがん患者さん全てに共通する問題で、しかもちょっとした認識や対処法(これを骨転移リテラシーと名付けました)を身に付けておくことが大きな障害の回避につながります。骨転移そのものは生命とは直結しない問題であるためか、あまり取り上げられなかった経緯はありますが、がんの診断を受けた時点で、全ての患者さんが予備知識として知っておくべきものです。かの国立がんセンターの情報サイトにも、骨転移の項目はどこにも載っていないのが現状です(2013年5月現在)。理由はこれからお話していくことになりますが、骨転移の情報はがん情報のトップページに出てくるようにならなければならないと私は考えています。

 今回の連載では、紙面の都合上とくに紹介しておきたい要点を中心に解説しつつ、本では書き切れなかったことも少し紹介したいと思います。とかく、がんと日々闘っておられる皆さんと医療者側とのコミュニケーションは、すれ違いが生じやすいものです。ネット上の情報発信では紙面の制約上、図書のように脱線話や背景も踏まえてその論拠を示すことは難しくなります。言葉足らずで真意が図りかねるような表現があるかもしれません。できれば拙著も合わせてご参照いただければ幸いです。また皆さんからのご意見やご批判もこちらに届くよう、日経BP担当者に配慮をお願いしました。個別の病状の問い合わせなどにはお答えできませんが、こんなことが知りたいといったご意見があればぜひお寄せ下さい。

 さてその連載の初回は、本の表紙の裏話を紹介致します。

 いきなり脱線話で恐縮なのですが、実は今回の出版を通じ、私が最も苦心したのは表紙のデザインでした。もちろん自分で描いた訳ではなくイラストレーターの方に助けてもらいましたが、どうも自分のイメージをうまく伝えられず、自己採点をつけるとすれば、今も65点くらいです。この記事の最後に、本のリンクを貼ってもらっていますので、アニメ風に若い男女が富士山の風景を前に佇んでいる様子がお分かりいただけると思います。裏表紙になると、ただその絵を右にベターっと伸ばしただけで、我ながら実に「いけてない」デザインです。ただ作者にもこの表紙を通じて、伝えたかった心がありましたので、紹介させて下さい。

 後述しますが、骨転移が生じると、もはや初期のがんとは言えず、分類上は進行期になります。もはや完治することは難しく、病気の進行を抑えてがんとともに歩む毎日であることを意味します。そのことを思えば、辛く重苦しい毎日になってしまいますが、骨転移には直接命を脅かさないという特徴があります。骨転移があっても心地よい屋外で大切な家族と共に過ごせるように、あるいは進行がんで余命の宣告を受けていたとしても、懐かしい人や土地とのつながりの中に満たされた時間を過ごせるようにとの願いを伝えたいと思いました。背景の富士山には深い意味はないのですが、代表的な日本の景色として取り入れてしまいました。自分の美術のセンスのなさにはがっかりしますが、私としてはまずまず健闘したかなと思っています。

 骨転移の治療を考える上では、いかに生き生きと活動的に暮らせるかが問われます。骨転移そのものから直接命に危険が及ぶことは(特殊な場合をのぞいて)ありませんので、あまりに重苦しく捉えてもらいたくない気持ちもありました。これが岩崎夏海著の「もしドラ」にどこか似たアニメ風の表紙となった理由です。

 治療の有効性、生存率、手術の件数、発表論文数など、がん診療も数値化されるもので評価を受けています。これらの実績、たしかな技術は治療にあたって求められるものであり、レストランで言うならばシェフの作る最高の一品です。ただ料理の内容だけでは、レストランの価値が決まらないように、落ち着いた空間であったり、おもてなしの心のように、計れない部分にもがん診療の質はあります。骨転移は、生存率などの治療成績にはあらわれない部分ですが、療養生活の質に大きな影響をもたらします。がん治療によって命の危険からは離脱できたが、骨転移による骨折や麻痺が起こり、ほとんど外出できなくなってしまったというのであれば、誰にも歓迎されないでしょう。骨転移の情報を得ておくことは、がんの状態に関わらず自由に動ける体を保持し、人間らしい生活を保っていきましょうという話なのです。

 先日、作家の村上春樹さんが18年ぶりに国内で講演をした際、「ものを書く力は悲しみの中から生まれてきた」と述べられたそうです。私も今は彼の言葉に共感ができます。

 国民の半数が生涯に経験するがん。苦労の多いその生活からせめて骨転移の辛苦を少しでも小さくしたい。一般向けの情報発信という大学医局に所属する者として、少々大胆な行動を起こしたのには、日々の診療で心を傷める場面に遭遇してきたからに他なりません。

 少しオーバーに聞こえるかもしれませんが、骨転移は国民全てに共通すると言っても過言ではない、たいへん大切な健康問題です。今回の連載でもなるべく平易な説明となるよう配慮していきますので、どうか宜しくお付き合い下さい。



 この連載記事に関する問い合わせはこちらまで。


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橋本伸之 /著 1470円 文芸社
ISBN978-4-286-13355-3 、245ページ

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